■福田昭のセミコン業界最前線■
DRAMメーカーの業績が、厳寒期を迎えつつある。昨年(2010年)後半に始まったPC用DRAMの値下がりが、今年(2011年)に入っても止まらないからだ。記憶容量当たりの単価は、2010年半ばに比べると約5分の1にまで落ち込んでしまった。
PC用DRAMチップの価格推移を、もう少し詳しくみていこう。記憶容量が1GbitのDDR3-1333チップの価格は、2010年前半は2.0ドル~3.0ドルの水準で推移していた。それが2010年後半になって急速に値下がりし、2011年前半には約1.0ドルになった。
次の世代である2GbitのDDR-1333チップの価格は、2011年前半に約2.0ドル前後を維持していた。記憶容量当たりの単価でみると、1Gbitチップとほぼ同じである。この時期に世代交代が生じ、PC用DRAMの主力品種は2GbitのDDR3-1333チップになっていった。
ところが、2011年の半ばから、2GbitのDDR3-1333チップが急速に値下がりした。2011年7月には1.5ドル、2011年9月には1.0ドルとなり、わずか半年ほど前の1Gbitチップと同じ水準になってしまった。その後も若干の変動はあったものの、2011年11月には1ドルを割り込み、0.7~0.8ドルの超低価格になってしまった。明らかに販売価格は、製造コストを割り込んでいる。DRAMメーカーにとっては作れば作るほど、赤字がかさむ状況だ。
●DRAM専業メーカーは巨額の赤字を計上
PC用DRAMの価格が急速に下がったのは、2008年以来のことである。PC用DRAMビジネスは軒並み、大赤字に陥っている。DRAMの大手メーカーを市場占有率(シェア)でみると、トップから5社は以下のような順位で並ぶ(括弧内は市場調査会社DRAMeXchangeによる2011年7~9月期のシェア)。
1)韓国Samsung Electronics(44.8%)
2)韓国Hynix Semiconductor(21.6%)
3)エルピーダメモリ(12.6%)
4)米国Micron Technology(11.8%)
5)台湾Nanya Technology(3.7%)
上記の5社の中でDRAM専業メーカーと呼べるのは、エルピーダメモリとNanya Technologyである。両社の最近の業績はまさに厳寒期と呼べる状況にある。エルピーダメモリは2010年の10~12月四半期(2010年度第3四半期)に営業赤字に転落して以降、2011年7~9月期(2011年度第2四半期)までの約1年間、営業赤字が続いている。2Gbit DRAMの価格が1.5ドルを割り込んだ2011年7~9月期は、447億円と巨額の営業赤字を計上した。
Nanya Technologyの状況はさらに酷い。2010年1月~2011年9月の間に営業黒字を計上できた四半期は1つもない。直近の2011年7~9月期(2011年度第3四半期)は売上高の73億台湾ドルを超える、98億台湾ドルもの営業赤字を計上した。粗利益(グロスマージン)でも売上高とほぼ同じ規模の71億台湾ドルの赤字になっており、製造コストのほぼ半分で販売せざるを得なくなっていることが分かる。
エルピーダメモリの四半期業績(売上高と営業損益)の推移 | Nanya Technologyの四半期業績(売上高と営業損益)の推移 |
●NANDフラッシュの黒字がDRAMの赤字を補填
残りの3社の中で半導体メモリ専業と呼べるのが韓国Hynix Semiconductorと米国Micron Technologyである。HynixはDRAMとNANDフラッシュメモリを主力事業、MicronはDRAMとNANDフラッシュメモリ、NORフラッシュメモリを主力事業としている。
DRAM事業とフラッシュメモリ事業の両方を手掛ける利点の1つに、生産ラインの割り当てを比較的容易に変更できることがある。販売マージンの高い製品の生産比率を増やせるのだ。現在のようにPC用DRAMの価格がきわめて低い状況では、フラッシュメモリの生産比率を増やすことで収支の悪化を緩和できる。このためHynixとMicronは、前述の2社に比べると、業績を悪化させずに済んでいた。しかし直近の四半期業績では、両社とも営業赤字に転落している。Hynixの営業赤字は2,770億ウオン、Micronの営業赤字は5,100万ドルである。
Hynix Semiconductorの四半期業績(売上高と営業損益)の推移 | Micron Technologyの四半期業績(売上高と営業損益)の推移 |
HynixとMicronのいずれも、NANDフラッシュメモリ事業は直近の四半期も営業黒字を計上したとみられる。NANDフラッシュメモリも時間の経過とともに記憶容量当たりの単価が下がっているものの、製造コストを割り込むような水準には下がっていない。例えばNANDフラッシュメモリの大手メーカーである東芝は、2011年7~9月期の決算発表(2011年10月31日開催)でNANDフラッシュメモリ事業は「円高の影響があったものの高い利益水準を維持した」と説明している。HynixとMicronもNANDフラッシュメモリ事業は東芝と似た状況にあると見られるが、DRAM事業の赤字の規模が、フラッシュメモリ事業では補填できないほど膨れ上がってしまったのだろう。
DRAMメーカーの残る1社であるSamsung Electronicsは、2011年7~9月期も半導体事業で営業黒字を出している。SamsungはDRAM専業ではない。NANDフラッシュメモリでは最大手のメーカーである。そして半導体メモリ専業でもない。SoC(System on a Chip)に代表される論理LSIやマイコンなども手掛けている。
Samsungの半導体売上高に占めるメモリの比率は6割~7割である。メモリ比率は少なくないが、価格が比較的安定な非メモリ製品が3割~4割あり、収支の変動を抑えているとも言える。またSamsungのDRAM製造コストは、DRAMメーカーの中では最も低い水準にあるとみられており、値下がりに強い。
Samsung Electronicsの半導体事業の業績推移 | Samsung Electronicsの半導体メモリ売上高推移と、半導体売上高に占めるメモリの比率の推移 |
●微細化、非PC拡大、減産で春を待つ
極寒の冬の時代が続くPC用DRAM事業に対し、DRAMメーカーはさまざまな対策を打っている。最も基本的な手段は製造コストの削減、具体的にはシリコンダイの縮小である。シリコンダイの縮小は2008年のDRAM不況以降、さらに強化されている。2009年に60nm世代の1Gbit DRAMでは60平方mm~70平方mm、50nm世代の1Gbit DRAMでは40平方mm~45平方mmだった。
2Gbit DRAMは40nm世代あるいは30nm世代で製造されてきたが、現状の販売価格だと、30nm世代で製造してもコスト割れの可能性が高い。そこでDRAMメーカーは、25nm世代への移行を急いでいる。ただし生産ラインの移行には一定の期間がかかる、微細化に伴う設備投資が必要になる、といった課題がある。
別の手段として、PC以外の用途に向けたDRAMの製造比率を増やすことがある。DRAMメーカーは、これも並行して進めている。サーバー向けに低電圧版のDDR3L品、モバイル向けにLP DDR2品といった選択肢がある。ただしPC用DRAMに比べると製造コストが増加する、市場規模はまだそれほど大きくない、といった課題がある。
さらに別の手段に、4Gbit DRAMの製造がある。30nm世代と25nm世代、あるいはさらに微細化した技術世代で製造するシリコンダイになる。ただし4Gbit DRAMは2Gbit DRAMに比べると製造コストが2倍近くになる、市場規模が不透明、といった課題がある。
究極の手段はDRAMの減産だろう。DRAM専業メーカーはすでに減産に入っている。DRAM以外にフラッシュメモリも生産している企業は、DRAMの生産ラインをフラッシュメモリの生産ラインに振り返えてきたが、ここにきて限界が見えてきた。今後は生産ラインの稼働率を減らしてでも、減産を強化していく可能性が高い。
いずれにせよ、即効性のある手段はなかなか見つからない。さまざまな工夫をこらしながら、DRAMメーカーは春を待つことになりそうだ。
60nm世代と50nm世代の1Gbit DRAMシリコン・ダイの面積(エルピーダメモリが2009年に公表した資料) | DRAM微細化の進行状況(エルピーダメモリ) | DRAM微細化の進行状況(Hynix Semiconductor) |
(2011年 11月 29日)