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卓上ロボットがファミレス「ココス」でおもてなし実証実験を実施
~ゼンショー、大阪大・石黒研と共同研究
2017年4月7日 06:00
株式会社ゼンショーホールディングスと大阪大学大学院 基礎工学研究科 システム創成専攻 知能ロボット学研究室(石黒浩研究室)は、2017年4月6日、飲食業におけるロボット活用による店舗サービスの向上と新たな付加価値提供の可能性を探るために、卓上ロボットを使った「おもてなし」に関する共同研究を開始し、第1回目の実証実験を行なったと発表し、東京・品川の同社本社で記者会見を行った。
今回の実証実験は、3月29日から4月4日までファミリーレストラン「ココス」日吉店のなかにロボットとの会話が楽しめる座席を設置し、実際に訪れた幼稚園児から小学生くらいの子供がいる家族を対象にロボットを通じて「家族との楽しいコミュニケーション」を作り出すことができるのか検証したというもの。
31テーブルのうち3テーブルにロボットをセット。着席から最後のあいさつまでおもてなしを実施した。主に家族づれを中心とした合計57組のグループに体験してもらい、「ロボットとの会話でいつも以上に楽しく過ごせたのでまた来たい」といった感想を得られたとしている。体験者数はおおよそ150名。
使われたロボットは、石黒研とヴイストン社が共同開発した社会的対話ロボットの「Sota(ソータ)」と「CommU(コミュー)」、それと石黒研によるタブレット。
今回のロボットの特徴は受付・案内、注文、会計といった特定の場面だけではなく、着席から食事後までの一部始終すべての場面に応じたおもてなしができる点にあるという。また石黒研が研究開発している「タッチパネルを使った選択式会話システム」を使ったロボットとの対話感をもたらす技術、ロボットの身振り手振りや存在感を活用した対話システムを用いている。これらによって自然な商品のおすすめや、会話の促進、待ち時間のエンターテイメント提供ができるとしている。
ゼンショーホールディングスでは今回の取り組みだけではなく、回転寿司チェーン「はま寿司」にもソフトバンクグループの「Pepper」を案内用ロボットとして実験導入している。今後もロボットのさまざまな可能性を模索し、将来的に「飲食業におけるロボットとの共生」の実現を目指すとしている。
食事は会話を楽しむもの
会見では、まず株式会社ゼンショーホールディングス ゼンショー中央技術研究所 所長の永井元氏が経緯を解説した。「食事でのコミュにケーションは人の気持ちを豊かにする。外食は食事を一堂に集まって食べる機会。おいしい食事の提供はもちろんだが、より豊かな時間を過ごしてもらうための技術革新が今回のおもてなしロボット」と述べた。
昨年(2016年)の8月にこのコンセプトを高度かつ迅速に実現するための要素技術を持っていることから大阪大学・石黒研との共同研究が始まった。その後、実際に使ってもらうためのプロセスが必要となり、3月末から4月はじめの日程にて、「ココス」で第1回の実証実験を実施。実験では「おすすめを見つけるのに役立った」とか「普段はじっとしていない子供の世話に追われて食事を楽しめないが、ロボットが遊んでくれたおかげで夫婦の会話ができた」といった声が多かったという。
永井氏は「狙いだったコミュニケーションの活性化については、おおむね期待通りの結果が得られた。2020年の実用化を目指して今後も実験を重ねていく」と語った。ロボットの故障などのトラブルも懸念していたが、ほとんどなかったという。
続けて「食事の目的の半分は会話を楽しむもの」と語る大阪大学大学院 教授の石黒浩氏は、石黒研の研究はアンドロイドで広く知られているが本質的には「人と関わる技術」と紹介。「コミュー」と「ソータ」を使った実験は対話を通じていろいろなサービスを提供する技術の一環であり、今回のゼンショーとの取り組みはロボットが世の中に実際に浸透していくさきがけとなるのではないかと述べた。
音声認識なしでロボットとの主観的対話感を上げるためには
実験の詳細コンセプトは、大阪大学大学院 基礎工学研究科 石黒研究室 准教授の吉川雄一郎氏と、同 助教の小川浩平氏が紹介した。まず対話技術について吉川雄一郎氏が解説した。今回実験で用いた「ソータ」と「コミュー」は小型ロボットなので生活環境にスムーズに入ることができ、かつ、対話に必要な仕草を出すことができるだけの自由度を持っている点が特徴となっている。「人間型ロボットのほうが人は話しやすい」一方、「音声認識にはまだ課題が多い」と指摘した。
そこれで吉川氏らは、音声認識なしで、複数のロボットの対話に人を巻き込むといった研究を行なっている。実際にはシステムが主導しているのにも関わらず人には対話感があるシステムだ。ロボット1台に人1人ではなく、互いに対話する複数台のロボットを使う点が特徴だ。ロボット同士は対話を破綻せずに続けてしまうため、人間は観察を通してロボットたちの対話ストーリーを共有してしまう。また、ちょっとした意思表明をする機会があればストーリーに参加している感覚を持つことができる。吉川氏らはこのような仮説を持って、検証のための研究を行なっている。
この仕組みを使うことでサービスを提供したいと思っている側が想定したサービスを提供することが可能になるという。現時点でサービスを提供するためには、実際には音声認識していなくても、音声認識しているかのように人が体感することが重要だ、というわけだ。
今回の実験は、まずは1体のロボットを入れて、それがどういうふうに受け入れられるかを検証した。そこで2体のロボットを入れる代わりに、ロボット1台とタッチパネルを用いた。選択肢が表示されるタッチパネルを触ると、音声が発話され、あたかもその人自身が返事したかのようにロボットが応対をしてくれる。こうすることでストーリー展開の上で予想外の反応が入らないようなかたちに落とし込みつつ、サービス提供が可能になる。
さらに、ロボットとタブレット操作者との対話の様子を見ることで、第三者である周囲の人たちとの対話も盛り上がるのではないか、というのが実験の枠組みだ。
選択式タッチパネルで、ゆるやかに意図を誘導
タッチパネルを用いた方法については小川浩平氏が解説した。小川氏はふだんは石黒研のアンドロイドを扱っており、もともとは、それとの対話を実現するために考えた方法がタッチパネルだったという。
まず前提として、ロボットとの対話の困難さを小川氏は紹介した。現状の技術では音声認識も難しいし、概念や文脈も理解できない、対話の破綻も検出できない。ヒューマノイド相手だとさらに難しくなるという。なぜなら、例えばスマートフォンの音声認識機能を使うときには機械が認識しやすいように喋る人が多いが、ヒューマノイド相手だと話し言葉になってしまうし、認識精度において重要なマイクとの距離も不定になってしまうからだ。だがロボットが人とコミュニケーションできさえすれば提供できるサービスは多い。
この問題をクリアするために小川氏が考案したのがタッチパネル選択式会話だ。発話を代読してくれるシステムである。選択肢を押すので音声認識は必要ないし、システム設計者が考案したとおりに対話が流れる。破綻もしない。
問題は、選択式タッチパネルを使った対話を人間は受け入れられるのかだ。小川氏は、タッチパネルが発話し、ロボットが音声で応答することで、人は許容できると述べた。この方式の利点として、対話を通して色々な情報収集もできる。相手の意図を誘導しつつ、選択させることで、自分が選択したという感覚を人間に与えることができると述べた。
このシステムを使ってアンドロイドに商品単価おおよそ2万円くらいの洋服販売員をやらせたところ、全体売り上げ順位で6位と、人の販売員と比べてもかなり良い成績を収めることができたと研究成果を紹介した。これまでのチャレンジは「商品が売れるか」だったが、今回は「人を楽しくさせることができるか」というチャレンジだという。ロボットとの会話を通じて共感させたり人と人とを繋げたり、会話を楽しくさせることが目的だ。今後は学習機能や個人適応の実装・実験を目指す。
石黒氏は「売り手側にとって都合のいい選択肢だけを用意しても誘導はできない」と補足した。あくまで「話のなかで、ゆるやかに意図を誘導し、意思決定をサポートするシステム」であり「人間がやるセールスよりもやわらかい意図の誘導をやっていると考えてもらえば」と語った。
多様な来客への対応やバックヤード機器との連携も目指す
ゼンショーでは今回の実験では来客の着席から退席までの「おもてなし」を、以下のような8つのステップとして捉えて実施した。メニューには特に記載されていない、ドリンクバーでのオススメのブレンドを教えてくれたり、注文後、料理の待ち時間などを聞いたら教えてくれるというサービスもあったという。
1)挨拶・インストラクション
2)おすすめメニューリコメンド
3)注文
4)料理提供待ち
5)食事中
6)デザートリコメンド
7)食事後
8)帰り挨拶
実験では、ロボットと子供がいろいろなやりとりをするなかで「これは何なの? どういう意味なの?」と子供がほかの家族に対して質問することで、会話が生まれることが多かったという。ちゃんと対話が促進されることは確認できたので、今後は対話の内容を変えて、まわりの人を引き込んで、楽しい会話に繋げることを狙う。
今後の課題については、今回は子連れが多かったが、実際の来店層には高校生や高齢者などさまざまなターゲットがいるので、それぞれに応じてどういう対話がいいのか研究を進める。コンテンツとしてはたとえば「食育」のようなコンテンツが考えられるが、それをどのような対話ストーリーにすれば説得力を持ったものにできるかなどが検証課題だという。
外国語対応なども視野に入れる。既存の端末とロボットを組み合わせることができれば理想的な状態だという。
チームでは課題をクリアしながら実証実験をくりかえしながら2020年の実用化を目指す。ゼンショーの永井氏は「不完全な状態で出すのは不本意。まずは1店舗での常設」を考えているが「前倒しになることは大いにありえる」とも語った。
またビジネス面での狙いについては、今回はエンタメ提供だが、バックヤードのシステムとの連動などについては「しっかり考えていく。順次やっていかないといけない問題。バックヤードの自動化との完全連動が理想だと考えている。注文の自動化は考えるし、調理の自動化ともリンクしていく」と語った。
現状の完成度はまだ「1割もできていない」と考えており、「全ての人に満遍なく楽しんでもらうことを到達点としている」と述べた。