実録! 俺のバックアップ術

保存先はNASほぼ一択、データの重要度別に分けてスケジュールバックアップ

~山口真弘編

筆者宅のNAS(の一部)。後述するようにデータの重要度別に保存先のNASを変え、それぞれについて適切なスケジュールでバックアップを行なっている

 筆者の元同僚は、一人息子の2歳以前の写真を完全に失ってしまった。聞くと息子さんが3歳の頃にPCがクラッシュし、バックアップを取っていなかった写真がすべて失われてしまったのだそうだ。おそらくこの先何十年も後悔することになるであろう、かなり悲惨なエピソードだが、こうした取り返しが付かない話を聞いて、「うわぁそれはシャレにならない、自分もバックアップはきちんとしなきゃ」と思っても、翌日さっそくHDDを買ってきてバックアップ設定を行なって……という行動にすぐ結び付く人は、そう多くはないように思う。

 何せバックアップと一口に言っても、最適な方法も分からなければ、機材の購入にはそこそこの予算もかかる。バックアップ先としてもっとも一般的なUSB HDDは、本稿執筆時点では3TBで1万円を切るか切らないかだが、そうした相場を調べるうちに、むしろ保存先を拡張するのが先、バックアップの設定をするのはもうしばらく先、となってしまう人も多いだろう。このあたりはある程度の危機感を抱いたことがないと、無理からぬことかもしれない。

 それより今できることは、バックアップ環境の構築には何が必要なのか、どんなところに気を付けるべきかを知り、取るべき策のイメージを持つことだ。この連載はそういう方々に対し、本誌ライター陣それぞれのバックアップ方法を紹介して役立ててもらう趣旨だと聞いているので、今回は筆者が実践しているバックアップについて「NASから外部ドライブへのスケジュールバックアップ」と「Windowsのドライブまるごとイメージバックアップ」の2つについて紹介したい。

データをNASに集約し、外部ドライブにスケジュールバックアップ

 筆者の場合、ほぼすべてのデータはNASに保存しており、PCのローカルドライブに保存しているデータと言えば、Dropboxで同期している書きかけの原稿くらいだ。この体制になって早数年なのだが、当時データの保存先としてローカルドライブでなくNASを選択したのは、複数のPCのどれからも作業できるようにしたかったことに加えて、バックアップを容易にしたかったという理由が大きい。

 というのも、バックアップ対象のファイルがあちこちに分散していると、バックアップの設定を行なうだけで一苦労で、漏れも発生しやすいからだ。その点、全データをNASに集約しておけば、ドライブごとバックアップすれば済む。NASは外部ドライブへのバックアップ機能を標準で備えているので、別途ソフトなどを購入する必要もない。また今回は触れないが、多くのNASはPC→NASへのバックアップソフトを用意しており、それが無償で使えるのも、利点と言っていいだろう。

筆者宅で稼働しているNASの1つ、QNAPの2ベイNAS「TS-251+」。2ベイ以上のNASはRAIDによる冗長化機能を備えているので、内蔵HDDのどれか1台がクラッシュしてもデータの復元は可能だが、さらに外部のUSB HDDなどに定期バックアップを行なっておけば、NASそのものが故障した場合もデータを復元できる

 ただ、NASに保存済みのデータはどれも等しく重要というわけではなく、中にはバックアップが不要なデータや、それ自体がバックアップに相当するデータもある。こうしたデータを含め、全てを同じ設定でバックアップするのは時間もかかる上、ディスクの寿命や消費電力の観点からもあまり望ましくはない。何か対策を施そうと考えていた頃、記事執筆の関係で複数メーカーのNASを併用するようになったため、データを複数のNASに分散させた上で、バックアップのスケジュールを最適化することにした。

 その際行なったのは、手持ちのデータを重要度別に4つのランクに分類するという、いわゆる棚卸しの作業だ。具体的には以下の通り。

バックアップの重要度を計る4つのランク
Sランク失うと再入手が一切不可能なもの
Aランク手間または費用をかけることで、再生成または再入手が可能なもの(難易度高)
Bランク手間または費用をかけることで、再生成または再入手が可能なもの(難易度低)
Cランク再入手が不要なもの、またはそれ自体がバックアップのデータ

 Sランクの最たる例は写真だ。冒頭で紹介した元同僚氏の例からも分かるように、個人で撮影したプライベートな写真は再入手が効かず、バックアップの重要度は高い。

 Aランクに当たるのは例えば本の自炊データで、裁断&スキャンして手間暇かけて作ったデータが消えると確かにショックだが、本を再購入する段階からやり直せば再作成は不可能ではないし、将来的に電子書籍で入手できるようになる可能性も含めると致命的ではない。TV番組の録画データなども同様で、このあたりは希少性によってAランクだったりBランクだったりする。

 Cランクは例えばiTunesのデータがそうで、iTunes Matchでクラウドと同期しており、ローカルへのダウンロードも可能なため、わざわざローカルで独自にバックアップを作成する必要はない。後述するWindows本体のイメージバックアップデータも、再生成すれば事足りるのでCランクだ。また身の回りの書類をスキャンしたPDFデータは、代替が効かないという意味ではSランクだが、ペーパーレス優先でそれほど重要でない書類も電子化している場合は、Cランク扱いとなる。

 ただ、再生成が可能なデータでも、別の事情でランクが繰り上がる場合もある。筆者の場合、本稿のような記事原稿に含まれる製品写真や動画、および比較表がそれで、ほとんどの成果物は着手から完了まで1週間以内のサイクルで回っているため、逆に言うと1週間の時間をかければ進行中の案件をほぼ元通りに復元できる。そうした意味ではAランクなのだが、〆切の関係で1週間遅らせることが許されない案件がほとんどであるため、扱いとしては1つ繰り上がってSランクとなる。

 以上のように、4つのランクに分けた手持ちのデータを、それぞれ別々のNASに保存した上で、適切なスケジュールおよび仕組みでバックアップを行なうことにした。例えばSランクは外付ドライブに1日1回バックアップした上で、さらにクラウドにもバックアップ。AランクとBランクはそれぞれ週1回、月1回のペースで外付ドライブにバックアップ。Cランクはバックアップせず無視という形だ(筆者はバックアップの頻度をNASごとに分けているが、NASが1台でもバックアップ設定を複数作れば同じ仕組みが構築できる。念のため)。

Sランクである写真のバックアップ設定。頻度は1日1回、毎日9時30分に外部ドライブにバックアップを行なっている。ちなみにAランクだと週1回、Bランクだと月1回のバックアップといった具合に、回数を最小限にして電力消費を抑えている。この設定画面はSynology製NASのもの
Sランクのデータはさらにクラウドにもバックアップ(正確には同期)を行なっている。クラウドストレージの選択肢は複数あるが、ここではAmazon Cloud Driveを用いている。詳細は過去記事を参照されたい

 ちなみに、なぜSランクは外部ドライブだけでなくクラウドにもバックアップするかと言うと、クラウドからだと必要なデータをファイル単位で取り出せるからだ。NASから外付ドライブへのバックアップは、ディレクトリ構造をそのままコピーするメーカー(QNAPやASUSTOR)もあれば、ブロック単位でバックアップするメーカー(Synology)もある。後者の場合、バックアップの実行速度が速い、秘匿性が高いなどの利点はあるが、基本的に同じメーカーのNASでないと読み出せないため、NAS本体の故障時にPCや他社のNASに繋いでファイルを取り出すといった使い方ができない。

Synology NASから外部ドライブにバックアップしたデータをWindowsのエクスプローラで表示したところ。連番付きのブロック単位で保存されているため、同社のNASがなければ個別のファイルを取り出せない

 こうした場合、クラウドにもバックアップしておけば、NAS本体のクラッシュ時もドライブ全体の復旧はひとまず後回しにし、特定のデータだけをクラウドからすぐ取り出せる。スマートフォンからの操作も容易だ。またNAS本体とは別の場所にデータが保存されるので、落雷や火災などによる全損への対策としても有用なほか、物理的な盗難への備えにもなる。ランク問わずあらゆるデータをクラウドに置くと相当なコストがかかるが、ランク付けして優先順位が高いもののみクラウドにバックアップするというのは、コスト面でも現実的な解だろう。

 以上ざっと紹介したが、NASというデバイスはデータを直接保存する先として使うだけでなく、PC内のファイルのバックアップ先としても使え、さらにスマートフォンやタブレットからデータの読み書きもできる、汎用性の高い製品だ。最近のNASの多くはリモートアクセス機能を搭載しているので、外出先から必要なデータを取り出せるなど、モバイルワークにも対応しやすい。NASというジャンル自体、ここ数年の進化は目覚ましいので、これまでNASを使ったことがない人はもちろん、NASがスマートフォンやタブレットに対応できていなかった数年前の製品しか利用経験がない人は、積極的に使ってみて欲しいと思う。

Windowsのクラッシュに備えてドライブをまるごとイメージバックアップする

 以上のように、NASとクラウドを組み合わせたバックアップでデータを保護しているため、PC(Windows)はいつクラッシュしても大丈夫……と言いたいのだが、実際のところPCにはさまざまなソフトもインストールされているし、例えば辞書登録した単語や、マウスに割り付けているショートカットなどが失なわれた場合、それらをエクスポートしたファイルが手元に残っていたとしても、1つずつインポートしていると日が暮れてしまう。そこでPCについては、定期的にドライブまるごとイメージバックアップを取り、有事の際にドライブごと復旧できるようにしている。

 使用するソフトはパラゴンソフトウェアの「Paragon Backup & Recovery」で、これを使ってCドライブをまるごとイメージバックアップしておけば、万一HDD/SSDが壊れても、近所の量販店で新しいHDD/SSDを買って来て物理的に交換した後、リカバリメディア(USBメモリまたはCD)から本ソフトを起動し、ドライブイメージを指定すれば、Cドライブがそっくり元のままの状態に復元できる。わざわざOSインストール→ソフトのインストール→設定ファイルのインポートといった手間をかける必要はない。換装も含めて2~3時間もあれば元通りになる。

 使い方はスクリーンショットをご覧いただければと思うが、ウィザード形式で進められるため、特に難しくはない。バックアップ自体はWindowsを起動したまま行なえるので、わざわざ作業を中断しなくて良いのも嬉しい。注意すべきなのは、バックアップ対象にCドライブだけでなくブート領域も含めておかないと起動できないこと、またイメージバックアップの保存先は容量的にもNASがベターだが、復旧作業を行なう際はUSB接続の方が速度的にも有利なため、復旧の時は一時的にイメージデータを移せるUSB HDDがあった方が良いことくらいだろう。

 ちなみにこのソフト、これだけの機能がありながら無料で提供されている。有料版はサポートが付属することと、日本語化されているのが相違点だが、機能そのものは無料版ですべて使えるので、ありがたく使わせていただいている。ただ上位版である「Paragon Hard Disk Manager」にはスケジュールバックアップ機能があるらしく、手動でのバックアップの手間を省けることから、導入を前向きに検討しているというのが現在の状況だ。

パラゴンソフトウェアの「Paragon Backup & Recovery」。まずは「Backup to Virtual Disk」をクリックしてウィザードを起動する。ちなみに復元用のリカバリメディア作成はこの画面の「RECOVERY MEDIA BUILDER」から行なう
ウィザードが起動し、どのパーティションをバックアップするか尋ねられる。ここではブート領域とCドライブをひっくるめた内蔵ドライブ全体を選択して「Next」をクリック
保存先を指定した後、バックアップの内容が分かる名前を付けて「Next」をクリックするとイメージバックアップが開始される。ちなみにこれらの作業はWindowsを起動していても行なえる
バックアップ実行中。残り時間の表示はいまいち不正確で、残り10分や20分と出たまま平気で数時間かかることもあるが、気長に待つ
バックアップ完了。今回はWi-Fi経由でバックアップ先はNAS、かつ同じPCで作業しながらという悪条件だったが、約3時間でバックアップが完了した
バックアップしたイメージデータ。4GB単位で分割されているのが分かる。バックアップの対象となった内蔵SSDは256GB(Cドライブの空き領域178GB)だが、今回バックアップしたイメージデータは合計22.3GBに圧縮されている

 以上、NASから外部ドライブへのスケジュールバックアップ、さらにWindowsのドライブ全体のイメージバックアップについて紹介したが、筆者もまだまだ試行錯誤というのが実際のところだ。現在の課題は、バックアップがきちんと行なえているかの確認の省力化(現在は目視による通知メールのチェック)、バックアップのスケジュールに即した節電設定、クラウドバックアップ先の見直し(Amazon S3の本格活用)あたりだろうか。筆者自身、今回の連載でほかの執筆者陣からヒントをもらうことで、さらに効率的なバックアップの仕組みを見付けていければと考えている。