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瞳に映った犯人の姿を鮮明化するサービスを開始するAOSリーガルテック

~新たなHDDデータ復旧ラボを初公開

東京・神谷町にあるAOSリーガルテックの復旧ラボ

 AOSリーガルテックは、障害が発生したHDDなどから、データを復旧する復旧ラボの様子を公開した。

 同社は、1999年にデータ復旧事業を開始して以来、これまでに約11万件のデータ復旧を行なってきた実績を持つ。

 データ消失の原因は、故障、操作ミス、自然災害などさまざま。中には、事件や事故に関連して、法廷で必要とされるデータを復元し、警察や検察に協力した実績も多いという。

 今回公開した復旧ラボは、2016年12月にリニューアルし、従来に比べて2倍となる143坪にスペースを拡張。エンジニアも20人増員して、50人体制とした。復旧ラボは、東京・神谷町に設置されており、「霞ヶ関」や「桜田門」から直接持ち込まれることが多いことを反映した立地としている。

 「従来から設置しているクリーンルームのほかに、新たに電子顕微鏡などの機器を導入した。電子顕微鏡は、スマートフォンのチップを基板から取り外す作業に利用するもの。細心の注意を払って作業を行なうことになる」(AOSテクノロジーズ バイスプレジデント執行役員の加藤勝久氏)という。

 実は、デジタルデータの復旧や復元といっても、デジタル機器を使い、ソフトウェア技術だけで完了するというものではない。AOSテクノロジーズの佐々木隆仁社長は、「職人芸とも言える、アナログな技術が重視される仕事」と語る。

AOSテクノロジーズ バイスプレジデント執行役員の加藤勝久氏
AOSテクノロジーズ 代表取締役社長の佐々木隆仁氏

 データが壊れたHDDを、復旧が可能な形で、確実に取り出したり、スマートフォンの基板から配線を切断せずにメモリチップを取り外したりといった作業は、熟練の技が必要とされる。データをこれ以上傷つけない形で作業を行なう必要があるのだ。

 「AOSは、日本で初めてデータ復旧サービスを開始した企業。長年のノウハウ蓄積と技術力を持つ。これが他社とのサービス品質の差に繋がっている。細かい動作音を聞きながら作業を行なったり、情報を取り出すにはどんな手順で行なえばいいのかといったノウハウも大切。こうしたノウハウは、長年に渡る警察庁や警視庁などとの協力関係によって培ったり、刑事事件の資料として利用するために復旧するといった厳しい要件が求められるなかで鍛えられた。これも他社にはない部分である」(加藤バイスプレジデント)と胸を張る。

 同社には、データ復旧に関して、1日あたり80~100件の問い合わせがあり、そのうち、70~80件のPCやHDD、SDカードなどが、復旧ラボに届くという。

 「約4割がPCであり、約3割が外付けHDD。スマートフォンのデータ復旧は、以前は2~3%に留まっていたが、ここに来て、1割を占めるところにまで増えてきた。そのほかにも、SDカードやUSBメモリ、サーバー、ビデオカメラ、監視カメラなどのデータを復旧してほしいという要望もある。今後は、クルマに搭載されたドライブレコーダーの復旧作業などが見込まれる」とする。

 同社では、NECや富士通、バッファロー、アイ・オー・データ機器などと提携して、データ復旧サービスを提供しているほか、ヤマダ電機やビックカメラなどの量販店でも、サービスの受付を行なっている。

 「約6割が法人ユーザー、約4割が個人ユーザー。量販店においては、分かりやすいように定額制での料金設定としている」という。

 料金は、必要とされるデータが復旧された時点で徴収することになり、目的としたデータが復旧できなかった場合には料金は受け取らない。また、熊本地震の被災者には、個人ユーザーの場合は無料、法人ユーザーの場合には半額で復旧作業を行なったという。

 「9割以上の復旧率を実現している。HDDなどが当社に届いた当日に状況を確認し、連絡をとって作業を開始するかどうかを確認する。1~2日程度で復旧できるものが多いが、なかには72時間以上かかるようなものもある」という。

論理復旧と物理復旧

 データ復旧は、「論理復旧」と「物理復旧」に分けることができる。

 論理復旧は、ファイルシステムの障害や、誤操作によってデータを削除した場合の復旧作業を行なうものだ。

 まずは、HDDのバイナリデータを解析し、ファイルシステムの破損状況、削除されたデータの状況を確認。続いて、ファイルシステムを再構築し、データの可視化を行なう。また削除されたデータの場合は、ファイルシステム上の未使用領域からデータを復旧することになる。

 「削除や障害の場合には、データは、記録されているが番地情報が消えているために読めないということが多い。削除データは残っているので論理構造を作り直して、復旧することになる」(AOSリーガルテックの林靖二執行役員)という。

AOSリーガルテックの林靖二執行役員

 これらの作業を行なう場合、重大な障害ではない場合には、一度、作業用のHDDにコピーを行なうという。預かったHDDに対して、これ以上負担をかけないための措置だという。また、復旧したデータについても、一定期間、社内で保管し、必要に応じて、再び復旧したデータを提供できる状況を作っている。

 最後に可視化したデータを、納品用記憶媒体に書き込んで、復旧作業は完了する。

 一方、物理復旧は、配線が切れていたり、磁気ヘッドやモーターなどの物理的な障害が発生した際のデータ復旧を指す。これは、むしろ、HDDの修理に近い作業だ。

 まずは、復旧ラボ内に設置されたクリーンルームで、HDDの分解作業を行なう。作業者は防塵服や手袋を着用し、ディスクや主要部品にホコリがつかないように、細心の注意を払って作業を行なう。続いて、HDDを動作させるファームウェアの状態を確認し、必要であれば修復作業を行なうという。

 「東日本大震災の時には、送られてきたHDDを開けたら、砂と塩水と一緒にワカメが出てきたということもあった」と、加藤バイスプレジデントは驚くべきエピソードを明かす。

 「だが、海水に浸かって、乾いた状態で送られると塩分がディスクにこびりついてしまい、かえってデータ復旧が難しくなる。濡れたら、濡れたままで送ってもらった方がいい」とも語る。

 中には、濡らしてしまったUSBメモリとともに、ビニール袋に水を入れて上をゴムで縛り、「金魚すくいの金魚を入れるような状態」で送られてきたこともあるという。

 なお、「SSDの場合には、コントローラが壊れていると修復が難しい」という。

 HDDは必要に応じて部品交換を行ない、動作するようにする。この際、古い機種に関しては部品がないため、復旧ラボ内には、部品取り専用のHDDが用意されている。

 「どんなHDDが送られてくるのかがわからない。新旧製品を取り揃えているのはもちろん、今は4社に限定されているHDDは、わずか6年前には10社ほどが製造していた。そうしたメーカーのHDDが送られてきた場合にも、部品が使えるように用意している」(AOSリーガルテックの林執行役員)という。

 部品交換を行ない、動作するようになったHDDは、特殊な機器を使用して、データを取り出して、納品用記憶媒体に書き込むことになる。

 では、写真で復旧ラボの様子を見てみよう。

復旧ラボの入口の様子
復旧ラボの入口は指紋認証によって管理されている
13台の監視カメラを使用して、死角がないように管理している
手前側の部屋では電話による問い合わせ受け付け窓口。見積もりもここで行なう
さらに奥の部屋でデータ復旧の作業が行なわれる。顧客のデータを扱うエリアであることから入室できる社員を管理。ここでも指紋認証を使用する
送られてきたHDDを取り出す
その際に筐体の破損状態や付属品などをデジカメで撮影しておく
HDDの型番などのデータを登録する
電動ドライバーを使用して筐体カバーを取り外す
筐体からHDDを取り外す
ここで作業が行なわれるHDDと、作業の対象外となる筐体とが別々に管理されるためバーコードのシールを貼って管理
バーコードを読みとって管理する
筐体から取り外されたHDDはトレイに入れられて作業エリアに運ばれる
まずはPCに接続してHDDの検査を行なう
ソフトウェアを使用してHDDの内部の様子を検査する
トレイは作業状況に応じて「調査済み」、「未調査」などに分類される
調査が完了したHDDがトレイに入れられていた
作業用HDDにコピーをして作業を行なう。左はユーザー所有のHDD、右が作業用HDD
論理復旧を行なっているエリア
データ復旧が完了したHDDはデータを完全消去して廃棄する
データ復旧が完了し、納品が完了した後も一定期間データを保持する
クリーンルームの作業台の様子
クリーンルームでHDDを分解している様子。ドライバーやペンチ、ピンセットなどを使用する
部品取り用に用意されているHDD
復旧したデータを納品用媒体に書き込む
HDDを筐体に戻して梱包。ユーザーのもとに届ける

 データ復旧のニーズは、業界全体でみると、1,000台のPCに対して1台程度だという。

 国内では4,000~5,000万台のPCが利用されていると想定されており、データ復旧の年間需要は4,000~5,000台ということになる。ここから逆算すれば、同社の市場シェアは15~20%ということになるだろう。

 「当社は、PC復旧サービスから開始したが、スマートフォンのデータ復旧も増えてきた。今後は、IoTのデータ復旧、自動車フォレンジックのサービスなども用意する予定だ」と、同社・佐々木社長は語る。

 林執行役員は、「今後、データ復旧サービスにおいて、売上高で30%増を目指す」と意気込む。

新たに取り組むサービスとは

 一方、同社では、これらのデータ復旧サービスで培ったノウハウを活用して、新たにいくつかのサービスを開始する予定だ。

 1つは、AOSランサムディフェンダーだ。

ランサムウェアを検知した様子

 国内におけるラムサムウェアの被害が拡大するなか、ラムサムウェア対策の専用製品として投入するものだという。

 「ラムサムウェアにより、暗号化されるデータは復旧することが難しい。むしろ、データが消えてしまった方が、暗号化されていないので復旧しやすいとも言える。セキュリティソフトウェアでは、ラムサムウェアに対応しきれないという課題があった。AOSランサムディフェンダーは、セキュリティソフトを使ってもらいながら、同時に使ってもらうソフトウェア」(佐々木社長)と位置づける。

 同社が持つ各種検知技術と、マルチ防御システムにより、リアルタイムでPCを監視しながら、ランサムウェアの流入を事前に検知して遮断。自動バックアップにより、リアルタイム保護を行ない、そこから、ファイル復元を行なうことができる。

 「クイックスキャンではランサムウェアに感染しやすい部分を優先的にスキャンし、完全スキャンでは深いところまでスキャンすることができる」という。

 AOSランサムディフェンダーは、2017年4月5日から発売する予定であり、価格は3年版で2,980円を予定している。

AOSランサムディフェンダーの機能
AOSランサムディフェンダーの画面

 AOSランサムディフェンダーとの組み合わせで、よりランサムウェア対策を強固にするのが、クラウドバックアップサービスの「AOSBOX」である。

 AOSBOXでは、全てのデータを、世代別にクラウド上にバックアップ。ランサムウェアに感染した際も、感染前の世代のデータにリストアすることができる。

 「全てのデータをバックアップできること、そして世代管理をしていることが重要である」(佐々木社長)とする。

 同社では、AOXBOXをさらに強化した「AOSBOXインテリジェントクラウド」を、2017年6月から提供する予定だ。

 同サービスは、「人工知能を搭載した進化型のサービスになる」(佐々木社長)と位置づけ、新たに提供する「A.I.Tags」機能により、自動的にタグを付けて、キーワードに該当する写真を検索したり、ファイル整理を簡単に行なえるのが特徴だ。

 さらに、ビジネスチャット「InCircle」の新機能として、AIリーガルボッドの提供を開始する。人工知能によって、社内不正調査などに活用できるという。

 「例えば、退社した社員が不正を行なっていたと疑われる場合、社員が使用していたPCなどからデータを復元し、さらに、蓄積されたメール、チャット、ファイル、写真などのデータの中から、該当するものを抽出する作業を、チャットを通じて指示。さらに、チャットの指示により自動的にレポートを作成できる。元社員が勤務時間中にネットオークションをしていたり、オンラインカジノをしていたといった履歴やそれに関するデータを自動的に抽出できる」という。

 現在、AIリーガルボッドは、弁護士を対象にした導入が始まっており、今後、カスタマイズ対応で販売を行なっていくという。

AOSBOXインテリジェントクラウドの概要
AOSBOXインテリジェントクラウドのA.I.Tags
AIリーガルボッドでの不正調査の様子

 自動車フォレンジックは、車両やカーナビからデータを取得して、証拠データを分析できるようにするサービス。直近の目的地や通話履歴、車両の位置情報などのデータを活用して、自動車の移動経路などを導き出すことができる。

 また、動画フォレンジックでは、識別が困難な画像や動画から、鮮明化技術を活用することで、画質を改善できるサービス。犯罪捜査や録画監視、不正調査などに利用することを想定しており、ナンバープレートの識別や、小さく映り込んだ画像の鮮明化などが可能になる。

 先頃、徳島県警では、逮捕した容疑者のスマートフォンを押収し、保存されていた写真から、被害者の顔写真の瞳に人影や背景が映っていることを割り出し、証拠の1つとして徳島地検に送付したという例があった。

 動画フォレンジックでは、官公庁を中心に、こうした用途への利用を想定しているという。

 同サービスは、2017年4月から提供を開始。3つの製品を用意し、最上位のAOS動画フォレンジックProfessionalの税別価格は270万円となっている。

自動車フォレンジックの概要
動画フォレンジックでスマートフォンで撮影した動画を分析
鮮明化作業を行なう
複数の画像を組み合わせることで鮮明化ができる
瞳の中に映り込んでいる人の様子が分かる
さらに鮮明化することで人の様子が分かる
人の顔が分かるようになった

 AOSテクノロジーズの佐々木隆仁社長は、「今や、生活も、仕事も全てにおいてデジタルデータが活用され、犯罪や事件、訴訟もデジタルデータが不可欠になっている。こうしたデジタル情報社会において、データが『怪我』をしたときに、どう復旧するか。そこに当社の役割がある」と語り、「AOSは、データを『命』のように考えている。顧客にとって一番大事なのはデータ。それを守ることが使命である」とする。

 データ復旧サービスを中核に、新たなサービスを提供することで、データを守るための体制をさらに強化していくことになる。