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Raspberry Pi創設者が来日し、日本語コンテンツの充実に言及

~ソニー稲沢工場での製造も踏まえ、日本では約20万台の普及を目指す

Raspberry Pi財団のCEOを務めるエベン・アプトン氏

 Raspberry Pi財団は13日、都内で記者発表会を開催した。登壇者はRaspberry Pi財団創設者兼Raspberry Pi Trading Ltd. CEOであるエベン・アプトン氏で、CEO自らがRaspberry Piシリーズの今後の展望について説明を行なった。

【お詫びと訂正】初出時にエベン・アプトン氏の肩書きが誤っておりました。お詫びして訂正させていただきます。

子供たちにコンピュータサイエンスの興奮を再び

 アプトン氏は、2008年に同財団を設立したが、そのきっかけは2006年に英ケンブリッジ大学で教鞭を執っていたときに、学生たちのコンピュータサイエンスに対する関心が年々失われているという危機感からだった。1995年頃にはほとんどの学生が入学時点でプログラミング能力を身につけていたが、その10年後にはHTMLを使ってシンプルなWebページをデザインできるくらいで、明らかに学生たちのスキルが落ちてしまっていたという。

 アプトン氏いわく、1990年代はCommodore 64、MSX、X68000、BBC Microといった8bit/16bitのマイクロコンピュータがあり、すぐにプログラミングできる環境があったものの、テクノロジの発展で家庭用ゲーム機やPCが普及し、子供たちの部屋から以前のようなプログラミング環境が消えてしまったとする。

 そこで、再び子供たちがコンピュータサイエンスについて興味を持つためのデバイスを作るべく、4つの条件が必要であると考えた。

 1つ目は、すぐにプログラミングできる環境を作れること、2つ目は子供の興味を引くもの、3つ目は学校と家での往復に耐え得る堅牢性を備えていること、そして最後に教科書が買える程度(25ドル)に安価であること。

 2011年にはRaspberry Piの試作品が完成。それから財団のメンバーである6人全員で25万ドルを捻出し、1万台の製品版を製造した。しかし、これらを全て潜在的な顧客に届けられるだけの販売ができるのかという懸念もあったそうだ。当初はこれらを数カ月かけて販売する予定だったが、2012年の発売前に英RS Componentsと販売と製造の契約を結び、初日で10万台を販売できたという。アプトン氏はこの契約について非常に幸運だったと述懐した。ちなみに、アプトン氏自身がプログラミングに興味を持ったのは、ゲームをやるのが面白かったからだそうだ。

 ケンブリッジ大学におけるコンピュータサイエンスの授業への申し込みは、1999年当時が60席に600人だったそうだが、2008年には80席に200人と大きく下落してしまっていた。しかし、Raspberry Piの普及のおかげか、2015年には80席に800人が申し込んでくる状況だという。アプトン氏は若者たちのコンピュータに対する熱意が復活しつつある証だと笑顔を見せた。

Raspberry Pi財団創設の期限
子供たちがコンピュータサイエンスから離れてしまった理由
Raspberry Piを作る上で設けられた4つの基準
2012年に発売し、初日に10万台が売れた

国内では10~20万台の販売を目指す

 アプトン氏は、現在同財団が展開している主なRaspberry Piシリーズについて説明。3年前にRaspberry Pi Model Bを発売し、さらに同B+を発売。2015年にはRaspberry Pi 2を投入、そして今年(2016年)はRaspberry Pi 3が発売され、この間に1,100万台を売ったという。なお、日本では月間1万台のペースで販売されているとのこと。

 また、Raspberry PiはイギリスでRS Componentsが製造しているが、今年の10月には愛知県にあるソニーの稲沢工場でも製造が始まり、“Made in Japan”のRaspberry Piが作られている。一般的な感覚なら中国などで製造した方がより安価に製造できるのでは、と想像してしまうところだが、アプトン氏はこの点について、先進国でも低価格なコンピュータを作って商売ができるという良い例であると、Raspberry Piが日本で製造されることに喜びを見せた。

 アプトン氏は、イギリスでの教育カリキュラムの変更により、授業にPowerPointではなく、プログラミング言語のPythonを学ぶ時間を割り当てられ、教育現場での採用が進んでいることも強調。日本においても教育への採用が話題を集めているが、財団として日本の子供たちにより一層コンピュータサイエンスに興味を持ってもらうため、2017年より日本語のコンテンツを充実させていく予定という。

 今後の予定として、日本ではRaspberry Piシリーズを10~20万台を売っていきたいとし、月あたり2万台まで拡大したいとする。そのためにコンテンツを充実させつつ、日本のアールエスコンポーネンツ株式会社と協力し、その販売ネットワークを活かして教育プログラミングに力を入れていくという。そのほか、今後国内投入予定の産業向けRaspberry Pi「Compute Module3」の販売で法人での活用も広げて行く予定。ちなみに、イギリスとアメリカで販売されている5ドルのRaspberry Pi Zeroについては、2017年中に国内に投入したいとの意向だった。

 アプトン氏は「販売から5年経ったが、まだ目標の端緒にたどり着いたに過ぎない。Raspberry Piはまだ始まったばかりである」と述べ、Raspberry Piのさらなる普及を目指す構えだ。

Raspberry Pi用のカメラモジュール
これまでのRaspberry Pi
新UIのPIXELを導入
国内でのRaspberry Piの製造
望遠鏡とRaspberry Piを組み合わせたの面白い活用例
こちらはキュウリを機械学習で選別するためにRaspberry PiとTensorFlowを組み合わせている
地震計は非常に高価だが、Raspberry Piを組み合わせることで安価に作成可能という。こちらはKickstarterに登場した「Raspberry Shake」
宇宙用の「Astro Pi」。英国人宇宙飛行士のティム・ピーク氏が国際宇宙ステーションに持ち込み、地球にいる英国の子供たちが考えたプログラムを実験した
Raspberry Pi 2 Model B
Raspberry Piケース
Pi Top CEED
Raspberry Pi 3公式スターターキット
産業向けのCompute Moduleキット
タッチディスプレイモジュール