笠原一輝のユビキタス情報局

秋モデルから大転換を迎える日本のPCバンドルOffice

〜日本市場に最適化したOffice 365をバンドルへ

現在日本の個人向けPCにバンドルされているのはOffice 2013 Home and Business、これが10月1日以降はOffice 365へと移行することになる

 Microsoftは同社の主力製品の1つであるOfficeのライセンスモデルを、従来のPCにバンドルするプリインストール版と、パッケージ版の永続ライセンスの2本立てという従来のモデルから、Office 365と呼ばれるサブスクリプション契約を中心としたライセンスへと移行を進めている。日本以外の地域では、すでにOffice 365がその中心になっており、個人向けにはOffice 365 Home、Office 365 Personalなどのサブスクリプション契約が用意されており、PCにバンドルされるライセンスもOffice 365の1年契約へといった形へと移行しているのが現状だ。

 だが、日本だけはその例外扱いで、従来の販売モデルが継続されていた。Office 365は企業向けのサブスクリプション契約モデルとしてだけ提供されており、個人向けのライセンスは提供されてこなかった。しかし、6月の日本マイクロソフトの記者会見で、年内にOffice 365の個人向けが提供開始されることが明らかになっており、PCへのOfficeのバンドルモデルがどうなっていくのかには注目が集まっていた。

 こうした中、OEMメーカー筋や流通業者などからの情報によれば、Microsoftはプリインストール版に新形態のOffice 365ライセンスの提供を開始するという。この新ライセンスモデルには2つの端末で使用する権利が与えられる。1つはバンドルされる端末に紐付く半永続ライセンスで、端末が使える限り将来のバージョンへとアップグレードできる。もう1つはOffice 365のサブスクリプション(1年分)に紐付くライセンスで、1年間の有効期限内であれば、タブレットなどにインストールして利用でき、1年経過後も利用したい場合には契約延長を行なう。

 MicrosoftはこのOffice 365のプリインストール版を10月1日以降に販売される、いわゆる“秋モデル”と呼ばれるメーカー製PCにバンドルできるようにする見通しだ。

日本以外の地域ではOffice 365へ主流が移りつつある

 Microsoftは、全世界的にMicrosoft Officeのライセンスモデルを、従来の永続ライセンスからサブスクリプション方式へと移行を進めている。すでに欧米では、永続ライセンスとなるOffice 2013のパッケージは姿を消しつつあり、量販店の店頭ではOffice 365と呼ばれるサブスクリプション契約を行なうためのコードを販売する形になっている。

 Office 14(Office 2010世代の開発コードネーム)でも、Office 365は提供されていたが、その中心は企業向けだった。従ってライセンスモデルも企業向けが中心になっており、家庭向けのライセンスモデルは提供してこなかった。

 しかし、現行のOffice 15(Office 2013の開発コードネーム)世代になってからは、新しくOffice 365 Home(月額9.95ドル、以前はHome Premiumと呼ばれていたプラン)、Office 365 Personal(月額6.99ドル)という個人向けサブスクリプション契約を用意し、Homeは5台までのデバイスに、Personalは1台のPCと1台のタブレットにインストールして利用できるようになっている。

 以前のプリインストール版ライセンスでは、プリインストールされているPCでのみ利用できた。また、パッケージで販売される永続ライセンスの場合、2台までのPC(デスクトップPCとノートPCの組み合わせなどの条件も付いていたバージョンもある)にインストールできるという形になっているなど、ユーザーが使いたいデバイスにインストールする時は、さまざまな制約が伴う。

 Office 365になるとその制約がとれ、Homeでは5台までのデバイス(PC、タブレットなど)にインストールして利用可能になる。最近では3台持ちユーザーも少なくないだろう。従来の永続ライセンスだと2台までしかインストールできないので、柔軟性に欠けていたが、Office 365 Homeはその問題から解放されるようになる。

 加えてOffice 365には、従来とは異なりバージョンの概念がない。このため、契約を続けている場合、新しいバージョンのOfficeが登場すると自動的にアップグレードできる。従来の永続ライセンスの場合は、新しいバージョンが出る度にバージョンアップ料金を払う必要があったが、Office 365ではその必要がない。

 これらの違いをまとめると、以下のようになる。

【表1】Officeのライセンスモデルの違い

プリインストール版 パッケージ版 Office 365
ライセンスの有効期限 デバイスの寿命まで 永続 契約が続く限り
ライセンス数 バンドルされているデバイスでのみ利用可能 2台 さまざま(5台、1PC+1タブレットなど)
バージョンアップ 提供なし 提供なし 自動

 サブスクリプション契約のメリットは、利用できる台数が増えること、バージョンアップの度に料金を払わないで済むことだ。その代わり、料金は毎月払う必要があるため、バージョンアップを常にするユーザーであればトータルで見れば同じだが、バージョンアップをしないユーザーにとっては、負担は増える可能性がある。

 ただ欧米などの成熟市場では、Office 365への移行が急速に進んでおり、PCにプリインストールされるライセンスも従来のプリインストール版から、Office 365 Personalが1年分といった形へと姿を変えつつある。このように、永続ライセンスからOffice 365へ移行を促すのが、Microsoftの基本的な戦略だ。

日本市場はプリインストール版の比率が高く、特別扱いされてきた

 しかし、日本ではOffice 365への移行が進んでいない。日本ではOffice 365はビジネス向けのプランだけ用意されており、家庭向けのライセンス(HomeやPersonalに相当するプラン)は提供されていない。国内の個人向けPCでは、Office 2013がバンドルされている。また、パッケージ版も引き続いて販売されており、Office 2010まではインストールできるPCが2台でも、デスクトップPC+ノートPCという組み合わせだった。Office 2013ではそうした制約なしに、2台までという組み合わせが可能になっていた。

 日本だけがこうした特別扱いをされている背景は、三浦優子氏の記事「なぜ日本のOffice 2013のライセンス形態が特別なのか」が詳しいのでそちらをご覧頂くとして、かいつまんで説明すれば、日本は特に小売り店の店頭で販売されるPCのOfficeバンドル率が非常に高いので、従来のOffice 2010までのバンドルライセンスの形態がそのまま継続されているのだ。また、それに合わせて日本ではOffice 365の家庭向けバージョン(HomeやPersonal)を提供せず、引き続きパッケージ版の販売が続けられていた。これは日本マイクロソフトが、米国本社に対して“例外”を認めさせた形で、特殊な事情に配慮した形になっていた。

 しかし、この状況に大きな変化が見えてきたのは、7月の日本マイクロソフトの新会計年度の記者会見おいてだった。この中で同社代表執行役 社長の樋口泰行氏は「今年中(2014年)にOffice 365の個人向け版を導入する予定で、日本市場に最適化した上で導入する」と発言した(別記事参照)。このため、Microsoftがどのような施策を行なうのか注目が集まっていた。

メーカー製PCへのプリインストール版は新しい形のOffice 365に変更される

 こうした中、OEMメーカーや流通業者などへの取材から、Microsoftが10月1日以降に販売されるPCから、新しいプリインストール版のライセンスモデルを提供する予定であることが分かってきた。

 関係者によれば、Microsoftが導入する新しいプリインストール版は、Office 365がバンドルされる形になる。ただし単なるOffice 365ではなく、バンドルライセンス+Office 365の1年分という、Office 365と従来のプリインストール版を融合したような、新しいOffice 365になるという。

 まずバンドルライセンスの方は、Office 365相当のライセンスとなるため、半永久的にバージョンアップしながら利用できる。ただし、“半”と書いたのは、あくまでこのライセンスはバンドルされているPCとセットで使う場合のみに有効であり、PCが壊れて使えなくなったり、PCを手放してしまった場合には利用できなくなるからだ。

 そしてバンドルされるOffice 365にはタブレットなどモバイル機器で利用できるライセンスが1つと、OneDriveの追加ストレージが付いてくる。Office 365の有効期限は1年で、それ以降も利用したい場合にはサービスの延長を申し込む(つまりサブスクリプション契約を行なう)必要がある。

 MicrosoftはこれをベースにしたOffice 365の個人向け版を、別途リテールやオンライン販売などの形で提供する予定になっており、そちらは2台までのデバイスにインストールすることができるようになるという。

【表2】新しいOffice 365の個人向けモデル(筆者予想)

従来のプレインストール版 新しいOffice 365のプレインストール版
インストールできるデバイス そのデバイスのみ そのデバイスのみ+1タブレット(1年分のみ)
永続バージョンアップ -
Office 365サービス(OneDriveの追加ストレージ) - ○(1年分のみ)

 つまり、樋口氏が7月の会見で発言した“日本への最適化”というのは正にこのことだった。このプリインストール版であれば、OEMメーカーは基本的に従来のプリインストール版とほぼ変わらない形で提供することができるので、単純な“Office 365 1年分”をバンドルするより、日本市場に適している。OEMメーカーからは、今回の変更を歓迎する声が多い。

新しいプリインストール版Office 365はPC市場活性化の起爆剤となる可能性

 現時点で筆者が得ている情報を総合すると、これまでプリインストール版のOfficeを買っていたユーザーは、デバイスに紐付くライセンスに関しては基本的に同じ扱いで、そのPCが使える限りは利用できる。かつ、Office 365扱いになるので、新バージョンのOffice(例えばOffice 16など)がリリースされた時には、新しいバージョンに更新できる。従来のプリインストール版では、新しいバージョンが出た時に、自分でパッケージ版を購入して、新バージョンにしなければいけなかったことを考えれば大きなメリットになる。

 ただ、依然として5台までインストールできる契約は企業向けのOffice 365のみとなるので、多くのクライアントで使いたいというユーザーであれば、Office 365の企業向け版を契約することになる(個人でも契約することは可能)。現時点では具体的にOffice 365のサービスのうちどんなものが利用できるようになるのか明確ではないので、Microsoftからの正式な発表を待つ必要があるが、全体的にはユーザーとしては歓迎して良い改良になると言える。

 IntelからCore Mが発表され、Broadwell-Uなど第5世代Coreプロセッサの発表も来年の初旬に迫っており、OEMメーカーは現在さまざまな新しい新製品を用意している段階だ。そうした中で、こうしたOfficeのプリインストール版の新施策は、市場活性化の起爆剤となる可能性が高く、今後の動向には注目したいところだ。

(笠原 一輝)