ニュース
使いやすく低コストな国産ロケットの実現を目指して
~JAXA、「H3ロケット」基本設計について説明会を実施
2016年7月20日 14:31
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月20日、「H3ロケット」基本設計結果について説明する記者会見を行なった。
H3ロケットは、打ち上げ価格を従来の半額の50億円にすることを目指し現在開発中の、次世代国産ロケット。2020年度に試験機1号機を打ち上げ予定で、総開発費はおよそ1,900億円。宇宙輸送のニーズが高まる中、利用者にとって使い勝手の良いロケットの実現を目指し、打ち上げ間隔や組み立て作業の大幅な短縮実現を目標としている。昨年(2015年)から基本設計を行なっている。
簡素、低価格を目指すH3ロケット
JAXA 第一宇宙技術部門 H3プロジェクトチーム プロジェクトマネージャの岡田匡史氏は、「基本設計はロケットの使命を形にしていくこと。家で言うと間取り図に加えて、どんな機能の道具を並べるか、配置の詳細を決める作業に相当する。これから、中に収まる道具の詳細を設計していく。山場はこれからだと思っている」と話を始めた。
キーメッセージは「日本の技術で宇宙開発をリードせよ」。そして「輸送手段なくしては宇宙へは行けない。宇宙を使ったアイデアが次々に生まれている時代。全ての鍵は、宇宙輸送が握っている」。
既存のH2Aロケットは世界最高水準の信頼性を持っている。これまでに、陸域観測技術衛星「だいち2号」、準天頂衛星「みちびき」、静止気象衛星「ひまわり8号」など各種人工衛星や、小惑星探査機「はやぶさ2」などを宇宙に送り込んできた。だが衛星の大型化や国際的な価格競争、20年前のロケットなので設備の老朽化や開発機械、打ち上げ機数の不足などの課題に直面している。
このままでは10年後に輸送手段が維持できなくなる危機的状況があり、新型ロケットの開発により、自立的で持続可能な世界への転換が急務だと考えて、次世代機の開発が始まった。
次世代の「H3ロケット」は、打ち上げ受注から打ち上げまでの期間短縮、打ち上げ間隔の半減、作業期間の短縮による柔軟性、高信頼性開発手法を用いたエンジン、耐故障性を追求したアビオニクスなどによる高信頼性、システムのモジュール化、ライン生産、民生品活用などによる低価格を目指して設計を行なった。
特徴は「シングルスティック」と呼ばれる固体ロケットブースターなしの簡素な形態があること。本体のエンジンの数(3機ないし2機)、固体ロケットブースターの数、フェアリングの長さはミッションによって選択できる。受注から打ち上げまでの期間は12カ月。
JAXAは、20年間の運用、年間6機の打ち上げに対応可能な製造・射場設備と、運用構想を描いている。開発体制は、ロケット全体をまとめるプライムコントラクタが三菱重工。各種キー技術をメーカーが分担する。シングルスティックでの太陽同期軌道(高度500km)への打ち上げ能力は4トン以上。打上げ価格は約50億円。打上げの3分の1強程度が、シングルスティックになると考えていると岡田氏らは述べた。
H3ロケットにおける改良点
第1段エンジンのLE-9は、現在、原型燃焼器単体試験および原型液体水素ターボポンプ単体試験により得られたデータを、実機型エンジンの設計に反映し、製造に着手済み。現在、各パーツの製造に取り掛かっているという。エンジンサイクルは、LE-7Aの2段サイクルから、タービン駆動のための予備燃焼室が不要な「エキスパンダブリード」というタイプになった。バルブ駆動方式も変更となった。これにより部品点数が2割程度削減される。
固体ロケットブースター「SRB-3」は外見があまり変わっていない。だが取り付け構造がシンプルになり、取り付けに必要な時間がおよそ半分くらいになるという。ノズル駆動方式は、今までは電動アクチュエータで首振りできるようになっていたが、固定式になった。イプシロンロケットと共通化できる部分を、できるだけ多くするため検討を続けている。
射点は、発射管制塔と移動発射台は新設するが、それ以外はそのまま使う。移動発射台は、ロケットを立てる位置が変更になり、発射台を平坦にすることで次の打ち上げ準備が容易になる。
整備期間は、従来機の半分くらいになる。設計/製造/運用のあらゆる面でコストを削減することを目標として、全てを見直して取り組んでいるという。生産においても、作業工程もライン生産することで効率化を目指す。
機器の要求仕様が決まった今後は、今年度に詳細設計フェーズに移行し、設計・図面作成、地上設備の製造に向けた設計、各要素試験の実施、燃焼試験設備の工事、燃焼試験などの技術試験を実施していく。来年度以降は、引き続き実機大(エンジニアリングモデル)燃焼試験、詳細設計審査などを経て、製作・試験フェーズに移行する。開発終了後も、H-2Aとしばらくは並行運用される予定だ。