武蔵野電波のプロトタイパーズ

ブレッドボードマニアックのアイデア満載製品群

 2013年12月、Kickstarterで面白い工具のプロジェクトがスタートしました。製品名は「ワイヤーストリッピングゲージ」。キャッチコピーは「ブレッドボードのためのストレスフリーな凄いツール」。我々もすぐ一口乗ったのですが、「面白そう」と思った人は多かったようで、あれよあれよという間に出資者は増えて行き、最終的に42,858ドルを集める人気プロジェクトとなりました。

 予定通り製品が届いた2014年5月、開発元のキビテクに連絡を取り(Kickstarterのページは英語ですが日本の会社です)、ワイヤーストリッピングゲージと後続の商品群についてお話を伺ってきました。以下はそのレポートです。

これがワイヤーストリッピングゲージのパッケージ。Kickstarterプロジェクトの成果です。1,091人の出資者のうち、約9割は日本以外の国から。目標額8,000ドルに対し、5倍を超える42,858ドルを集め、スケジュール通り出荷されました。クラウドファンディングのお手本みたいな製品ですね
株式会社キビテクの林まりかさん(右)と高嶋直之さん。2012年創業の若い会社です。本業はロボットや画像認識技術の開発。ブレッドボード事業は林さんがずっと温めてきたアイデアを形にしたもの。現在は「ブレッドボードマニアック」というブランドネームで、高嶋さんが中心となって活動しています

 世界中のブレッドボードユーザーが欲しいと思ったブレッドボードマニアックのワイヤーストリッピングゲージとはどんな製品なのか。まずはそこから見ていきましょう。開発者の実演を見ながら、我々は何度も膝を打ちました。

ワイヤーストリッピングゲージは、こんなふうに普通のワイヤーストリッパへネジ留めして使います
もっとも基本的な機能はブレッドボードに最適なジャンプワイヤーの皮むきと整形。特に、不足しがちな短いワイヤーの作成に便利です。単芯のビニール被覆銅線を用意してスタート
手前の目盛りに合わせて欲しい長さにカットします。この目盛りはブレッドボードの穴の間隔に合わせてあり、単純に飛びたい穴の数と同じだけ目盛りを読んでワイヤーを当てれば、ちょうどいい長さになります。目見当に頼りがちだった作業が明確になりました
次は皮むき。ワイヤーの径に合う刃を使います。ワイヤーストリッパの使い方については、過去の記事も参照してください
皮むきのときはワイヤーの先端を「壁」へ突き当てるようにします。これで常に最適な長さとなるわけですね
皮むきが済んだら、ワイヤーストリッパの先端(プライヤー部)を使って90度に曲げましょう。実は、ワイヤーストリッピングゲージにはワイヤー曲げの機能もあるのですが、それについてはこのあと説明します
市販品のようなピッタリサイズのジャンプワイヤーができ上がりました。気持ちいいですね
我々が最大の衝撃を受けたのはこの機能です。2.54mm幅のジャンプワイヤーを正確に作ることができます。市販のワイヤーセットでは、最短サイズのこのワイヤーを「裸線」として用意しているものも多いのですが、ちゃんとビニール被覆がある扱いやすい状態に整形可能です
先ほどと同じように目盛りを使って最短サイズにカットしたら、ワイヤーストリッピングゲージのこの穴に差し込んでください
ワイヤーストリッピングゲージの縁に向けてムギュッと折り曲げると……
最少ピッチの被覆付きジャンプワイヤーがキレイに完成!
ブレッドボードに挿してみると、あつらえたようにピッタリ。ていうか、まさに今あつらえたんですよね。こんな風に正確、均質、簡単、思い通りにジャンプワイヤーを作成できるツールは初めてです

 ブレッドボード用のワイヤーセットを使っていると、短い方からなくなって、長いワイヤーばかり残ってしまう、という人は多いと思います。我々もそうです。短いワイヤーを使い尽くしたとき、長いワイヤーを切って短いワイヤーを作るのはちょっと億劫。それでも我慢してワイヤーストリッパを片手に製造したワイヤーの形がバラバラだったりすると、ガッカリします。そんな時、このワイヤーストリッピングゲージがあると気分と品質の両方がだいぶ違いそう。気分よく作業できるツールは貴重です。

ワイヤーストリッピングゲージにはジャンプワイヤー作成のほかに、2つの機能があります。1つはICのピン揃え機能。レールにギュッと滑り込ませるだけで、ブレッドボードに挿入可能な幅に整形されます。ピン数の多いICは向きを変えて2度挿入します
裏返すとリード部品の「足」を曲げるためのゲージがあります。主に抵抗器のリードの整形に便利です

 Kickstarterで誕生したワイヤーストリッピングゲージは、現在、下記の国内ショップでも入手可能です。通常価格800円(税別)。

・共立エレショップ
・シリコンハウス

 取り扱い店は今後も増える予定とのこと。新しい製品も続々登場予定です。それらを見ていきましょう。

 創業当時、林さんがまず製品化しようと考えていたのが、次に紹介する「ケーキボード」。従来のブレッドボードにはない次のような特徴を持っています。

1.中央の2列の空白がないのでピン幅の狭い部品を実装可能
2.裏側へリード線が貫通するので両面を使える
3.レゴ互換の取り付け穴

 積層構造を実現できることから連想してケーキという名前にしたとのこと。電子部品が何層にも重なったケーキ状のブレッドボード回路を作れるわけです。

ケーキボードの試作品。もうすぐクラウドファンディングが始まります。左側の小部品はレゴ互換の「足」。これはクラウドファンディング限定の付属品で、一般販売時には別売となる予定です
ケーキボードの中央には普通ある2列分の空き地がありません。リードをさし込む穴がみっちり並んでいます。電気的には中央で切れているので、従来通りDIP ICを挿すことができます。DIP ICより列間が狭い部品(例えば2列のピンヘッダ)も自然に扱える点が従来のブレッドボードにない特徴
裏返すと、こちら側にも穴が開いています。衝撃的です
抵抗器のようにリード線が長い部品は、裏側にそのリード線が貫通します。両面を使ったり、複数のケーキボードを層状に接続することで、大規模・立体的な回路を構築することができます
ICのように足が短い部品は、表側のみに実装可能。これまでのブレッドボードとは違う使いこなしのコツがありそうですね
4隅の取り付け穴の形状と位置はレゴと互換性があり、レゴブロックと組み合わせることで、カラフルなケースやユーザーインターフェイスを作ることができます

 ブレッドボードマニアックは、商品化に当たってクラウドファンディングを上手に活用しています。次の「ビスケットボード」はすでにCAMPFIREで目標額達成済み。一般販売も近日スタートです。

ケーキボードよりずっと薄いビスケットボード。穴のレイアウトはケーキボードと同じ。最大の違いは、1度挿すと簡単に抜けないバネ構造です。恒久的に保存したい回路を作るときに、従来型ブレッドボードよりも安心して使うことができます。そのかわり、リード線を何度も抜き挿しするとバネの利きが弱くなるので、再利用には限度があります
ICもしっかり装着可能。簡単には抜けません。かなり薄く仕上がります
こちらも4隅の取り付け穴はレゴ互換。層状に重ねてもよし、横方向に繋げてもよし。拡張性に優れています

 そのほかにもブレッドボードマニアックは新製品を続々投入予定。電子部品店などでの取り扱いも近日中に始まる予定です。今回見ることができたものをざっと紹介していきます。

「ブレッドボードキューブ」はレゴブロックサイズの小さなブレッドボード
レゴ作品に電子回路を組み込む方法の1つとして威力を発揮しそう。イメージが膨らんできますね
モバイルバッテリやスマートフォン用のACアダプタをブレッドボードの電源として使いたいときに便利な「MicroUSBコネクタキット」。パイロットランプとなるLEDを搭載しています
Micro USBコネクタキットは部品と基板のセットとして販売されます。表面実装部品を使っているため、ハンダづけはちょっと難しいかもしれません。完成品も提供予定とのこと
2列の端子をブレッドボードに適した1列に変換する「2to1アダプタボード」。購入時はこの形で、2片に割って使います
こうやって並べることで、2×16ピンの端子を1×32ピンに変換可能。ピンヘッダ等をハンダづけして使います
「ピンヘッダーレコーディングペーパー」は、ピンヘッダにかぶせて使うピン番号表と、各ピンの名称をメモするための用紙のセット
Raspberry PiのGPIOピンをメモした例。自作回路のピン配置メモに使うとさらに役立ちそう
「ブレッドボードクリアケース」はケーキボードがぴったり収まる組み立て式の箱。作成した回路の保管方法で悩んでいる人は今すぐ欲しくなるんじゃないでしょうか。我々はなりました
こちらはBeagleBone Black用の組み立てケース。材質は紙です。1枚400円で販売予定ですが「2枚目以降はコピーして使って頂いて構いません」とのことでした
最後に紹介するのはこちらの「木製ブレッドボード」。本物の木材に穴を開け、バネを仕込んで作られたものです。これを見て、まさにブレッドボードマニアックと思いました。価格は「3万円くらいになってしまうかも」という話なので、人生の節目に記念として購入する感じでしょうか。いつか手に入れたいアイテムです

(武蔵野電波)