■西川和久の不定期コラム■
日本時間の3月1日未明、「Windows 8 Consumer Preview」が公開された。2011年9月14日に公開された「Developer Preview」は開発者向けだったので、一般向けとしては今回初となる。早速いろいろな環境へインストールして試したので2回に分けてご紹介したい。
今回公開された「Windows 8 Consumer Preview」は、英語/簡体字中国語/フランス語/ドイツ語/日本語の各32bit版と64bit版。フォーマットはEXE版とISOイメージ版が用意されている。同社のサイトでは公開直後、英語のページしか無かったが、現在は日本語も含め各国語に対応している。この関係もあり、プロダクトキーやWebの画面キャプチャなど、一部現在と内容が異なっている。予めご了承いただきたい。
気になる動作環境は以下の通り。
プロセッサ | メモリ | ディスク容量 | グラフィックス | |
32bit版 | 1GHz以上 | 1GB | 16GB | WDDM1.0以降のドライバに対応したDirectX 9対応※ |
64bit版 | ↑ | 2GB | 20GB | ↑ |
※解像度は1,024×768ドット以上を推奨。ただしスナップ機能(画面分割)を使うには1,366×768ドット/HD解像度以上が必要 |
そう言えばWindows 7の動作環境はどうなっていたか確認したところ、プロセッサ、メモリ、ディスク容量、グラフィックス全て同じ内容だった。今時のPCとしては難なくクリアできる項目ばかりなので、特に問題になることは無いだろう。
ただし解像度に関しては、1,024×768ドット以上を推奨。加えて後述するMetro スタイルアプリを画面分割して表示する「スナップ機能」を使用するには、1,366×768ドット/HD解像度以上が必要となる。これはかなり便利なので使えないのは結構痛い。最近のノートPCであれば少なくともHD解像度になっているものの、少し古めのノートPCのような長辺1,024ドットはもちろん1,280ドットでもNG。この点は条件として少し厳しいかも知れない。参考までに筆者が所有するThinkPad X201iも1,280×800ドットでアウトだ。
●セットアップまずはインストールの工程が簡単に画面キャプチャできることもあり、Mac OS X Lion/Parallels Desktopの仮想PCへインストールしてみた。環境設定は2CPU/メモリ2GB/仮想HDD 64GB。使用したのは、日本語の64bit版。ISOイメージで仮想PCへマウントし、容易にインストールできる。以下、セットアップ中の様子を全て画面キャプチャしたのでご覧頂きたい。
スプラッシュ画面の2次元っぽい熱帯魚はともかくとして、インストールした印象は「後半までWindows 7と変わらない」ということだった。表示される画面や入力項目もほぼ同じだ。今回の環境で2回目の再起動が終わり、パーソナル設定になるまでが約15分。結構サクサクインストールできた。
パーソナル設定以降の後半は、同社のサービスである、Messenger、Hotmail、Xbox LIVE、そしてWindows Liveとひも付けるメールアドレスを入力するか、しないかでシステム自体の動きが変わる。
各サービスいずれかのメールアドレスを入力した場合は、Windows Storeからアプリのダウンロード、クラウドによるファイルや写真のアクセス、環境設定を複数のPCで同じにすることができるなど、かなりのメリットがある。逆にそうでない場合は(ローカルアカウントと呼ばれている)、これらの機能を使えず、特にWindows Storeを利用できないのは厳しい。
とは言え、同等のサービスを受けるには他のOSも状況は同じだ。Mac OS X/iOSはApple ID、AndroidはGoogleアカウントが必要で、仕方ない部分でもある。今後、各社がOSのクラウド対応を進めることによって、さらにこの傾向は強くなるだろう。もはやネットに接続できない環境はOSの基本機能すら制限されてしまうことになる。
ソフトウェアキーボードはiOSかAndroid、あえてどちらに近いかと言うとAndroidの方だ。配色や機能キーなどのレイアウトも似ている。10インチ前後の液晶パネルで横置きなら、それなりにキーピッチを確保できる。実際のところはどうなのか、この辺りのフィーリングは2回目の実機で検証したい。
●使用感は?Metro UIも気になるが、まずは当面併用するであろう、デスクトップが気になり、先にこちらのチェックを行なった。起動直後はiOSやAndroidにもあるようなロック画面を表示。これを上にへワイプし、ログインするとスタート画面が現れる。もはやこれまでのWindowsとは似ても似つかぬ雰囲気だ。
スタート画面、一番左下にある「デスクトップ」をクリックすると、見慣れたWindowsが起動する。「さて何からテストするか!?」と、スタートメニューにマウスを移動しようとしたところ……スタートメニューが無い。Windows 95やWindows NTの頃から慣れ親しんだスタートメニューが無いのだ。これはかなりの衝撃。
思い起こせば、当初、「メニューが下から上に伸びるのはおかしい!」など、いろいろな文句を言ってた筆者であるが、それももう10年以上も前の話だ。すっかり馴染んでしまって無意識にスタートメニューを押してしまうまでになっている。この状態で操作方法が分からない場合、とりあえずできるのはInternet Explorer(IE)の起動とExplorerを開く、そしてシステムトレイの操作をするだけとなる。かなり思い切ったリビルドと言えよう。
「もしかして」と、タスクバーのプロパティを見ても、「タスクバー」、「ジャンプリスト」、「ツールバー」のタブしかなく、懐かしのスタートメニューは表示できない。いろいろ操作して分かったのは、マウスを右上端に置くとメニュー(チャームと呼ばれている)と時計などがオーバーラップ表示されることだ。ここからは「検索」、「共有」、「スタート」、「デバイス」、「設定」の文字が見える。
「検索」をクリックすると後述するアプリの画面になり、検索窓に文字を入力して該当するものを探す。「共有」はソーシャル共有、「スタート」はスタート画面に戻る、「デバイス」はこのシーンで使える接続デバイスの表示、そして「設定」は、画面キャプチャのような表示になる。ここでやっと見慣れた「コントロールパネル」などの項目が見え、さらに下には音量調整/明るさ調整/シャットダウンなどの表示も現れる。初めてWindows 8を触った人は、まず電源OFFにする方法に悩むかも知れない。PC情報=コントロールパネル/システムは、内容自体は従来通り。Windows エクスペリエンス インデックスの表示自体も同じであるが、最高スコアが7.9から9.9へ上がっている。
起動時の画面。上にスワイプするとスタート画面が現れる | Metro UIのスタート画面。従来と全く違うので戸惑う人も多そうだ | デスクトップをクリックするとこれまで通りだが、スタートメニューが無い |
マウスを右上端へ置くとパネル(チャーム)が表示され、設定を選ぶとこのようになる | システム情報。コントロールパネルはこれまで通り | Windows エクスペリエンス インデックスの最大スコアが7.9から9.9へ |
個人用設定は、コントロールパネル/個人設定と同じで、デスクトップ上で右クリックでもメニューの中に項目がある。ウィンドウの色が自動になっているのがWindows 7と違うところか。IE 10は、現時点ではIE 9と見た目は同じ。後述するフルスクリーンモードのIEはFlashなどに対応していない関係で、これまでと何ら変わらずネットにアクセスしたいのであれば、デスクトップ版のIEを使う必要がある。
ExplorerはリボンUIになり、タイトルバーの仕様が変わった。さらに右側の矢印をクリックすると、フル表示のリボンUIが現れる。これ自体は切り替え可能なので、どちらを標準で使うかは、ユーザーの好みで合わせればいい。
そして本来スタートメニューがあった場所にマウスを移動すると(正確には画面左下端)、スタート画面のサムネイルを表示する。同じ動作となる機能が右側のパネル内と、この部分、2カ所にあることになる。
ざっとデスクトップを触って困ることがあるとすれば、やはりスタートメニューが無いことだろう。日頃使うアプリケーションは、アプリ画面からデスクトップにショートカットを張ったり、タスクバーへ置いたりする必要がある。メーカー製のPCでプリインストールアプリケーションがある場合、片っ端からデスクトップへショートカットを張るものも出てくるかも知れない。
さらにスタートメニューは階層構造だったが、アプリ画面はフラットな管理になっている。ただし重ね合わせてフォルダを作ることは出来ない。iOS 3.xやAndroid 2.x/3.xと同等だ。これは机の上を書類で散らかした状態が仕事しやすい人と、いろいろ整理して必要に応じて取り出した方が仕事しやすい人が居るように、どちらが良いとは言えない部分。片方しか用意していない仕様には疑問が残る。加えてスタートメニューなら画面上に処理中のデータを見ながら操作できるが、アプリ画面だと画面ごと切り替わるため、一度思考が止まってしまう。
次は期待のMetro UI。個人的に以前Windows Phoneを触った時、非常に使いやすかったこともあり、Windows 8ではどうなるか興味があった。
実際操作すると、デスクトップでのもやもや感とは全く逆で、非常に軽快に操作できる。iOSともAndroidとも違う操作感。しかも仮想PC上で動いているにも関わらず画面の動きなどが実にスムーズだ。
各アプリや画面のプロパティに相当する部分は、右クリックで画面下(アプリによっては上にも)へ帯状に表示される。非表示にする場合は、もう1度右クリックでOKだ。全てこの方法に統一しているので、何かしたい時、もしくは何が出来るか知りたい時は、右クリックすれば良い。
タイルはアイコンとウィジェットを兼ねており、対応したアプリだと最新情報が表示される。大きさが2段階あるのも新鮮だ。タスクリストに相当する部分は、左上端へマウスを置くだけで画面のサムネイル一覧となる。
標準で入っているMetro スタイルアプリは、「Store」、「Xbox LIVEゲーム」、「フォト」、「カレンダー」、「Maps」、「Internet Explorer」、「メッセージング」、「People」、「ビデオ」、「メール」、「Pinball FX2」、「Solitaire」、「Weather」。「カメラ」、「Xboxコンパニオン」、「ミュージック」、「SkyDrive」、「リモートデスクトップ」、「Finance」、「Reader」。どれも基本はフルスクリーンで動作する。
「Store」は、AppleのApp Store、AndroidのAndroid Marketと同等の機能を持つ、Metroアプリ専用のマーケット。既に国産のアプリも少し登録済みで、ダウンロードして試用することが可能だ。これから徐々にアプリケーションが増えてくれば、このConsumer Previewだけでもそれなりに楽しめそうだ。標準アプリもまだ荒削りだが、アップデートに期待したい。
基本的なマウスの操作方法はデスクトップと同じで、左上端でタスクリスト、右上端でパネルメニュー、左下端でスタート画面のサムネイル表示となる。スタート画面の配置は自由に動かすことが可能だ。ただし先に述べたように、重ね合わせてフォルダを作ることは出来ない。
タスクリストから該当するアプリを引っ張り出すと、冒頭に書いたスナップ機能で画面を分割して使うことができる。例えばHD解像度でIEをフルスクリーン表示すると妙に画面が間延びするので、このような時は、左側に何かアプリを置くと丁度いい感じで画面に収まる。これはiOSやAndroidには無い機能だ。
スタート画面もしくはアプリ画面(もしかすると他にもあるかも知れない)の右下に小さく表示している虫眼鏡のようなアイコンをクリックすると、縮小表示に切り替わり、画面の見渡しがよくなる。
各アプリの画面やスタート画面上に表示されている情報などを見ると、Metro スタイルアプリはかなり使いやすそうだ。スマートフォンやiPad、Androidタブレットユーザーも理解しやすいと思われる。
ただMac OS X Lionの時にも書いたが、20型未満のディスプレイならともかく、20型以上の大きなディスプレイではたして全画面表示が使いやすいかと聞かれると、筆者的にはNoだ。とは言え、これに関しても大昔スタートメニューが下から上に伸びるのはおかしいと言っていたのと同様、数年後には慣れているかも知れないが(笑)。
Metro スタイルアプリで1つ気になったのはIE 10。リンクをクリックすると、必ず下のURLを含んだバーが表示され、リンク先のページを表示後、左ボタンを押すまで(もしくはスクロールするまで)消えないのだ。この下のバーはそれなりに高さがあるため、リンクをクリックする度に表示されるのは結構目障り。右ボタンを押した時だけの表示で十分だろう。出荷版では改善されることを望みたい。
以上のように「Windows 8 Consumer Preview」は、従来のデスクトップとMetro UIが混在した環境だ。仮想PCでデスクトップPCとして試用した限り、特にタブレットPCでなくてもマウスだけで操作でき、(分かってしまえば)単純なインターフェイスでマニュアルいらず。
ただタブレットPCや個人で使うならともかく、企業ユースとして見た場合、Metro UIが必要なのかと言う疑問が残る。加えてMac OS X Lionのレビューでも書いたように、20型以上の大きなディスプレイで全画面表示も微妙なところだ。
次回はタブレットPCのASUSTeK「Eee Slate」を使い、その使用感などをレポートしたい。