笠原一輝のユビキタス情報局

Intelがスマホ/タブレット向けロードマップを急加速

〜2014年後半にモデム統合エントリーSoC「SoFIA」を外部製造で投入へ

 Intelは、本社があるカリフォルニア州サンタクララにおいて投資家向けのイベントを開催し、同社の新戦略についての説明を行なった。この中で同社CEOのブライアン・クルザニック氏は「我々はどのような企業に対しても我々の最先端の半導体製造技術を利用したファウンダリサービスを提供する準備がある」と、他社に半導体製造サービスを提供する方向であることを明らかにした。

 また、Intelは劣勢が伝えられるスマートフォン向けのSoC市場に関してもテコ入れを行ない、2014年に次々と新製品を投入する。中でも注目はモデム、Wi-Fi、Bluetooth、GPSなどスマートフォンに必要な機能をすべて統合したSoCとなる「SoFIA」(ソフィア、開発コードネーム)だ。SoFIAは3Gモデム統合版が2014年後半に、LTEモデム統合版が2015年に投入され、かつ製造は自社工場ではなく、外部ファウンダリに委託される。過去にチップセットのサウスブリッジなどを外部工場に委託した特例はあるが、CPUを含む製品を外部工場に委託した例は、1980年代にAMDに製造を委託していた時代まで遡り、その意味でも異例な製品となる。

ファウンダリサービスをIntelも開始へ

Intel CEO ブライアン・クルザニック氏(9月のIDFにて撮影)

 2013年5月にIntelのCEOに就任したブライアン・クルザニック氏(同士のプロフィールなどに関しては別記事参照)が、投資家の前で戦略を説明するのは、就任が決定した株主総会以来2度目となる。初回となった株主総会では、就任早々ということもあり、特に新戦略を打ち出すでもなく、言ってみれば前任者であるポール・オッテリーニ氏の敷いた路線を継承するという形になっていた。

 しかし、今回クルザニック氏は明らかにオッテリーニ氏時代とは異なる2つの新しい戦略変更を打ち出している。1つは、Intelのファウンダリ(外部の半導体メーカーに委託製造サービスを提供すること)戦略の拡張を明確に打ち出したことだ。このことはオッテリーニ氏時代にもすでに行なわれており、AlteraなどいくつかのパートナーがIntelのファウンダリサービスを利用しているが、クルザニック氏は「我々はどのような企業に対しても我々の最先端の半導体製造技術を利用したファウンダリサービスを提供する準備がある」とし、従来は限られたパートナーに対してだけ提供されていたIntelのファウンダリサービスを、より広い形で提供する準備があるとした。

 言うまでもないことだが、Intelは半導体製造施設の規模で世界最大、そして製造技術(プロセスルールなど)でも世界最先端だ。しかし、その製造施設と製造技術はこれまで、自社の半導体製造にのみ利用されており、他の半導体メーカーに対しては限られた形でしか提供されてこなかった。しかし、現在の半導体産業では、IntelとSamsung Electronicsを除けば、ほとんどの半導体メーカーがTSMCなどのファウンダリサービスを利用して製造する形が一般的になりつつある。よく知られているように、Samsung ElectronicsもAppleの半導体製造を請け負うなどのファウンダリサービスを行なっており、Intelがいつ本格的なファウンダリサービスを提供するのかに注目が集まっていた。

自社製品のアドバンテージを削りかねない他社へのファウンダリサービス

Intel社長 レネイ・ジェームス氏(9月のIDF時に撮影)

 Intel社長 レネイ・ジェームス氏は「Intelは2種類のファウンダリサービスを提供する。1つはIAと他社のIPを統合したSoCの製造であり、もう1つはフルカスタムのファウンダリサービスだ」とその詳細を説明した。具体的には、前者はIntelのCPUに、他社のIP(例えばDSPやGPUなど)を組み合わせた製品になる。こちらに関しては既存のIA製品の拡販にもつながるため、Intelにとってメリットがあるというのは容易に想像ができる。

 一方、Intelにとって1つのチャレンジとなるのは、後者のサービスだ。というのも顧客の製品もIntelの工場で製造することになれば、Intelプロセッサのアドバンテージの1つである“最先端のプロセスルールを利用して製造している”ことがアドバンテージでなくなってしまう可能性があるからだ。

 半導体の性能というのは、半導体のハードウェア上の仕様(内部演算器の仕組みやキャッシュサイズ)と製造に利用しているプロセスルールという複数のパラメータから決定されている。Intelの製造プロセスルールが、どのファウンダリや半導体メーカーよりも進んでおり、Intelの製品部門がそのメリットを独占的に享受してきたことはよく知られている。

 しかし、他の半導体メーカーもIntelのファウンダリサービスが利用できるようになれば、この点ではIntelの製品部門も、他社も同等になる。その結果、Intel製品の競争力が低下し、売り上げが減少することになれば、Intelにとってはファウンダリサービスでの売り上げが増えても、諸刃の剣ということになるだろう。

 この件については投資家向けの説明会でも質問が出ており、クルザニック氏は「株主にとってデメリットだと思えばやっていない。ビジネス的に考えればこの方が株主にとってメリットがあると判断した」と、純粋にビジネス上の判断であるとした。つまり、Intelの幹部は、最悪の場合製品部門を犠牲にしても、製造部門を維持することこそがIntelにとって最上だと判断したということだろう。

 こうなると、気になるのはどこがIntelのファウンダリサービスの顧客になるのかという点だろう。スマートフォンビジネスで完全にSamsungと競合しているAppleは、Samsungへの委託生産を取りやめたいとされており、その候補の筆頭であるはずだ。実際Intel 上級副社長兼技術製造事業本部 本部長のウィリアム・ホルト氏が示した資料には、Intelがファウンダリサービスとして提供する適用分野の中にはスマートフォンとエントリーモバイルが含まれており、Intelがそうした売り込みをしているということは容易に想像できる。

ジェームス氏が示したスライド。Intelのファウンダリサービスは、IAのカスタムチップか、完全なカスタムチップ製造サービスの2本立て
Intelのファウンダリサービスはウェハの製造からパッケージという後工程までまとめてオーダーできるのが特徴
ホルト氏が示した資料にはファウンダリサービスの選択肢の中には“スマートフォン”が……

2014年に4倍のタブレット向けSoC出荷を狙う新しいロードマップ

 そしてクルザニック氏がもう1つ示した大きな変革は、タブレット・スマートフォン向けプロセッサロードマップの加速、それに伴ってタブレット向けの出荷を急速に増やしていくという決断だ。

 クルザニック氏は「PC市場は若干のマイナス成長だが、長い目で見れば安定した市場になったということだ。それに対してタブレットは急成長を遂げており、我々は2014年にタブレット向け製品の出荷量を4倍にする」と述べ、PC市場の減少を補うためにも、タブレット市場でのプレゼンスを高めていくという戦略にでることを明らかにした。

 Intel 副社長兼モバイル通信事業本部 事業本部長のハーマン・ユール氏は「我々はBay Trailを出荷し、他社のSoCを性能で上回った。これからはさらに、バリュー向けの製品を投入する」と、現行製品となるMedfield(Atom Z2400シリーズ)、Clover Trail+(Atom Z2500シリーズ)を、ボリュームゾーンである99〜149ドル程度の低価格Androidタブレット向けに投入する戦略であることを明らかにした。

 さらにユール氏は、2014年以降のロードマップ更新を明らかにした。まず2014年前半には既報の通り「Merri Trail」を投入する。Merrifieldは22nmプロセスルールで製造され、CPUコアはSilvermontコアになり、Clover Trail+に比較してCPU性能が1.7倍に、GPU性能が2倍になるという。電力効率が改善し、より進んだセンサー用のハブを内蔵している。さらに2014年後半には「Moorefield」と呼ばれる製品が投入される。この製品はMerrifieldのクアッドコア版で、CPU性能が倍になり、電力効率の改善やセキュリティ機能の拡張などが行なわれるという。

 そして、ユール氏は、これまでIntelが公式には明らかにしていなかった14nm世代のAtomプロセッサの最初の製品となる「Cherry Trail」(チェリートレイル)を2014年の後半に投入すると明らかにした。Cherry TrailはSilvermontコアの14nm版となる「Airmont」コアをCPUとして採用しており、GPUも次世代のコアへと変更されるという。

 さらに、Intelは2015年には同じ14nm世代だが、CPUコアを新設計となる「Goldmont」へと変更した「Broxton」(ブロックストン)をリリースする。AirmontがSilvermontの14nm版という位置付けであるのに対して、このGoldmontは新設計のコアになると考えられており、ここでCPU性能が再び強化されることになる。ユール氏によれば「Broxtonはタブレットとスマートフォンの両方をカバーする製品となる」とのことで、スマートフォンに対応する低消費電力を実現しながら、タブレットでも充分使える高性能を実現する可能性を示唆した。

ユール氏のスライドには2016年にモバイル向けSoCで実現する性能向上のターゲットが。2013年に比べてCPUが5倍、GPUが15倍、メディアが7倍、イメージングが7倍、ディスプレイが7倍
2014年の前半にはMerrifieldが投入される。22nmのスマートフォン向けSoC
2014年の後半にはMerrifieldのクアッドコア版となるMoorefieldが投入される
2014年後半には14nm版のAtom SoCとなるCherry Trailが投入される
2015年にはBroxtonとSoFIAのLTE版が投入される

Intelプロセッサとしては異例の外部ファウンダリで製造されるSoFIA

SoFIAはエントリー向けのスマートフォン向けSoC。3G版が2014年後半に、2015年にLTE版が投入される

 そして、Intelがもう1つ、タブレット、スマートフォン市場に投入する隠し球が、開発コードネームSoFIA(ソフィア)で呼ばれるエントリー向けのSoCだ。

 SoFIAはセルラーモデム、Wi-Fi、Bluetooth、GPSなどスマートフォンやタブレットを構成する機能をすべて1チップにした製品となる。これまでIntelのスマートフォン向けSoCは、モデムやWi-Fi/BT、GPSなどはすべて別チップとなっており、コスト的に問題にならないハイエンド製品が主な採用例となっていた。しかし、100ドルを切るような低価格スマートフォンなどへの採用が難しいという課題を抱えていた。

 そこで、SoFIAではこうした3G/LTEモデム、Wi-Fi、Bluetooth、GPSなどの機能をすべて1チップに統合する。これにより、100ドル以下のような低価格なスマートフォンに参入することが可能になるのだ。今後、スマートフォンの主戦場は、こうした100ドル切るような低価格向けになると考えられており、Intelとしてはそこに参入する必要性があると判断したのだろう。製品投入は2段階が計画されており、2014年の後半に3Gモデム統合版が投入され、2015年にLTEモデム統合版が投入される予定だ。

 ただ、このSoFIAの製造はIntelの工場では行なわれず、外部のファウンダリ(どのファウンダリであるかは非公開)に委託される予定だ。その理由についてIntelの幹部は「現実的になる必要がある」(クルザニック氏)とだけ説明しているが、おそらく2つの問題が考えられる。1つにはIntelのSoC向けのプロセスルールが、どちらかと言えばハイエンド寄りであるため、性能はあまり高くなくていいが低コストで製造する必要がある製品に向いていないということ。

 そしてもう1つは、このSoFIAはIntelが持っているIPだけで設計するのではなく、他社からIP(例えばGPSやW-Fiなど)を買ってきて、製品に組み込むという形になる。であれば、極端な話、ARM SoC向けに提供されているIPのライセンスを買い集めて、ARM CPUの部分だけをIA CPUに変えるような形の設計の方が結果的には早く設計できる可能性が高い。実際ユール氏によれば「このロードマップは3カ月前には存在していなかった」ということなので、Intelとしても急遽開発、投入を決めた製品である可能性は高く、そうしたアプローチが現実的だと考えることができるだろう。

再び目的の為には手段を選ばないIntelが復活か

 今回Intelは、自社の製造施設を最大限活用し、設備投資を回収する目的で外部にファウンダリサービスを提供すること、さらには低コストと製品投入までの時間を短縮するため自社製品の製造に外部ファウンダリを利用する、というこれまでのIntelで言えば“禁じ手”だったことに大きく踏み込んでいる。

 それをIntelも追い詰められていると考えるのは簡単だが、どちらかと言えば、筆者には1990年代のアンディ・グローブ氏がCEOを努めていた時代の“目的の為には手段を選ばない”というIntelが復活したのだなと感じた。アンディ・グローブ氏がCEOだった時代のIntelは、競合他社から“そこまでやるか……”とあきれられるほどの会社だった。

 今回の2つの新方針も、Intelの強みである世界最大の製造施設と最先端の製造技術を維持するため、そしてタイムトゥマーケットを実現して競合他社と戦うという目的の為にはどうしても必要なモノだと筆者は思う。もちろん、それが成功するかどうかは今後の展開次第だが、成功する可能性は十分にあるだろう。その意味で、新CEOのブライアン・クルザニック氏、「なかなかやるじゃん」という率直な感想で、今回の記事のまとめとしたい。

(笠原 一輝)