■西川和久の不定期コラム■
ワコムは3月1日、中上級向けのタブレットを発表した。前モデルに相当する「Intuos4 Wireless」の発表が2010年2月だったので、約2年ぶりの新型だ。発表にさきがけ、編集部から「Medium」タイプの実機が送られてきたので、試用レポートをお届けする。
●シンプルで使いやすいタブレット
このタブレット、ワコムの説明によると、用途はイラストレーション、漫画、アニメーション、レタッチ、フォトグラフィー、グラフィックデザイン、Webデザイン、DTP映像製作、3D CGなど、デジタルコンテンツ制作分野全般とされている。筆者のケースだと絵は描けないので、レタッチ、フォトグラフィーとなる。
製品のコンセプトは、「シンプルかつ繊細で洗練されたプロフェッショナルツール」。新UI技術として「ヘッドアップディスプレイ」を採用。これは後述するエクスプレスビュー/タッチホイールの設定/設定内容などをファンクションキーに触れるだけで画面上へオーバーレイ表示し、視線の移動を最小限に留め作業に集中することを可能にする。
ワイヤレス対応そして新エルゴノミクスデザインで快適性を追求。前モデルに相当する「Intuos4 Wireless」は、同じワイヤレスでもBluetooth 2.1+EDRだったが、今回は2.4GHz RF方式(ワイヤレス範囲約10m/干渉が無い環境)だ。オプション販売(税抜価格:3,500円)と、ワイヤレス付属モデルがある。
そしてマルチタッチと精緻な表現力を持つペンで操作性を重視。特にマルチタッチは、ペンを持ったままその手でタッチ操作でき、うまく使えば操作性はかなり良さそうだ。主な仕様は以下の通り。
□ワコム「Intuos5」の仕様ペン入力 | Intuosテクノロジ 電磁誘導方式 | ||
タッチ入力 | 静電結合方式 | ||
マルチタッチ検出点数 | 10点検出 | ||
ドライバ対応マルチタッチ | 1~5本指 | ||
読取範囲 | Small | Medium | Large |
ペン入力 | 157.5×98.4mm | 223.5×139.7mm | 325.1×203.2mm |
タッチ入力 | 同上 | 同上 | 298.6×189.5mm |
外形寸法 (幅×奥行き×高さ) | 320.1×207.8×11.5mm | 379.9×251.4×11.5mm | 487.1×317.7×12mm |
□ワイヤレス仕様
方式 | 2.4GHz RF |
ワイヤレス範囲 | 約10m(使用環境による) |
連続使用時間 | small PTK-450: 15時間 |
touch small PTH-450: 8時間 | |
medium PTK-650: 15時間 | |
touch medium PTH-650: 8時間 | |
touch large PTH-850: 5時間 | |
充電時間 | 6時間 |
□対応システム
Windows XP/Vista/7(64bit含む) |
USBポートを標準装備したDOS/V機 |
インターネット接続(マニュアルダウンロード用) |
Mac OS X 10.5.8以降 |
USBポートを標準装備しIntelプロセッサを搭載したMac |
インターネット接続 |
□価格
ペンモデル | ||
Intuos5 small | Intuos5 medium | |
型番 | PTK-450/K0 | PTK-650/K0 |
タブレットサイズ | Small | Medium |
タッチ機能 | N/A | N/A |
ワイヤレスキット付属 | N/A | N/A |
ソフトウェア付属 | N/A | N/A |
ワコムストア価格(税込) | 24,801円 | 34,800円 |
ペン&タッチモデル | |||||
Intuos5 touch small | Intuos5 touch medium | Intuos5 touch large | |||
型番 | PTH-450/K0 | PTH-450/K1 | PTH-650/K0 | PTH-650/K1 | PTH-850/K0 |
タブレットサイズ | Small | Medium | Large | ||
タッチ機能 | ○ | ← | ← | ||
ワイヤレスキット付属 | ○ | - | ○ | - | ○ |
ソフトウェア付属 | - | ○ | - | ○ | ○ |
ワコムストア価格(税込) | 27,800円 | 37,800円 | 47,800円 |
□付属品
グリップペン | 全モデル |
ペンスタンド | |
替え芯/芯抜き | |
カラーペンリング | |
USB接続ケーブル (L字型向き変更用クリップ付き) | |
ドライバCD-ROM (電子マニュアルはダウンロード/閲覧可能) | |
クイックスタートガイド | |
ワイヤレスキット | ワイヤレスキット付属モデルのみ |
アプリケーションDVD-ROM アプリケーションインストールガイド | 全モデル |
Adobe Photoshop Elements 10、 Corel Painter Essentials 4、 Corel Painter Sketch Pad | アプリケーションソフト付属モデルのみ |
サイズはSmall/Medium/Largeと3タイプ。大きさはそれぞれ320.1×207.8×11.5mm(幅×奥行き×高さ)/379.9×251.4×11.5mm(同)/487.1×317.7×12mm(同)となる。今回届いたのはMediumタイプ。iPad2との比較写真を掲載したが、結構大きいことが分かる。
ペン入力はIntuosテクノロジ/電磁誘導方式。Intuosペンテクノロジは、2,048レベルの筆圧機能、1g ON荷重、±60レベルの傾き検出機能、消しゴム機能、デバイスIDなどの特徴を持つ。ただし、OSがWindowsの場合、一部の筆圧機能対応アプリケーションの対応レベルが1,024までとなっている関係で、ドライバ側も1,024が初期設定となる。2,048レベルの筆圧機能をフルに活用するには、コントロールパネル/筆圧レベルの互換性のチェックボックスを外した上で、対応アプリケーションを使用する必要がある。
現在対応しているアプリケーションは、Adobe Photoshop CS3以降、Adobe Photoshop Elements 6以降、Corel Painter X以降、Corel Painter Essential 4、Corel Painter Sketch Pad。なおMac OS Xの場合は、アプリケーションは自動的に2,048レベルとなり、設定は不要だ。
タッチ入力は静電結合方式で、マルチタッチ検出点数10点。対応ドライバで1~5フィンガーの操作となる。
モデルはSmallペン/ペン&タッチ、Mediumペン/ペン&タッチ、Largeペン&タッチ、そしてペン&タッチモデルに関してはワイヤレスユニット付属かアプリケーション付属の2タイプあり、計7モデル。アプリケーション付属モデルはAdobe Photoshop Elements 10、Corel Painter Essentials 4、Corel Painter Sketch Padが同梱される。
電源はUSB接続時バスパワー、ワイヤレスモジュール使用時は内蔵バッテリとなる。またワイヤレスモジュール使用時、USB接続するとUSB側が優先され、バッテリへ充電が始まる。充電時間は約6時間。
ワイヤレスモジュールの仕様は先に書いた通りだが、注意する点として、ペンモデルとペン&タッチモデルでバッテリ駆動時間が大きく異なることだ。Small/Mediumタイプ共、ペンモデルの15時間に対して、ペン&タッチモデルは8時間と半分近くなる。なおLargeタイプはペン&タッチモデルだけのラインラップだ。
対応OSは、WindowsがWindows XP/Vista/7 日本語版(64bit版を含む)、Mac OS Xが10.5.8以降(ただしCPUはIntelのみ)。価格は今回試用したMedium/ペン&タッチ/ワイヤレスモージュール付属で37,800円だ。
直接指が触れるインターフェイスなので、まずその質感が気になるものの、タブレットは、広いオーバーレイシートでソフトなラバー仕上げ、そしてグリップペンも握り易く滑り難いラバーグリップ採用。タブレットもグリップペンも手に馴染む。扉の写真に少し見えているパッケージも含め非常に高級感がある。前モデルの「Intuos4 Wireless」は触ったことが無いももの、写真を見る限り表面加工がかなり違っている上、この「Intuos5」は表面がほぼフラット。使い心地は違いそうだ。
ワイヤレスユニットを使わない場合は、USB接続のみとシンプル。バスパワーで作動するので常時使用しても問題無い(グリップペンはもともとバッテリを必要としない)。また電源ON時、四隅の“「”などが光るが、その光方も上品だ。ただ気になる点としては、ペン&タッチタイプでワイヤレス接続した場合、バッテリ駆動時間が約8時間となっている。一般的な1日の労働時間でほぼ空になり、毎日充電が必要だ。もう少し大容量のバッテリユニットが欲しいところか。
ペンスタンドはスタンドの下半分が外れ替え芯が入っている。なかなかのアイディア(Intuos4も同様)ものだ。更にワイヤレスユニット装着時は、その隣にPC側のユニットを収納するスペースがあり、使わない時はここへ入れれば行方不明になることも無い。バッテリへの充電はUSB接続時に行なわれ、この時ワイヤレスユニットよりUSB接続が優先となる。
グリップペンの側面には「右ボタンクリック」と「ダブルクリック」のスイッチ、上には「消しゴム」を配置。非常に使いやすい位置にあり、またスイッチは軽いもののクリック感があり、誤作動することは無く、指も疲れない。
●セットアップ今回は対応しているアプリケーションのPhotoshop(CS5)がWindowsにある関係で、64bit版Windows 7 SP1を使って試用した。ただし素のWindowsではなく、Mac OS X Lion上でParallels Desktopを動かし、その仮想PCで作動するWindowsだ。USB接続時もワイヤレス接続時もParallels Desktopのデバイス/USBから該当するデバイスを選び問題無く作動している(この点は筆者も編集部も作動保障するものではないので自己責任でお願いしたい)。
セットアップ自体は非常に簡単だ。付属のインストールCDからインストーラを起動。メッセージに従って操作すれば作業完了。ユーザーガイドはインターネットからのダウンロードとなる。この時、左利き/右利きの設定が表示されるが、後からでも変更可能だ。またインストール時は再起動しないものの、アンインストール時には再起動が必要となる。
インストール後、コントロールパネル/プログラムと機能を見ると、「ワコムタブレット」に加え「WebTablet IE Plugin」、「WebTablet FB Plugin」、「WebTablet Netscape Plugin」も入っていた。プログラムメニューには「ワコムタブレット」が追加され、「お読み下さい」、「マニュアル」、「ワコムタブレットのプロパティ」、「タブレット設定ファイルユーティリティ」の項目がある。
インストーラ起動 | ユーザーズガイドのダウンロード | 左利き/右利きの設定(後で変更可能) |
ドライバのインストール | 使用許諾 | インストール完了 |
●使い勝手
タブレット左側(右利きの場合)にあるファンクションキーの初期設定は、上から「Touch ON/OFF」、「設定内容の表示」、「プレシジョンモード」、「マッピング画面切り替え」、「修飾キー Shift/Ctrl/Alt/スクロール移動」となっている。プレシジョンモードは入力エリアと画面の対比が異なり、画面を拡大することなく細かい描画が可能になるモード。マッピング画面切り替えは、マルチディスプレイ時に画面を切り替える。
またこの「Intuos5」(ペン&タッチモデル)を導入することにより、Windows側のコントロールパネル/ペンとタッチも有効になる。
冒頭に書いた「ヘッドアップディスプレイ」が下に並ぶ3枚の画面キャプチャ。各ファンクションキーに指を乗せると画面上にその内容がオーバーレイ表示される仕掛けだ。また複数ボタンの同時押しにも対応している。なるほど、これであればファンクションキーに触れれば画面上で内容を確認、視線の移動を必要とせず作業に集中できる。なかなか使いやすいUIと言えよう。
ファンクション/ファンクションキー | タブレット設定ファイルユーティリティ | Windows 7/コントロールパネル/ペンとタッチ |
ヘッドアップディスプレイ/設定内容の表示 | ヘッドアップディスプレイ/エクスプレスビュー | ヘッドアップディスプレイ/タッチホイールの設定表示 |
ここまで理解できれば、後はアプリケーションで操作することになるが、もともと筆者は絵心は無く、Photoshopで使うと言っても、例えばブラシツールで肌のテカりや、シワを消したりなどする程度。加えて長年マウスを使って操作していると、ペンによる操作に慣れるまではそれなりの時間が必要だ。とは言え、ペンに連動した描画自体は非常に滑らかで全く違和感を感じず、思いのまま操作可能。
いろいろ試して便利だったのは、ペンを持ちながら、その手でマルチタッチによる拡大/縮小、スクロールができるのはこれまでに無い操作方法で、無意識に出来るようになれば作業効率が上がる。マルチタッチ自体はiPadのそれに近く、特に覚える必要は無かった。プレシジョンモードも画面を拡大することなく、エリア内で細かい作業が出来るので重宝する。使い込めば強力なツールとなりそうだ。
インストール後のコントロールパネル/プログラム.。「ワコムタブレット」に加え「WebTablet IE Plugin」、「WebTablet FB Plugin」、「WebTablet Netscape Plugin」も追加されている | プレシジョンモード。このエリア内だけ画面の比率とタブレットの比率が変わり、画面を拡大せず細かい作業が行なえる | ラジアルメニュー。カスタマイズ可能なダイヤル式メニュー |
各ファンクションの細かい設定は「ワコムタブレットのプロパティ」で行なう。主要部分を掲載したのでご覧いただきたいが、その設定可能な項目はかなり多い。初めて触る人は戸惑いそうだ。できればインクジェットプリンタやスキャナでよく見かける、簡易モードと詳細モードのように、設定できる内容のレベルを分けるのも手かも知れない。
この中で分かりにくいのは「ラジアルメニュー」だろうか。これはファンクションキーにアサインしないと使えないが、シングルディスプレイタの環境では、上から4番目の「マッピング画面切り替え」は不要だ。ここへ「ラジアルメニュー」をセットし、Photoshopを起動、作業中に上から4番目のファンクションキーを押すと、このダイヤルのようなメニューが表示され、例えば「ブラシパネル」を選ぶと、Photoshopのブラシパネルを表示、もう1回押すとブラシパネルが非表示となる。もちろんダイアル中の機能もいろいろ割当て可能。自分の好みの環境を構築できる。
ファンクション/ラジアルメニュー | ファンクション/タッチホイール | ファンクション/Wireless |
オプション | タッチパネル/タッチオプション | タッチパネル/ジェスチャーの標準設定 |
タッチパネル/ジェスチャーの個人設定 | アプリケーション/アプリケーションの登録 | タブレットについて/診断 |
グリップペン/ペン | グリップペン/テールスイッチ | グリップペン/マッピング |
以上のようにワコム「Intuos5」は、ルックスはシンプル。グリップペンもタブレットも手触りが良く疲れにくい。加えてタッチモデルはマルチタッチに対応、グリップペンを握ったまま、いろいろなジェスチャーで操作することが可能となる。ワイヤレスユニットを搭載すれば邪魔なケーブルも無くなり机の上はスッキリ。ソフトウェア面も充実しており、ヘッドアップディスプレイは画面から視線を変えずに内容を確認できる便利なUI。ファンクションキーや各キーなどに割当てられる機能も豊富だ。
サイズは3タイプ、タッチ対応・非対応、アプリケーションまたはワイヤレスユニット同梱など、計7モデルあるので、この手の入力デバイスに興味のある人に広くお勧めしたい製品だ。