笠原一輝のユビキタス情報局

プロ/アマ問わず写真や動画をアップして収益が得られるAdobe Stockコントリビューターの狙い

Adobe Systems Adobe Stockコンテンツ戦略担当 スコット・ブラウト氏

 Adobe Systems(以下Adobe)は、クリエイター向けサブスクリプション型のCreative Cloudなどのクラウドを活用したサービス、ツールの充実を急いでいる。近年ではCreative Cloudの基本機能としてクラウドを活用した同期ツールとなるCreative Syncを利用して、Creative Cloudのデスクトップアプリとモバイルアプリの連携などを可能にしている。

 そうしたクリエイター向けのクラウドベースのもう1つのサービスとして、Adobeが提供しているのが「Adobe Stock」だ。

 Adobe Stockは、Adobeがコンテンツ制作者向けに提供しているストックフォトサービス(写真の商用利用権などを販売)で、これまでは主にAdobeが用意したコンテンツを中心に提供されてきたが、9月21日より「Adobe Stockコントリビューターサイト」のパブリックベータプログラムが開始され、Adobe IDがあれば誰でも写真を投稿し、利用権を販売可能になったのだ。

 そうしたAdobe Stockの現状などに関して、同社Adobe Stockコンテンツ戦略担当のスコット・ブラウト氏に話を伺ってきたので、紹介していきたい。

Creative Cloudのデスクトップアプリとの相性が良いAdobe Stock

 Webサイトを作る場合など、自前で写真といった素材を用意できればいいのだが、それで適当な素材を用意できない場合には、権利処理が行なわれた写真を手に入れる必要がある。カメラマンなどに利用権を払って入手すればいいが、それが難しい場合には、ストックフォトサービスを活用すると、比較的リーズナブルな価格で高品質な写真を自前のコンテンツに利用できる。

Adobeの現在の主力製品は、クラウドベースのサブスクリプション型サービス「Creative Cloud」。Photoshop CCやLightroom CCなどのデスクトップアプリとモバイルアプリ、クラウドベースのサービスが月額ないしは年額料金ベースで提供される
Creative Cloudの中核をなしているのがクラウドベースの同期機能となるCreativeSync

 Adobe Stockもそうしたストックフォトサービスの1つで、ブラウト氏によれば「2015年に買収したFotoliaをベースに発展しており、5,500万の画像とビデオを有している」という。ストックフォトサービスの中でも大規模で主要なものの1つとなっている。

Adobeが提供する「Adobe Stock」
Adobe Stockのサイトイメージ。利用者はキーワードで検索して目的の画像や動画を探すことができる

 ブラウト氏によると、Adobe Stockのほかのサービスと比べた場合のメリットは、同社が提供しているサブスクリプション型のコンテンツクリエーションソフトウェアスイートとなるCreative Cloudのアプリ(Photoshop CCやLightroom CC)から、直接Adobe Stockのコンテンツを試したり、購入したりできることだという。

 一般的なストックフォトサービスの場合、お試し版のウォーターマーク入りの写真をダウンロードして、Photoshop CCやLightroom CCなどで処理して、自分のコンテンツに組み込んで見栄えなどを確認してから、ライセンスを購入して正規版のコンテンツをダウンロードという手順で行なわれることが多い。この場合、ライセンスを購入した後に、正規版をPhotoshop CCなりLightroom CCなりで再度処理をし直す必要がある。

2016年9月のアップデートでコンテンツの増加、Photoshop CCなどのデスクトップアプリからの利用機能などが追加された
Adobe StockのWebサイトで目的の画像を検索しているところ
Photohop CCでAdobe Stockの画像をサンプルとして開いているところ、ライセンスを得る前はこのようにウォーターマークが入っている。
Photoshop CCなどから直接Adobe Stockのライセンスを取得することができる
ライセンスを取得するとウォーターマークは消える。テスト>加工>ライセンスの入手>本番コンテンツの活用という一連の作業が、全てCreative Cloudのデスクトップアプリから可能になる

 しかし、Adobe Stockの場合には、「試用版で処理した後で、ライセンスを購入するとウォーターマークが自動で消えて、そのまま正規版と利用できる」(ブラウト氏)と、Creative Cloudのデスクトップアプリで、試用版のダウンロード→加工→ライセンスの購入→本番コンテンツとして活用というプロセスが、シームレスでできるのが特徴となる。

Adobe Stockを通じて誰もが画像や動画の利用権を販売できるコントリビューターサイト

 そうしたAdobe Stockのサービスだが、これまではAdobeが用意してきたコンテンツが販売されるだけだったが、9月21日から新たに「Adobe Stockコントリビューターサイト」のパブリックベータプログラムが開始され、これまでは会員がAdobeが提供する写真を購入するだけだったAdobe Stockに、一般のコントリビューター(投稿者)が写真の利用権を販売する機能が追加されたのだ。

Adobe Stockにコントリビューターの機能が追加された

 「コントリビューターになるにはAdobe IDを使ってアカウントを作るだけ。作ってしまえば誰でも写真を投稿して、その利用権を販売できる」(ブラウト氏)との通りで、実際Adobe Stockのコントリビューターになるのは、非常に簡単だ。筆者も自分のAdobe IDを使って試してみたが、Adobe StockのサイトにAdobe IDでログインし、販売というタブをクリックして、ライセンス条件などに同意するだけで、数クリックであっという間に登録できた。ただし、実際にアップロードして写真を販売するには、最初の写真のアップロード完了後に運転免許証などの身分証明書のアップロードが別途必要になる。

Adobe IDを既に持っていれば、画面に表示される質問に答えていくだけで簡単にコントリビューターとしての登録が完了する
最初の写真をアップロードして審査してもらうには運転免許証などの身分証明書のアップが必要になる

 あとはアップロードすればいいのだが、アップロードした後「Adobeの担当者によってAdobe Stockに相応しい品質の写真であるか、商用利用に問題がないかなどが審査される」とのことなので、実際にはその後Adobeの審査を経て問題がなければ公開され、グローバルのユーザー向けに販売されることになる。

 言うまでもないことだが、Adobe Stockのようなストックフォトサービスに写真を公開するということは、商業媒体などで商用利用される可能性がある。このため、例えば人物の写真などを公開する場合には、その人物の肖像権利用許諾書(モデルリリース)などを取得しておく必要があり、そうしたことも含めて審査がされる。また、写真のクオリティが商用利用に適さないと判断された場合にも、審査が通らない場合がある。つまり、販売する写真としては、それなりの質の写真が必要になるということだ。

アップロードはWebブラウザからも行なうことができる
必要とされている写真のジャンル
商用利用もされるので、肖像権の問題などをクリアーにしておく必要がある

  ブラウト氏によれば必要とされている写真は「動物、建築物、ドリンク、ライフスタイル、スポーツ、テクノロジ、旅行、ビジネスなど」とのことで、結構多彩な写真が必要とされているようだ。写真、イラストや、ベクターデータといった画像に加えて、動画も投稿できる。その画像や動画が利用された場合の取り分は「画像の場合は33%、ビデオの場合は35%のロイヤリティが支払われる」とのことで、これはストックフォトサービスとしては一般的なロイヤリティだとした。

Adobe Stockのロイヤリティー配分

コントリビューターサイトへの投稿はLightroom CCなどのデスクトップアプリから直接可能に

 こうしたAdobe Stockコントリビューターサイトのもう1つの特徴は、投稿をWebブラウザベースだけでなく、Bridge CCやLightroom CCなどのCreative Cloudのデスクトップアプリからもできることだ。

Adobe Stockコントリビューター向けのアップデート
Bridge CCからのアップロード

 例えば、Lightroom CCを利用する場合には、公開サービスという機能を利用して写真をAdobe Stockにアップロードできる。方法は簡単で、アップロードしたい写真を選んで、右側のペインに表示されている「Adobe Stockへ送信」にドラッグ&ドロップするだけだ。

Lightroom CCからAdobe Stockに直接アップロードできる
アップロードした写真はクラウド側でマシーンラーニングされて自動でタグづけされる
Lightroom CCのスプレーツールを利用すると、1つの写真のタグをほかの写真にスプレーを利用して簡単にコピーできる

 ユニークなのは、この時に特にユーザーが何もしなくても、サーバー側のマシンラーニング(機械学習)を利用して写真を解析し、自動でタグを付ける機能が用意されていることだ。このタグというのは、Adobe Stockで写真の利用権を買おうと思っているバイヤーが、写真を検索する時に利用するキーワードで、このタグが正しければ写真の利用権を買おうと思っているバイヤーに見つかりやすくなる。既に、5,500万イメージがAdobe Stockには用意されているので、その中から自分の写真が買われるにはタグ付けが非常に重要なのは言うまでもないのだが、膨大な枚数をアップロードしようと思っているユーザーにとっては、ある程度は自動でやってくれると嬉しいだろう。

 また、Lightroomにはスプレーツールと呼ばれる機能が用意されており、それを利用すると、1つの写真に付けたタグをほかの写真にまとめてコピーといった使い方もできる。

 なお、Adobe Stockの機能は、現状ではiOSやAndroid用のモバイルアプリ(Photoshop FixやPhotoshop Mixなど)からは利用できないが「将来的にはそうしたことも検討している」と、ブラウト氏はさほど遠くない未来にモバイルアプリからも利用できるようにする計画があるとした。

プロだけでなくアマチュアのフォトグラファーも世界に向けて写真の利用権を販売可能に

 Adobe Stockのコントリビューターになっても、写真の著作権そのものをAdobeに対して譲り渡すという形ではなく、あくまで著作権はコントリビューターが維持しながら、その利用権だけをAdobe Stockの利用者に対して販売するという形になる。

 ブラウト氏は「こうしたサービスにより、フォトグラファーにとって新しいチャンスになる。より容易に利用権を、グローバルに販売できるため、日本の顧客だけでなく、世界中のStockユーザーに買ってもらうことが可能になる」と述べ、フォトグラファーにとって、従来であれば日本の顧客に販売して終わりだった写真を、世界中に売ることで新しいビジネスチャンスに繋がるとした。

Adobe StockのWebサイト

 重要な事は、Lightroom CCやBridge CCなどから直接投稿できることだ。あまりITに詳しくないフォトグラファーであっても、Lightroom CCやBridge CCなどには慣れ親しんでいるという人は少なくないだろう。Lightroomから写真をドラッグ&ドロップするだけですぐに公開できるというのがAdobe Stockの強みで、そこは新しい収益源を探しているプロのフォトグラファーにとって注目したい点だと思う。

 Adobe StockのコントリビューターにはAdobe IDさえ持っていれば誰でもなることが可能だ。このため、カメラは趣味でやっていて、Creative Cloudのフォトグラフィプランを契約しているなどのアマチュアカメラマンでも、ちょっとしたお小遣い稼ぎの手段として使える可能性がある。既に述べた通り、Adobeのスタッフによる審査があるので、アップロードした写真が全て採用されるというわけではないが、それでもトライしてみる価値があると言えるのではないだろうか。