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パナソニック、ReRAMの書き換え回数を120万回と10倍以上に伸ばす

~国際メモリワークショップ(IMW) 2017レポート

国際メモリワークショップ(IMW 2017)のチェアパーソン一覧。5月15日朝のウエルカムトークから

 半導体メモリ技術の研究開発に関する国際学会「国際メモリワークショップ(2017 IEEE 9th International Memory Workshop(IMW 2017))」が、米国カリフォルニア州モントレーで2017年5月14日~17日(現地時間)の日程で開催されている。14日のチュートリアルセッションに続き、15日にはメインイベントであるテクニカルセッションが始まった。

 15日のテクニカルセッションに先立ち、IMW 2017の全体議長(ジェネラルチェア)を務めるRandy Koval氏が、イベントの概要を説明した。テクニカルセッションは、21件の一般講演と11件の招待講演、11件のポスター発表で構成される。一般講演での発表を目指して投稿された50件弱の論文から、22件の論文が採択された。採択率は46%で、高くもなく、低くもない。講演セッションはシングルセッションを基本としており、じっくりと講演を聴講できる。

IMW 2017のスポンサー企業一覧。5月15日朝のウエルカムトークから
2009年から2017年までの投稿論文数と採択論文数の推移。投稿論文は近年、減少傾向にある。5月15日朝のウエルカムトークから

 発表論文を分野別に見ていくと、抵抗変化メモリ(ReRAM)が40%ともっとも多い。半導体メモリの研究開発コミュニティでは、ReRAMの研究が依然として活発であることがうかがえる。ついで件数が多いのはNANDフラッシュメモリで、18%を占める。

発表論文の分野別比率。抵抗変化メモリ(ReRAM)が40%ともっとも多い。5月15日朝のウエルカムトークから

抵抗変化メモリを世界で初めて製品化したパナソニック

 ウエルカムトークの後は、午前に基調講演が、午後には抵抗変化メモリ(ReRAM)の一般講演が実施された。基調講演の紹介は後の機会に譲り、本レポートでは一般講演の最初に配置された、パナソニックによる抵抗変化メモリ(ReRAM)技術の招待講演を紹介したい。

 パナソニックの半導体部門であるパナソニック セミコンダクターソリューションズは、2013年に世界で初めて、抵抗変化メモリ(ReRAM)を製品化した。8bitマイクロコントローラ(マイコン)の内蔵メモリに、ReRAMを導入した。当時も現在もマイコンの内蔵メモリは、フラッシュメモリ(NORフラッシュ)が一般的である。

 フラッシュメモリを内蔵したマイコン(フラッシュマイコン)では、データ格納用の標準型EEPROMを外付けすることが少なくない。パナソニックが開発して量産化したReRAM内蔵マイコンはこの標準型EEPROMを不要にするとともに、フラッシュメモリに比べて書き換えに必要な電流を低減した。内蔵するReRAMの記憶容量は64KB(512Kbit)、電源電圧は1.1V~3.6Vである。

 IMW 2017の講演(講演者は中山雅義氏)では、抵抗変化メモリ(ReRAM)の開発ロードマップを始めに示した。2013年に量産化したのは、0.18μm(180nm)技術で製造するマイコン向けメモリである。その後は、0.18μm技術によるIoT(Internet of Things)向けメモリを開発し、さらには製造技術を大幅に微細化した40nm技術によるIoT向けメモリおよびクラウド向け大容量メモリを開発する。

ReRAMの構造。左からメモリセルアレイ、メモリセルの断面構造(1T1R方式)、記憶素子の電子顕微鏡観察像。IMW 2017の発表論文から

記憶容量を8倍、書き換え回数を10倍以上に拡大

 そして512KB(4Mbit)と記憶容量を8倍に拡大した抵抗変化メモリ(ReRAM)の概要を報告した。「0.18μm技術によるIoT向けメモリ」に対応する開発成果である。

 開発したメモリの特徴は記憶容量を拡大するとともに、書き換え可能回数を大幅に増やしたことだ。2013年に量産化したReRAMの書き換え回数は、コード格納領域が1,000回、データ格納領域が10万回である。これに対して開発したReRAMの書き換え回数は120万回に達している。

 開発したReRAMでは、記憶素子(可変抵抗素子)の構造を改良する(導電フィラメントの大きさを最適化する)とともに、書き込み時に記憶素子に加わる電圧のばらつきを抑えることで、書き換えの繰り返しによる読み出しマージンの低下を抑制した。

従来のReRAM(左)と開発したReRAM(右)の比較。IMW 2017の講演内容を元に筆者がまとめたもの
開発したReRAMの書き換えサイクル特性。書き換え回数が120万回に達しても、十分な読み出しマージンを確保できている。IMW 2017の発表論文から

 なお講演では述べなかったようだが、開発した4Mbit ReRAMは富士通セミコンダクターが昨年(2016年)10月26日に発表した製品「MB85AS4MT」のことだとみられる。同製品はReRAM製品としては最大容量であるとともに、入出力インターフェイスをSPI(シリアル・ペリフェラル・インターフェイス)として、8ピンとピン数の少ない小型パッケージ(プラスチックSOP)に封止したことを特長とする。富士通セミコンダクターは、本製品をパナソニック セミコンダクターソリューションズと共同開発したと説明している。