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「Wi-Fiと5Gは相互補完する関係で共存し続ける」

~Wi-Fi Allianceが無線市場を展望

マーケティング担当 バイスプレジデントのケビン・ロビンソン氏

 無線LAN規格の策定および相互接続性試験、普及活動などを担う企業団体Wi-Fi Allianceは25日、都内で記者会見を開催し、来日したマーケティング担当 バイスプレジデントのケビン・ロビンソン氏が、Wi-Fiを取り巻く環境と今後の展望について語った。

 Wi-Fi Allianceは1999年のIEEE 802.11b策定時に、相互接続試験をクリアした製品にのみ「Wi-Fi Certified」のロゴを付与する活動を行なっていた。この機器の相互接続性こそが、Wi-Fiが今世界でもっとも普及したインターネット接続手段に至ったきっかけだと同氏は振り返る。

 全世界で700社以上が参入するWi-Fi Allianceにとって、日本も重要な市場であり、日本企業も111社参入しているという。Wi-Fi Allianceに参入している企業の共同のビジョンは「いつでもどこでも誰とでもつながれる状況を作る」ことであり、こうしてみると壮大なビジョンに見えるかもしれないが、今からそう遠くない未来にもこのビジョンが実現するとした。

Wi-Fi Allianceの役割
Wi-Fi Allianceのビジョン
日本のメンバー企業の一例
Wi-Fiの動向

 今やWi-Fiは人々の生活と密接に関わっている技術である。Wi-Fiのデバイスは今も80億台がアクティブであり、これは地球上に住む1人に対して1台以上Wi-Fiデバイスが存在する計算だ。2021年には40億台を超えるWi-Fiデバイスが出荷される見込みで、累計ではじつに320億台超に達する。インターネット上のトラフィックの半分は、Wi-Fiを介して行なわれているという試算もある。プライベートや仕事、または外出先で、写真や文書、音楽、動画など、あらゆるデータがWi-Fiを通して転送されている。

 そしてWi-Fiはイノベーションを引き続き推進していく予定で、今メインストリームとなったIEEE 802.11acに続き、WiGigやIEEE 802.11axといった技術が今後順次市場に投入されるとした。

 日本では2020年に東京オリンピックが開催されることとなっているが、Wi-Fiはコネクティビティの模範になるだろうとした。その頃にはより高速な5Gモバイルネットワークが開通する見込みではあるものの、高密度な通信は5GよりもWi-Fiのほうが優位性があるとした。

 「以前、アメリカのスーパーボウルの3時間の試合があった会場で、観衆が持ち込んだデバイスによって生まれたトラフィック量は20TBに達した。2020年のオリンピックにはさらなるトラフィック増を見込まなければならない。Wi-Fiは5Gと同じく、人口密度が高い会場で威力を発揮し、ユーザーに優れた体験を提供できる」とした。

 さらに、Wi-Fiはすでに5Gで実現できる能力を発揮できている点も重要であり、「2020年まで待つ必要がない」のもメリット。IEEE 802.11acでは、すでにGigabitを超える帯域や低レイテンシ、MU-MIMOによる複数ユーザー接続時の効率化を実現できているとアピールした。

Wi-Fiチップセットの出荷数
2021年までのWi-Fi対応デバイスの出荷台数
日本のWi-Fiインフラ
5Gの基盤にもなるWi-Fi

ユーザー体験の向上を目指す機能

 もっとも、Wi-Fiも1つのアクセスポイントにアクセスが集中して混雑すれば速度が低下する。そこでWi-Fi Allianceが提唱するのが、駅や空港やホテルといった公衆の場所で、管理されたアクセスポイント機器(Wi-Fi CERTIFIED Passpoint)で使える「Wi-Fi Vantage」機能だ。オペレータはWi-Fi CERTIFIED Vantageを使うことで、ユーザーはシームレスな認証や接続を実現する一方で、ビームフォーミングやコンカレントデュアルバンドオペレーションといった、接続性を改善する機能が利用可能になる。

 また、将来的に端末がアジャイルマルチバンドに対応すれば、アクセスポイント間を移動しても途切れることなく通信をし続けることや、混雑したアクセスポイントにつながったままの“しつこい”クライアントを排除する機能が加わり、ユーザー体験はさらに向上するとした。

 MiracastもWi-Fi Allianceがリリースしてから大きな成功を収めた技術の1つ。すでに7,000種類のデバイスがMiracastに対応しており、ソニー、エプソン、トヨタ、パナソニックといった企業もこの規格に賛同している。Miracastデバイスそのものも、アップデートによって4Kのビデオが流せるようになっており、ユーザー体験が向上しているとした。

 もう1つは近々導入されるデバイス間の正確な時間の同期「TimeSync」の機能。たとえばマルチチャンネル接続の無線スピーカーといったソリューションでは、ドリフトと同期の問題を解決できるほか、自動車やIoT、工業、医療分野でもその威力を発揮するだろうとした。

公衆アクセスポイントは“マネージドWi-Fi”として定義
マネージドWi-Fiに好適とするWi-Fi CERTIFIED Vantage
今後のロードマップ
Miracastの動向
Wi-Fi CERTIFED TimeSync

 質疑応答では、Wi-Fiが消費電力の面から不得意とされているIoTについての質問がなされ、ロビンソン氏は「Wi-Fiはインターネットプロトコルに標準で対応している点が大きなメリット。現在は、待機時にWi-Fiをオフにし、必要なときのみオンにすることで消費電力を大幅に抑える仕組みができているので、そういった工夫を施すことで解決できる。また、ウェアラブルデバイスに応用できる低消費電力で、1GHz以下の周波数を使うことで1kmの通信距離をカバーする『Wi-Fi HaLow』も開発中であり、そういったソリューションで対応を行なっていく」とした。

 一方、キャパシティが大幅に増加する5Gモバイルネットワークとの共存について問われると同氏は、「インターネットトラフィックのうち、Wi-Fiはセルラーの数十倍以上のトラフィックを支えて、これが5G単体でまかなえるとは思っていない。今後も無免許で使えるWi-Fiは重要だ。たとえば家庭や仕事場、カフェなどの“スポット”ではWi-Fiを使い、それらのスポット間の移動時は5Gを使うのが主流になるだろう。つまり5Gとは相互補完する関係であり、どちらか一方なくなるということはないと考えている」と答えた。