藤山哲人と愛すべき工具たち

猛暑に備えて超冷却。PCのファンを25cmの換気扇に換装する【後編】

~ファンコン&エアインテーク追加で20℃減温可能に

本連載では、家電製品から実験機器の製作、プログラミングなど、幅広いジャンルで活躍するテクニカルライター藤山哲人氏がさまざまな工具をレビューしたり、多少無茶なことにチャレンジしたりしていきます。

今度はマジメにエアフローまで考えて、超冷却換気扇マシンを作るぜ!

【前回までのあらすじ】 PC内部に低気圧が発生し、紙の資料を巻き込む台風となってしまった換気扇PC。さらには高速回転する大型ファンのため、まるで飛行場か!と思うほどの爆音だった!(前回の記事: 猛暑に備えて超冷却。PCのファンを25cmの換気扇に換装する【前編】)

風量はこれ以上に望むものはない、最高の仕上がり!しかし爆音がたまキズ

 爆音以上に回収できるのは冷却効率の高さ。空冷で-10℃以上の効率をたたき出せるので、「ネタ」で作ってみたとはいえ、筆者的にちょっと一安心(笑)。

驚くべき冷却効率。どうだ?ほしくなるだろ? 音を聞かなければな……

 風を見るためにヒモをつけてやったところ、ウチの猫の絶好のオモチャに変身! ものすごい風に立ち向かいながら遊ぶ。しかし反面で、PCの周りに置いてある資料が全部吸い込まれて、PCにくっつくという事態に。

 この惨事を回避するべく、まずはファンコントロールを作ってみた。

100Vの換気扇なので100Vのファンコンを作ろう!

 PCのファンは電源の直流12Vで動くので、適当なファンコントローラを買ってきて、そこにファンのコネクタを差し込めば、回転数を自在に変えられる。

 しかし回転数を変えられる換気扇なんてのは、業務用を探してもネェ! あっても強弱の2段階を切り替えられる程度だ。換気扇、ショボイなぁ~。とはいえ扇風機ですら、微風、弱、強の3パターンぐらいしか切り替えられないのが現実だ。微妙に風を調整できるのは、ここ3年ほどで登場してきたDC扇風機だけ。

600円で買えるトライアック式の調光器キット。キット自体は安いけど、アルミケースやらコネクタやら電線やらいろいろ買うと、4,000円ぐらいになっちゃう。まあでも爆音でまわるよりはイイ

 しかし! われわれホビイストの強い味方、秋葉原の秋月電子には「トライアック万能調光器キット(20Aタイプ)」なるものが販売されている。これを使うと、調光ができないタイプのLED電球や換気扇・扇風機、白熱電球や半田ごても明るさなどを調整できる(ハズ!)。

 ただ調光できないLEDと扇風機などのモーターは、かなり無理くり感があるので、PC用のファンコンのようにスムーズな回転数の調整は難しいと思ったほうがいい。トライアックの仕組みは、組み立て説明書によればこんな感じ。

コンセントの交流の波形を一部カットして、事実上の電圧を下げるというアプローチ。換気扇などは、あまり電圧を下げちゃうとまわらなくなっちゃう

 電圧や電流を変えるのではなく、交流の波形の一部をカットすることで、フルの状態から弱にしていくようになっている。なので半田ごての温度や、白熱電球の明るさを変えるのはスムーズだが、モーターの強さやLEDの調光用に使うと、モーターがうなったり、LEDがチラついたりする場合がある。

この部品がボリューム。添付品は250kΩだが、5kΩを別途購入(100円もしない)して交換すること

 なおこのキットには、制御用の250kΩボリュームが添付されている。しかし換気扇の制御用に使うには、この抵抗は大きすぎるので5kΩのボリュームを別途購入しよう。かなり回転数の幅がせまくなるが、250kΩのボリュームを使うと、最後の20度ぐらいでしかファンがまわらず、回転数の調整が、パチンコの釘を調整するぐらい微妙になってしまうので注意。

背の低い部品から半田付けするのがセオリー

 キットの製作は、半田付けができればそれほど難しくない。ただキットの部品を差す穴すべてに部品が差さらない。2個の部品はキットに添付されていない別売品。これらを購入する必要はないが、別の部品をこれらの穴に差さないように注意しよう。

説明書に抵抗のカラーコードの読み方、部品の±の見分けかたなど書いてあるので、しっかり読んでじっくり作る!

 抵抗値が読めなくても、説明書にカラーコードが示されているので問題ない。ただ似たような部品も多々あるので、説明書をしっかり読んで作ること。なにしろコンセントに差しこむ回路なので、間違ったりするとパーン! と大きな音を立ててショートしかねない。

電線類は、アロンアロファで基板に固定する。じゃないと作ってる間に、電線に疲労が溜まって断線しやすくなる

 基本的な作り方を説明すると、背の低い部品(抵抗)から半田付けするのがセオリー。最後に黒い半導体を取り付け、別売のヒートシンクもつけるといい。

これで基板の完成!CF1とC1は部品別売で、さすものがない

 完成したら100Vの入出力の部分に、テスターを当ててショート(ショートしていると音がなるモード。抵抗モードについているはず)していないことを確認しよう。

ここで使用した工具

半田ごて
購入価格:1,500円
電子工作用なら20~30Wがオススメ。使う半田は、電子工作用のもの
ニッパ(ホーザン)
購入価格:1,500円
刃を合わせて店の蛍光灯に透かして、ピッタリ刃のあってるものなら安くても大丈夫

100Vを扱うので必ずケースに入れる!

 回路ができたらケースに入れる。直流12V程度なら基板の裏にダンボールを貼って絶縁し、回路むき出しで使ってもいいが、今回はコンセントの100Vを扱う回路。なので最低でも、100円ショップで売ってるタッパーウェアを使おう。ここでの工作で使ったのは、アルミケースだが、5インチベイに入るケースをアクリルなどで自作してもいいだろう。これならすごく一体感が出て仕上がりもきれいだ。

TAKACHI(タカチ)のMB-3はどこでも手に入る(電気部品を扱う店なら)。だいたい800円ぐらい。安けりゃ500円ぐらいから。ここに下書きをしていく

 使ったケースは、TAKACHI(タカチ)のMB-3。スゲー、メジャーなケースなので、電子工作関連の品を売ってる店ならどこでも手に入る。

 基板に比べると物凄く大きな感じがするけど、ちょっと大きいかな?というぐらいがイイ。初心者でやっちゃいがちなのは、小さいケースを買ってしまい、スイッチやボリュームなど飛び出した部分が基板に当っちゃうという点。

まずは基板や部品を乗せてみて、だいたいのレイアウトを決める。右利きなら操作系を右に寄せたほうがカッコイイし使いやすい

 まずは取りつける部品の数々をケースの上に乗っけたり、入れたりしてだいたいのレイアウトを決める。今回はスイッチ、ボリューム、パイロットランプ(ネオン管100V AC)が上部に、背面にコンセントの入出力を取りつける。

ケビキした中心にドリルで穴を開ける

 背面の四角い穴は、ハンドニブラという工具で開けると効率がいい。まずは定規やノギスという測定器を使って、取り付け穴の位置決め。

 その後、ケビキという針を使って、アルミケースの内側から軽く傷をつけながら線を引く。もちろん極細マジックを使ってもいいのだが、マジックだと最低でも0.1mmの幅が出てしまうので、線の中心が基準なのか、外か内側かを決めておこう。ケビキなら針なので、ほとんど幅がでないので、面倒な基準を考える必要はない。ケビキが終わったら、サイドパネルに穴を開けたときと同様に、ハンドニブラの刃を入れるための穴を開ける。

これがハンドニブラ。四角い穴を開けるときに、革命的な便利さ!1mm厚ぐらいのアルミならスイスイ切れる

 もしハンドニブラがない場合は、ケビキの線に沿ってドリルで何本も穴を開けるか、ジグソーで穴を開ける。どちらも一長一短あり、小さい四角い穴を開けるのはたいへんなのでガンバレ!

ゲビキに合わせて切断していく。オレこの作業大好き!

 ハンドニブラの場合は、刃をドリルの穴に差し込んだら、レバーを握りアルミ板を少しずつ食いちぎっていく。刃が直線になっているので、自然に四角い穴が開くというわけ。ただし最初からケビキした穴の大きさを開けると、切り口がガタついたり、きれいに仕上がらないので、少し小さめ(0.2~0.5mmほど)に開ける。

ハンドニブラの刃先。これで5mm×1mmずつ食いちぎっていく

 穴を開け終わったら、ヤスリでキレイに仕上げるといいだろう。またヤスリを少しかけつつ、部品を当てがってみて大きさの調整や、出っ張りの修正などをするといい。

だいたいの穴が開いたら、ヤスリで仕上げ
部品を軽く差してみて、当る部分を調べつつヤスリを4、5回かけて穴を微調整

 上面のボリュームとスイッチ、パイロットランプは丸穴なので、ドリルとリーマで穴を開け、部品を取りつける。なお必須工程ではないが、ドリルで穴を開けると裏面にバリが立ってしまう。そんなときは、バリ取りナイフと呼ばれるもので、バリを切り取るときれいな仕上がりになる。

上部の部品は、ドリルとリーマで穴開けして固定。丸穴の部品は簡単につけられる

 基板はアルミケースから浮かせて取りつける。5~10mmのスペーサーという部品を使う。これで基板をアルミケースから浮かせれば、ショートしない。

スペーサーという部品で基板を持ち上げて固定。これでショートしない。心配なら基板の下にガムテープでも貼っておくといい

 最後に部品と基板を配線して、ケースを組み立て。コンセントの入力と出力それぞれ、ショートしていないかチェックして完成だ。

内部の配線は、基板に当らないように考えてする
上面の完成。キチントやるならPCでレタリングを作ってやるといい
電源部分。右がコンセントを差しこむ側(ヒューズつき)。左は出力側になっている

ここで使用した工具

ケビキ針
購入価格:1,500円
金属に直接下書きする針。金属にキズをつけて線を引く。精度の高い工作では必須
ハンドニブラ(ホーザン)
購入価格:3,500円
アルミ板などに四角い穴を開ける道具
ヤスリ
購入価格:1,000円
金属用。細かい~仕上げ用
バリ取りナイフ(ホーザン)
購入価格:1,000円
ドリルで穴を開けたときなどに出るバリを取る専用のナイフ
ノギス(シンワ)
購入価格:3,000円
0.1mm単位で長さや直径、内径などを離れる測定器

PCのファンコンほど幅広く回転数を制御できないがイイ感じ

 さてファンコンを実装してみたところ、「なんとなく」回転数は変化できているが、PCのファンコンほど回転数のレンジも広くなくイマイチ!(あっちゃー!失敗認めちまった!)

 なにせ換気扇はACモーターなので、DCモーター扇風機みたいに超ゆっくりから、爆速まで回転できない。したがってファンを低速側にしてみたが、やっぱりPC内部に低気圧が発生。まわりのものをすべて吸い込んでしまう、ブラックホール化は避けられなかった。

うーん!ファンコンでそんなに回転数下げられず、低気圧の発生は抑えられなかった……

 だか! ノーアイディアのオレ様で終わることはない!宇宙戦艦ヤマトの真田工場長は、「お前は預言者かっ!」というぐらい「こんなこともあろうかと!」といろんな武器を作っていた。無論オレだって真田工場長にあこがれているオッサン。そんなこともあろうかと!と、先手は打ってある。

どや!120mmの配水管からグイグイ、空気吸ったるで~!

 それは、ドでかいエアインテークを作って、マシンのすき間のアチコチから吸気させるのではなく、インテークから一気にエアを吸い込んでやろうという魂胆だ。

フロントパネルからの吸い込みでCPUとGPUを冷却するエアフロー

 ここまでの工作は、空気の通り道いわゆる「エアフロー」を考えて、まじめに作る工作じゃなかった。なんとなく換気扇がつけたかっただけ(※編注:いやいや、編集部の立場ってもののあるんで、ここで白状しないでくださいよ!)。

 なのでここから本気出す! 吸い込んだ涼しい空気をCPUとGPU、それからマザーボードのチップセットあたりに当てて、奪った廃熱を側面の換気扇から吐き出すのだ!

 そのためまずは、フロントパネルにデカイ穴を開ける。そのためにつかうのは、自由錐(キリ)というもの。

ドリルの先にくっつけて使う自由錐。キレイなでかい穴を開けられるが、時間がかかる。あとコツもちょっとある

 一般的なフロントパネルは、プラスチックでできているが、Antecのこの筐体は、なんと鉄板が貼ってあるハイブリッド。Antecさんには、悪いが見た目悪くてもいいから、フロントパネルぐらいプラスチック製にしやがれ! なのだ。

こうして少しずつ削って穴を開けていく。焦らずゆっくり穴あけするのがポイント

 なのでここで使った自由錐は、鉄工用のものを使う。鉄工用は刃が1本5,000円ぐらいして高いが、プラスチック専用だと2,500円ぐらいで買えるはず。使い方は簡単で、自由錐をドリルにセットして、刃を開けたい穴の大きさまで広げるだけ。あとは少しずつ刃を入れて行き、大穴を開ける。

裏からも自由錐の刃を入れていき切断。~12cmぐらいの穴なら一番正確でキレイに穴あけできるのが自由錐

 鉄板やプラスチックの半分ぐらいまで刃が入ったかな? と感じたら、裏面からやるとより早くきれいに穴が開く。ここでのNGは、あせって力を無理やり加えて削ると、きれいな穴が開かないという点。気長に少しずづ削っていれば、まあ30分~15分ぐらいで穴があくはずだ。

小さいL字金具でエアインテークを固定
シリコンのコーキング剤を使って、エアを吸わせたくない穴などを塞いでいく

 これで機能的には、エアフローも考慮した冷却システムになっているが、デザイン的にちょっとダサい。なので今回、昭和の時代のトイレの換気についていた、ベンチレータを使ってみた。

エアが通っている場合は、ベンチレータがクルクル回る
ファンコンも備えてカッコイイ!

 なので直角に曲がる塩ビの配水管を使い、ここにトイレのベンチレータを差しこむ。すき間は発泡ゴムやドアのクッションで埋めるといいだろう。

 そして換気扇をフル回転で動かすと、猛烈にペンチレーターがまわりはじめ、空冷しているのがとくわかるようになった。

 このマシンに命名しよう! プリティなペンチレーターが象にソックリ!なので、「えれファンと」という名を授ける!

超爆風冷却マシンの完成
完成版「えれファンと」の様子

ここで使用した工具

自由錐(神沢)
購入価格:8,000円
ドリルにつけて自由な大きさの穴を開けられる。対応する穴は3~12cm程度。プラスチック用刃2,500円ぐらいから、金工用は刃が高いので8,000円ぐらい

ベンチマークの結果がスゲェ! -20℃以上のクールダウン

 エアインテークの集中化、そしてエアフローを考慮した結果は、ベンチマークの結果にそのまま反映された。ベンチマーク時実行直後の温度は、ノーマルのファンに比べると最高で-20℃以上冷却でき、GPUでも10℃違いの冷却が可能。しかもエアインテークを設ける前と後でも、軒並み10~5℃前後の冷却ができるようになっている。

ノーマル:OCCTクールダウン前
エアインテーク+換気扇:OCCTクールダウン前

 もちろんクールダウン後の冷却性能もすばらしく、対ノーマルでおよそ20℃(最高は26℃)、対エアインテークなしで10℃の改善が見られる。

ノーマル:OCCTクールダウン後
エアインテーク+換気扇:OCCTクールダウン後

 ファンコントローラとエアインテークの増設で、ファンの爆音をやや抑えることも可能になりつつ、実行中はほぼ10℃、高負荷の後も一瞬にして最大-26℃の冷却が可能になる。

 もうこれはバカ売れして、筆者が億万長者への道を約束されししもののようだが、なにせマシン1台1台の「職人藤山の一品モノ」。どうしても僕のマシンを改造してほしいという方は、PC Watch編集部までご一報ください! “時価”にて承ろう。

「えれファンと」完成

 最後に「えれファンと」をちょっとオシャレにデコってみた。