イベントレポート

高密度サーバー向けのAtomに代わるBroadwellベースの「Xeon D」

~そしてSkylake世代のノートPCは完全無線へ

Intel上席副社長兼データセンター事業部事業本部長ダイアン・ブライアント氏

 IDF 2日目となる9月10日(現地時間)にはサーバー事業部、PCクライアント事業部の両トップによるメガブリーフィング(拡大説明会)が行なわれた。

 この中でIntel上席副社長兼データセンター事業部事業本部長のダイアン・ブライアント氏は、同社が高密度サーバー向けとして提供しているAtom SoCに加えて、「Xeon D」プロセッサのサンプル出荷を開始したことを明らかにした。Xeon DはBroadwellをベースにしたSoCで、Intelの高密度サーバー向けラインナップを広げる製品となる。

 また、上席副社長兼PCクライアント事業部事業本部長のカーク・スコーゲン氏は、Core Mの性能について言及し「最新のQualcommのSnapdragonに比べてWebアプリで3倍、3Dで2倍の性能を持つ」とアピール。また、A4WPのRezenceによる無線給電、WiGigによる無線ドッキングステーション、WiDiによる無線4K出力などのデモを行ない、Skylake世代のノートブックPCや2-in-1デバイス、タブレットが完全無線の環境を実現できることを示した。

14nmで製造されるXeon Dをサンプル出荷、2015年前半に発表へ

 ダイアン・ブライアント氏は、同社が月曜日に発表(別記事1別記事2参照)した「Xeon E5-2600 v3」を含むサーバー向けのさまざまなソリューションを説明。加えて、Xeon Dという新プロセッサをOEMメーカーに向けてサンプル出荷開始したと明らかにした。

 Xeon Dは、14nmプロセスのBroadwellをベースにしたサーバー向けSoCで、2012年にリリースされたAtom S1200、2013年にリリースされたAtom C2000に次ぐ高密度サーバー向けの製品となる。

 従来の2製品が、Atomベースになっているのに対して、Xeon DはBroadwellと高性能アーキテクチャを採用しており、CPUとチップセットはパッケージ上でMCM(Multi Chip Module)で統合されたSoCとなる。Xeon DのTDPは15Wで、64 bit命令に対応し、正式なリリースは2015年前半なる予定。

サーバー向けSoC市場は、ARMベースのSoCベンダーも参入を狙っており、Intelとしては競争が激しくなりつつある。現在はAtomプロセッサ S1200、Atom C2000などが投入されている。
サーバー向けSoCとしては第3世代となるXeon Dをサンプル出荷開始
Xeon Dを搭載した高密度サーバー用ボード

 また、ブライアント氏はサーバーラック内の効率を高める取り組みであるラックスケールアーキテクチャ(Rack Scale Architecture)に触れ、その進化の1つとして、シリコンフォトニクス光学モジュールのプロトタイプを使ったケーブルを公開した。パートナー企業7社により開発されたこのケーブルは、100Gbpsの帯域幅で、300mのケーブル長を実現。将来的には2kmまで伸ばせるという。

 このほか、Clouderaの共同創始者兼最高戦略責任者のマイク・オルソン氏が壇上に呼ばれ、ビッグデータの分析に利用されるHadoop(ハドゥープ、大規模データの分散処理を行なうオープンソースソフトウェア)に関して、Clouderaが提供するHadoop 5.2のディストリビューションをIntelアーキテクチャに最適化を行なったと語った。

ラックレベルでの高効率化をIntelは推進している
従来の銅線ケーブルに変えてシリコンフォトニクスの光ケーブルの導入を計画
シリコンフォトニクスの光学モジュール部分
部下の男性にケーブルを渡して、「講演が終わるまで走ってきて」、「あなたの職がかかっているのよ」とブラックジョークを飛ばすブライアント氏。冗談はともかく、現時点では300m、将来的には2kmまで伸ばすことができる
エンタープライズのサーバー用途では、仮想化と並んで重要なアプリケーションとなりつつあるビックデータ分析
Cloudera 共同創始者、最高戦略責任者 マイク・オルソン氏(左)
ClouderaのHadoopソリューションがIAに最適化される

Snapdragonと比較して2~3倍の性能

 カーク・スコーゲン氏は、先週のIFAで発表されたCore Mを含む、同社のPCクライアント向けの製品の戦略を説明した。内容としては、同氏によるIFA基調講演(別記事参照)とかぶる内容が多かったので、それとかぶらない話を中心に紹介していく。

 カーク氏の講演のタイトルは「PC Reinvention and Innovation」(PCの再定義と技術革新)で、古めかしいな機器と見られがちなPCを再定義してより進化させ、新しい技術革新を盛り込むことで開発者にもエンドユーザーにも魅力的なプラットフォームにしたい、そういう意味合いが込められている。

 スコーゲン氏は、2-in-1デバイスに関して話し始めた。「ノートブックPCの再定義は数年間かけて進行している。2010年に最初のCoreプロセッサを導入し、2011年にUltrabookの構想を発表。2012年にはそれにタッチを加え、2013年には第4世代Coreプロセッサの導入とChromeサポートを追加した」と振り返る。

 「生産性の高いコンテンツ制作と、コンテンツ消費という2つの機能を持つのが2-in-1デバイス。つまり最高のクラムシェル型ノートPCであり、最高のタブレットだ」とした。

 その2-in-1向けに新たに投入される第5世代となるCore Mについては、「Core MはPC向けとしては5年ぶりとなる新ブランド。消費電力はわずか4.5Wで、IntelのPC向けのプロセッサとしては最も低消費電力を実現した」と述べた。

 スコーゲン氏はCore Mの性能データとして、QualcommのSnapdragonを搭載したタブレット(イラストにはWindowsボタンが用意されていたので、おそらくWindows RTタブレットだと思われる)とほぼ同じ重量、薄さ、バッテリ駆動時間で、Webアプリケーション利用時に3倍、3Dグラフィックス性能で2倍の性能を実現していることを示した。

 その後、IFAで紹介したのと同じCore Mを搭載したOEMメーカーのマシンを紹介し、これらの製品が10月から順次登場するとした。Core M(Broadwell-Y)以外のBroadwellとなる第5世代Coreプロセッサは、2015年の初旬から順次発表される。

 また、スコーゲン氏は9日に行なわれた基調講演で公開された、Broadwellの次世代となるSkylakeのデモ再び行ない、今回はゲームの「Torchlight 2」を実際に動かして見せた。Skylakeのシリコンは順調に開発が進んでおり、2015年の後半に市場に登場する予定。

Intel上席副社長兼PCクライアント事業部事業本部長カーク・スコーゲン氏
IntelのPC再定義の旅は数年に渡る旅に
2-in-1デバイスとは、生産性向上の用途とコンテンツ消費の両方に使えるデバイスのこと
Core Mの特徴を説明するスライド
4年前のPCとの性能差を説明するスライド、CPU性能は2倍に、GPUは7倍になっている
Qualcomm Snapdragonを搭載したタブレットと比較すると、Core Mの性能はWebアプリで3倍、3Dグラフィイクスで2倍を実現
Acer Aspire SwitchなどのOEMメーカーのCore M搭載マシンをデモ
Skylakeは2015年後半に投入へ
ゲームが動作しているSkylakeのシステム

2015年末には完全無線のPCを実現

 次いでスコーゲン氏は、PCのユーザー体験を大きく変えていく、具体的には完全無線化と、パスワードの不要化を実現し、新しい自然なUIを導入していく計画について話した。

 Intelは2003年に導入したCentrinoで、Wi-FiをPCに持ち込んだ。それにより、EthernetケーブルからノートPCが解放された。同じような考え方で、Skylake世代のPCで、ディスプレイ、ドッキングステーション、ACアダプタの3つを無線にする技術を導入していく。

 Intelがここ数年のPCで導入しているWiDi(Intel Wireless Display)は、Intelの内蔵GPUが入っている製品で利用できる。最新のWiDiは、業界標準となるMiracastと互換性があり、実質的にはMiracastとして利用することができるため、対応の機器が増えつつある。

 今回Intelは、LGの4K TVを利用してWiDi経由でPCから4K出力をできる様子をデモした。ステージ上では何も言及はなかったが、利用されていたのは第5世代Coreを搭載したノートPCで、4K TVはLGが2015年初頭にリリースする予定のもの。第4世代Coreでは、ディスプレイデータを圧縮するエンコーダの性能が、4Kをリアルタイムに処理するほどの性能がないが、第5世代Coreでは可能になるという。

WiDiに対応したデバイスは2016年には3億台に達すると予想
未発表のASUSのBroadwell搭載ノートブックPCを利用した4K解像度のWiDiのデモ。Broadwellになりエンコード性能が向上しているため、4Kの転送が可能になる

 ついでスコーゲン氏は、近距離高速無線通信技術であるWiGigに対応するIntel Wireless Gigabitというブランド名を明らかにし、無線ドッキングステーションや、無線のデータ通信などに使っていくとした。IntelはWiGigの技術を、2015年の前半からOEMメーカーなどに提供する予定。今回のIDFやIFAではWiGigを利用した無線のドッキングステーションがデモされており、ノートPCを近付けるだけで自動的にディスプレイの出力が切り替わる。

 Intelおよび、Qualcomm、Samsung Electronicsなどの業界各社と結成している業界団体A4WPは、磁気共鳴方式の無線給電技術「Rezence」(レゼンス)を規定している。Intelは、2015年の第1四半期には無線給電の仕組みを入れたSkylakeのリファレンス開発システムを開発者に提供していく。スコーゲン氏は、ユーザー側となるエミレーツ航空のIT責任者であるサンジェイ・シャルマ氏を壇上に呼び、空港のラウンジや飛行機の中にRezenceの給電側を用意する可能性に関して語り合った。

WiGigにより、ドッキングステーションも無線に
カーク氏が右手で持つ(写真左)のがドッキングステーション側のモジュール、左手で持つ(写真右)がPC側に内蔵するモジュール
ソフトウェア開発者に対して、秘密保持契約ベースで2015年の第1四半期に提供されるSkylakeの開発キット。WiGig、Rezenceなどすべての機能が実装されており、それらに対応したソフトウェアを開発できる
Samsung ElectronicsのGalaxy S4用のRezenceカバー
A4WPに加盟する企業は日々増えている
エミレーツ航空のIT責任者 サンジェイ・シャルマ氏(右)」とRezenceの可能性について語り合った

 このほか、スコーゲン氏はソフトウェアソリューションとハードウェアソリューションを組み合わせることで、パスワードをユーザーが入力する必要がなくすことを2016年の末までに実現すること、音声認識機能のさらなる拡大、近々PCに実装されるRealSense 3Dカメラを利用したデモなどを紹介し、今後もPCをさらなる便利でスマートなデバイスにしていくと約束した。

RealSenseを実装したノートPCを使ったユーセージモデル。靴メーカーが提供するWebアプリで、ユーザーの足のサイズをRealSenseの3Dカメラを利用して立体的に計測し、Webサイト側にある靴のデータと照合して、合う靴を紹介してくれる

(笠原 一輝)