■多和田新也のニューアイテム診断室■
日本AMDは5月9日、Radeon HD 6000シリーズのミドルレンジモデルとなる「Radeon HD 6700シリーズ」の新モデルを発表。先月発表されたRadeon HD 6790の下位モデルとなる製品だが、実態はRadeon HD 5700シリーズのコアを流用したマイナーチェンジモデルだ。この製品の特徴とベンチマーク結果を紹介したい。
●Juniperコアをベースとしたマイナーアップデート今回発表されたのは「Radeon HD 6770」と「Radeon HD 6750」の2モデルである。モデル名からもうかがえる通り、Radeon HD 5000シリーズの中でも特に人気を博した「Radeon HD 5770」と「Radeon HD 5750」の後継となるモデルだ(図1)。
【図1】これまでRadeon HD 5000シリーズが残っていたミドルレンジも、Radeon HD 6770/6750で6000シリーズへと移行する |
その主な仕様は表1にまとめた通り。ご覧の通り、仕様はほぼRadeon HD 5770/5750と同一。動作クロック、SP数などはまったく同じだ。
実際、Radeon HD 6000シリーズのこれまでの製品では「Northern Islandsファミリー」と呼ばれるコアが使用されてきたが、Radeon HD 6770/6750に限ってはRadeon HD 5700シリーズと同じ「Juniper」(EverGreenファミリー)が使用されている(図2)。
Radeon HD 6770 | Radeon HD 6750 | Radeon HD 5770 | Radeon HD 5750 | |
コアクロック | 850MHz | 700MHz | 850MHz | 700MHz |
SP数 | 800基 | 720基 | 800基 | 720基 |
テクスチャユニット数 | 40基 | 36基 | 40基 | 36基 |
メモリ容量 | 1GB GDDR5 | 1GB/512MB GDDR5 | 1GB GDDR5 | 1GB/512MB GDDR5 |
メモリクロック(データレート) | 4.8GHz相当 | 4.6GHz相当 | 4.8GHz相当 | 4.6GHz相当 |
メモリインターフェイス | 128bit | 128bit | ||
メモリ帯域幅 | 76.8GB/sec | 73.6GB/sec | 76.8GB/sec | 73.6GB/sec |
ROPユニット数 | 16基 | 16基 |
【図2】Radeon HD 6770/6750のポイント。「Based on the "Juniper" Series GPU」と書かれている通り、本製品はRadeon HD 5000シリーズと同一コアを用いている |
ただし、一部はアップデートもされている。1つはUVD周りで、ハードウェア的にUVD3には対応しないが、UVD2をファームウェアレベルでアップデートし、Blu-ray 3Dのハードウェアアクセラレーションをサポートした。もう1つ、HDMI端子も、Radeon HD 5770/5750がHDMI 1.3出力であったのに対し、HDMI 1.4aをサポートしている(図3)。
【図3】UVD2のファームウェアアップデートによるBlu-ray 3Dのハードウェアアクセラレーション、HDMI 1.4aへの対応が特徴となる |
今回テストに用いるのは、XFXから借用した「HD-677X-ZHLC」と「HD-676X-ZHLC」の2製品である(写真1、2)。先述の図に記載されているAMDのリファレンスデザインとはクーラーが異なっており、両製品ともシンプルなヒートシンクを搭載したモデルとなっている。ただし、いずれも2スロット占有タイプである点には注意を要する。
メモリチップはいずれの製品もエルピーダ製の「EDW1032BABG-50-F」が採用されており、表面に4枚、裏面に4枚で計8枚を搭載している(写真3、4)。最大で5GHz相当まで対応したメモリチップで、スペックからすると余力を持った選択といえるが、おそらく部材の共通化を目的として同一のチップになっているものと考えられる。
電源端子は両製品とも6ピン×1(写真5、6)。Radeon HD 6770/6750の消費電力は情報を持ち合わせていないため表に記載していないが、同一コアを同一クロックで動作させたモデルということで、Radeon HD 5770/5750から極端な増減はないと見るのが自然だろう。その意味で、Radeon HD 5770/5750同様に6ピン×1となっているのは納得できる仕様だ。ちなみに、Radeon HD 5770の消費電力はアイドル時18W、ピーク108W。Radeon HD 5750がアイドル時16W、ピーク86Wが公称されている。
ブラケット部は両製品ともDVI-I×2、HDMIの構成となっており、HDMIは先述の通りHDMI 1.4aをサポートしている(写真7、8)
【写真1】Radeon HD 6770を搭載する、XFXの「HD-677X-ZHLC」 | 【写真2】Radeon HD 6750を搭載する、XFXの「HD-676X-ZHLC」 |
【写真3】メモリチップは両製品ともエルピーダの「EDW1032BABG-50-F」。表裏各4枚ずつを搭載している | 【写真4】両製品の裏面。左が「HD-677X-ZHLC」、右が「HD-676X-ZHLC」 |
【写真5】Radeon HD 6770のボード末端部 | 【写真6】こちらはRadeon HD 6750のボード末端部 |
【写真7】HD-677X-ZHLCのブラケット部。DVI-I×2、HDMIの構成 | 【写真8】HD-676X-ZHLCのブラケット部。同じくDVI-I×2、HDMIの構成 |
●仕様通りRadeon HD 5770/5750とほぼ同一の性能
それでは、ベンチマーク結果を紹介しておきたい。テスト環境は表2に示した通りで、Radeon HD 5770/5750との比較を中心に、対抗製品といえるGeForce GTX 550 Tiのベンチマークも行なっている。使用した機材は写真9~11の通りだ。
ドライバはXFXのWebサイトにアップされていたRadeon HD 6770/6750対応の最新ドライバを使用。これはCATALYST 11.2ベースとなっている。GeForce GTX 550 Tiはテスト時点で最新のWHQLドライバをダウンロードしている。
ビデオカード | Radeon HD 6770 (1GB) Radeon HD 6750 (1GB) Radeon HD 5770 (1GB) Radeon HD 5750 (1GB) | GeForce GTX 550 Ti (1GB) |
グラフィックドライバ | 8.82-110112a-113815C | GeForce Driver 270.61 |
CPU | Core i7-860(TurboBoost無効) | |
マザーボード | ASUSTeK P7P55D-E EVO(Intel P55 Express) | |
メモリ | DDR3-1333 2GB×2(9-9-9-24) | |
ストレージ | Seagete Barracuda 7200.12 (ST3500418AS) | |
電源 | CoolerMaster RealPower Pro 1000W | |
OS | Windows 7 Ultimate Sevice Pack 1 x64 |
【写真9】Radeon HD 5770を搭載するASUSTeKの「EAH5770 CUCORE/2DI/1GD5/A」 | 【写真10】Radeon HD 5750を搭載するASUSTeKの「EAH5750 FORMULA/2DI/1GD5」 | 【写真11 GeForce GTX 550 Tiを搭載するASUSTeKの「ENGTX550Ti DC TOP/DI/1GD5」。OC製品であるが、定格動作へダウンクロックしてテストしている |
テストはDirectX 11タイトルが「3DMark 11」(グラフ1)、「Alien vs. Predator DirectX 11 Benchmark」(グラフ2)、「Colin McRae: DiRT 2」(グラフ3)、「Lost Planet 2 Benchmark」(グラフ4)、「Stone Giant DirectX 11 Benchmark」(グラフ5)、「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」(グラフ6)、「Unigine Heaven Benchmark」(グラフ7)。
DirectX 9/10タイトルが「3DMark Vantage」(グラフ8、9)、「Crysis Warhead」(グラフ10)、「Far Cry 2」(グラフ11)、「Left 4 Dead 2」(グラフ12)、「Unreal Tournament 3」(グラフ13)である。
全体としてRadeon HD 6770とRadeon HD 5750、Radeon HD 6750とRadeon HD 5750の性能差は、ほぼないという結果であるが、基本仕様が同じ製品間であるため妥当な結果といえるだろう。その意味で、特筆できるポイントはあまりない。
唯一、Left 4 Dead 2でのみ性能差が生じており、ややRadeon HD 6000両製品が良好な結果を見せた。ちょっと原因が分からないのだが、クオリティなどの条件を変えて比較しても、同様の傾向が出たため、このタイトルに限っては性能の向上を期待できそうである。
GeForce GTX 550 Tiに対する比較も、Radeon HD 5770/5750との差と同じ傾向ということになる。Radeon HD 6770はタイトルごとに得手不得手がある結果で、Radeon HD 6750はやや下のセグメントということもあり、全体に後塵を拝する結果となった。
最後に消費電力の測定結果である(グラフ14)。製品の個性にも左右されていると見られるが、Radeon HD 6770に関しては、Radeon HD 5770よりやや高消費電力化している。それでもGeForce GTX 550 Tiに対する省電力の優位性は揺らいでいない。Radeon HD 6750とRadeon HD 5750は差が小さい結果だ。
ちなみに、Radeon HD 6770のアイドル時の消費電力がほかに比べてかなり大きい。これは、アイドル時に他のRadeon製品がコア157MHz、メモリ300MHzまでダウンクロックされるのに対し、Radeon HD 6770のみがコア400MHz、メモリ定格のまま動作していたためだ。Radeon HD 6770の仕様としては腑に落ちないところもあり、使用したHD-677X-ZHLCに固有の現象ではないかと思われる。ビデオBIOSのアップデートなどで対処可能な問題であり、参考程度に捉えておいていいのではないだろうか。
【グラフ14】各ビデオカード使用時のシステム消費電力 |
●Radeon HD 5700シリーズの良さを再確認できる製品
ざっくり言ってしまうと、Radeon HD 5700シリーズと性能は同一で、ハードウェアが許す限り、ビデオ周りのアップデートを施したのがRadeon HD 6770/6750。これまでのRadeon HD 6000シリーズの良さとしてUVD3やビデオ出力周りの特徴が強調されてきたが、旧世代のコアを用いているために完全にUVD3相当にはなっていない点については、残念と言わざるを得ない。
Radeon HD 5770/5750は旧世代の中では、性能/電力のバランスの良さで特に人気を集めたモデルだ。そのコアを変えず、無難なアップデートで競争力を保てると考えたのだろう。どうせなら、このクラスに新コアを投入して欲しかったという気持ちは強いが、Radeon HD 5770/5750がそれだけ優秀な製品であると再確認できたともいえる。
次世代コアのSouthern Islandsファミリーの情報が聞こえてくる中、定評あるモデルで無難なアップデートを行なった製品がRadeon HD 6770/6750といえるだろう。