実録! 俺のバックアップ術

職場にはUSB RAID HDD、自宅にはNASの二重体制。ソフトは無償のものを活用

~PC Watch編集長 若杉編

 改めて言うまでもなく、バックアップは大切だ。この原稿を書いている今もそのことを身に染みて感じているのだが、それはさておき、バックアップの重要性は分かっていても、「イマイチやり方が分からない」、「どういうハードやソフトを使えば良いのか分からないため実践できていない」という人も多いだろう。この連載では、PC Watch執筆陣の個人的なバックアップ環境を紹介し、ユーザーの参考にしてもらうことを目的としている。

 初回となる今回は、PC Watch編集長である若杉のバックアップ環境をご紹介する。

職場ではWDのUSB 3.0 RAID HDDを利用

 筆者は職場と自宅にバックアップストレージを設置している。まず、職場の環境について説明しよう。

 職場で利用しているのはWD製RAID 0/1、USB 3.0対応の外付けHDD「My Book Duo」の6TB×2モデルだ。このHDDは、2つの用途で利用している。

「My Book Duo」。中身は6TB×2

 1つは、古いデータの保存。仕事柄、多くの写真を撮影する。記事に使うのはごく一部だが、後になって、その時は使わなかった写真を使いたくなった場合に備え、それらの写真は全て保存してある。しかし、カメラの進化に伴い、写真データのサイズが肥大してきた。特に、今年(2016年)になってソニーのミラーレスカメラ「α6300」を買ったのだが、JPEGでも1枚あたり10MB前後となる。多い時は1回の取材で数百枚を撮影するので、1カ月でだいたい数十GBになる。

 一方でプライベートにも仕事にも使っているノートPCのSSDは容量256GBで、空きが30GBほどしかない。そこで、1カ月おきに取材写真は手作業でこのMy Book Duoに移動し、アーカイブとして保存することにしている。

 バックアップストレージとしては、大きく分けるとUSB(MacならThunderboltもあるだろう)接続のものと、ネットワーク接続のもの(NAS)があるが、大容量を一気に転送するという使い方のため、速度を重視し、USB HDDを使っている。SSDであればさらに高速だが、容量が足りない。また、USB 3.0の場合、SSDは500MB/s程度だが、My Book DuoはHDDでもこちらのレビューにもある通り300MB/sほど出せる。これだけあれば、数十GBの転送でもあまり待たされないで済む。

 ただし、この300MB/sという速度は2つ内蔵しているHDDをRAID 0で構成した場合のもの。RAID 1では、半分の160MB/s程度になる。RAID 0は高速だが、万が一コントローラが壊れたりすると全てのデータが失われてしまう。My Book Duoは、USBポートにさらに外付けHDDを繋いで、My Book Duoをバックアップすることもできるが、それはちょっと仰々しいし、さらに12TB用意するとなるとコストがバカにならない。と言うことで、160MB/sでも自分の使い方なら必要十分な速度だし、何よりも片方のドライブやコントローラが壊れても、データが残るという冗長性の方が遙かに重要なので、RAID 1にしている。

RAID 0での速度
RAID 1での速度

バックアップソフトはフリーのBunBackupを利用

 もう1つの使い方がノートのSSDのデータバックアップだ。前述の通り、仕事PCは私物でプライベートにも使っており、個人的なデータももちろんバックアップを取るようにしている。こちらはデータの移動ではなく、基本的に全てのデータをノートPCに残したまま、My Book Duoに複製を置いている。つまり同期だ。

 このうち一番サイズが大きいのが音楽データだ。さほど枚数を持っているわけではないのだが、筆者は気に入った曲をみつけたらCDでアルバムごと買うようにしている。iTunes経由でAppleロスレスで取り込んでいるので、全部で43GBほどある。

 こちらの記事に書いた通り、Google Play Musicを利用していて、iTunesで取り込んだ曲は全てGoogleのクラウドにも同期しており、PCだけでなくスマートフォンからでも聴けるようにしている。だが、例えば海外取材の時、回線は容量制限が厳しい3Gや4Gに頼ることになる。オフラインで聴けば、回線容量を無駄使いしないで済むので、ノートPCをデータの母艦にしている。

 さて、My Book Duoには、WD製のバックアップソフトも付いている。しかし、My Book Duoを導入する前からフリーソフトの「BunBackup」を利用しており、今も使い続けている。

 このソフトは無償ながら、細かな設定が可能で、かゆいところに手が届く。ソフトの解説は窓の杜の記事を参照してもらうとして、ここでは個人的な設定方法を紹介する。

 Cドライブをまるごとバックアップしてもいいのだが、それでは無駄なファイルも多くなってしまうので、ユーザーフォルダ配下の「デスクトップ」、「ドキュメント」、「ムービー」、「ミュージック」、「ピクチャ」フォルダのみを対象としている。

BunBackup。バックアップしたいフォルダごとに設定を作っているが、フォルダ以外の設定内容は同じ

 この場合、バックアップ設定の新規追加を行ない、C:\ユーザー\wakasugiフォルダをバックアップ対象に選び、詳細の除外フォルダで「Roaming」などの不要なフォルダを選ぶ形でも行けるが、そうするとやはりルートフォルダ直下の不要なファイルがバックアップ対象のままとなってしまう。大したサイズではないが、それがいやなので、敢えてデスクトップやドキュメントなど、フォルダごとにバックアップ設定を作っている。

 バックアップ方法では、「サブフォルダもバックアップ」と、「ミラーリングする」にチェックを入れている。この、ミラーリングするが筆者にとっては重要なのだ。過去いくつか試したバックアップソフトにはこの設定がないものが多かった。

 ミラーリングをオンにしておくと、ローカルで消したファイルはバックアップ先でも削除される。この場合、ミラーリングしていない、あるいはファイル履歴を保存する設定で得られる、「間違って消したファイルを復活できる」というメリットが失われる。

 しかし筆者は、PCを買い換えたり初期化したりした際に元に戻すための「直近の状態のバックアップ」をこのMy Book Duoに求めている。新PCには、アプリのインストールは手動で行なう必要があるが、あとはごっそりデータをコピーすれば、ほぼ元の状態に戻せる。だから、過去に消したファイルはバックアップ先でも消えていて欲しいのだ。

サブフォルダもバックアップするにしておけば、対象フォルダが丸ごとバックアップされる
ミラーリングするにチェックを入れると、ローカルで消したファイル/フォルダはバックアップ先からも消される

 環境設定では、自動バックアップで1時間おきにバックアップを取るようにしている。かなり長めの間隔だと思う人もいるだろう。その理由は以下で説明する。

バックアップ間隔は1時間にしている

自宅にはSynologyのNASを設置

 会社の外付けHDDとは別に、自宅にSynology製2ドライブNAS「DS215j」を設置している。こちらもドライブは6TB×2で、RAID 1にしている。これも使い方はMy Book Duoに似ていて、ノートPCのバックアップを取りつつ、一部のデータはノートPCから手動で適宜移動している。

筆者自宅の仕事机
DS215j。こちらも中身は6TB×2

 ここで言う一部のデータも写真なのだが、こちらは仕事のものではなくプライベートで撮影したもの。以前は、カメラで撮影したプライベート写真はノートPCに残していたが、ノートPCの空き容量に余裕がない現在、外部ストレージに移さざるを得なくなった。

 仕事の写真と違い、例えば友達と飲み会で話している時に、「あ、あの時の写真を見せたい」という状況がある。スマートフォンで撮った写真ならスマートフォンに入っているが、ミラーレスで撮影したものは入っていない。ここでNASの「ネットワーク接続」という仕様が活きてくる。

 DS215jは、家庭内LANだけでなくインターネットからもアクセスできるのだ。写真については、SynologyのWindows用「Photo Station Uploader」アプリを使うと、DS215jの写真公開フォルダにアップロードを行ない、インターネット経由で閲覧できるようになる。写真だけでなく動画にも対応している。もちろん、アップロードしたアルバムにはパスワードをかけることができる。アップロードが終わったら、ローカルからは消している。これで、通信は必要となるが、撮った写真全部をいつでもどこでも閲覧できる。

Photo Station Uploaderでアップロードした写真/動画は、ブラウザやスマートフォンアプリでネット経由で閲覧できる

 同期にはSynologyの「Cloud Station Backup」を利用している。こちらもBunBackupのように、選択したフォルダをDS215jと自動的に同期するアプリで、デスクトップ、ドキュメント、ムービー、ミュージック、ピクチャフォルダを同期対象にしている。

Cloud Station Backupでデスクトップやドキュメントフォルダなどをバックアップ元として指定
あとはリアルタイムでバックアップされる

 BunBackupと違うのは、リアルタイム同期としている点と、ミラーリング設定がない点。前者は、文字通り、ノートPCの同期対象フォルダに保存したファイルは、片っ端から即座にこのDS215jにバックアップされる。Cloud Station Backupもインターネット経由でアクセスできるので、会社にいようが、海外にいようが、全てのファイルが自宅のNASにバックアップされるようにしている。

 会社のUSB HDDのバックアップ間隔を1時間にしているのは、自宅NASでリアルタイムバックアップを取っているからだ。万が一、1時間の間にファイルに問題が生じても、DS215jから取り出せる。

 もう1つ理由があり、それはリアルタイムバックアップは重いからだ。Cloud Station Backupは、起動しているだけならCPU負荷は1%前後だが、大きなサイズのバックアップをすると、その間、CPU負荷を5~10%程度高めてしまう。バッテリ駆動の時に、2つのバックアップソフトがリアルタイムで動作していると、駆動時間に大きな影響が出てしまうので、会社でのバックアップ用にはリアルタイム同期型ではないBunBackupを使っているというわけだ。

 ミラーリングについては、Cloud Station Backupには、調べた限りそういう設定がない。そのため、否応なしにそうせざるを得ないのだが、ノートPCでファイルを不意に消してもNASには残っている。また、ファイル履歴も3バージョンまで残しているので、ファイルを間違って上書きしても3回までなら、以前のものを呼び出せる。

 もちろんミラーリングしない事によって、データは残り続けるので、バックアップサイズが大きくなってしまう。個人的には、ローカルで削除してから一定期間が経過したファイルを一括して自動的に消したりしたいのだが、この機能もないらしい。今のところは、6TB中1.8TB程度しか使っていないので、諦めて完全に不要なファイルもそのままにしている。

スマートフォンも定期バックアップ

 このように、会社ではUSB HDDに定期バックアップを、自宅ではNASにリアルタイムバックアップを行なっているが、スマートフォンについても別途バックアップを取っている。利用しているアプリはAndroid用の「FolderSync」だ。アカウント設定1つまでなら無償版のLiteが利用できるが、高機能で重宝しており、314円にて有償版を購入した。

 このアプリも、スマートフォン内の選択したフォルダをバックアップできる。クラウドストレージなども対応するが、筆者はDS215jを保存先としている。具体的には、まずNASアクセスするためのアカウントを作る。アカウントの種類で「SMB/CIFS」を選び、サーバーアドレスにNASのIPアドレスを入力し、NASのアカウント、パスワードを入れる。

FolderSync。NASにSMBアクセスするアカウントを設定する

 続いて、同期フォルダ編集で、同期タイプを「リモートフォルダ」とし、リモートフォルダにNAS上のバックアップ先フォルダを、ローカルフォルダにバックアップしたいフォルダを選ぶ。これによりスマートフォンがバックアップ元となる。同期スケジュールは、寝ている間の毎日午前4時を指定している。

同期タイプはリモートフォルダとし、リモートフォルダにバックアップ先、ローカルフォルダにバックアップ元を指定。スケジュールは毎日午前4時にしている

 バックアップ対象はSDカード全体としている(ただし、隠しファイルは除く)。無駄なファイルはバックアップしたくない質なのだが、スマートフォンでは各アプリがいろいろなフォルダにファイルを保存し、どこに何があるのかを把握しにくい。容量も全体で32GBしかないので、無駄を承知で全てバックアップしている。

 これまでいくつか試した中で、このアプリを使い続けようと思った理由は複数ある。1つは、ミラーリング設定があること。「削除を同期」をオンにしておけば、スマートフォンから消したファイルがNAS上で残り続けることはない。

 もう1つの理由は、自宅でWi-Fiに繋いでいて、かつ充電している時だけバックアップできるという点。「接続」で「許可するWifi SSID」に自宅のルーターのSSIDを入力。そして、「3G/4Gを使用」と「Edge/2Gを使用」、「ローミング時の同期」などをオフにしておく。これによって、大量の写真を撮影した時に、4G回線でバックアップされ、回線容量を浪費することを防げる。海外出張の時、モバイルルーターを用いる(スマートフォンとの接続はWi-Fiとなる)こともあるが、国内の4G回線よりさらに容量制限が厳しいこの状況でデータ転送してしまうことを防げる。

許可するWifi SSIDで自宅ルーターを指定しておけば、4G回線や海外でバックアップされなくなる

 また、「高度」設定で、「充電中のみ同期」としておくと、寝てる間に充電し忘れたスマートフォンのバッテリがさらに減ることを防げる。と言っても、毎日何GBもバックアップを取るわけでもなく、バッテリ駆動中にバックアップしても、バッテリへの影響は大したことないのだが。

細かいことだが、充電中のみ同期にしておけば、バックアップが無駄にバッテリを浪費しない

 ちなみに、スクリーンショットはSDカードではなくスマートフォン内蔵ストレージに保存されるため、そのフォルダも別途バックアップ設定を作って同様に保存している。

 と、このように、スマートフォンについては、データの保全よりも、スマートフォンのバッテリや回線容量を重視しているのは、スマートフォンにしかないデータがプライベートな写真くらいしかないためだ。もちろんそれらも大事なものなのだが、万が一消失しても、仕事の写真やデータと違い他人に迷惑をかけることはない。と言うことで、このような設定にしている次第だ。

環境を過信せず、運用にも気を付けよう

 以上の通り、バックアップストレージとしては、USB HDDとNASを利用している。クラウドストレージはどうかと言うと、バックアップ用途では積極活用していない。DS215jは、それ自身のデータをクラウドにバックアップする機能も持っているが、有償契約しているOneDriveでも1TBなので容量が足りないというのが最大の要因だ。例外としては、取材のメモ用に使っている「OneNote」はデータ保存先をOneDriveにしており、異なるPCを使っても常にデータにアクセスできるようにしているくらいだろうか。

 ただし、こちらの記事で山口氏がレビューしている通り、Amazon「プライム・フォト」は写真なら無制限に保存できるので、NAS上のプライベート写真のさらなるバックアップ用に、その内こちらを利用しようかなとも考えている。

 さて、このように2重体制、その内1つはリアルタイムバックアップで、個人的、かつ現実的なものとしてはほぼ完全なバックアップ環境を整えていると思っていたのだが、先日、世の中、完璧なものなどないのだなと痛感した。

 と言うのも、この原稿を7割ほど書いたところで、誤ってファイルを削除してしまったのだ。削除した時点では気付いておらず、あとになってファイルが見当たらないので、どうやら間違って消してしまったらしい。そういう時のための自宅NASと、バックアップ先を見てみるも、そこにもファイルが見当たらない。

 バッテリ節約のため、取材時などはCloud Station Backupを一時的に停止しているのだが、どうやらそれを再開しないまま数日放っておいた間に原稿ファイルを消してしまったらしい。なんともタイミングの悪いことだが、諦めてイチから書き直した。

 今後はこういう失敗のないよう、運用を一部見直す必要がある。また、1回で数GB程度撮影する取材写真を会社から自宅にリアルタイムバックアップ取っていると、それが原因でたまに月末あたりにプロバイダから速度制限を食らっているような気もする。このあたりも今後の課題だが、うまい解決法があったら、また紹介したいと思う。

 本記事をご覧頂き、まだバックアップを導入していない方は、いろいろと面倒だと思われただろうか? 例えそうであったとしても、設定が必要なのは初回だけだ。あとは放っておけば勝手にバックアップされ、ファイルは複製がどこかしらに保存される。大事な仕事のデータや思い出の写真をなくしてしまうようなことは可能な限り避けたい。今後もこの連載は、いろいろな人のバックアップ術を紹介していくので、自分に合うスタイルを見つけ、転ばぬ先の杖として、導入を考えていただければ幸いだ。