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なぜ時間は一方向にしか進まないのか? 東大が解明に向け前進

~量子力学から熱力学第二法則の導出に成功

本研究の設定の模式図。全系はシステムSと熱浴Bからなる。熱浴の初期状態はエネルギー固有状態。熱浴は格子上の量子多体系で、相互作用は局所的。また、システムSは熱浴の一部分とのみ相互作用している

 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の伊與田英輝助教、金子和哉大学院生、沙川貴大准教授は6日、マクロな世界の基本法則である熱力学第二法則を、統計力学の概念を使うことなくミクロな世界の基本法則である量子力学が理論的に導出することに成功したと発表した。われわれの日常世界で、なぜ時間が一方向にしか進まないのかを解明するカギとなる。

 熱力学は物理学の基礎理論の1つで、なかでも「断熱された系のエントロピーが減ることはない」ことを示す第二法則は非常に重要な存在である。断熱された系のエントロピーが減ることはないとは、たとえば室温の空気中に熱いコーヒーを放置しておくと冷めてしまうが、その逆、つまり冷えたコーヒーが勝手に温まることは起きないということになる。このような不可逆性は「時間の矢」と呼ばれる。

 熱力学はマクロな現象に関する理論で、原子や分子など小さな構成要素が大量に含まれる。一方で、ミクロな構成要素、すなわち原子自身の運動は量子力学で表わされるが、量子力学のシュレディンガー方程式などには時間反転に対して対照的という性質があることがわかっている。ある運動が運動方程式の解であれば、その時間の向きを反転させた運動も解になるわけだ。

 つまり、量子力学にもとづくと、コーヒーが冷める時間変化が可能なら、冷めたコーヒーがひとりでに熱くなるような時間変化も可能となり、熱力学と量子力学が矛盾したように見える。このミクロで可逆な法則と、マクロで不可逆な世界との整合性をどう理解するかは、19世紀以来の物理学の大きな難問だった。

 今回、東大の研究チームは、従来の研究とは異なり、カノニカル分布などの統計力学の概念を使うことなく、多体系の量子力学にもとづいて第二法則を導出。さらに、「ゆらぎの定理」と呼ばれる熱力学第二法則の一般化を、同様の設定で証明することにも成功した。

 この成果は、量子力学だけにもとづいて、不可逆性の起源、つまりなぜ時間の矢が生まれるのかを理解する大きな足がかりとなるとしている。