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慶應大ら、熱エンジンの効率を最大限に上げると出力がほぼゼロになることを証明

~熱力学に新たな原理が付加

 古くから推測されていた熱エンジンと効率向上と出力の大きさとの間にはトレードオフの関係があることが慶應義塾大学理工学部の齊藤圭司准教授と、東京大学大学院総合文化研究科白石直人氏、学習院大学理学部の田崎晴明教授らの研究グループによって証明された。

 火力発電所の発電機のように、高温の物体から熱を受け取り、それを電気のような「使えるエネルギー」に変える装置を一般的に「熱エンジン」と呼ぶ。高温の物体から受け取った熱エネルギーのうち、どれだけ利用できたかの比率を「効率」という。この効率には、原理的に超えられない「カルノー効率」という上限があることが分かっている。一方、発電機では、効率だけでなく「何Wの電力が発電できるか」という「仕事率」が問題になる。

 カルノー効率が達成されると、効率は上がるが、トレードオフの関係で、同時に仕事率がゼロになることが漠然と予想されていた。しかし、従来の熱力学には動作時間という概念が組み込まれていないため、仕事率を解析できず決定的な答えを得られていなかった。

 今回、同研究グループは、古典力学とマルコフ過程でモデル化した「ゆらぐ系についての非平衡統計物理学」で考案された手法を拡張することで、広範な熱エンジンに適応可能な普遍的関係式を導出した。これにより、熱エンジンの効率をカルノー効率まで高めるには、エンジンの動作速度を無限に遅くして、どれほど待っても利用可能なエネルギーがほとんど得られない状況(発電機では出力0W)にせざるを得ないことが結論付けられた。このことは、ほとんどの一般的な熱エンジンと、分子モーターのような微少な機械にも適用できるという。

 これまで、熱力学には「何もないところからエネルギーを生み出すことはできない」(熱力学第一法則)と、「熱のエネルギーを全て利用可能なエネルギーに変えることはできない」(熱力学第二法則)という2つの「何ができないか」に関する原理を基盤に作られていたが、今回の発見はそれに新しい原理を付け加えるものになる。