笠原一輝のユビキタス情報局

最高のクラムシェル型PCにこだわった新「VAIO Z」

 VAIO株式会社からついに完全新設計の筐体のPCが発表された。その名もずばり「VAIO Z」。ソニー時代の「VAIO Fit」から訴求してきたマルチフリップヒンジと呼ばれる液晶の中央部が回転することでクラムシェル型からタブレットに変形する機構を備えた2-in-1デバイスだ。

 CPUにTDPが28WになるIris Graphics 6100(GT3)を内蔵したIntelの第5世代Coreプロセッサ、最大16GBメモリ、最大512GBのPCI Express SSDというハイエンドスペックに加え、WQHD(2,560×1,440ドット)の13.3型IPSα液晶(タッチ、デジタイザペン対応)、58Whの内蔵バッテリによる15.2〜15.5時間駆動(JEITA測定法2.0)、InstantGo対応という、ほかのPCでは見られない特徴を備えた製品となっている。

 今回は、このVAIO Zの開発を主導したVAIO株式会社 商品ユニット2 部長の笠井貴光氏に、その開発コンセプトについてお話を伺ってきたので、その模様を中心にして新生VAIO Zの概要を紹介していきたい。

VAIO株式会社が発表した新しい「VAIO Z」

ビジネスユーザー向け、クリエイター向けの2つの“VAIO Z”

 熱心なVAIOファンの読者は、笠井氏の名前を聞いて、ピンと来た人も多いのではないだろうか。ソニー/VAIO時代には常にハイエンド向け製品のPM(Product Manager、製品開発の責任者)を務めてきたエンジニアだ。彼が担当した製品は、2013年の「VAIO Duo 13」、2010年の「VAIO Z」、2011年の「VAIO Z」(第2世代)と、ここ数年のVAIOのハイエンド製品が挙げられる。つまり、VAIOユーザーの中でも、特にVAIO Zシリーズが欲しいと思っているユーザーの気持ちが誰よりも分かっているエンジニアであると言ってもいい。

VAIO株式会社 商品ユニット2 部長 笠井貴光氏

 その笠井氏に筆者が最初にぶつけた質問は、いつからこのプロジェクトがスタートしたのかという点だった。ちょっと考えて笠井氏が出してきた答えは「いつとは表現しにくい。というのも、私の中ではVAIO Duo 13もある意味においてVAIO Zだった。あるプロジェクトを走らせているときには、もちろんその製品が最高だと思って作るが、やはり課題が残る。次の製品ではそこをどうしようというのも考えながらプロジェクトを走らせるからだ」というものだった。つまり、厳密に言えば、この製品はソニー/VAIO時代から笠井氏が温めてきた構想が日の目を見た、そうした製品だという。

 笠井氏によれば新会社になって、決定までのプロセスは圧倒的に短くなっているという。「例えば従来の大きな会社の枠組みでは、今回の製品にTDP 28WのCPUを採用するということ根回しするのに時間がかかる。下手をすればその了解を取るだけで3週間とか……。しかし、新会社ではそれが30分で済んでしまう。そうしたスピード感で製品が作れている」とのことで、大会社から社員数200人程度のコンパクトな会社になったことが、製品開発には逆にいい影響があったのだそうだ。実際、笠井氏の上司は副社長の赤羽良介氏と社長の関取高行氏の2人だけで、この2人に了解を取れば物事が進む、そうした環境になっていると考えることができる。

 そうした環境により、比較的早い段階でVAIO Zの大枠は決まっていったのだという。「VAIOのノートPCの場合、例えばProやXのように薄く、軽くということを研ぎ澄ましたり、UやPのようにPCだけど新しい方向と、さまざまな方向性が考えられる。しかし、VAIO Zに関してはやはり道具として最高の製品というコンセンサスが開発陣の間ですぐにできあがり、設計に入ることができた」という。

 そうした中で、ソニー/VAIO時代にVAIO Fitシリーズで採用したマルチフリップヒンジを、新しいVAIO Zでも採用することはすぐに決まったのだという。このため、VAIO Zの外見は、VAIO Fit 13Aとの類似性が強くなり、下手をすればVAIO Fit 13Aの後継ではないかと見られることが危惧されたが、「社内でもそれを危惧する声はあったが、良いものは良いので、そこは問題ではないと考えていた。実際、VAIO Duo 13の時にも完全に同じではないが、こうした変形機構ができないかトライしていたぐらいだ」(笠井氏)と、まったく気にしていなかったという。

 というのも、VAIO Duo 13の時に、サーフスライダー構造(中央のヒンジで液晶を立ち上げる機構)を採って素早く変形できることを実現し、特にクリエイターのユーザーからは熱烈な支持を得たが、ビジネスユーザーからは液晶の角度が変えられないというフィードバックが来ていた。「生産性を重視するユーザーにしてみれば液晶の角度は変えて欲しいというニーズがあったが、そこはサーフスライダー構造では実現するのが難しかった。クリエイター系のユーザー、ビジネスユーザーの両方のニーズを満たそうと考えた結果、それぞれのユーザーにとって中途半端になってしまう部分があった」(笠井氏)と、VAIO Duo 13で従来のVAIO Zでカバーしてきたビジネスユーザーと、新しくクリエイター系のユーザーの両方をカバーしようとした結果ややきしみが生じていたと反省した部分があったという。

 このため、今回のVAIO Zシリーズでは、「VAIO Zはクラムシェル型ノートPCでの利用がメインで、生産性の向上を目指しているビジネスユーザーがターゲットになる。これに対してVAIO Z CanvasはAdobe RGB 95%以上への対応などによりクリエイター向けに特化しており、それぞれのユーザーにとっての“Z”とすることにした」(笠井氏)と、ビジネスユーザー向けでマルチフリップヒンジによりクラムシェルとタブレットに変形する「VAIO Z」、そしてスレートタブレットと無線接続のキーボードから構成されている「VAIO Z Canvas」という2つの製品に分離させたのだと笠井氏は説明した。

クラムシェルでのユーセージモデルを最優先するためフリップ機構を採用

 今回のVAIO Zは実に多くの特徴を備えており、一言では紹介できないほどだ。代表的な特徴を挙げてみると以下のようになる。

  • マルチフリップヒンジを利用した変形構造
  • WQHD化にも関わらずフルHDから消費電力がほどんど増えていない高精細なIPSα液晶
  • 使い勝手を改善したデジタイザペン
  • 高感度なWi-Fiアンテナを採用
  • InstantGoに対応しながらPCI Express SSDを採用
  • Z Engineと呼ばれる放熱機構を利用してTDP 28Wの第5世代Coreプロセッサを搭載していること

 マルチフリップヒンジとは、液晶ディスプレイの背面の前面ヒンジの中央部分を起点にして液晶ディスプレイを約180度回転できる機構のことだ。従来のVAIOのハイエンド製品となるVAIO Duo 13では、サーフスライダー構造という仕組みを採用しており、液晶の中央部にあるヒンジ部分がスライドすることで、タブレットとクラムシェルの間を素早く変形できるようになっていた。

 このサーフスライダー構造は、数ある変形機構のうちで、もっとも変形にかかる時間が短く、タブレットからクラムシェルへの移行が瞬時に終わるという特徴を持っていた。しかし、その一方、クラムシェル時に液晶ディスプレイの角度が固定になるという弱点も抱えており、VAIO Duo 13ではPC用の液晶として最高の部類に入る広視野角な液晶を採用していたのだが、ビジネスユーザーの中には角度が固定されることが理由で購入を見送った人も少なくなかっただろう。

 笠井氏によれば「今回はクラムシェル時での使い勝手を最優先して、マルチフリップヒンジを採用した」との言葉の通り、まずはクラムシェルでの使い勝手を最優先してマルチフリップヒンジの採用を決めたのだという。

VAIO Zで採用されているマルチフリップヒンジ
VAIO Zをタブレットモードにしたところ

 このマルチフリップヒンジは、VAIO Fitシリーズでも採用されていた機構だが、詳しく見ていくと大きく改善されている。具体的には2点あり、1つはマルチフリップヒンジを支えるヒンジのの製造方法を見直して、より強い強度を確保しながら約1mm薄くしているという。「Fit 13Aでは海外の協力工場で製造していたためそこまで攻めることはできなかった。しかし、VAIO Zでは弊社の工場である安曇野工場で製造することになったため、生産現場と細かな調整が可能になり、Fit 13Aでは2.5mmだったカバーをむしろ強度を上げて約1mm薄くして約1.6mmにすることができた」(笠井氏)とA面(液晶天板)のカバーを薄くして、薄く、軽くということに挑戦したのだという。実際筆者もFit 13A、VAIO Z両方のヒンジカバーを触って見たが、薄いVAIO Zのカバーの方が曲げに対して強いと感じた。

 このほかにも、VAIO Zでは、A面の下半分はヒンジになるため、A面の上半分の液晶の裏側はどうしても空洞にならざるを得ない。そこで「A面上部かつ裏側には液晶の駆動基板を持ってきている」と、本来であれば液晶の下部などにある駆動部分を裏側に持ってくるという荒技を駆使して、そこに基板が入っている。これにより、液晶モジュール側の高さを節約できるし、何よりも消費電力があるため発熱するモジュールを液晶の裏側に移動できるのでユーザーペンを使う場面でも熱いと感じたりすることがなくなるというユーザー体験の観点でも効果を狙ったという。

液晶部分の設計。フリップの構造上デッドスペースができてしまうのを液晶の基板を裏側に入れることでうまく工夫している
右がVAIO Fit 13のフリップのヒンジ、左がVAIO Zのフリップのヒンジ。Fit 13Aでは2.5mmだった厚さが約1mm減って約1.6mmになっている
VAIO安曇野工場でのヒンジ部分の製造過程

パナソニック製IPSα液晶採用で、WQHDになっても消費電力の上昇を抑える

 液晶ディスプレイは、VAIO Duo 13の時代にも採用されて定評を得ていたパナソニック製のIPSα液晶が採用されている。笠井氏によれば、この液晶はパナソニックとVAIOで共同開発したもので、LEDの素子の作り方、フィルタの素材、バックライトの選定にまでVAIOが関わったのだという。

 本来であれば高解像度化するとバックライトの輝度を上げなければユーザーが暗いと感じてしまうのだが、今回の新しい液晶ではそれをせずに同程度の明るさを実現しているのだという。このため、WQHD化しても、液晶の消費電力増加は最低限で、他社製品で採用されているWQHDクラスの液晶に比べても40%程度低いという。

そのままでWQHD化した場合には消費電力が増えるが、LEDの構造やバックライトなどに工夫をすることで消費電力の増加は最低限に抑えている

 さらに今回の製品ではペンの書き味にも改善が加えられている。ペンのハードウェアそのものは、従来のVAIO Duoシリーズ、VAIO Fitシリーズで採用されていたN-Trig製のペンで、ハードウェア的には256階調をサポートする。しかし、ソフトウェアの改良が加えられており、ソフトウェア的には1,024段階を動的にサポートし、ソフトウェアの側でその筆圧レベルをハードウェアの256段階に調整して割り当てられるようになっているという。この機能を利用することで、筆圧が強い人には強い人向けの設定で、筆圧が弱い人には弱い人向けの設定で利用することが可能になり、VAIO設定から切り替えて利用することが可能になっている。「こうした調整を行なうことで書き味が改善されている」(笠井氏)とVAIO Duo 13などと比較してより書きやすくなっている。

 なお、余談になるが、N-TrigのデジタイザはWindowsの世界でも少数派だったが、既にMicrosoftがSurface Pro 3で採用したほか、先週にはMicrosoftがN-Trigを買収か? というニュース(別記事参照)も流れた。そうしたことを考えると、今後Windowsの世界ではN-Trigのデジタイザペンが業界標準になっていく可能性が高く、アプリケーションのサポートなどもこれまでよりも加速していくことになるだろう。

VAIO Zでは新しく筆圧が調整できるようになっている、筆圧が強い人にも、弱い人にも快適に使えるように改良されている

2x2のWi-Fiアンテナで、3x3のアンテナを上回るスループットを実現

 VAIO Zでは、マルチフリップヒンジを採用しており、液晶ディスプレイの天板部分にはアルミとカーボンの素材を採用しており、そのままでは電波を通すことができない。このため、通常であれば、その天板部分の一部を切り欠いて、強化プラスチックと一体成形して電波を通すようにしている。しかし、「今回はマルチフリップヒンジの実現を最優先にするために、さらにはヒンジ部分を薄くしたため、アンテナに必要な同軸ケーブルを通すことが難しく、確実な強度を実現するために切り欠かないことにした」(笠井氏)と、こうした事情からアンテナを液晶ディスプレイ側に置くのではなく、システム側(マザーボードなどがある側)に置くことにしたという。

 問題は、アンテナをどこに置くかで、ヒンジ近くの2カ所と本体の右側面という3カ所が候補になった。そこで、安曇野にある電波暗室やSatimoと呼ばれるPCメーカーとしては珍しい電波の利得を測定する機器などを利用して最適なアンテナの設置箇所を割り出し、右側面に1カ所、ヒンジ部分に1カ所という場所を決定していったという。

 さらに、アンテナ自体の素材に関してもLDSアンテナと呼ばれる、樹脂に直接アンテナパータンを成形するスマートフォンなどでよく利用されているアンテナに変更するなどの工夫をして、電波の受信状況を改善していったという。こうした結果、他社の3x3アンテナと比較して、2x2であるVAIO Zの方が高いスループットを叩き出すという環境が実現できたと笠井氏は説明する。

 ただし、液晶ディスプレイ側にアンテナを入れることを諦めたことで、同時に別のことも諦めなくてはならなくなったという。それがワイヤレスWANの実装だ。というのも、システム側はWi-Fiのアンテナを最優先するような設計がされているため、仮にワイヤレスWANを入れるには、液晶側にアンテナを入れなければならなくなる。「今回のVAIO Zの大前提だった、マルチフリップヒンジでクラムシェル型の使い勝手を損なわない2-in-1というコンセプトとのトレードオフになってしまった」(笠井氏)との通りで、今回はそこは泣く泣く諦めたのだという。

 実際歴代のVAIO ZやVAIO Duoシリーズは、なんらかのワイヤレスWAN(WiMAXやLTEモデムなど)が搭載されており、電源スイッチオンですぐにネットに繋がり、シームレスに利用できるという世界観を実現してきた。笠井氏もそうした製品を作ってきただけにそこは重々理解しているそうだが、Wi-Fiルーターやスマートフォンのテザリングがこれだけ普及しているという状況もあり、見送りを決めたという。

 ただ、笠井氏自身もVAIO Zの熱心なユーザーにはそうした希望が多いことをは理解しているということだったので、ぜひとも次機種でそれは実現して欲しいものだ。

VAIO Zのアンテナにはスマートフォンやタブレットなどで利用されているLDSアンテナが使われている

InstantGo環境でのPCI Express SSDを実現

 今回の製品ではInstantGo(Windows 8.xでサポートされているネットワークに接続されている状態を維持しながらスタンバイする機能、スマートフォンやタブレットと同じスタンバイの方法、かつてはConnected Standbyと呼ばれていた)がサポートされている。InstantGoの特徴は、S4(ハイバネーション)はもちろんのこと、S3(メモリサスペンド)に比べても素早く通常状態に復帰出来るほか、スタンバイ時にもメールや各種メッセージなどの受信が可能になっている。

 このInstantGoはAtom Z2700/3700などのAtomプロセッサではサポート例が沢山あるが、Coreプロセッサを搭載した製品ではプレミアムな機能になっている。VAIO Zの前身とも言えるVAIO Duo 13で初めてサポートされ、その後もパナソニックのLet's noteやMicrosoftのSurface Pro 3などでサポートされているだけだ。

 今回VAIO Zでも引き続きInstant Goの機能がサポートされている。ただし大きな進化点があり、InstantGo環境でもPCI Express SSDが利用できるようになった。「VAIO Duo 13でもInstant Go環境でPCI Express SSDを採用したかったが、VAIO Duo 13では世界で初めて64bit WindowsとCoreプロセッサの環境でInstantGoをサポートするということで、確認することが山ほどあり、結果的に見送らなければならなかった」(笠井氏)と開発期間の問題もあり、VAIO Duo 13ではより高速なPCI Express SSDを諦めてSATA SSDを採用したという。

 しかし、今回のVAIO Zでは、「VAIO Duo 13の時はWi-Fi/BluetoothモジュールがSDIOだったのが、PCI Expressがサポートされることになった。PCI Express SSDに関してはプラットフォームベンダーからのサポートは引き続きなかったが、SSD側だけの対応でなんとかなるだろうという見通しがあったため挑戦した」(笠井氏)との通りで、チップセットベンダーからのサポートなどは一切なかったそうだが、VAIO側で実証などを繰り返すことで、InstantGo環境でもPCI Express SSDを搭載することを可能にしたのだという。

 実際に製品に触って見ると分かるが、Windowsの起動は驚くほど速い。本当に数秒でぱっとWindows 8.1のスタート画面が出るような高速起動を実現しており、PCI Express SSDを搭載した効果は多くのユーザーが実感できるだろう。

VAIO ZはInstantGoに対応している
VAIO Zのデバイスマネージャ表示。筆者が触った試作機ではSSDはSamsung Electronicsの「MZHPV512HDGL-0000」というSSDが内蔵されていた

Z-engineによりcTDPupの35Wをターゲットにした放熱機構

 そして、今回のVAIO Zの肝と言えるのが、同社が「Z-engine」というブランド名を付けた放熱機構と高密度基板実装だ。

 Intelの第5世代Coreプロセッサには、熱設計の枠の違いで、同じUプロセッサでもTDP 15Wの製品とTDP 28Wの製品がある。今回のVAIO ZではTDPが28Wとなる、Core i7-5557U(デュアルコア、ベース3.1GHz、ターボ時3.4GHz)と、Core i5-5257U(デュアルコア、ベース2.7GHz、ターボ時3.1GHz)という2つのCPUから選択できる。その最大のメリットは、Iris Graphics 6100(GT3)というIntelの内蔵GPUで上位版を選ぶことができることだ。

 第5世代Coreプロセッサでは、GT3e、GT3、GT2という大きく分けて3つのGPUが存在している。

【表1】第5世代Coreプロセッサの内蔵GPU(Intel社の資料より筆者作成)
ブランド 未公表 Iris Graphics 6100 HD Graphics 6000 HD Graphics 5500
開発コードネーム GT3e GT3 GT3 GT2
eDRAM 128MB - - -
EU 48 48 48 24
クロック周波数
(ベース/最大)
未公表 300MHz/
1,050MHz、1,010MHz
300MHz/
950MHz、1,000MHz
300MHz/
850MHz、900MHz、950MHz
【表2】Core i7-5557UとCore i5-5257Uの違い(Intelが公表している資料より抜粋)

Core i7-5557U Core i7-5257U
コア/スレッド 2/4 2/4
ベース周波数 3.1GHz 2.7GHz
ターボ時最大周波数
(シングルコア時)
3.4GHz 3.4GHz
ターボ時最大周波数
(デュアルコア時)
3.4GHz 3.4GHz
L2キャッシュ 4MB 3MB
内蔵GPU Iris Graphics 6100 Iris Graphics 6100
GPU周波数
(ベース/最大)
300/1,100MHz 300/1,050MHz
メモリ最大周波数
(LPDDR3/DDR3L)
1,866/1,600MHz 1,866/1,600MHz
TDP 28W 28W
cTDP(up/down) 35W/23W 35W/23W
パッケージ BGA BGA
1000個ロット時参考価格 426ドル 315ドル

 このうちGT3eは、GPUのキャッシュとして利用できるeDRAMが内蔵されているバージョンで、現時点では発表されていないHプロセッサに搭載されるGPUとなる。従って、現状のUプロセッサではGT3とGT2という選択肢があることになる。

 GT3とGT2の違いは内蔵されている演算エンジンの数だ。GT3が48 EUであるのに対して、GT2では24 EUという構成になっており、GPUの性能が大きく異なるのが違いと言える。TDP15WのUプロセッサにもCore i7-5650U、5560U、5350U、5250UというGT3(ブランドはIntel HD Graphics 6000)が搭載されているSKUが用意されているが、28WのCore i7-5557U/Core i5-5257Uに搭載されているGT3はIntel HD Graphics 6000に位置付けられるIris Graphics 6100というブランド名が付けられ、ピーク時のクロック周波数がより高めに設定されている。

 笠井氏によれば「今回の製品では熱設計のターゲットは28Wではなく、cTDPupで規定されている35Wをターゲットに設定した」とのことで、35Wでも十分冷却できるように設計したのだという。詳しく説明すると、Ivy Bridge(第3世代Coreプロセッサ)以降のIntel製CPUにはcTDP(Configurable TDP、可変熱設計消費電力)と呼ばれる仕組みが入っている。メーカーは自社のサーマルソリューションに余裕がある場合にはTDPを超えて動かすこともできるし、逆にバッテリ駆動時間を重視したい場合には下限に設定してピーク時の消費電力を下げて使うこともできるようになっている。その上限がcTDPupで35Wなのだが、通常のノートPCメーカーの場合はTDPに併せて設計を行ない、cTDPupをサポートしているというメーカーは少ないのが現状だ(それが本来のスペックだからだ)。

 しかし、VAIOではそこはもっと柔軟に、最初からcTDPupを有効にできるように35Wの設計を行なっているという。こうした設計するメリットは、プロセッサのクロックをターボの領域に入れたとしても、排熱の限界が来るレンジが高いので、CPUがサーマルスロットリングと呼ばれる安全のために自分でクロック周波数を下げる仕組みがなかなか有効にならないということだ。これに対して元々のターゲットであるTDP 15Wなり、TDP 28Wなりで設計した場合には、CPUとGPUに高負荷をかけると排熱が追いつかなくなりCPUのサーマルスロットリングが有効になることが起こりうる(実際GT3のCore i7を搭載した製品にはそうした製品が存在する)。実は、笠井氏の作ったVAIO Duo 13も、TDP 15Wの第4世代Coreプロセッサを利用していたが、その時もcTDPupの25Wをターゲットにして熱設計を施していたので、VAIO Duo 13は同じGT3搭載第4世代Core Uプロセッサを搭載した製品に比べてサーマルスロットリングが起きにくい製品となっていた。

 ただ、cTDPupの35Wをターゲットに熱設計をすると一言で言うのは簡単だが、その実装は非常に難しい。そこで今回は、ファンメーカーとヒートシンクメーカーと共同で開発したZ-engineと呼ばれる放熱機構を採用しているという。VAIO ZのZ-engineは、2つのファンを左右に搭載し、それを株式会社フジクラと共同開発した新構造のヒートパイプで接続することで、分散して排熱している。かつ、日本電産株式会社と共同で開発した新型のファンは、HDDにも利用されている流体動圧軸受を利用しているファンで、従来のCPUファンに比べると寿命が圧倒的に長いのだという。

VAIOが試作したVAIO Zのスケルトンモデル。2本のヒートシンク、2つのファンがよく分かる。大部分を占めているのは白い部品はバッテリ
下はバッテリを取り外したところ

 さらに、基板自体も10層PCBを採用した高密度基板を採用しているという。「今回の基板は弊社の安曇野工場で自社設計、生産している。このため、外部で基板を作るよりも圧倒的に小さく作ることができている。これは弊社の強みであり、ほかのメーカーには一朝一夕に真似ができるものではないと考えている。高密度な基板を製造することで、その空いたスペースをバッテリに振り分けたりなど設計の自由度を手に入れられることが大きい」(笠井氏)というのがそのメリットで、実際今回のVAIO Zでは58Whという、VAIO Duo 13の50Whに比べて高容量のバッテリを採用しており、JEITA測定法2.0で15時間強という長時間バッテリ駆動に大きく貢献しているのだ。

VAIO Zの基板(表)
VAIO Zの基板(裏)
VAIO Zの基板(右)とVAIO Fit 13A(左)を比較したところ。VAIO Zの基板が圧倒的な小ささで作られていることが分かる

プレミアムノートPCに相応しいスペックと使い勝手を実現

 このように、1回の記事ではとても全てをお伝えすることができないぐらい、VAIO Zは大きなこだわりに満ちた製品になっている。

 この製品のライバルだが、やはりAppleのMacBook Pro、そしてやや方向性は異なるがパナソニックのLet's noteというのが競合となるのではないだろうか。特にWindowsの世界ではこうしたハイエンドなスペックが選べるモバイルPCはほとんどなかったと言っていい。実際、WindowsユーザーであってもMacBook Proを購入してWindowsをインストールして使うユーザーも少なくなかっただろう。

 しかし、VAIO Zであれば購入してすぐにWindows環境で利用できるし、28W CPUとPCI Express SSDによる強力な処理能力、マルチフリップヒンジによりタブレットに変形させて13.3型のタブレットとしても利用できること、さらにはデジタイザペン、InstantGoと多数のプレミアムな機能を備えている。税別店頭予想価格は19万円からと安価とは言えないが、その価値はあるだろう。

 Intelの副社長兼PCクライアント事業本部 本部長のカーク・スコーゲン氏は「2-in-1デバイスとは最高のタブレットであり、最高のクラムシェルだ」と昨年のIDFで語っている(別記事参照)。とは言え、これまでの2-in-1と言えば、どちらかと言えばモバイル方向に振った製品が多く、最高のクラムシェルという観点で考えると、疑問符が付く製品の方が多かったのも事実だ。しかし、このVAIO Zは、素直に2-in-1デバイスとしてもベストな製品の1つだし、そしてクラムシェル型PCとしては文句なくベストな製品と言えるだろう。そうした2-in-1デバイス、クラムシェル型PCを待っていたユーザーであれば検討してみるといいのではないだろうか。

(笠原 一輝)