瀬文茶のヒートシンクグラフィック

Thermalright「Silver Arrow SB-E」
~老舗メーカーのモンスター級フラッグシップモデル



 今回は、2012年3月に発売されたばかりのThermalright製ハイエンドCPUクーラー「Silver Arrow SB-E」を紹介する。購入金額は8,980円だった。

●久々の登場となるThermalrightのハイエンドCPUクーラー

 ここ最近、コストパフォーマンスを重視したCPUクーラーをリリースしていたThermalrightにとって、久々のハイエンドモデルとなるSilver Arrow SB-Eは、2010年11月に発売されたフラッグシップモデル「Silver Arrow」の後継製品にあたるCPUクーラーである。老舗CPUクーラーメーカーThermalrightの新フラッグシップモデルにして、冷却性能面での評価が高いSilver Arrowの後継製品ということで、Silver Arrow SB-Eは性能に大きな期待のかかる製品である。

 Silver Arrow SB-Eのヒートシンクは、接地面に高純度な銅素材であるタフピッチ銅(C1100)を使用したベースユニットと、8本の6mm径ヒートパイプ、2ブロックの放熱ユニットを構成する全102枚のアルミ製放熱フィンという構成で、最近ハイエンド製品で採用率の高いミッドシップレイアウトのサイドフロー型ヒートシンクを形成している。

 ミッドシップレイアウト採用のクーラーながら、6mm径ヒートパイプを横1列に配置したベースユニット、異なる形状の放熱フィンを組み合わせることで、標準搭載のラウンドフレームファンの形状に合わせた放熱ブロックなど、特徴的な仕様を盛り込んでいる。また、放熱フィンの端部に傾斜を付けるなど、過去のThermalright製品で採用してきた技術も取り入れられており、フラッグシップに相応しいスペックを備えている。外観的にも、全体に施された光沢感のあるメッキ処理と、鋭角を多用した放熱部のデザインにより、鋭くも美しいヒートシンクに仕上がっている。

 搭載ファンは、ヒートシンクの中心に設置する150mm径ファン「TY-150」と、外側に配置する140mm径ファン「TY-141」を標準搭載する。いずれもPWM制御に対応し、TY-150は500~1,100rpm、TY-141は900~1,300rpmの範囲で回転数を制御可能だ。ファンは専用の金属製クリップによりヒートシンクに固定する。なお、150mm径用の固定クリップは市販ファンとの互換性が無いが、140mm径用は120mm角ファンと穴位置の互換性があり、2基固定できる分のクリップが用意されているため、リブ無しタイプの120mm角ファン2基に交換可能だ。

Silver Arrow SB-Eパッケージ
Silver Arrow SB-E本体
付属品一覧
付属ファン。左が「TY-150」、右が「TY-141」
メモリとのクリアランス(ASUS MAXIMUS IV GENE-Z/GEN3搭載時)
拡張スロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS IV GENE-Z/GEN3搭載時)

 Thermalrightの冷却性能へのこだわりが見て取れるSilver Arrow SB-Eだが、その大きさ故にケースやメモリなど、いくつかの箇所で物理的干渉が発生する。ファン搭載時に170mmに達する全高は、サイドフロー型CPUクーラーの中でも特に高い部類に入り、横幅の広いPCケースでなければサイドパネルとの干渉が発生しやすい。また、横幅もファン搭載時には170mmと広いため、CPUソケットと拡張スロットの配置次第では最上段の拡張スロットに被ってしまう。メモリとのクリアランスについても、固定クリップの仕様上ファンを上にずらせないため、デュアルファン構成では33mm高のメモリでギリギリという状況である。

 これは、冷却性能とヒートシンクサイズのトレードオフに関して、Silver Arrow SB-Eが冷却性能を優先した結果だろう。冷却性能を追求するハイエンドCPUクーラーであれば、本製品に限らず抱えている問題ではあるのだが、利用できる環境はかなり制限されそうだ。


●冷却性能テスト結果

 それでは冷却性能テストの結果を紹介する。テスト機材は、前回同様Core i7-2600KベースのLGA1155環境を利用した。なお、ファンの回転数については、フル回転時(140mm=1,300rpm/150mm=1,100rpm)と、「ASUS Fan Xpert」により20%に絞った際(900rpm/500rpm)の2パターンでテストを行なった。

 テスト結果では、3.4GHz動作時にCPU付属クーラーが記録した85℃に対し、フル回転時は30℃低い55℃、回転数を20%に絞った場合でも26℃低い59℃を記録した。また、CPUを4.4GHzにオーバークロックした条件では、フル回転時に64℃、20%設定時は70℃をそれぞれ記録している。同じ条件でテストした結果が少ないため比較は難しいが、前回紹介したENERMAX「ETD-T60-VD」と比べると、Silver Arrow SB-Eの冷却性能の高さが伺える。

 ファンの動作音については、フル回転では140mm径ファンが1,300rpmで回転することもあり、風切り音が発生している。20%制御時は、若干軸音が気になったものの、フル回転時に発生していた風切り音は抑えられるため、静音と言って差し支えないレベルの動作を実現できる。Silver Arrow SB-Eの場合、ファン回転数を絞り切った状態でも高い冷却性能を実現しているので、実用範囲で静音運用できることも意味する。

●強力な冷却性能と洗練されたデザインが魅力だが、干渉に要注意

 ThermalrightブランドのCPUクーラーとして初めてLGA2011に標準対応したSilver Arrow SB-Eは、製品名の末尾に加えられた「SB-E」という文字からも、Sandy Bridge-Eへの対応を意識して設計したことが伺える。

 実際、Silver Arrow SB-Eは強力な冷却性能を実現しており、その洗練された外観は「光り物」とは異なる魅力にあふれている。性能的にも外観的にも、選ぶ価値のある製品であることは間違いなさそうだ。ただし、前述の通り、物理的な互換性については注意が必要だ。利用するマザーボードのレイアウト、ケース内空間など、本製品を導入するにあたって注意すべき点は多い。せっかく購入したものの、取り付けられなかったという事態を避けるためにも、事前に取り付け可能か調べておくことをお勧めする。


Thermalright「Silver Arrow SB-E」製品スペック
メーカーThermalright
フロータイプサイドフロー型
ヒートパイプ6mm径×8本
放熱フィン51枚 + 51枚
サイズ170mm × 130mm × 高さ170mm(ファン搭載時)
重量1,124g
付属ファン150mm径ファン「TY-150」
電源:4pin(PWM制御)
回転数:500rpm ~ 1,100rpm
風量:38~84CFM
ノイズ:17~21dBA
140mm径ファン「TY-141」
電源:4pin(PWM制御)
回転数:900rpm ~ 1,300rpm
風量:28~74CFM
ノイズ:21~25dBA
対応ソケットIntel:LGA 775/1155/1156/1366/2011
AMD:Socket AM2系/AM3系、Socket FM1