笠原一輝のユビキタス情報局

PCメーカーが続々スマートフォンに参入する理由

〜マウスコンピューター、Windows Phone参入の背景にあるもの

開発中の試作機

 別記事でお伝えしたように、株式会社マウスコンピューターがWindows PhoneをひっさげてSIMロックフリースマートフォン市場に参入することになった。日本国内でWindows Phoneを搭載したスマートフォンは、KDDIから発売されていた「IS12T」(東芝製)以来で、長らくWindows Phoneの投入を待ち望んでいたユーザーにとっては朗報と言えるだろう。

 ただ、ユーザーによっては「なぜPCメーカーのマウスコンピューターがスマートフォン?」と感じた人も少なくないのではないだろうか。その通りで、これまでマウスコンピューターはLTEモデム付きWindowsタブレットをリリースしていたが、スマートフォンに参入するのは今回が初めてだ。しかし、携帯電話メーカーではないPCメーカーが、スマートフォンビジネスへ参入することを明らかにしたのはマウスコンピューターだけではない。昨年(2014年)の12月にVAIO株式会社が日本通信と組んでスマートフォンビジネスへ参入することを既に明らかにしている。

 このように、これまで通信業界とは遠い存在だったPCメーカーが、スマートフォンビジネスに乗り出している背景には、MVNO(Mobile Virtual Network Operator、仮想移動体通信事業者)と呼ばれる、自社では回線を保有せずMNO(Mobile Network Operator、移動体通信事業者、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルなど)から回線を借りてサービスを提供する通信キャリアの市場が大きく勃興しつつあることが関係している。さらに今年(2015年)の5月からはSIMロック解除が義務化されることを受け、SIMフリーと呼ばれるSIMロックされていない端末の流通が、従来のように通信キャリア経由だけでなく、家電量販店などの一般の流通ルートに流れ始めていることも大きく影響している。

マウスのWindows Phone機、そんなに遠くない時期に入手可能になる可能性

 本誌の読者には説明の必要はないと思うが、念のため説明すると、マウスコンピューターは日本のPCメーカーで、特にデスクトップPCで大きな市場シェアを持っている。最近ではBay Trailを搭載したスティック型のPCが大きな話題になった。デスクトップPC、ノートブックPC、そしてタブレットまで実に多彩な製品をラインナップしている。

 そのマウスコンピューターは、MicrosoftにとってLOEM(Local OEM、その地域でだけビジネスをしているOEMメーカーのこと、日本で言えば他にはエプソンダイレクトやVAIOなどがこの分類になる)の中でトップクラスの存在になる。このためMicrosoftとの関係も非常に良好で、デスクトップPC、ノートPC、タブレットなどでWindowsを搭載した製品を多数販売している。そうしたこれまでの経緯を考えれば、同社がスマートフォンに参入するに当たり、Windows Phoneを選択したのは非常に論理的だと言える。

 もちろんそれだけではない。筆者がマウスコンピューターがWindows Phoneを選んだ理由はほかにも3つあると考えている。1つ目は他社との差別化を考えた時に、AndroidよりもWindows Phoneの方が話題性が高い(実際こうして記事化ということは世間で注目されている……)。もちろん他社が同じようにWindows Phoneに参入するまでではあるが、異なるOSを採用しているそれはそれで立派な差別化ポイントだ。

 2つ目はビジネス向けの需要が望める点だ。筆者も仕事柄多くのPCメーカーを取材しているが、ビジネスユーザーからはWindows Phoneを出して欲しいというニーズがそれなりにある。要するに、既にWindowsに馴染んでいるビジネス向けのユーザーに向けて、Windows Phoneを出せばそれなりの数が見込めるということだ。

 最後に、これは理由というよりは外的環境だが、以前のWindows Phoneは参入要件が厳しく、大手の端末メーカーでなければ取り組むことが難しかったのだが、昨年のMWCでそれが緩和され、中小のODMメーカーやマウスコンピューターのような、ローカルでは大手であってもグローバルに見ればそうでもないOEMメーカーでも参入することが可能になった(別記事参照)。

 なお、現時点ではマウスコンピューターはどのような製品になるのか詳細を明らかにはしていないため、筆者の予想に過ぎないが、端末の発売自体はさほど遠くない時期、例えば第2四半期あたりに投入されるという可能性がある。となれば、もちろんOSは現行のWindows Phone 8.1になると考えられる。もちろん今年の後半にWindows 10が正式にリリースされれれば、Windows 10 for phones and tabletsへのアップグレードは可能になるだろう。国内では、KDDIのIS12T以来のWindows Phone端末となるだけに大いに期待したいところだ。

MVNOキャリアの台頭が、SIMフリー機市場という新しい流通網を作りつつある

 ところで、マウスコンピューターは、なぜ今スマートフォンビジネスに参入するのだろうか。その理由は、スマートフォンの流通がどのような仕組みで行なわれてきたかを先に知る必要がある。

 スマートフォンの流通というのは、これまでわずかな例外(秋葉原の専門店やWeb通信などでの海外向けスマートフォンの販売)を除けば、ほぼMNO3グループ(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル)の独占に近い形で行なわれてきた。日本向け(例えば日本で利用するに必要な技術適合認定の取得など)に作られたスマートフォンは、MNOキャリアが運営するキャリアショップ、独立系の携帯ショップ、大手量販店などで、MNOキャリアの通信サービスとセットでのみ販売されてきた。つまり、販売形態で言えば、MNOキャリアの販売網を利用するという形になっていたのだ。

 ところが、昨年ぐらいからそれは大きな変動を見せつつある。現在大手量販店の中にも“SIMロックフリー端末売り場”ができつつあり、そこにASUSのZenFoneなどの国内向けに作られているが、キャリアの流通網には乗らないスマートフォンなどが登場しつつある。こうした流通網というのは言ってみれば、PCメーカーがPCを大手量販店に流す時に利用している流通網と一緒で、そうした流通網にスマートフォンが乗りつつあるのが現状だ。

 マウスコンピューターが販売するWindows Phoneのスマートフォンというのも、そうした“新しい流通網”に乗るような製品だと考えるのが妥当だろう。

MVNOのSIMカードだけの通信サービスが端末メーカーの心理的なハードルを下げる

 では、これまでMNOの流通網経由でしか販売できなかったスマートフォンを、なぜそうした既存のPCと同じような流通網に流せるようになったのだろうか。その最大の理由はMVNOキャリアの存在だ。

 MVNOキャリアは、通信サービスをSIMカードの形で提供しており、端末は技術適合認定さえ取得されている製品であればユーザーが自由に選べる。これに対して、MNOでは端末とサービスは同時に利用することを前提としており、MNOのサービスを利用するには端末とセットで購入するのがMNOのビジネスモデルでもある。

 厳密言えば、MNOキャリアでも、技術適合認定を受けている端末を持ち込んでSIMカードだけを発行してもらうことはできないわけではなく、例えば海外で購入したiPhone(最近のiPhoneは海外で販売されているモデルも日本の技術適合認定を受けている製品がほとんどだ)を持ち込んで、MNOキャリアでSIMカードを発行してもらうということは可能だ。しかし、そうしたことは一般的ではない上、iPhoneのように通信キャリアからも販売されている製品ならともかく、他のベンダーの場合には、動作確認をメーカー側が行なわなければならないため、そのコストも膨大で大きなハードルになってしまっていた。メーカーにすれば通信キャリアが“動きます“と言ってくれなければ販売できないジレンマがあったと言える。

 しかし。MVNOの登場でそのハードルが1つ下がった。MVNOは通信サービスだけを提供しており、機器はユーザーが“自己責任”で選んでもらうそれが大前提になっている。従って、メーカーとしても、数あるMVNOのうちどこかを組んで確実に動く動作検証さえしておけば、より低いハードルで出荷できるようになっている。ここが大きな違いだ。VAIOが日本通信と組んでスマートフォンを出すというのはその最たる例と言えるだろう。

 このように、MVNOが勃興し、市場の中でそれなりの存在感を示しつつある、それがPCメーカーがスマートフォンに続々と参入を決めている理由なのだ。

今後続々と予想されるSIMフリー機市場への参入、注目はLenovoとMicrosoftの動向

 PCメーカーにとって今最大の関心事は、今後伸びるであろうSIMロックフリースマートフォンの市場を誰が押さえるのかという点にある。既に製品を販売しているASUSとAcerは既に市場に地位を築きつつあり、これからVAIOとマウスコンピューターが参入することになる。そうした流れを見れば、今後他のPCベンダーが続いてもおかしくないだろう。

Lenovoのスマートフォン

 そうした中で筆者が動向に注目しているのは2社ある。1社はグローバルなスマートフォン市場で、市場シェアが3位ないしは4位と言われているLenovoの日本法人であるレノボ・ジャパンだ。Lenovoは昨年GoogleからMotorola Mobilityを買収しており、Motorola Mobilityのブランドは成熟市場向けとされていることを考えても、今年確実にスマートフォンビジネスに参加してくる企業だと言って間違いない(既にY!モバイルから販売されている「Nexus 6」はMotorola Mobility製だから、既に参入済みと言っても過言ではないが)。そのレノボ・ジャパンがSIMロックフリー市場に参入するのか、それともMotorolaブランドでMNOキャリア向けだけに絞るのか、そのあたりが注目点だ。

 もう1社はMicrosoftの動向だ。MicrosoftはNokiaの端末部門を導入し、Lumia(ルミア)のブランド名でグローバルに端末を販売している。その例外は日本市場だったのだが、これまでもMNO各社と交渉を続けてきたと言われているが、今のところは成功していないというのはご存じの通りだ。であれば、MNOとの交渉に見切りをつけて、SIMロックフリー市場に殴り込みをかける動きがあっても不思議ではない。ここも要注目と言えるだろう。

 その意味で、今年のスマートフォン市場はまさに戦国時代を迎えつつあるかもしれない。これまで新しいスマートフォンと言えば、MNOが採用してくれなければ日本のユーザーは買うことすらできなかった。しかし、SIMフリー機の市場ができあがることで、ユーザーには新しい選択肢が提案されつあり、1ユーザーとしての筆者もこの動向は好ましく思っているし、ぜひ端末メーカー各社は知恵を絞ってこれまでなかったような端末を市場に投入して欲しいと思う。

(笠原 一輝)