瀬文茶のヒートシンクグラフィック

Thermalright「TRUE Spirit 120M(BW) Rev.A」

~新しいロープライスヒートシンクのカタチ

 今回は、ThermalrightブランドのサイドフローCPUクーラー「TRUE Spirit 120M(BW) Rev.A」を紹介する。購入金額は4,280円だった。

見た目にこだわったロープライスヒートシンク

 120mmファンを搭載しつつ全高を145mmに抑るという低背設計を採用し、2012年11月に発売されたTRUE Spirit 120M。そのマイナーチェンジモデルに当たる製品が、今回紹介するTRUE Spirit 120M(BW) Rev.Aである。

 ヒートシンクの設計はTRUE Spirit 120Mを踏襲しており、4本の6mm径ヒートパイプと、接地面に純銅(C1100)を採用したベースユニット、46枚のアルミフィンからなる放熱ユニットで構成されている。一見するとオーソドックスなサイドフローレイアウトのヒートシンクだが、ベースユニットと放熱ユニットをオフセットして配置することにより、メモリスロットとの干渉を回避するデザインを採用している。

 ベースとなったTRUE Spirit 120Mとの決定的な違いは、ヒートシンクに施されたメッキ処理の有無にある。TRUE Spirit 120M(BW) Rev.Aは、Thermalrightが廉価モデルに与えてきた「TRUE Spirit」の名を冠するCPUクーラーとしては初めて、ヒートパイプにメッキ処理を施した製品であり、最上部の放熱フィンのみ黒色、残りは銀色で統一感されている。Thermalrightブランドでは見かけないカラーリングだが、銀色と黒のコントラストが映える美しいでき栄えだ。

【14時45分訂正】記事初出時、ヒートシンク全体にメッキ処理を施したとしておりましたが、正しくはヒートパイプにメッキ処理を施した、となります。お詫びして訂正します。

 廉価モデルながら美しいルックスを獲得した一方で、ヒートシンクをマザーボードに固定するリテンションキットが簡略化されており、マザーボード裏面に取り付ける金属製バックプレートが省略された。バックプレートが省略されても使い勝手に大した差は感じないが、ベースとなったTRUE Spirit 120Mのリテンションキット自体、使い勝手が良いとは言えない代物であったため、この点はむしろ改良と言えるだろう。

 冷却ファンとして、白い羽根が特徴的なThermalrightブランドの120mm角25mm厚の「TY-121-BW」が1基同梱されている。PWM制御に対応しており、600~1,300rpmの範囲で回転数を調整できる。ヒートシンクへの取り付けには、専用の樹脂製ブラケットを用いる。このブラケットは、120mm角25mm厚ファンであればTY-121-BWに限らず、市販のケースファンを取り付けることも可能だが、デュアルファン構成での運用には対応していない。

TRUE Spirit 120M(BW) Rev.A 本体
付属品
120mm角25mm厚ファンTY-121-BW
ファンはブラケットのツメで固定されている。市販のケースファンへの交換も可能
ベースユニットと放熱ユニットは位置をずらして配置されている
バックプレートが廃止され、基板裏面から樹脂製ワッシャを挟んでネジ止めする形となった
メモリスロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE利用時)
拡張スロットとのとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE利用時)
ファンとVRM冷却用ヒートシンクが干渉し、ファンの位置を下げきれない場合もある

 放熱ユニットとベースユニットのオフセット配置により、メモリスロットとのクリアランスは十分にとられている。一方、ファン固定用ブラケットがヒートシンク側面にはみ出すため、拡張スロットとのクリアランスはカツカツだ。ブラケット自体は樹脂製なので、拡張カードと接触しても短絡の恐れは無いが、基板全面を覆うようなバックプレートを備えたビデオカードなど、裏面に実装部品を備える拡張カードは搭載できない可能性がある。

 全高145mmという低背設計は、全高160mm前後のサイドフローCPUクーラーが搭載できないケースに、120mmファンを搭載したサイドフローCPUクーラーが利用できる可能性をもたらす。ただし、利用するマザーボードのVRM部に大型のヒートシンクが搭載されている場合、冷却ファンの搭載位置を下げきることができず、結果としてCPUクーラーの全高が145mmを超える可能性があることには注意が必要だ。

冷却性能テスト結果

 それでは、冷却性能テストの結果を紹介する。今回のテストでは、マザーボード側のPWM制御設定を「20%」、「50%」、「100%(フル回転)」の3段階に設定し、それぞれ負荷テストを実行した際の温度を測定した。

 冷却性能テストの結果を見てみると、3.4GHz動作時のCPU温度は54~61℃で、CPU付属クーラーより24~31℃低い結果となった。発熱が増すオーバークロック動作時については、4.4GHz動作時は70~81℃を記録。4.6GHz動作時には、付属ファンが約600rpmという低速回転となる20%制御時にCPU温度が94℃を超えてテスト中断となったが、残りの設定で81~87℃という記録を残した。

 全体的にみると、120mmファンを備えるサイドフロー型CPUクーラーとして特別優れた結果とは言えないが、全高を145mmに抑えたコンパクトなヒートシンクでこのパフォーマンスを実現している点は評価できる。

 動作音については、20%制御時(約600rpm)から50%制御時(約1,020rpm)までは、風切り音はほぼ気にならないレベルだった。1,000rpmを超えて回転数を上げると、徐々に風切り音が大きくなっていくが、フル回転時の1,400rpmであっても、風切り音自体はそこまで大きくない印象だ。ただ、風切り音が小さいこともあってか、ファンの軸音が少々気になった。ファンの軸音は個体差の可能性もあるのだが、ここ最近、筆者が購入したThermalrightブランドの120mmファンはいずれも同じように軸音が鳴る。ケースに収めれば大して気にならない程度の音だが、やや気になるところである。

CPUクーラー本来の完成度より見た目を優先したThermalright

 TRUE Spirit 120M(BW) Rev.Aで、Thermalrightは実用性を犠牲にし、見栄えを優先するという判断を下した。

 TRUE Spiritシリーズが投入される5,000円以下の価格帯では、何かしら妥協しなければ利益の上がるCPUクーラーを作ることは困難だが、PCパーツとしてCPUクーラーが担う本来の役割からすれば、リテンションキットという実用性を左右するパーツで手を抜き、装飾に力を入れるというのは本末転倒に思える。思えるのだが、筆者には従来のTRUE Spiritシリーズより、TRUE Spirit 120M(BW) Rev.Aの方が魅力的に見える。

 従来のTRUE Spiritシリーズは、見栄えを削ったコストパフォーマンス志向の製品だった。リテンションの完成度に目を瞑れば、いずれもコストパフォーマンスの高い優秀なヒートシンクだったのだが、いかにも安っぽいヒートシンクからは、ハイエンドメーカーとして名を馳せたThermalrightブランドらしさは感じられず、積極的に買いたいと思える製品ではなかった。

 一見、本末転倒に思えるThermalrightの判断だが、過去の製品を振り返ってみると、間違っていないようにも思えてくる。TRUE Spirit 120M(BW) Rev.Aは、単に見栄えを重視したのではなく、Thermalrightというメーカーに対して期待される要素を凝縮した製品なのだろう。

Thermalright「TRUE Spirit 120M(BW) Rev.A」製品スペック
メーカーThermalright
フロータイプサイドフロー
ヒートパイプ6mm径×4本
放熱フィン46枚
サイズ(ヒートシンクのみ)132×57×145mm (幅×奥行き×高さ)
重量(ヒートシンクのみ)480g
対応ファン120mm角25mm厚ファン×1
電源:4ピン(PWM制御対応)
回転数:600~1,300rpm
風量:46.19CFM
ノイズ:25.4dBA
サイズ:120×120×25mm
対応ソケットIntel:LGA 775/1150/1155/1156/1366/2011
AMD:Socket AM2系/AM3系/FM1/FM2

(瀬文茶)