■福田昭のセミコン業界最前線■
今年(2011年)も、半導体ベンダーの売上高ランキングが調査会社によって発表される季節となった。半導体業界で最も良く知られているランキングは、米国のハイテク調査会社Gartnerによる売上高トップ10社のランキングである。2011年のランキング(予報版)は12月19日に発表された。
Gartnerのランキングでは、トップと2位は前年と変わらず米国のIntel(インテル)、韓国のSamsung Electronics(サムスン電子)である。3位と4位は順位が入れ換わり、米国のTexas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)、東芝の順になった。
5位~9位もすべて順位が変動した。5位はルネサス エレクトロニクスで順位を1つ上げた。6位の米国Qualcomm(クアルコム)は前年の9位から躍進し、順位を3つも上げた。7位のスイスST Microelectronics(STマイクロエレクトロニクス)、8位の韓国Hynix Semiconductor(ハイニックス半導体)、9位の米国Micron Technology(マイクロンテクノロジ)はいずれも順位を下げている。
DRAM価格下落の影響で半導体メモリのベンダーが順位を下げ、プロセッサやSoC(System on a Chip)などの半導体ロジックのベンダーが順位を上げていることが分かる。前年とは、まったく逆の傾向となった。
2011年の半導体ベンダー売上高ランキング(速報値)。2011年の世界市場規模は前年に比べて0.9%増の3,021億ドルとなる見込み。Gartnerが12月19日に発表した数値 |
●2010年の30%成長から、2011年は一転してゼロ成長へ
Gartnerのランキングは、トップから10位までしか公表していない。別のハイテク調査会社である米国のIC Insightsが11月4日に公表したランキングは上位20社をリストアップしているので、さらに詳しい状況が分かる。
IC Insightsのランキングでは、エルピーダメモリの絶不調とQualcommの好調さが目立つ。エルピーダメモリは売上高を前年に比べて39%も減らし、順位を6つも落とした。Qualcommは売上高を前年に比べて33%も伸ばし、順位を2つ上げた。エルピーダメモリの不調さはDRAM価格の暴落によるもの、Qualcommの好調さはスマートフォン市場の急激な拡大によるものだ。
2011年の半導体ベンダー売上高ランキング(速報値)。IC Insightsが11月4日に発表した数値 |
Gartnerの予測(12月19日発表)による2011年の世界半導体市場の成長率は0.9%成長、IC Insightsの予測(11月4日発表)は2%成長である。半導体ベンダーの業界団体であるWSTS(世界半導体市場統計)が11月29日に発表した予測値は1.4%成長であり、年末に近付くほど成長率の見込み値が下がっている。ちなみに2010年の成長率をWSTSは31.8%としているので、2011年は前年に比べて状況はかなり悪い。最終的には2010年とほぼ同じ市場規模に終わる可能性が少なくない。タイの洪水による影響が不安定要因として残るからだ。ひょっとしたら、わずかにマイナスとなるかもしれない。
●DRAMの不調が成長の足を強く引っ張る2010年に比べて半導体市場が様変わりしたのは、この年に50%もの成長を記録した半導体メモリが一転して、2桁のマイナス成長に陥ったからである。WSTSは半導体メモリを「MOSメモリ」と分類しているが、2010年の成長率は55.4%という物すごく高い値だった。ところが2011年はマイナス12.9%という、相当に大きな減少となる見込みである。
半導体メモリ市場は主に、DRAMとNANDフラッシュメモリで構成されている。マイナス成長の原因となっているのは、基本的にはDRAM市場とみられる。NANDフラッシュメモリ市場は成長を確保する見込みだ。
2000年~2012年の世界半導体市場推移。業界団体のWSTS(世界半導体市場統計)が11月29日に発表したもの。2011年の市場規模は前年に比べて1.4%増の3,023億ドルとなる。2010年までは実績、2011年は見込み、2012年以降は予測 |
半導体メモリ市場の状況をもう少し詳しく見てみよう。台湾のハイテク調査会社DRAMeXchangeは、DRAMとNANDフラッシュメモリの大手ベンダー別の売上高を四半期ごとに公表している。同社のデータによると、DRAM大手ベンダーは2010年第2四半期(2010年4~6月期)あるいは2010年第3四半期(2010年7~9月期)をピークとして、売上高を大きく下げ続けてきた。2011年第1四半期~第3四半期(2011年1~9月)のDRAM売り上げは、前年の1~9月を大きく割り込んでいる。またGartnerはこの12月8日に、DRAM市場は2011年に前年に比べて26%減少するとの見通しを公表した。
主要DRAMベンダーの売上高推移。DRAMeXchangeの調査データをまとめたもの |
主要DRAMベンダーの市場シェア推移。DRAMeXchangeの調査データをまとめたもの |
一方、NANDフラッシュメモリ市場の状況は若干、異なる。NANDフラッシュメモリ大手の四半期売上高は2010年第3四半期(2010年7~9月期)をピークとして成長に頭打ちの傾向が見られるものの、東日本大震災の影響を大きく受けた東芝を除くと、売上高は横ばいあるいは微増で推移してきた。
主要NANDフラッシュメモリベンダーの売上高推移。DRAMeXchangeの調査データをまとめたもの |
主要NANDフラッシュメモリベンダーの市場シェア推移。DRAMeXchangeの調査データをまとめたもの |
●半導体メモリ以外の分野も一桁成長にとどまる
メモリ以外の半導体製品は、どのような状況なのだろうか。WSTSは半導体メモリ(MOSメモリ)以外のICを「MOSマイクロ」(マイクロプロセッサとマイクロコントローラ)、「ロジック」(SoCと特定用途向けIC)、「アナログ」に分類している。このいずれもが2011年には市場拡大が見込まれている。見込み値はMOSマイクロが最も堅調で8.0%成長、ロジックが3.7%成長、アナログが1.7%成長である。いずれも2桁成長には達していない。
IC Insightsは2011年8月に、2011年に市場が拡大する製品分野と市場が縮小する製品分野の予測を公表した。市場が2桁の成長率で拡大すると予測した製品分野は、自動車用アナログ半導体、通信分野向けの特定用途ICとマイコン、フラッシュメモリ、自動車用ロジック半導体とマイコン、マイクロプロセッサなどである。これに対し、市場が2桁のマイナス成長で縮小すると予測した製品分野は、民生用ロジックと民生用マイコン、DRAM、SRAM、EPROM、民生用アナログ半導体などである。ほとんどの製品分野で共通していたのは、2010年に比べると成長率が鈍化していたり、マイナス成長に陥ったりしていることである。このことからも、2011年の半導体市場はかなり厳しい状況であることが分かる。
2011年に市場が拡大する製品分野と市場が縮小する製品分野。IC Insightsが2011年8月30日に発表した予測から |
●際立つIntelの強さ
2011年の半導体市場で際立つのは、Intelの強さである。Gartnerの予測によるIntelの2011年の成長率は21.6%と極めて高い。世界の半導体市場に占めるシェアは16.9%に達する。
通常、市場のトップシェアを有する企業は市場全体の成長率との相関が高まる傾向にある。極端な例だが、市場の50%のシェアを有するトップ企業は売り上げを10%伸ばすと全体の市場を5%伸ばすことになり、売り上げを10%減らすと全体を5%減らすことになる。言い換えると、市場全体が伸びない状態でトップ企業が売り上げを伸ばすことは市場シェアが増えれば増えるほど、難しくなる。市場シェアが7~8%のときは市場全体の成長率との相関は低いものの、市場シェアが15%くらいになると、相関はかなり強まる。
Intelは2011年、Infineon Technologiesのワイヤレス半導体部門を買収したので、売り上げの上乗せがある。しかしGartnerによると売り上げの上乗せ分は14億ドルで、Intelの売上高510億ドルに占める割合は2.7%に過ぎない。半導体市場全体の成長率が0.9%と予測されていることと比べると、Intelの成長率21.6%(Infineonのワイヤレス部門を差し引くと18%)というのは、恐ろしく高い。
MOSマイクロ(マイクロプロセッサとマイクロコントローラ)市場の成長率とIntelの売上高成長率。MOSマイクロはWSTS、IntelはGartnerのデータを元にまとめた |
●Intelの背中が遠ざかる
半導体の売上高ランキングに話題を戻すと、2010年末には「Intelが断然のトップ、Samsungが不動の2位」という状況が続く中で、SamsungがIntelとの差を詰めてきていることが話題になった。Intelは2002年から2010年の間に半導体売上高を1.75倍に増やした。同じ時期にSamsungは半導体売上高を3.3倍に伸ばしたことから、2002年には両者の間に2.74倍あった開きが、2010年には1.45倍に縮まっていた。
しかしSamsungの売上高は2011年に3.7%成長と微増に留まることから、IntelとSamsungの差は2011年には1.75倍に拡大することになる。
Samsungの半導体売上高に占める半導体メモリの比率は、約7割と高い。半導体メモリ市場が2011年にマイナス12%と縮小することを考慮すれば、Samsungの半導体売り上げが3%伸びるというのは大健闘だろう。Samsungが弱いのではない。Samsungは強い。しかしIntelはさらに強い。強すぎた。
Gartnerは2011年12月8日に、2012年のDRAM市場を3%成長、NANDフラッシュメモリ市場を16.6%成長、PCの出荷台数を5%成長とする予測を公表した。PCの出荷台数は、タイの洪水によるHDD生産減の影響を考慮して下方修正した。HDD生産の減少はPC出荷減、すなわちPC用マイクロプロセッサの成長減速をもたらす。一方でPC用DRAMの成長減速ももたらす。
カギを握るのはNANDフラッシュメモリだ。NANDフラッシュメモリの主要な応用分野であるスマートフォンとメディアタブレットの搭載容量と出荷台数が、NANDフラッシュメモリ市場の伸びを左右する。NANDフラッシュメモリ市場で4割のシェアを握るSamsungにとっては影響が少なくない。
たぶん、2012年にSamsungはIntelとの差をいくらかは詰めるだろう。だが、大きく詰めることは難しそうにみえる。NANDフラッシュメモリの市場規模はまだDRAMよりも小さい。そしてDRAMの需給が引き締まるのは、早くても2012年後半になりそうだ。IntelとSamsungの差が大きく詰まるのは、Samsungのメモリ売り上げが大きく伸びるのではなく、Intelの伸びが失速する場合となるだろう。
(2011年 12月 27日)