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目指したのは“考える照明や考える盆栽”

~フラワーロボティクス、家庭用プラットフォームロボ「Patin」を公開

Patinとフラワー・ロボティクス代表取締役 松井龍哉氏

 フラワー・ロボティクス株式会社は23日、東京・六本木で自社カンファレンスイベント「Flower Fair 2015」を開催、2014年9月にコンセプトを発表した家庭用ロホット「Patin」(パタン)のフロトタイフを公開し、テモンストレーションを行なった。

 フラワー・ロボティクス株式会社は航空会社スターフライヤーのトータルデザインを手がけたことなどで知られるデザイナーの松井龍哉氏が代表を務める会社。ロボットの企画・設計・開発・販売までを行なうファブレスメーカーとして2001年に創業された。「ロボットを日常の風景にする」ことを経営・技術開発共通のビジョンとしている。

 Patinは自律機能と移動機能を持ったプラットフォームとして同社が開発中の台車型ロボットで、2016年秋発売を目指している。カメラやセンサー類を搭載した本体の上に「サービスユニット」が装着するというコンセプトのロボットで、既存の家電や家具、例えば照明や植栽などに動く機能を与えることができる。「既存機能の自律移動化」によって、人の動きに合わせて「考える照明」や「考える植栽」が生まれるという。上部ユニットの重量は4kgまでで、他に扇風機や加湿器などもあり得ると松井氏は述べた。

 同社ではこのPatinを自律移動型ロボットのプラットフォームとして提供することで、ソフトウェア開発者のロボット製品開発参入障壁を下げたいとしている。なおPatinとはフランス語で「スケート」を意味する。

植栽を搭載したPatin
照明を搭載したPatin

 円形の本体のサイズは342mm×330mm×193mm(幅×奥行き×高さ)。オムニホイール×4で全方向に移動できる。バッテリはリチウムイオン電池。メインCPUボードにはNVIDIAの Tegra K1を搭載する「Jetson TK1」を採用。深度カメラ、熱画像カメラ、単眼カメラ、落下防止センサ、バンパスイッチ、マイクロフォン、移動量センサー、障害物検出用センサー、赤外受発光、3.5型ディスプレイ、スピーカーなどのセンサー/インターフェイスを備えている。外装素材はガラス入りナイロン(粉末造形)。

Patin
上部にサービスユニットが付く
サービスユニットとピット

 Patinは、Patin本体、各種サービスユニット、ピット、クラウドサービスの「Patinoire」から構成されている。本体には自律移動や、障害物の発見、人の発見等のための各種センサとスピーカー、オムニホイールによる移動機能が搭載されている。「ピット」には、Patin本体への充電機能と、Patin本体とWi-Fiで接続してクラウドとPatinとの間で通信する機能がある。クラウドは、各Patinから集約した行動情報などを蓄積するとともに、Patinの機能更新のための情報発信などを行なう。ユーザはブラウザからPatinの蓄積した情報を閲覧できる。通信インターフェイスはWi-Fi(本体-ピット間)、Ethernet(ピット-クラウド間)、専用通信IF(サービスユニット-本体間)となっている。今はUSBで本体とサービスユニットは繋がっている。

 OSはLinux。ミドルウェアに近年ロボット業界で注目されているROSを用いている。またソフトウェアプラットフォームとして「Patin SDK」を搭載。開発者にはJavaでの簡易的なAPI、Eclipseプラグインを用いた開発ツール、オープンソースシミュレータ(Gazebo)が提供される。これにより、Patin本体ならびにROSの知識がない開発者でもソフトウェアの開発が可能になる。Android向けアプリ開発環境と親和性が高く、開発者が参入しやすいという。今後、サービスユニット開発用のSDKを公開予定だ。

Patinのプラットフォームシステム構成

ロボットを車やスマートフォンのように日常の風景にする

松井龍哉氏

 記者説明会ではまず、フラワー・ロボティクス株式会社代表取締役社長の松井龍哉氏から、家庭用ロボット産業の展望とフラワー・ロボティクスの事業戦略について概要説明があった。創業以来14年の間にはロボットブームもあり、さまざまな楽観的予測も出ていたが、現時点では産業になっているという実態はない。同社では、ロボットのデザインを重視してきたという。単なるスタイリングではなく「科学技術と人の生活を繋ぐのがデザイン」だと松井氏は語り、「デザイナーの仕事がロボット産業においては重要だ」と続けた。また今年(2015年)亡くなったヤコブ・イエンセン氏、栄久庵憲司氏二人の名前を挙げて、テクノロジーとデザインで世界を変えていきたいと強調した。

 同社はもともとJST ERATOの北野共生プロジェクトから始まり、2009年にはマネキン型ロボット「Palette」などを発売してきた。ロボットを車やスマートフォンのように日常の風景にすることが目標だという。知能と自律機能を持つロボットは目的を持つ第三者であり、だからロボットデザイン、人の生活の中に共存させるトータルシステム設計の発想が重要であり、ごく自然に技術が存在する「Make Your Nature」が同社のコンセプトだと述べた。ロボットにおいても、どう使われるか、そしていかにも自然に存在することが重要だという。

「ロボットを日常の風景にする」ことが企業理念
マネキンロボットPalette
「Make Your Nature」が同社のデザインコンセプト

 Patinにおいてもロボットのデザインは「削いで削いで削いでいき」、ロボットの面白さは2つ、すなわち「動く」と「考える」に集約されると考えたという。ホームロボットにふさわしいデザインは何かを考えて、靴が考えて動くと面白いのではないかということから、スケート靴をヒントとして開発を進めたと述べた。

 ビジネススキームとしては、1)ロボット本体を中心にしたプラットフォーム型ビジネス、2)SDKを使ったサードパーティによるサービスユニットの開発、そして3)クラウドと連結したスマートロボット市場への参入の3つを考えているという。

 昨年(2014年)の発表後は、家電メーカー、音響メーカー、家具メーカー、車メーカーなどから問い合わせがあったという。これからはクラウドとロボットが繋がっているのは常識になっていくので、各社でコンソーシアムを作ってビジネスを進めていきたいと述べた。量産設計も他社と業務提携を行って進めていく。製造は国内で行なう。松井氏は「すぐにどんどん売れるとは思っていない。だが、3年をかけて1万台くらいの販売を目指したい」と述べた。価格はサービスを含めて100万円程度を想定しているという。

サードパーティとの提携
生産は国内の企業が行なう
製品化ロードマップ

 最後に松井氏は「ロボットの開発は裾野が広がらないと未来がない」と述べて、2015年から自律ロボットによるサッカーのロボコン「RoboCup」のグローバルスポンサーになったことについても触れた。エンジニアにもデザインの観点を持ってもらいたいと考えて、「RoboCup Design Award」を設立したと紹介した。

自律ロボットによるサッカーのロボコン「RoboCup」
Amazonが買収したKIVAもRoboCup発企業の1つ
「RoboCup Design Award」を設立

(森山 和道)