■多和田新也のニューアイテム診断室■
NVIDIAは3月15日、GeForce 500シリーズのミドルレンジGPU「GeForce GTX 550 Ti」を発表した。実売15,000円前後という普及価格帯のビデオカードとなるだけに注目される製品だ。すでに自作ショップ等々で販売も開始されているが、そのベンチマーク結果を紹介したい。
●「1GB」の容量を6枚のチップで実現する仕様発表時のニュース記事でもすでに紹介されているが、ここでも簡単にGeForce GTX 550 Tiの仕様を表1にまとめた。
GeForce GTX 550 Ti | GeForce GTS 450 | GeForce GTX 460 1GB | GeForce GTX 460 768MB | GeForce GTX 560 Ti | |
GPUクロック | 900MHz | 783MHz | 675MHz | 822MHz | |
CUDAコア/SPクロック | 1,800MHz | 1,566MHz | 1,350MHz | 1,644MHz | |
CUDAコア/SP数(SM数) | 192基(4基) | 192基(4基) | 336基(7基) | 384基(8基) | |
テクスチャユニット数 | 32基 | 32基 | 56基 | 64基 | |
メモリ容量 | 1,024MB GDDR5 | 1,024MB GDDR5 | 1,024MB GDDR5 | 768MB GDDR5 | 1,024MB GDDR5 |
メモリクロック(データレート) | 4,104MHz相当 | 3,608MHz相当 | 3,600MHz相当 | 4,008MHz相当 | |
メモリインターフェイス | 192bit | 128bit | 256bit | 192bit | 256bit |
メモリ帯域幅 | 98.5GB/sec | 57.7GB/sec | 115.2GB/sec | 86.4GB/sec | 128.3GB/sec |
ROPユニット数 | 24基 | 16基 | 32基 | 24基 | 32基 |
ボード消費電力(ピーク) | 116W | 106W | 160W | 150W | 170W |
仕様はGeForce GTS 450に近く、“GTX”のモデル名が付いてはいるものの、位置付けとしては事実上GeForce GTS 450の後継といえるだろう。もちろん、GF110シリーズの特徴である物理設計の最適化や、テクスチャ処理周りの改善がなされているほか、クロックも高まっており、パフォーマンスの向上を期待できる。
また、メモリインターフェイスはGeForce GTS 450の128bitに対し、192bitへと拡張された。この192bitという数字は32bit幅のグラフィックス用メモリを6枚使用することで実現している。GeForce GTX 460の768MB版が同じ192bit仕様であるが、この場合は1Gbitの容量を持つチップを6枚用いて768MBとなっていた。
しかし、GeForce GTX 550 Tiでは異なる容量のメモリチップを接続することをサポートした。この意味は“192bit 1GBモデル”を作り出せることにある。図1はNVIDIAの資料の抜粋であるが、このように2Gbit(256MB)×2枚、1Gbit(128MB)×4枚という異なる容量を組み合わせている。
まったく同一の環境で測定できない以上、具体的なパフォーマンスへの影響は明言できないが、解像度などの条件によっては768MBよりも1GBのほうが優れるケースはあるだろう。
ただ、それ以上にマーケットへのアピールが重視されたことは想像に難くない。コストへの視線も厳しくなる本製品のセグメントにおいて、同一容量のメモリチップしか利用できないとすると、コスト高を受け入れて2Gbit×6枚で1.5GBとするか、安価に1Gbit×6枚で768MBとするかはベンダーにとって難しい判断になる。この異容量混合サポートによって、コストと容量のバランスを取ったことは、マーケティング面での意味も大きいだろう。
【図1】異なる容量のメモリチップの利用をサポートすることで、192bitインターフェイスでありながら1GBモデルを実現できる |
今回テストに用いるのは、GIGABYTEから借用した「GV-N550OC-1GI」である(写真1)。2スロット占有タイプのクーラーを搭載した、オーバークロック仕様の製品である。クロックはコアが定格900MHzに対し970MHz、シェーダが定格1,800MHzに対し1,940MHz、メモリクロック(データレート)が定格4,104MHzに対し4,200MHzへ引き上げられている(画面1)。後述のベンチマークにおいては、定格動作させた場合もテストする。
ブラケット部はDVI-I×2とMini HDMI×1で、最近のGeForceシリーズのリファレンスデザインで一般的となってきた構成(写真2)。また、SLI端子を1つ備えており、2-wayのSLIをサポートする(写真3)。
電源端子は6ピン×1を装備(写真4)。公称されている消費電力は116Wであり、6ピン×1は妥当な構成だ。GeForce GTS 450よりは10Wアップということになるが、実際にどの程度の差になるかはテストで見てみたい。
●1万台前半~中盤のミドルレンジ製品を比較
それではベンチマーク結果を紹介したい。テスト環境は表2のとおりで、比較には1万円台前半~中盤の製品を用意した。使用した製品は写真5~6で、GeForce GTS 450搭載製品はOC仕様であるところを、定格動作にダウンクロックしてテストしている。
ドライバはGeForceシリーズについては、レビューワ向けにNVIDIAから配布されたβドライバを、Radeon HD 5770は現在最新の公開ドライバであるCATALYST 11.2を用いている。
ビデオカード | GeForce GTX 550 Ti (1GB) GeForce GTS 450 (1GB) | Radeon HD 5770 (1GB) |
グラフィックドライバ | GeForce Driver 267.59β | Catalyst 11.2 |
CPU | Core i7-860(TurboBoost無効) | |
マザーボード | ASUSTeK P7P55D-E EVO(Intel P55 Express) | |
メモリ | DDR3-1333 2GB×2(9-9-9-24) | |
ストレージ | Seagete Barracuda 7200.12 (ST3500418AS) | |
電源 | CoolerMaster RealPower Pro 1000W | |
OS | Windows 7 Ultimate x64 SP1 |
【写真5】GeForce GTS 450を搭載するGIGABYTEの「GV-N450-1GI」 | 【写真6】Radeon HD 5770を搭載するGIGABYTEの「GV-R5770UD-1GD」 |
まずはDirectX 11対応タイトルの結果から紹介する。テストは、「3DMark11」(グラフ1)、「Alien vs. Predator DirectX 11 Benchmark」(グラフ2)、「BattleForge」(グラフ3)、「Colin McRae: DiRT 2」(グラフ4)、「Lost Planet 2 Benchmark」(グラフ5)、「Stone Giant DirectX 11 Benchmark」(グラフ6)、「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」(グラフ7)、「Unigine Heaven Benchmark」(グラフ8)の結果である。
おおまかに結果を見ると、定格クロックで比較した場合、GeForce GTS 450に比べて大きいところで3割近くの性能向上が見られ、全般的には1~2割といったところ。同一タイトルであれば、負荷が高まるほど差が開く傾向があり、このあたりはメモリインターフェイス改善の効果を見てとれる。一方、Radeon HD 5770と比べた場合は、得手不得手が分かれる結果となっている。
次にDirectX 9/10世代のベンチマークである。テストは「3DMark Vantage」(グラフ9、10)、「Crysis Warhead」(グラフ11)、「Far Cry 2」(グラフ12)、「Left 4 Dead 2」(グラフ13)、「Unreal Tournament 3」(グラフ14)だ。
こちらもRadeon HD 5770とは得手不得手が分かれており、Crysis Warhead、Left 4 Dead 2では大きく水をあけられる一方、Far Cry 2、Unreal Tournament 3では強さを見せる。3DMark VantageにおいてPixel Shaderの処理能力が問われるシーンでRadeon HD 5770が強さを見せる点について、GeForce GTS 450から性能が伸びた分だけ差が詰まるが、大局的には目立つほどではない、といったところだろうか。
全テストを俯瞰すると、GeForce GTS 450ではRadeon HD 5770に対して多くのタイトルで負けていたのに比べれば、GeForce GTX 550 Tiは対抗製品としての地位は持てる製品となった印象を受ける。
最後に消費電力の結果である(グラフ15)。過去のテストでも触れてきたがRadeon HD 5770の消費電力の低さは、このクラスとしては依然として光る。
主題であるGeForce GTX 550 Tiは、公称値ではGeForce GTS 450からプラス10Wということになるが、テスト結果では20W程度の差は覚悟する必要がある印象だ。一方で、定格仕様とオーバークロック仕様の差はそれほどでもなく、オーバークロック仕様の製品は消費電力のインパクトを小さく留めたまま定格モデル+αの性能を期待できるといえる結果となった。
【グラフ15】各ビデオカード使用時のシステム消費電力 |
●性能重視の性格が見られるミドルレンジ
このコラムでGeForce GTX 560 Tiを取り上げた際、GeForce GTX 460の後継というよりはGeForce GTX 570の下位モデルという見方が強いという意見を記した。今回のGeForce GTX 550 Tiは、価格面でも性能面でもミドルレンジGPUらしいもので、GeForce GTS 450の後継として妥当といえる製品であるという印象を受けている。
ただ、公称値と実測値の消費電力差は少し気になるところ。性能は上がったが、消費電力はそれ以上に上がってしまっているわけで、言い換えれば、性能をとるために消費電力を犠牲にするという、パフォーマンス重視の性格が見て取れる。
ただ、発表と同時にオーバークロック仕様の製品をリリースしたベンダーも目立つが、今回のGIGABYTE製品の場合、性能はおおむね5%以上の伸びを見せる一方で、消費電力は3%未満の増加に留まっている。この価格帯で消費電力よりも性能を重視したいというユーザーにとって、本製品のようなオーバークロック仕様モデルは有力な選択肢になるのではないかと思う。