西川和久の不定期コラム
Jide Technology「Remix Mini」
~Androidアプリがマルチウィンドウで使える超小型PC
2016年4月29日 06:00
テックウインドは、4月26日にAndroidアプリがマルチウィンドウで使えるRemix OS 2.0搭載超小型PC「Remix Mini」を発表し、28日に発売した。ソフトウェア的にもハードウェア的にもなかなか面白そうな環境なので、楽しみながらの試用レポートをお届けしたい。
Android系OSを搭載した手の平サイズデスクトップ
今回紹介する「Remix Mini」は、Jide Technologyが昨年(2015年)の年末に海外で販売しているもので、それをテックウインドが国内販売する形となる。
特徴は、Androidアプリがマルチウィンドウで使えるOS「Remix OS 2.0」を搭載しながら、手の平サイズ125×88×26mm(幅×奥行き×高さ)、重量約134gと小型軽量に仕上がっている点だ。
SoCは、Allwinner 64bit 1.2GHz Quad Core Cortex-A53 CPUを搭載。ファンレスで動作する。メモリはDDR3の2GB。ストレージはeMMCで16GB。加えてmicroSDカードスロットとUSB 2.0があるので、ストレージ容量の確保は容易だろう。
OSは先に書いた通り、同社がAndroid 5.1から独自にカスタマイズした「Remix OS 2.0」。AnTuTuベンチマークのデバイス情報を見たところ64bit版だった。次期OSのAndroid Nではマルチウィンドウ対応らしいが、それを先取りする形となる。
【表】Jide Technology「Remix Mini」のスペック | |
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SoC | Allwinner 64bit 1.2GHz Quad Core Cortex-A53 CPU |
メモリ | 2GB(DDR3) |
ストレージ | 16GB eMMC |
OS | Remix OS 2.0(Android 5.1ベース) |
インターフェイス | Ethernet、IEEE 802.11b/g/n、Bluetooth 4.0、USB 2.0×2、HDMI、microSDカードスロット、音声出力 |
サイズ/重量 | 125×88×26mm(幅×奥行き×高さ)/約134g |
電源 | 5V/2A |
価格 | 9,800円(税別) |
インターフェイスは、Ethernet、IEEE 802.11b/g/n、Bluetooth 4.0、USB 2.0×2、HDMI、microSDカードスロット、音声出力と、PCライクの端末として一通り揃っている。Android 5.1が対応している範囲で、USBやBluetoothデバイスを使用可能だ。
価格は9,800円(税別)。技適の問題があるので並行輸入しても使えないが、仮に米Amazonで購入しても約70ドルに加えて送料がかかるため、あまり変わらない金額となる。この値段は良心的な価格と言えよう。
筐体色はブラックでマットな仕上げ。手の平サイズであり、しかもファンレスだ。上のロゴ部分がタッチ式の電源ボタンとなっており、正面に電源LEDがある。
背面に全インターフェイスが集中し、電源入力、Ethernet、USB 2.0×2、HDMI、microSDカードスロット、音声出力を配置。
別途用意するのは、ディスプレイ(できればフルHD)、USBもしくはBluetooth接続のマウス、キーボードとなる。OSかアプリの性質上、タッチ操作が基本になっているので、マウスはホイール付きか、タッチパッドの方が扱いやすい。なお画面出力はHDMIコネクタしかないので、場合によってはHDMI→DVIなどの変換アダプタが必要だ。
音声出力に関しては、HDMIに信号が乗っているので、ディスプレイが対応していればそこから、もしくは、アナログ音声出力にアクティブタイプのスピーカー、またはUSBやBluetoothで接続することもできる。
いずれにしても非常に洗練された筐体、そしてインターフェイスなので、特にこれ以上の説明は不要だろう。全て接続した後、ロゴをタップするだけでシステムが起動する。振動やノイズは皆無、発熱はほんのり温かくなる程度。長時間運用も大丈夫だ。
セットアップと魅力的なデスクトップ環境
初回起動は簡単なセットアップを行なう。ただし日本語ではなく、英語(もしくは中国語)となる。全ての画面キャプチャを掲載したので参考にして欲しいが、文字を入力する部分はなく、単に[Next]を数回押せばデスクトップが起動する。
また、この段階でシステムアップデートのチェックが入り、最新版をダウンロードしインストールするため、工場出荷状態のOSのバージョンは不明だ。
初回起動時のデスクトップは、左端にゴミ箱、Playストア、ファイルマネージャー、設定、Chrome、Remix Central(URL)のショートカットが並び、画面下にタスクバー、右端に通知エリア。Windowsによく似ている。操作に迷うことはないだろう。
Remix OSのバージョンは(執筆時)2.0.206。Androidのバージョンは5.1。現在Androidは6系が最新だが、1世代前の5.1であれば実用上問題ないと思われる。
日本語への切り替えは、設定/言語から日本語を選ぶだけ。この時、入力も自動的にGoogle日本語入力に切り替わる。またシステムを再起動する必要はない。
ファイルマネージャーは、Remix OS独自のアプリだ。2ペインで左側には、ドキュメント、写真、音楽、動画、ダウンロード、デスクトップと並び、microSDカードやUSBメモリなどがあると、ここにマウントされ、アンマウントも行なえる。ファイルのドラッグ&ドロップも可能だ。16GBのeMMCは、初回起動時空き11.2GB。主にアプリをインストールするストレージとしては十分だろう。
画面の解像度は、1,280×720ドット/50または60Hz、1,920×1,080ドット/50または60Hzの切り替えができ、初回起動時は1,280×720ドット/50Hzになっている。
スタートメニューに並んでいるアプリから、プリインストールのソフトウェアは、「電卓」、「Chrome」、「Googleドキュメント」、「ダウンロード」、「ファイルマネージャー(Remix OSオリジナル)」、「Gmail」、「Google設定」、「Playストア」、「RAR」、「設定」、「Googleスプレッドシート」、「Googleスライド」、「ユーザーフィードバック」、「ウィジェット」。「Playストア」に対応しているので、好みのアプリケーションをインストールすることができる。
早速試したところ、確かにAndroidアプリがマルチウィンドウで動作し、文字のコピー&ペーストもでき、ほぼWindowsと同じ感覚で操作できることが確認できた。日本語入力もまったく問題ない。少し異なるのはマウスの右ボタンがアプリ内で使えなかったり、例えばGmailアプリへファイルをドラッグ&ドロップで添付できないといったところだろうか。
Remix OSの独自の拡張としては[戻る]ボタンが挙げられる。[Home]ボタンはマルチウィンドウなので特に必要ないが、同じアプリ内で画面を切り替える時など[戻る]ボタンは必須。そのためアプリ左上に同等の挙動を行なう[←]を用意している。
さて、実際の使用感であるが、これがなかなかいい。試した限り不都合の出るアプリもない(唯一、DLNA/DTCP-IP対応のBeamが映像と音声が大幅にズレる。ただこれは多分アプリ側の問題)。また、radiko.jpなど位置情報が必要なアプリは、GPSはないものの、Wi-Fi接続で簡易位置情報が得られるので問題なく動作する。
興味深いのはOSのマルチウィンドウ対応によって、アプリのウィンドウサイズも変更可能だが、リサイズした時の挙動がアプリごとに違うこと。大きく分けて3パターンある。
1つ目はフルスクリーンにしか対応していないアプリ。代表的なものにAnTuTuベンチマークが挙げられる。これはアプリの特性上、仕方ない部分だろう。
2つ目は、TwitterやInstagramなど2ペイン(タブレットUI)非対応のアプリ。この場合は、ウィンドウサイズをリサイズすると単に描画エリアが変わるだけとなる。
3つ目はFacebook、Gmail、Feedlyなど、2ペイン(タブレットUI)対応アプリ。これらはウィンドウサイズによって1ペインになったり、2ペインになったりする。ただ動的にリサイズされるのを考慮していないアプリもあり、その場合は、ウィンドウサイズを変更後、一度終了し、起動し直すと、変更したウィンドウサイズで描画するようになる。これは現在Android自体がそもそもマルチウィンドウ非対応で、動的にウィンドウサイズを変更できず、そこまでアプリが考慮されていないためだ。
TwitterやInstagramなどタイムライン中心のアプリは、幅が広い時に2ペイン化して、広告などあまり意味のない情報が付加されるより、細長いままの方が見やすい。一方Gmailなどは2ペイン化した方が操作しやすいのは言うまでもない。とにかく想像した以上に使いやすく、魅力的なデスクトップ環境だ。
ちなみに、筆者がWindows 10 MobileのContinuumがいまいち好きになれないのは、ここに理由がある。つまりアプリの特性に関係なく、全てフルスクリーンを強要するため、UWPアプリでもContinuum非対応のアプリは表示できず、またContinuum対応アプリも無駄な空間がすかすかとした感じを生み出してしまう。ここはMicrosoftは考え直して欲しいところだ。
今時かなり遅いハードウェア
ベンチマークテストは簡易になるが、Google Octane 2.0とAnTuTuベンチマークを使用した。Google Octane 2.0のスコアは2553。AnTuTuベンチマーク/総合スコアは26004。残念ながら今時のハードウェアとしてはかなり遅い。AnTuTuベンチマーク/ランキングを見れば分かるように、最下位でASUS ZenFone 2の約半分となる。
従って、3D系のゲームやJavaScriptを多用するWebのレンダリングは少々厳しい。とは言え、YouTubeでフルHD動画を観たり、FacebookやTwitterでタイムラインを追ったり、コメントする程度であれば普通に使え、IMEの変換ももたつかない。コスト的に高速なSoCが使えず、仕方ない部分ではあるが、できれば上位モデルで少なくとも2~3倍速いものも欲しいところか。
実はこのデバイスが遅いストレスをカバー(?)する方法がある。Jide TechnologyのWebサイトに行けば分かるが、「Remix OS for PC」という、一般的なPCに対応し、SSD/HDDはもちろんUSBメモリにもインストールできるOSが無償で配布されているのだ。
Remix Mini搭載のRemix OS 2.0との違いは「Playストア」が標準で非搭載なこと。これについては、FAQで別途インストールする方法を掲載しているので、最終的には問題ない。
試したところ、初代Core iを搭載したThinkPad X201i、以前記事にしたIvy BridgeのCeleron G1610、BraswellなCeleron N3150など、I/Oも含め問題なく動作した。動かなかったのは、古のAtom NN270などを搭載したネットブック。
Core Duo/Core 2 Duoは試してないので分からないが、少なくともCore iが出た以降のプロセッサ(Celeron/Pentiumも含め)なら動きそうだ。手持ちで余っているPCへ入れたり、OS無しで販売している中古PCを安く仕入れて試すのもありだろう。Celeron G1610でもAnTuTuベンチマークは一桁違う爆速スコアとなる。
なお、VMwareやParallels Desktopなど、仮想PCでも動作はするものの、グラフィックアクセラレータ が使えず、描画が遅いためお勧めしない。
Androidアプリをマルチウィンドウで実際使ってみると、WindowsやOS X、Lunixにもない魅力的な環境で、軽くカルチャーショックを受けるかも知れない。ファンレスの上、インターフェイスも一通り揃って、9,800円(税別)という価格は衝動買いできる範囲で財布にも優しい。
SoCの速度が少し残念だが、手軽にRemix OS 2.0を試してみたいユーザーにお勧めしたい逸品と言えよう。