OCZ上級副社長Justin Shong氏インタビュー
~PCIe SSDなど、今後もエンスージアスト向け製品に特化

Justin Shong氏



 OCZ Technologyは、COMPUTEXにブースこそ構えなかったものの、会場近くのホテルでプレスや顧客を相手にSSDを中心とした新製品を披露した。今回、同社ワールドワイドセールス担当上級副社長のJustin Shong氏が来日したので、同社の販売代理店である株式会社アスクのオフィスでインタビューを行なった。(以下、敬称略)

【Q】OCZは我々の読者の間ではすでに定評がありますが、改めて簡単に会社概要を教えてください。

【Shong】OCZはエンスージアストのためにエンスージアストが設立した会社です。創業は2002年。まずは、メモリおよび電源ユニットでビジネスを始めました。当時の本社はカリフォルニア州のサンディエゴですが、今はサンノゼに移転しています。米国ではNASDAQに上場してており、2009年度の売上高は1億7,800万ドルです。

 我々は、メモリとPSUの高性能さで定評を築いてきました。2007年後半から2008年頃から、エンスージアストは次に何に目を向けるだろうかと考えた時、SSDにたどり着きました。当時まだリテール市場には、SLCしかなかったのですが、我々は2008年に業界に先駆けてMLC SSDを投入しました。日本ではご存じの通りアスクが製品を取り扱っています。それ以来、我々はSSD企業というイメージが定着するようになりました。メモリや電源の成長率は10%程度ですが、SSDは今後も70%~100%の成長が見込める市場なので、我々としてもここに注力していきます。

【Q】COMPUTEXでの反響はどうったのでしょう。

【Shong】非常に良いものでした。多くの顧客が我々のスイートに訪れ、良いフィードバックを得ることができました。

【Q】今回このように来日されているわけですが、今年日本市場における目的はどういったものでしょう。

【Shong】日本市場でも確固たるシェアを築き上げることです。我々は欧米諸国ではリテールSSDにおいて第2位のシェアを確保しています。日本でもこのレベルを目指したいと考えています。もちろん、ゆくゆくは1位になりたいと考えています。とはいえ、一歩一歩着実に前進していきたいと思っています。

【Q】SSDの基本的な性能は採用するコントローラに大きく依存します。そのため、競合との差別化は難しいと思いますが、OCZはどのような差別化を図るのでしょうか。

【Shong】我々は研究開発部門を持っており、SSD専任の技術者が20人ほどいます。彼らは基板や、ファームウェアの最適化など、独自の設計を行なっているのです。実際、「Vertex」シリーズを見ていただくと分かりますが、SandForceリファレンス設計とは大きく異なっており、性能を引き上げています。Intelや、東芝、Samsungと言った大企業は別ですが、KingstonやMicron(Crucial)といった小規模な競合他社は、こういった開発部門を持っておらず、リファレンスのまま製品化しています。

 独自設計の具体例として挙げられるのが、COMPUTEXで紹介したPCI ExpressカードのSSD「Revo Drive」です。この製品ではSandForceのコントローラを2台搭載し、RAID 0構成とすることで、リード/ライトとも約550MB/secという高速アクセスを実現しました。標準容量は128GBですが、512GBまで拡張することもできます。今月末に出荷を開始します。こういった製品は、先に述べたような競合は開発できないでしょう。

 さらに我々はCOMPUTEXで、「HDSL」(High Speed Data Link)と呼ばれる新技術に基づく高速インターフェイスを参考展示しました。これを利用すると、3.5インチドライブのサイズで、PCI Express経由で1GB/secクラスの性能を実現できるようになります。ただし、これが製品化されるのはもう少し先になります。

COMPUTEXで展示されたRevo DriveHDSLの参考デモ

【Q】1年ほど前、多くのメーカーがSSDを出すようになった頃、価格は数カ月単位で大きく下落していきました。一方、最近は下げ止まっている感があります。これはなぜでしょうか。

SSDの価格移行について図で説明するShong氏

【Shong】それはNANDフラッシュの製造技術に要因があります。SSDの価格の大半はNANDで占められます。これまでSSDでは、50nm世代に始まり、40nm世代、30nm世代へとプロセスルールが縮小されてきました。製品の価格は基本的に時間が経過するにつれ穏やかに下がります。SSDの基板やコントローラの価格は、いつの時代もほぼ一定ですが、NANDのプロセス縮小が起きると、その価格が一気に数十%低下するのです。我々は20nm世代への移行は第3四半期から第4四半期に始まると見ていますので、その頃にまた価格が下がるでしょう。次の世代のNANDはIntelとMicronがリードし、東芝、Samsung、Hynixなどが続くでしょう。ただ、USBメモリと違い、SSDには高い信頼性が求められるので、コントローラ選びについて、慎重に行なわなければなりません。

 ただし、本日iPhone 4を発表したAppleはNANDの超大口顧客であり、彼らの需要次第によっては、価格が下がらないことも考えられます。

【Q】現在製品化されている最大の容量は512GBでしょうか。

【Shong】はい、ただしそれは「生」の容量です。SandForceのコントローラは、性能や寿命劣化を防ぐためOver-Provisioningという技術を使っており、ある程度の容量を予備領域として確保します。この必要な量はおよそ30%で、512GBのメモリを搭載する製品の実容量は400GBとなっています。予備領域の量を減らした480GBのモデルもありますが、実容量と性能とはトレードオフになってしまうのです。512GBをフルに使えるのは東芝など一部の製品に限られます。

【Q】1TBクラスへの移行はいつ頃なのでしょうか。

【Shong】3.5インチでは「Colossus」という1TBモデルをすでに用意しています。2.5インチについては未定です。現状ではメモリチップの実装面積の問題で、2.5インチサイズで1TBを実現するのは困難なのです。

 その点で有利なPCI Expressカードでは「Z Drive」という2TBの製品も用意はしています。また、この製品はバスも高速なので、複数のコントローラを搭載し、性能は1.4GB/secと遙かに高くなっています。この製品は、企業はごく一部のエンスージアスト向けで、高額ですが、Fusion-ioの製品に比べると安価になっています。一方、前述のRevo Driveは一般的SSDと比べ、20~30%の価格アップにとどまっています。

【Q】OCZは幅広い製品を持っていますが、それによりユーザーがどれを選べばいいか迷う場合もあります。

【Shong】我々が多数の製品を提供しているのは、ユーザーのみならず、市場や販売店といった観点からも、SSDに求める要求が異なるためです。ですので、ユーザーが購入する際は、まず何をしたいのかを明確にしてください。その上で、性能、特にIOPSを参考にするといいでしょう。我々は、すべての要求に応える製品ラインナップを持っています。

【Q】一方でネットブック向けのような安価な製品はどうでしょう。

1.8インチの廉価な製品も近々出荷

【Shong】そういった製品向けにはまもなく1.8インチの「Onyx」などを提供開始します。まれに数百ドルのネットブックにも500~600ドルのSSDを入れて、性能を向上させているユーザーもいますが、大部分のユーザーには、性能と価格を引き下げたものを提供します。

【Q】HDDからSSDへのアップグレードをしたいと考えつつも、困難さや面倒くささから躊躇するユーザーもいます。例えば、データの移行ツールをバンドルしたりはしないのでしょうか。

【Shong】その予定はありません。と言うのも、我々は基本的にエンスージアストを対象にしているからです。そういったユーザーは交換/移行の知識や技術があるので、ソフトをバンドルすることによるコスト増は避けたいと考えているのです。

【Q】ソニーのVAIO Zシリーズでは、2.5インチサイズで複数のコントローラを搭載しRAIDにより性能を高めたSSDを採用していますが、似たようなアイディアはありますか。

【Shong】3.5インチでは同様の製品を用意していますが、2.5インチでは今のところ予定はありません。理由の1つとしては、2.5インチではドライブの性能がバスの限界に近づいているからです。これ以上速くする意味はありません。

【Q】転送速度を引き上げたSATA 6Gbps対応マザーボードも出始めていますが、SSDでの対応状況はどうでしょう。

【Shong】すでに複数のコントローラメーカーがSATA 3に向けた開発を行なっており、我々もどれを採用するか検証しているところです。製品の登場は第3四半期の後半から第4四半期にかけてになるでしょう。Micron(Crucial)は特別な独占契約により、唯一対応製品を出していますが、今年中には複数のメーカーが対応製品を出してくると思います。

【Q】今年はUSB 3.0に注目が集まりつつありますが、対応SSDの展開はいかがでしょう。

USB 3.0対応SSD「Enyo」

【Shong】我々は先日、USB 3.0対応の外付けSSD「Enyo」を発表し、COMPUTEXでも披露しました。もうじき出荷を開始する予定です。

【Q】SSD以外の製品展開は考えていますか。

【Shong】メモリ、電源以外では考えていません。過去には冷却装置、キーボード、マウス、そしてベアボーンノートなどもやりましたが、業績はあまり芳しくありませんでした。こういった製品を扱うメーカーは数多くありますが、我々が独自の価値を提供できるのは、やはりSSDなのです。現在、我々の事業の50%はSSDが占めており、今後もここに注力していきます。

【Q】最後にユーザーに向けて一言お願いします。

【Shong】まず製品選びの際は質も見て欲しいということ。我々はアスクを通じて販売することで、製品保証もしっかりしています。性能については、ベンチマークを測る際、マルチスレッドに対応したものを使ってもらいたいと思います。よく使われるCrystalDiskMarkはシングルスレッドにしか対応していないのですが、SandForceコントローラはマルチスレッド化されているのです。その意味では、ATTOがマルチスレッドに対応しているので、お勧めです。なお、ユニットコムが6月12日~13日にベルサーれ秋葉原で行なうイベントには我々も出展する予定ですので、是非ご来場ください。

(2010年 6月 9日)

[Reported by 若杉 紀彦]