武蔵野電波のプロトタイパーズ
伝説の編集者が蘇らせる古のパソコンを見た
(2014/4/3 06:00)
今回の取材は少し緊張しました。なぜなら、吉崎武さんは我々が20代のとき所属した雑誌編集部の初代編集長であり、当時すでに伝説の人物だったからです。「I/O」、「アスキー」、「ログイン」の創刊に関わり、新しい小さなコンピュータの可能性を追求した、黎明期のキーパーソンです。
吉崎さんは今、独自のパソコンを作り、世に送り出そうとしています。その名も「Legacy8080」。いったいそれはどんなパソコンなのか? 八王子に設立された新会社「技術少年出版」にお邪魔して、詳しく見せていただきました。まずは動いている様子を動画でご覧ください。
Legacy8080は、1970年代に一世を風靡したパーソナルコンピュータである「Altair 8800」や「IMSAI 8080」を現代に蘇らせるプロジェクトです。ただし、実装はかなり異なっていて、例えば当時は無かったUSBやMIDIを標準装備しています。
どこが同じで、どこが違うのか、それを追っていくことで吉崎さんの考えが分かってくるでしょう。その前にまず、Altair 8800とIMSAI 8080の説明をしないといけませんね。ただ、我々はこの世代のマシンのことをよく知りません。Altair(吉崎さんは「アルタイア」と発音してました)の名は、大学生のビル・ゲイツとポール・アレンがBASICを移植し、Microsoft創業に繋がった、というトピックだけを記憶しています。IMSAI(イムサイ)は1983年の映画『ウォーゲーム』で主人公の愛機だったことから、そのルックスは覚えていました。この記事の作成にあたって、2013年にリリースされたウォーゲームのBD版で観直したのですが、フルセットのIMSAIがハッカーの強力な道具として描かれています。
IMSAIはAltairの互換機で、どちらもCPUはインテルの8080です。より詳しい仕様については、Wikipediaを参照してください。
Altair 8800 - Wikipedia
IMSAI 8080 - Wikipedia英語版
Intel 8080 - Wikipedia
ここではもう少し、吉崎さん所有のIMSAI 8080を紹介します。
手ハンダの跡、ボード上を飛び交うジャンパ線、そして膨大な数の汎用ICを見ると、当時のユーザーたちの情熱が伝わってきます。そして、コンピュータがどのように成り立っているのかが、大粒な部品を通じて見えてきます。
吉崎さんがLegacy8080で再現し伝えたいと思っているのは、こうしたものづくりへの情熱とコンピュータの基本的な構造に対する知識。IMSAIを吉崎流に復活させることで、'70年代の若者たちが通ったコンピューティングへの道を、もう1度少年少女たちが体験できるようにすることが目標です。
それでは、Legacy8080の各部を見ていきます。IMSAIとどこが同じで、どこが違うのでしょうか。
さらに詳しい仕様については、技術少年出版のサイトを見てください。
我々は一通りLegacy8080を見たあと、IMSAI 8080とはだいぶ違うと感じました。「復刻版」という印象は薄まって、かわりに、シンプルさを追求した新しい自作用マイコンというイメージに変化した気がします。Z80互換CPUを使いこなすのは大変そうだという心配もあったのですが、それはBASICが用意されていることで払拭されました。そして、70年代風のゆとりある筐体とフロントパネルの魅力に心動かされたのです。吉崎さんによれば、「20年から30年、願わくば40年くらい」使い続けられるようハードウエアを設計したとのこと。
Legacy8080の商品構成と価格が4月に入って発表されました。取材は冬の間に済んでいたのですが、値段がまだ決まっていなかったため(吉崎さんはずいぶん価格設定に悩んだようです)、記事は保留にしていた次第です。
発表された価格は次の通り。
エンタープライズモデル(EIAラックマウントケース) | |
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スイッチ補強板取り付けタイプ | |
セミキット E-80-SKQ | 159,000円(税別) |
完成品 E-80-FPQ | 162,000円(税別) |
スイッチ基板取付けタイプ | |
セミキット E-80-SKV | 149,000円(税別) |
完成品 E-80-FPV | 152,000円(税別) |
エデュケーションモデル(中身が見えるシャーシーケース) | |
---|---|
スイッチ補強板取り付けタイプ | |
セミキット E-70-SKQ | 109,000円(税別) |
完成品 E-70-FPQ | 112,000円(税別) |
スイッチ基板取付けタイプ | |
セミキット E-70-SKV | 99,000円(税別) |
完成品 E-70-FPV | 102,000円(税別) |
セミキットは自分で組み立てるケースと完成基板のセットで「DOS/V PCの組み立てと同程度の作業」とのこと。
受注生産のため、納期は注文から4週間。吉崎さんはたくさん売るつもりがないようです。何台売れるか分からないとも。では、そもそも、どうして吉崎さんは作ろうと思ったのでしょうか? それを質問すると「アスキーをやっていた頃から、自分のIMSAI互換機を作りたかった」という答え。それなら、どうして2014年の今まで実現しなかったのでしょう?
作りたいと思いながら他の仕事に時間を費やす日々を過ごしていた吉崎さんが「今こそ作る」と決心したのは、スティーブ・ジョブズの訃報に接したときだそうです。「同世代のジョブズが亡くなって、とても悲しかった。彼はやりたいことは今すぐやれ、というようなことをよく言っていたけれど、自分もそう思う気持ちが強くなったんです。若い頃、ジョブズやビル・ゲイツは身近な存在でした。業界は小さく、気軽に会うこともできた。その頃の体験を、まだ元気なうちに形にしておきたいという思いもあります」。
吉崎さんにとってLegacy8080はより大きなプロジェクトの一部で、ほかには、マイコン雑誌の発行や図書館・博物館の運営などを考えているようです。その図書館には、アスキーの創刊号からのバックナンバーや古いコンピュータ関連の技術書が並ぶ予定。我々はそのうちのごく一部を見せてもらいました。普段どちらかというと昔のことをあまり懐かしがらない我々ですが、しばし懐古の情にとらわれました。