瀬文茶のヒートシンクグラフィック

Cooler Master「V8 GTS」

~自動車エンジン風デザインのTDP 250W対応ハイエンドCPUクーラー

 今回はCooler MasterのハイエンドCPUクーラー「V8 GTS」(RR-V8VC-16PR-R1)を紹介する。購入金額は12,980円だった。

ベイパーチャンバーを取り入れたCooler Master V-Seriesのニューモデル

 Cooler Master V8 GTSは、自動車のエンジン風のルックスを特徴とするCooler MasterのCPUクーラーブランド「V-Series」のニューモデルだ。V8 GTSはマルチプラットフォーム対応CPUクーラーであり、LGA775以降のIntelソケットと、Socket AM2以降のAMDソケットをサポートしており、主要なコンシューマ向けプラットフォームで利用できる。

 V8 GTSのヒートシンクは、2008年に登場したCooler Master V8のデザインをリファインしたもので、ヒートシンクとしてはサイドフロー型に分類される。V8 GTSでは、近年グラフィックカードでの採用が話題となったベイパーチャンバーをCPUと設置するベースプレートに採用したほか、アルミニウム製放熱フィンで構成される放熱ユニットを4基から3基に減らし、代わりに冷却ファンを120mm角ファン1基から140mm径ファン2基構成へ増強している。ヒートパイプの本数は6mm径8本で変わりない。

 冷却ファンとして備える140mm径ファンは、2基とも同じスペックのファンで、PWM制御に対応し、回転数を600~1,600rpmの範囲で調整できる。スケルトンブラックの樹脂フレームには、4基の赤色LEDが配置されており、稼働時に点灯する。ヒートシンクへのファンの固定は、中心の放熱フィンに取り付けられた樹脂フレームにねじ止めする形で行なう。なお、搭載ファンは140mm径ファンだが、ねじ穴位置が120mm角ファンとも140mm角ファンとも互換性が無い。見た目的にも仕様的にも、市販のケースファンとの交換を想定しない設計のようだ。

V8 GTS本体
付属品
3ブロックの放熱ユニットと、140mmファン2基を備える
ヒートシンクを覆うカバーが、ファン固定用ブラケットを兼ねる
ベースプレートに採用されたベイパーチャンバー
メモリスロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE搭載時)
拡張スロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE搭載時)

 V8 GTSは、かなり占有スペースの大きなCPUクーラーだが、ヒートシンクの中心寄りに140mm径ファンを配置したことで、メモリスロット上空にヒートシンクが被りはするものの、それなりに高さのあるメモリを搭載できる。全高40mm程度のメモリであれば、ヒートシンク搭載後に抜き差しが可能だ。

 一方、拡張スロットとのクリアランスは厳しい。最上段にPCI Express x16スロットを備えるマザーボードでの利用には注意を要する。ただ、ヒートシンクの側面は樹脂製のカバーで覆われているため、拡張カード軽く接する程度であれば、ショートの心配はない。

 そのほか、注意を要する仕様として、リテンションキットの取り付けにくさについて触れておきたい。V8 GTSのリテンションキットは、取り付け作業の最終工程で基板の表面側から4カ所をナットで固定する必要があり、この六角ナットを締めるためのレンチも同梱されている。マニュアルによれば、ファンを取り外すことなく、付属のレンチを用いてナットの固定を行なうとされているのだが、ナットを取り付ける位置の直上にヒートシンクが位置するV8 GTSでは、この作業が極めて困難なのである。特に、マザーボードがVRM冷却用のヒートシンクを備えている場合、取り付けは困難を極める。

 ナットで固定する位置の上空にヒートシンクが被らない薄型のサイドフロー型CPUクーラーであれば、難なく取り付け可能なのだろうが、V8 GTS用のリテンションキットとしてはミスマッチだ。

最終工程で取り付けるナット。ファンを取り外すことで、多少は作業性が改善するが、マザーボードが大型のヒートシンクを備えている場合、付属工具での取り付けは難しい

冷却性能テスト結果

 それでは冷却性能テストの結果を紹介する。今回のテストでは、マザーボード側のPWM制御設定を「20%」、「50%」、「100%(フル回転)」の3段階に設定し、それぞれ負荷テストを実行した際の温度を測定した。

 冷却性能テストの結果、3.4GHz動作時のCPU温度は51~57℃を記録した。これはCPU付属クーラーより28~34℃低い結果だ。優秀な結果だが、ハイエンドCPUクーラーにとっては当然の結果とも言える。

 さて、ハイエンドCPUクーラーの真価が問われるオーバークロック動作時の温度については、4.4GHz動作時に68~75℃、4.6GHz動作時に79~86℃をそれぞれ記録した。ファンの回転数がやや高めである点を考慮すると、空冷最高峰と呼ぶには少々足りないが、4.6GHzで動作するCore i7-2600K程度の発熱は十分に処理できる冷却性能を有している。

 動作音については、PWM制御20%設定時の約870rpm動作であれば、ケースに収めればさほど気にならない程度の風切り音に抑えられるが、140mm径の大口径ファンが1,000rpmを超えて動作する50%制御時やフル回転時の風切り音はかなり大きい。また、50%制御以上の回転数を設定した際、ファンの振動がヒートシンク両端に配置された放熱フィンに伝播し、ビビリ音が発生していた。ビビリ音以上に風切り音が大きいが、少々気になるノイズだ。

デザイン重視のハイエンドクーラー

 パッケージに「魅せるCPUクーラー」と記載されているように、Cooler MasterのV-Series ヒートシンクは、自動車のエンジン風のルックスこそが特徴のヒートシンクだ。

 CPUクーラー本来の役割である「CPUの冷却」とは異なる要素を追求した製品だが、一部の例外を除き、CPUクーラーの冷却性能に対する要求が以前より低くなった現在、デザイン性という付加価値で勝負するハイエンドCPUクーラーという存在はユニークな選択肢となり得る。もちろん、V8 GTSは、空冷CPUクーラーとして十分な冷却性能も備えている。取り付け作業が一筋縄ではいかないことに覚悟が必要だが、デザインに惹かれて購入しても、冷却性能が不足して困るという事態はそう起こらないだろう。

 ユニークなデザインと、十分な冷却性能を持つV8 GTS。純粋な道具としてだけでなく、自作PCならではの遊びを取り入れたPC製作に活かしたい製品だ。

Cooler Master「V8 GTS(RR-V8VC-16PR-R1)」製品スペック
メーカーCooler Master
フロータイプサイドフロー
ヒートパイプ6mm径8本
放熱フィン117枚(36枚+45枚+36枚)
サイズ(ファン搭載時)154×149.8×166.5mm (幅×奥行き×高さ)
重量(ヒートシンクのみ)854g
対応ファン140mm径ファン×2
電源:4pin
回転数:600~1,600rpm±10%
風量:28~82CFM±10%
ノイズ:16~36dBA
サイズ:φ140×20mm(フレームは実測で25mm厚)
対応ソケットIntel:LGA 1150/1155/1156/2011/1366/775
AMD:Socket AM2/AM3/AM3+/FM1/FM2

(瀬文茶)