笠原一輝のユビキタス情報局

Intel、次期CPUから低電圧版を廃止、ノートの60%をUltrabookに



 Intelは、22nmプロセスルールで製造される次世代プロセッサ「第3世代Coreプロセッサー・ファミリー」をまもなく発表する。開発コードネーム「Ivy Bridge」で知られる同製品は、現行の第2世代Coreプロセッサー・ファミリー(開発コードネーム:Sandy Bridge)の製造プロセス微細化版というとらえ方が一般的だが、ノートPC開発の観点から見ればそれだけでは正しい見方ではない。

 確かに、Ivy Bridgeのプロセッサアーキテクチャそのものは、いくつかの改良点と機能強化はあるものの、基本的にはSandy Bridgeの微細化版プラスアルファといっても差し支えはない。しかし、Intel 7シリーズ・チップセット(開発コードネーム:Panther Point)を含むプラットフォーム「Chief River」では、プラットフォームの定義が変更され、IntelがUltrabookで目指す「ノートPC再定義」に向けた第一歩になるのだ。

●平均消費電力が下がるIvy Bridge、ノートPCのバッテリ駆動時間が伸びる

 Intelのプロセッサ開発は、「TICK-TOCKモデル(チック・タック)」と呼ばれる開発サイクルがとられていることがよく知られている。

 プロセッサの開発は、マイクロアーキテクチャの改良と、製造プロセスルールの革新がという2つの要素がある。Intelはプロセッサ開発でのこの2つの要素の変更を、それぞれ2年に1度交互に行なう。こうしておくことで、両方を1度に変えたときに発生するリスクを抑えることができる。Intelは製造プロセスルールを新しくした年の製品をTICK、マイクロアーキテクチャを新しくした年をTOCKと呼んでおり、それぞれ交互に投入されるという意味で、この開発のやり方を「TICK-TOCKモデル」と呼んでいる。

 そうしたIntelの開発ロードマップを図にしたのが以下の図だが、今年(2012年)Intelが発表を予定している製品が「第3世代Coreプロセッサー・ファミリー」になることが1月のInternational CESで明らかになっている。

【図1】Intelのプロセッサコア開発のサイクル(Broadwell以降は筆者予想)

 図でわかる通り、このTICK-TOCKモデルは今後も続いていき、2013年には新しいマイクロアーキテクチャを採用したHaswellがTOCKとして、そして2014年にはその14nm版となるBroadwell(ブロードウェル)がTICKとして、さらに2015年にはSkylake(スカイレイク)が14nmのTOCKとして投入されることになる。

 さて、今回の主役となるIvy Bridgeだが、その改良ポイントとしては、内蔵GPUがDirect3D 11(いわゆるDirectX 11)のAPIに対応したこと、GPUエンジン数(12から16)が増やされていること、プロセッサ側に内蔵されているPCI Express x16がGen3に対応したこと、さらにDDR3Lと呼ばれるDDR3の低電圧版(1.35V)に対応していることなどが挙げられる。

 そして実は、これまであまり語られてはいないが、Ivy Bridgeの大きなメリットとして、平均消費電力がSandy Bridgeから低下する点が挙げられる。Ivy Bridgeではアイドル時に内蔵GPUやメモリコントローラのリーク電流を押さえる仕組みが採用されているほか、そもそもダイサイズがSandy Bridgeに比べて小さい(後藤氏の記事参照)ので、平均消費電力が抑えられているのだ。

 この点はバッテリ駆動時間に与える影響は大きく、OEMメーカーはSandy BridgeからIvy Bridgeにプロセッサを変更するだけで、バッテリ駆動時間を延ばすことが可能になる。この点は間違いなくIvy Bridgeの大きな特徴と言えるだろう。

●Panther PointはIvy BridgeとSandy Bridgeの両方のプロセッサをサポートする

 すでにSandy Bridgeベースの基板やシステムを持っているOEMメーカーにとって、Ivy Bridgeに対応したノートPCを設計するのは比較的容易だ。というのも、Sandy BridgeとIvy Bridge、さらにはSandy Bridge用のチップセットである「Couger Point」と、Ivy Bridge用のチップセットである「Panther Point」はピン互換で、相互に利用することができるからだ。

 このため、OEMメーカーやODMメーカーは、既存のSandy Bridge用の基板をそのまま流用してIvy Bridge+Couger Pointのマザーボードを作ることもできる。もちろん、Ivy Bridge世代で新しく用意される機能(PCI Express Gen3やUSB 3.0)などに対応させようと考えれば、新しい基板を起こすことが必要になるが、そうした機能が必要ないのであれば既存の基板にIvy Bridgeだけを実装するというやり方でローコストに製造することも可能になっている。

【図2】Panther Pointのブロック図(筆者予想)

 これまでに公開されているマザーボードなどからわかるように、Panther Pointの強化点は、内蔵のUSBコントローラがUSB 3.0に対応したこと。つまり合計14ポートあるUSBのうち4ポートがUSB 3.0対応になる。また、これは厳密にはチップセット側の強化点ではないが、Ivy Bridgeに内蔵されているディスプレイコントローラの数が3つに増やされるため、最大で3つのディスプレイに同時出力することが可能になる。

 OEMメーカー筋の情報によれば、IntelはPanther PointのSKUに以下のようなラインナップを用意しているという。

【表1】Panther PointのSKU(筆者予想)

QS77QM77UM77HM77HM76HM75HM70
パッケージSFF通常通常通常通常通常通常
ディスプレイディスプレイコントローラ3333333
VGA/LVDSサポート-
ストレージSATA(6Gbps)6(2)6(2)4(1)6(2)6(2)6(2)4(1)
Smart Response---
RAID---
I/OUSB(USB3.0)14(4)14(4)10(4)14(4)12(4)12(0)8(2)
PCI Express Gen28848884
管理機能AMT 8.0-----
Anti-Theft-

 基本的には前世代の置き換えになるが、新たにHM77とHM75の間にHM76というSKUが用意されている。このHM76はRAID/Intel SRT無しバージョンとなり、HM77の廉価版という扱いになる。また、低価格向けに基本機能だけに制限したHM70というSKUも用意されており、CeleronやPentiumを搭載した製品向けのチップセットとなる。

●Chief River以降のプラットフォームでは低電圧版が廃止される

 こうしたChief Riverプラットフォームだが、前世代と大きく異なることは、低電圧版のプロセッサが廃止されたことだ。

 Intelは2001年に、モバイルPentium III向けに超低電圧版(ULV:Ultra Low Voltage)を投入して以来、標準電圧版(SV:Standard Voltage)、低電圧版(LV:Low Voltage)、ULVの3種類のプロセッサをノートPC向けに提供してきた。実際のカテゴライズは、熱設計の時に参照するピーク時の電力の値、いわゆるTDP(Thermal Desgin Power、熱設計消費電力)でわけられており、現行製品のHuron RiverではSVが35~55W、LV版が25W、ULV版が17Wというスペックになっている。

 このTDPの数字が大きければ大きいほど、シャシー側に大きめのファンを搭載するなど、熱設計をより高度にしなければいけないため、本体を薄くしたり小さくするのが難しくなる。このため、OEMメーカーによってはLVやULVを選択することで、より薄く、軽いノートPCを設計することが可能になっていた。ただしLVやULVは、SVに比べて電圧が下げられているので、クロック周波数が低くなり、性能面ではハンディキャップがある。

 Chief River世代でこのうちLVを廃止し、SVとULVのみを残す決断をした。かつ、呼び方もSVはSP(Standard Performance、標準性能版)、ULVはUltra(ウルトラ版)と変更し、新しい製品カテゴライズを行なうことをOEMメーカーに求めている。つまり、今後IntelノートPCは、標準的なノートPCと、薄型のUltrabookという2種類のカテゴリに集約していく戦略になる。この流れはCheif Riverの後にも続き、Haswellを中心とした2013年のプラットフォームになる「Shark Bay」、さらにその後継となる「Crescent Bay」以降においても、SPとUltraという2つのカテゴリでのみ製品が展開される予定だ。

【図3】ノートPC向けにおけるカテゴライズ(Chief River以降は筆者予想)

 このことを反映して、Ivy Bridgeの製品型番もそれを反映した形になっている。Sandy Bridge世代までは、ノートPC向け製品の最後のアルファベットには必ず「M」がつく形になっていた。しかし、Ivy Bridge世代では、Ultra(ウルトラ版)の方は「U」、従来のSVとなるSP(標準性能版)にはMがつく形になり、明確に区別されるようになる。

【表2】Ivy BridgeのSKU(筆者予想)
標準性能版

コア数/スレット数ベースクロック1コア時2コア時4コア時内蔵GPUベースクロックターボ時L3キャッシュメモリTDP
Core i7-3920XM4/82.9GHz3.8GHz3.7GHz3.6GHzGT2650MHz1.25GHz8MBDDR3/DDR3L-160055W
Core i7-3820QM2.7GHz3.7GHz3.6GHz3.5GHz45W
Core i7-3720QM2.6GHz3.6GHz3.5GHz3.4GHz
Core i7-3520M2/42.9GHz3.4GHz-35W
Core i5-3360M2.8GHz3.5GHz3.3GHz-1.2GHz
Core i5-3320M2.6GHz3.3GHz3.1GHz-
ウルトラ版

コア数/スレット数ベースクロック1コア時2コア時4コア時内蔵GPUベースクロックターボ時L3キャッシュメモリTDP
Core i7-3667U2/42GHz3.2GHz3GHz-GT2350MHz1.15GHz4MBDDR3/DDR3L-160017W
Core i7-3427U1.8GHz2.8GHz2.6GHz-3MB

 なお、Intelはローエンド向けの製品でSandy Bridgeコアの継続を決めている。来年( 2013年)の前半までは、PentiumやCeleronといったローエンド向けのプロセッサは、Sandy Bridgeのまま据え置かれ、Ivy Bridgeベースの製品は投入されない。このため、Chief River用のチップセットであるPanther Pointは、Ivy BridgeだけでなくSandy Bridgeにも対応している。

 ただし、Ivy Bridgeの出荷はIntelが思っていたようには順調には進んでいない。OEMメーカー筋の情報によれば、もともとIvy Bridgeの製品発表は4月上旬にクアッドコアが、5月の半ばにデュアルコアが計画されていたが、その計画は2月の半ばに突然変更され、チップセットは4月上旬に予定通り発表されるが、クアッドコアが4月下旬、デュアルコアは6月上旬のComputex Taipeiの直前に変更されると通知されたのだという。

 その理由についてIntelは詳しくは語っていないということだが、想像できるのは新しい22nmの立ち上げの予定がやや遅れているということだ。こうした遅れは新しいプロセスルールでは毎回起こっており、実際32nmや45nmでも若干の遅れがでた。Intelの場合、世界中のOEMメーカーに必要なだけの数を1度に用意する必要があり、その数は他の半導体メーカーの比ではない。従って、その十分な数を確保できるまで若干遅らせることにしたと考えるのが妥当だろう。

●2012年の末までに40%をUltrabookに、2013年末には60%をUltrabookへ急速にシフト

 OEMメーカー筋の情報によれば、IntelによるUltrabookの定義は基本的にはHuron River世代の延長線上に据え置かれる。本体セットの厚さは、14型以上の液晶を搭載した製品は薄さ21mm以下、14型未満の液晶を搭載した製品は薄さ18mm以下、バッテリ駆動時間はMobileMark 2007での計測で最低5時間で8時間以上を推奨、S4(ハイバネーション)からの復帰が7秒以下、Wi-Fi搭載という基本線は変わっていない。

【表3】Ultrabookの定義(Chief Riverは筆者予想)

Huron River世代Chief River世代
プロセッサSandy BridgeIvy Bridge/Sandy Bridge
高さ14型以上21mm以下21mm以下
14型未満18mm以下18mm以下
注記-コンバーチブルデザインは+2mm
バッテリー駆動時間5時間以上/8時間奨励(MobileMark2007)5時間以上/8時間奨励(MobileMark2007)
応答性S4からの復帰が7秒以下S4からの復帰が7秒以下
PCMark Vantage HDDが規定値以上
I/OWi-Fi内蔵Wi-Fi内蔵/USB3.0
セキュリティAnti-TheftがBIOSで有効Anti-TheftがBIOSで有効
ATのISPによるサービスをプリロード
Intel IPTミドルウェアをプリロードIntel IPTミドルウェアをプリロード

 そうしたHuron Riverでの基本線に加えて、PCMark VantageでのHDDスコアの規定や、USB 3.0の標準搭載、Intel Anti-Theftサービスの標準ロードなどを加えており、応答性や持ち運び時のセキュリティへの配慮を強める計画だ。

 Intelは今後Ultrabookの比率をさらに高めていくとOEMベンダーに説明している。Intelは昨年のComputex TaipeiでUltrabookの計画を発表したときに、「2012年の末までにコンシューマ向けノートPCの40%をUltrabookにしたい」(Intel 上級副社長兼中国Intel会長 ショーン・マローニ氏)と具体的な目標を語っている。OEMメーカー筋の情報によれば、Intelは2013年にChief Riverの後継として投入するShark BayプラットフォームではUltrabookの比率を60%まで高めたいと説明しているという。

 このように、急速にUltrabookへのシフトを進めるのがIntelの基本的な戦略であり、昨日(3月14日)の記者会見でIntel日本法人が説明した数々のマーケティング計画も、そうしたIntelの基本戦略を後押しするものだと考えるべきだろう。

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(2012年 3月 15日)

[Text by 笠原 一輝]