瀬文茶のヒートシンクグラフィック

Swiftech「H220」

~水冷パーツメーカーが作り上げたオールインワン水冷クーラー

 今回は、Swiftechのオールインワン水冷ユニット「H220」を紹介する。購入金額は15,800円だった。

冷媒の補充やユニットの追加が可能なオールインワン水冷クーラー

 今回紹介する「H220」は、アメリカの水冷パーツメーカーとして知られるSwiftechが、動作音が聞き取れないほどの静粛性と、ユーザーが組み立てるタイプのカスタム水冷キットに匹敵する冷却性能の実現を目指し、3年間の研究開発を経て作り上げたオールインワン水冷クーラーである。

 H220と、従来のオールインワン水冷クーラーとの違いとしては、冷媒の補充・交換が可能である点と、GPUやチップセット用のウォーターブロックを追加しての運用が可能である点が挙げられる。

 一般的なオールインワン水冷クーラーが、ウォーターブロックなどユニットの追加を想定せず、1つの閉じたユニットとして完成させることにより、冷媒の補充を必要としないメンテナンスフリー運用を実現しているのに対し、H220はユニットの追加を想定して搭載された強力なポンプと、ラジエータに用意されたフィルポートによって、ユニットの追加や冷媒の交換・補充を可能としている。

 なお、Swiftechは、H220を標準状態で利用する場合、製品保証期間である3年間は。冷媒の補充を必要としないメンテナンスフリー運用が可能としている。他のオールインワン水冷クーラーと同じ使い方をするのであれば、特別手間のかかる製品というわけではない。

Swiftech H220 本体
ポンプを内蔵するウォーターブロック
120mmファンを2基並べて搭載可能な240mmラジエータ
ラジエータに設けられたフィルポート

 オールインワン水冷クーラーとしてのH220は、PWM制御に対応したポンプを内蔵するウォーターブロックと、銅製フィンと真鍮製チューブを採用した40mmサイズのラジエータ、そして、それら2ユニットを繋ぐPVC製チューブで構成されている。

 他社のオールインワン水冷クーラーに比べ、かなり太いチューブを採用しているため、一見すると取り回しが大変そうに思えるが、チューブ自体はかなり柔らかいので、むしろ他の製品よりチューブの取り回しは楽である。

 標準ファンとして、PWM制御に対応した25mm厚の120mm角ファンを2基搭載している。このファンは、800rpm±25%~1,800rpm±10%の範囲で回転数を制御することができる。なお、H220ではファンだけではなく、ウォーターブロック内蔵のポンプについても、PWM制御によって1,200rpm~3,000rpmの範囲で動作を調整できる。

 ファンのラジエータへの固定は#6-32のインチネジで行なう。H220には、25mm厚ファン固定用のインチネジが同梱されているため、25mm厚の120mm角ファンであれば市販のケースファンを取り付けることも可能だ。

PVC製のチューブは柔らかく、自在な取り回しが可能
標準搭載の120mm角25mm厚ファン
同梱パーツのPWMスプリッター。1系統のPWM信号を8分岐するユニットで、電源は4pinペリフェラルコネクタから供給する。
ウォーターブロック周辺(ASUS MAXIMUS V GENE利用時)

 CPUソケット周辺パーツとのクリアランスについては、ウォーターブロック両脇に配置されたチューブが結構な面積を取るため、冷却テストを行なうにあたって利用した「ASUS MAXIMUS V GENE」では、メモリスロットとのクリアランスがほとんどない状態であった。マザーボードのレイアウトや、メモリが備えるヒートスプレッダの厚みによっては、干渉する場合もありそうだ。

 ウォーターブロックの取り付け方向を変えることで、メモリスロットとの干渉問題は解決できるが、CPUソケット周辺に大型のヒートシンクを備えたマザーボードでの利用には注意が必要だろう。

 また、240mmサイズのラジエータを備えるH220にとって、PCケースとの組み合わせは非常に重要だ。H220のラジエータにファンを搭載した状態での厚みは約54mmで、他社の240mmラジエータ採用オールインワン水冷クーラーと同程度であるため、他社製品が搭載可能なケースであれば、H220も搭載できる可能性は高い。とは言え、240mmラジエータを制約なく搭載可能なケースが限られているのは確かなので、購入前によく確認しておきたい。

冷却性能テスト結果

 それでは、冷却性能テストの結果を紹介する。今回のテストでは、マザーボード側のPWM制御設定を「20%」、「50%」、「100%」の3段階に設定し、搭載ファンとポンプの回転数を調整した際の温度を取得した。

 なお、グラフ中でカッコ内に表記している回転数については、(ファン/ポンプ)の順でそれぞれの回転数を表している。

テスト結果

 冷却性能テストの結果をみてみると、CPU付属クーラーが85℃を記録した3.4GHz動作時に、H220は52~54℃を記録している。これは、CPU付属ファンより31~33℃低い温度であり、ファンの回転数を鑑みてもなかなか優秀な結果であると言える。

 オーバークロック時の結果でも、H220は大変低いCPU温度を記録しており、4.4GHz動作時は61~65℃、4.6GHz動作時でも68~75℃であった。以前本連載で紹介したSilverStone製のオールインワン水冷クーラー「SST-TD02」と同程度のCPU温度を、より低いファンスピードで実現したH220は、極めて優秀な冷却性能を持ったCPUクーラーである。

 ハイレベルな静粛性の実現を目指して開発されたというH220だが、ファンの動作音は聞こえないレベルとは言い難い。100%制御時や50%制御時については、ファンの回転数なりに風切り音が発生する。20%制御時はファンの回転数が比較的抑えられていることもあって、風切り音は比較的小さかったのだが、軸音が大きかったため、20%制御時であってもファンの動作音が気にならないというレベルまで騒音を抑えることは出来なかった。

 一方、ポンプの動作音については比較的抑えられているように感じた。回転数を絞っても無音と言えるレベルに達するわけでは無いが、少なくともファンの動作音以上に気になるというような動作音は発していなかった。PCケースに納めてしまえば、それほど気になることは無いだろう。

ハイエンド空冷を凌駕する240mmラジエータ採用オールインワン水冷クーラー

 水冷パーツメーカーであるSwiftechが作ったオールインワン水冷ということで、検証前から冷却性能への期待が大きかったH220だが、今回はその期待を裏切らない見事なパフォーマンスを確認することができた。15,800円とい価格は高価だが、ハイエンド空冷CPUクーラーを凌駕するH220の冷却性能には、それだけの価値がある。

 今回紹介したH220や、SilverStone「SST-TD02」のように、ここ最近になって各メーカーがリリースしている240mmラジエータ採用オールインワン水冷クーラーの中には、ハイエンド空冷CPUクーラーを上回る程の冷却性能を持った製品が確かに存在しているようだ。現状、240mmラジエータを採用するオールインワン水冷クーラーは、ケースとの組み合わせに大きな問題を抱えているが、最近は240mmラジエータを搭載できるPCケースが増えてきており、ケースとの組み合わせ問題が問題でなくなる日もそう遠くない。

 ハイエンドヒートシンクの造形を好ましく思う筆者としては複雑なところではあるのだが、1つのユニットとして完成されたCPUクーラーに対し、より良い冷却性能求めるのであれば、H220のようなオールインワン水冷クーラーの上級製品も検討すべきだろう。

【表】Swiftech「H220」製品スペック
メーカーSwiftech
フロータイプオールインワン水冷
ラジエータ240mmラジエータ(120mm×2)
サイズ: 128×269×29mm (幅×奥行き×高さ)
対応ファン120mm角25mm厚ファン ×2
電源:4ピン(PWM制御対応)
回転数:800±25%~1,800±10%rpm
最大風量:24~55CFM
ノイズ:16~33dB
サイズ:120×120×25mm
対応ソケットIntel:LGA 775/115x/1366/2011
AMD:Socket AM2系/AM3系、Socket FM1/FM2、Socket 939

(瀬文茶)