インテル株式会社は27日、「ITの価値に関する発想の転換」と題したITのパフォーマンスレポートに関する記者説明会を開催し、同社情報システム部長の富澤直之氏が、Intel全社でのIT利活用について説明を行なった。
Intelは言わずと知れた世界最大の半導体企業だが、その同社は、自ら製造したCPUなどを搭載するITシステムをどのように自社内で活用し、どのような成果を上げたかを毎年レポートにまとめ、社外にも公開している。2011年は、震災が発生したため取りやめとなったが、日本でも毎年記者説明会が行なわれている。
同社の全社員数は91,500人と、この1年間で約1万人増えた。一方で、IT部門の社員数は6,400人で前年から変わっていない。それでも、一般社員に対するIT部門社員数の比率は、日本の一般的企業よりも多いのだが、これは、他の企業ではIT部門の社員には計上されない、諸部門のIT担当者もIT部門に異動させたためという。
2011年の主な成果 |
そのIT部門によるこの1年間の成果として富澤氏は、「ITのコンシューマ化」、「企業セキュリティ」、「クラウドコンピューティング」、「ビジネスインテリジェンス」の4点に絞って、解説を行なった。
ITのコンシューマ化というのは、進化の早いコンシューマ製品を業務利用にも取り込むことを意味するが、Intelでは社内で利用されるスマートフォンなど携帯端末について個人所有の割合が58%にも及ぶという。
当然、個人所有、あるいはコンシューマ向け製品を企業の内外で使うことはセキュリティ上のリスクとなるわけだが、同社では独自の信頼度計算の開発およびテストの実施を行なっている。興味深いのは、同社のセキュリティに対する方針の改革で、あらゆるセキュリティの脅威を未然に防ぐというのではなく、現在では、すべての問題を防ぐことは不可能という立場の下、問題が発生しても情報漏洩などを最小限にとどめるという方針になっている。実際、2011年のマルウェア検出件数は50%増加したが、感染件数は30%削減することに成功した。
一方で、ITのコンシューマ化、そして携帯端末向けに、インスタントメッセージングや、会議室予約、音声会議スピードダイヤルなど、独自のビジネスアプリケーションを提供したことなどにより、社員の生産性は1日あたり47分、全体では年間約200万時間向上した。
ちなみに、PCについては、新入社員などに対する引き渡しに従来は90分間かかっていたものが、提供プロセスの合理化により、わずか90秒で完了できるようになった。さらに今後はMacを含んだPCについても個人所有機器の持ち込みを認める予定という。
セキュリティはポリシーを改革 | 個人所有端末の持ち込み許可によって生産性が向上 |
ビジネスインテリジェンスについては、設計コンピューティング予測エンジンにより、処理能力を最適化し、年間で700万ドルのコストを削減したほか、標準化された開発環境の導入により開発期間を5~12%短縮し、需要予測プロセスの所要時間を22%短縮するなどの成果を達成した。また、製造拠点のあるベトナム事業所においては、政府と共同で電子税関ソリューションを開発したことで、24時間の輸出入を可能にし、中国ではWebベースの請求書発行システムによって問題のある請求書の件数を90%削減したと報告した。
ビジネスインテリジェンスによる迅速な意思決定 | 標準化された開発環境で開発期間を短縮 | ベトナムでは政府と共同で電子税関ソリューションを開発した |
クラウドコンピューティングについては、同社のデータセンター数は2009年の95、2010年の91、2011年の87と微減し、データセンター面積は過去3年間で41,000~42,000平方mの横ばいで推移しているが、ストレージ容量は18.6PBから38.2PBに、半導体設計の処理能力は2008年比で2009年の24%増から、159%増へと大きく強化された。他方、消費電力についてはこの2年間で約100万kWを削減した。
また現在、同社で初めて完全なオープンソースクラウド環境のテストを実施しており、2012年には安全な外部クラウドとのハイブリッド運用へと広げる予定という。
日本のつくばオフィスは震災で社屋に大きな被害が出た。しかし、クラウド化と、全社員へのモバイル環境の整備により、自宅作業による事業の継続を行なうことができた。同オフィスは2011年11月までに復旧したが、震災を教訓に、社員が社内のどこでも働ける環境へとリニューアルされた。
同社のデータセンターの推移 | オープンソース化により、ハイブリッドクラウドを構築する |
日本のつくばオフィスは震災で甚大な被害を受けた | 新オフィスはどこでも働ける環境を作った |
(2012年 3月 27日)
[Reported by 若杉 紀彦]