富士通、最大23.2PFLOPSを実現するスパコンを発売
~京で用いた技術をさらに発展

「PRIMEHPC FX10」

11月7日 発表



 富士通株式会社は7日、最大で23.2PFLOPS(ペタフロップス)の理論演算性能を実現するスーパーコンピュータ「PRIMEHPC FX10」を発売した。2012年1月より出荷する。

 同システムは、同社と理研が共同開発し、先頃世界最高性能を達成した「京」に適用した技術をさらに発展させたもので、富士通が単独でプロセッサからソフトウェアまで開発した。

 インターコネクトは京と同じ6次元メッシュ/トーラスの「Tofu」を踏襲するが、プロセッサを大幅に強化。具体的には、製造プロセスを45nmから40nmへ縮小し、コア数を8基から16基へと倍増し、SIMD命令への対応を追加した「SPARC64 IXfx」を採用。CPU 1基あたりの性能は236.5GFLOPSと、京に搭載される「SPARC64 VIIIfx」のおよそ1.8倍に達する。消費電力は110W。また、メモリバンド幅も京に対して1.3倍の85GB/secに強化した。

 冷却も京と同じ水冷を採用している。110Wの消費電力に対して水冷は大げさにも見えるが、空冷ではCPU温度が80℃程度になるところ、水冷では50~60℃程度に抑えられるという。一般的にCPUの温度が10℃下がると、故障率が半減すると言われているが、実際に京で10PFLOPSを達成した時は、9万個近いCPUが故障することなく約30時間稼働を続けた実績がある。

 マルチラックモデルの最大構成は、1.848GHz動作のSPARC64 IXfxを96基搭載したラック1,024台で、98,304 CPU、メモリ6,291TBとなる。これは、11月2日に10PFLOPS達成を発表した京と比べてCPU数は約10%の増加だが、理論演算性能は2倍以上の23.2PFLOPSとなっている。

 価格は最小構成のシングルラックモデル(CPUクロック1.65GHz)で5千万円。マルチラックシステムの価格は、システム次第だが、目安として1PFLOPSの構成で50~70億円程度。

PRIMEHPC FX10の特徴主な仕様
SPARC64 IXfxの仕様とダイの写真実際のノード

 7日に行なわれた記者発表会では、同社執行役員副社長の佐相秀幸氏らが戦略などについて説明した。

 同社は1977年に国内初のスパコンとなる「F230-75APU」を開発。1993年の「NWT」では124GFLOPSを達成し、初めて世界1位となった。その後も2008年の「FX1」で世界最高の実効効率を、2010年のPCクラスタ(IA)「191TF」で日本最速を実現し、2011年6月には大きく報じられたように、京で8PFLOPS超を達成し、富士通としては16年ぶりに世界一となった。

 この点について佐相氏は、「京はこれまでの30年間の集大成であり、主要製品を全て自社で開発できる強みを活かした結果」とした。

 PRIMEHPC FX10の販売、納入はこれからとなるものの、前述の通り本システムは京の2倍以上の23.2PFLOPSを実現できる。この性能によって、これまで翼単体でしかできなかったジェット機の空力計算を、胴体やエンジンまで含めた飛行機全体で行なうといった、「ものをつくらない、ものづくり」を推し進めることができる。

 また、ものづくり以外でも、ペタスケールのスパコンは、現実社会の問題の解析にも適用が可能で、学術研究の域を超えて、企業/社会で不可欠な実用技術になってきており、国家や企業の競争力を左右することから、HPC市場は年率8%近い伸びを示しており、2015年には1兆円市場となることが見込まれる。

 そういった中、同社テクニカルコンピューティングソリューション事業本部本部長の山田昌彦氏は、2015年までに世界シェア10%(1,000億円)を狙うとの目標を示した。これは、現在の2%程度という実績からすると、かなり大胆な目標だが、PRIMEHPC FX10は世界市場への展開を当初から予定しており、京の世界一発表以降、これまで富士通の名が知られていないような地域からも問い合わせが多数来ており、そういった手応えを踏まえての数値のようだ。まずは実績のある、日本と欧州を足がかりに、アラブやASEAN諸国、ブラジルといった新市場に打って出ていき、最終的にはアメリカと中国も視野に入れているという。

 1,000億円の内、本システムでの金額は300億円程度になることを見込む。ただし、これについては、特定企業/団体への納入以外に、今後エントリーユーザーによる活用が進むと見込まれるクラウドサービスのインフラとしての採用も含む。

 今後について同社では、すでにエクサスケールを目指し、その準備を進めているが、アーキテクチャはSPARCを引き続き採用する予定という。また、スパコンにとって重要なCPUとインターコネクトについて、「両方のIPを持っているのは同社とIBMだけであり、我々が今エクサに一番近いところにいる」と述べ、他社に先駆けての達成に自信を見せた。

左からテクニカルコンピューティングソリューション事業本部本部長の山田昌彦氏、執行役員副社長の佐相秀幸氏、次世代テクニカルコンピューティング開発本部本部長の追永勇次氏PRIMEHPC FX10は世界市場で販売2015年までにHPCサーバー市場で10%のシェアを狙う

(2011年 11月 7日)

[Reported by 若杉 紀彦]