香港のスマートフォン事情



モンコックにある「先達広場」。携帯電話の本体、ケース、外装装飾などさまざまな関連ショップが並ぶ雑居ビル

 前回のレポートにあるように、筆者は先週、香港へと取材に出かけていた。香港と言えばSIMロックがかかっていない携帯電話が当たり前のお国柄。

 そこで、海外の現地SIMカードを使えるスマートフォンを入手するため、香港在住の携帯研究家・山根康宏さんに案内いただいて、香港の携帯電話事情を取材して回ってみることにした。

 折しも正規の携帯電話ショップや家電量販店から消えていたソニー・エリクソンの「Xperia X10 mini」が店頭に潤沢に並び始めた時期。「iPhone 4」のSIMロック版、SIMロックフリー版、それにDellが海外で販売してるAndroid端末「Streak」なども香港のショップには出回り始めていたので、タイミング的にはまさにピッタリだったのだが、同時に不用意に海外で端末を購入すると、後々困った事になるのでは? と考えられる経験もあった。


●香港携帯事情

 山根さんによると、香港で販売されている携帯電話の価格は店が変わっても大きくは違わないという。携帯電話会社系列のショップや大手量販店が最も高価で、小さな個人のショップは少しばかり安く買える(日本円で4,000〜5,000円程度安く買える)が、言い換えれば程度の違いしかない。

 しかも、一部のショップでは動作に必須ではないオプションが抜き取られている場合があるほか、極端に安い場合はSIMロックありの並行モノをロックフリーにして販売していることもあるなど、よくわかった上で買わないとトラブルになる場合もある(香港の場合、何も断りがない場合、端末はSIMロックフリー。ロックされているのは、すべて国外からの輸入もの)。機歩的にリスクが高いほど値段が安く、値段が高いほどリスクは低い。

 もし香港で携帯電話を購入することがあるならば、リスクを避ける意味でも量販店で購入するのが良いだろう。

 あまり脅しても仕方がないのだが、海外での携帯電話端末入手には、大なり小なりリスクもあれば、法的懸念もある。そうしたことを理解した上で使わないと、単に損した、得したといった話だけでなく、自身が違法無線局となってしまう事もあるので気をつけたい。

 そんな香港の携帯電話販売の中心地はモンコックという地域にある。ここには「先達広場」という携帯電話関連ショップばかりが集まる雑居ピルがあり、ここで中古携帯から非正規流通の携帯電話を入手可能だ。隣には家電量販店があるので、両者の販売価格を比べながら商品を選ぶことができる。

 量販店の店内はとても秩序的で、日本の家電量販店のような雰囲気だ。店員のサービスも良くて説明も詳細にしてくれるし、手に取って製品を見せてくれとお願いすれば、気が済むまで触らせてくれる。値段は統制が取れているので、いつ、どこで買っても、損や得をすることはあまりない。

 ところが先達広場の店の場合、正規店に商品が並んでいるものは安く販売しているが、品不足の製品は当然のように高い値段が付けられている。海外から輸入したレアものの商品も同じだ。彼らは人気のある商品を仕入れて高く売る事で利益を出しているので、定価がいくらだなんてことはあまり関係がない。

 例えばiPadは、日本での正規価格よりも、だいたい5,000〜7,000円ほど高い値段で販売されている。在庫は潤沢。何らかのルートで大量に仕入れ、プレミアムを付けて販売しているのである。ちなみにiPadと同じく品不足気味のアップル純正のiPadケースやデジタルカメラ接続キットは、定価の2倍ぐらいの値札がぶら下がっている。

 また、先達広場には携帯電話の中古ショップも多い。最近はひっきりなしに新しいスマートフォンが発売されるので、最新機種を購入して数週間遊び、飽きたらまだ入手性が低いうちに売って新しいものを買うというサイクルを繰り返す。なので発売間もない製品でも中古でたくさん並んでいたり、ライバル製品が発売されると現行モデルでも一気に中古の在庫が増えて価格も下がるのだそうだ。中古品は値札などに「二手」と書かれている。英語で言う「セカンド・ハンド」と憶えておくといいだろう。

 ただし、安いからといって簡単に手を出すのは止めた方がいい。その端末がどんな経緯で販売されているものなのか、しっかりと確認する自信がないなら、きちんと正規品を買うべきだ。

以前は日本から輸入された端末のSIMロックを外して販売する店が多かったようだが、最近はスマートフォンに人気の中心が移ってしまったようだ。スマートフォンが大量に並んでいるのが見える その中心にあったのがDellのStreak。残念ながらターボSIMを使ったもの。ポケットに入るギリギリのサイズで、音声端末+αで持ち歩くにはちょうど良い感じ。翌日には売り切れていた

●みんなで呆れたiPhone 4の価格変動

 もっとも、そんな香港に慣れている山根さんでも苦笑いしたのが、iPhone 4の価格だった。山根さんに案内していただき、最新携帯を安定して入手している信頼できる店でiPhone 4(SIMロックフリー)の価格をチェック。すると、SIMロックフリー版で9,800香港ドル(1香港ドル=12〜13円程度)だという。クレジットカード購入だと2.5%のサーチャージがかかるそうで、交換レートによっては13万円を越えてしまう。こりゃ無理だよねという事で諦めた。

 ところが、驚いた事にその値段なら買いたいという方が3人も現れたので、翌日にまた同じ店に行ってみた。すると、今度は8,800香港ドルだという。一気に12,000円も安くなったのか……と思っていると「ただし……」と店員は続ける。

 「ただし、8,800香港ドルは米国版のSIMロックありなので、ジェイルブレイクの必要がある。米国版も入ってきたから、SIMロックフリーの英国版は16,800香港ドルになった」。

 後でこの事を山根さんにも話したが、さすがに香港在住の同氏と言えども、この価格変動には驚いたようだ。それだけ需要と供給のアンバランスに対して、価格が素直に反応する場所ということなのだろう。

 ジェイルブレイクを前提とするのであれば、わざわざ海外からリスクの高い個人輸入をする必要もない。ジェイルブレイクとは、結局の所ハッキングであってメーカーが本来想定している以外の動作をさせるのだから、SIMロックの外れたiPhone 4が欲しいのであれば、最初からSIMロックがかかっていないものを使うべきだろう。iPhone 4のSIMロックフリー版を欲しがっていた知人には、入手を諦めるよう説得した。

 なお、店員が使っているSIMロックフリー版のiPhone 4を見せてもらったが、テザリング機能のメニューもあり、また日本向けの技適マーク表示も確認出来た。つまり日本での利用には法的な問題はない。香港でも7月になればiPhoneが正規販売されるので、おそらく価格はしばらくすれば落ち着くだろう。技適マークが付いているのであれば、日本に持ち帰って堂々と使う事ができるのだから、何も焦って高い買い物をする必要はない。

 なんてことをTwitterに投稿したら、さっそくb-mobileの日本通信で働く某氏からメールが。どうやら本当に技適マークが表示されているのであれば、マイクロSIM版のb-mobile SIMの販売を検討したい、ということらしい。実際に販売されるかどうかは判らないが、少なくとも“検討”はされているようなので、SIMフリー版のiPhone 4を狙っている人は注目しておくといいだろう。

アップル製品ももちろん人気。iPhone 4はもちろん、iPadも人気のため定価より高い販売 このあたりを見ると価格の感覚がわかるだろうか。1香港ドルは現在12円ほど(クレジットカードレートではもう少し高くなるので注意) 現地店員の持っていたiPhone 4で技適マークが表示されることを確認。iPhoneに関しては国内での利用に法的問題はない

●バリエーションの広さがAndroid端末の魅力
筆者が購入したGalaxy SとiPhone 3GSの比較

 では筆者は海外用端末として何を選んだかと言うと、Samsungの「Galaxy S」である。約5,500香港ドルなので、海外専用のスマートフォンとしてはちょっと悩む金額だ。実はX10 miniと最後まで迷っていたのだが、Super AMOLEDを使った4型800×480ドットのディスプレイが気に入ったからだ。その明快な発色は、超高精細のiPhone 4をある面で上回る。

 Andoridで遊ぶのなら、GoogleのNexus OneやHTCのDesireあたりを買っておくのが一番無難で、その後の発展性もある。Nexus Oneならば、最新バージョンのAndroidを楽しめるし、元のソースコードを書き換えて機能アップさせたブートイメージ(カスタムROMと言われる)の開発も盛んだ。そうした事はわかった上で、それでも敢えてGalaxy Sを選んで見た。どうせハイエンド機種を買うのであれば、とにかくスペック面で最新の高速モデルを選びたかったのだ。

 ただし、パッケージを空けて見せてもらったが、やはり技適マークはどこにもない。Galaxy Sは、日本ではNTTドコモが秋に発売する予定の端末なので、日本で使いたいのであれば、日本語版が登場するのを待つべきだ。購入後に色々なアプリケーションを動かしてみたが、パフォーマンスは高いものの動きにスムーズでない部分もあり、まだ完成度は低いと感じた。おそらく日本語版が登場する頃にはこなれてくるだろうが、それならば秋に買った方がいいだろう。

 ちなみにX10 miniは普及価格帯のAndroid端末で価格は2,480香港ドル。約3万円といったところか。こちらは日本でも販売されているX10と同じくAndroid 1.6がベースだが、その分、ソフトウェアの面ではこなれているという印象を受けた。ソニーエリクソンはAndroid 2.1までのアップデートは明言しているようだが、2.2へのアップグレードは言及していない(Galaxy Sは最初から2.1で、近く2.2へのアップデートが予告されている)。

 プロセッサ速度はGalaxy Sに比べ40%も遅いのだが、画面解像度が低いためか、全体の動作感はキビキビとしている上、なんといってもコンパクトで安価。普通、普及型とハイエンド機で迷う人もいないだろうが、海外専用ならこちらの方がいいように思う。

 ところで、実のところ私は現地では別の端末を購入しようと思っていた。それはDellのStreak。当初は候補に全く入っていなかったのだが、実物を見ると、音声専用の携帯電話に+αで持ち歩いて使うのにちょうど良さそうなサイズだった。

 もし日本で発売されたなら、電車で移動する都市部在住の人たちには、まさにピッタリな製品だったと思う。5型のタッチパネル付きディスプレイを備えた本体は152.5×79.2×9.9mm(幅×奥行き×高さ)で、想像していたよりもずっとコンパクトだった。一般的なスマートフォンよりは大きいのだが、大きくて重いiPadは電車の中で使うのは辛い。大きいといっても男性用シャツの胸ポケットやジャケットの内ポケットにも入るサイズだったので、通常の携帯電話と併用し、Streakにはデータ専用のプリペイドSIMを挿して使うのが良さそうだと思ったのだ。

 ということで、やや割高な約78,000円ほどの本体価格で購入寸前まで行ったが、よくよくパッケージの中身を見ると、ターボSIMアダプタが入っているのを山根さんが発見した。おや、これはちょっとマズイという事で購入を見送った。

 ターボSIMとは、端末に挿してあるSIMカードを別の携帯電話会社のものだと誤認させる変換装置のようなものだ。これを用いる事で他社SIMでも問題なく利用可能になるが、SIMカードを改変(一部切断が必要)しなければならない上、将来的には使えなくなる可能性もある。本来、あるべき動作を阻害するものなので、あるいは法的な問題もあるかもしれない。そもそも、ターボSIMをバンドルして販売しているということは、このStreakはSIMロックフリーではないことになる。

 問題は“優良店”と言われるようなショップでも、この製品をSIMロック品のターボSIM付きだとハッキリ説明せずに売ろうとしたことだ。箱の中を確かめたので難は逃れたが、未確認のままならば、SIMロックされた製品を知らずに買ってしまうところだった(なお、同製品は翌日には売れて無くなっていた)。

 さて、下は2万円ぐらいから上は7万、8万円クラスまで。さまざまなサイズ、さまざまな機能、さまざまな性能の端末が入り交じるAndroidは、雑多で混沌とした香港の街を象徴するかのようだ。洗練度の高さはiPhoneと比べるべくもないが、自分の使い方にフィットする端末を探したいなら、iPhoneとiPadでしか動かないiOS4機に比べて選択肢の幅ははるかに広い。

 日本でも各種の端末で賑わい、自分に合った製品を見つける楽しみが拡がれば、Androidのユーザー数も海外並に高くなるのでは? と思うが、そこには越えるのが難しい壁もある。

●厳密には法に触れてしまう輸入携帯電話の国内使用

 2〜7万円ぐらいで各種端末が発売されているのなら、もっとたくさんAndroid端末が日本に輸入・販売されていてもおかしくないが、実は海外のAndroid端末を日本で利用する場合は法的な問題が発生してしまう。

 海外で販売されている携帯電話にはFCCやCEといった、欧米の電波法基準に合致している旨を示すマークが付けられているが、日本のTELECによる技適マークは付けられていない事がほとんどだ。アップルのiOSでは該当端末が受けた認証を画面に表示する機能があるので(前述した通りiPhone 4も技適マークが表示される)問題はないが、Android端末で同様の対策が取られている例は見たことがない。

 少なくとも日本で販売されている(販売が予定されている)端末は、技適マークを取得していると思われるが、それを確かめる手段がなければダメだ。

 海外のSIMを挿したまま、国際ローミングで使うならば問題はないそうだが、当然ながら料金は割高になるので、日常的に使うのは現実的な選択肢とは言えないだろう。筆者のように、とりあえず日本では入手できないAndroid端末を使っておきたい理由があったり、海外での利用がとても多いという人以外は購入のメリットがないことになる。

 SIMカードを入れ替えただけで、全く同じハードウェアが違法になったり、適法になったりというのは、運用として致し方ない面もあるのだろうが、利用者側の立場から言うと疑問が残る。

 この件について問い合わせた関係各位は、一様に「厳密には違法だが、実際の運用として問題になることはない」と微妙な言い回しをする。スマートフォンの場合、携帯電話事業者の提供するサービスと端末がほぼ独立しているので、どこで販売されている携帯電話でも均質な機能を受けられるので、日本でも同じ製品を使いたいというニーズは、マジョリティになるとまでは言わないが、徐々に高まってくるのではないだろうか。

 DellのStreakのように、通常の音声端末と一緒に使う事を意識したサイズ感の製品は、携帯電話の会社からはなかなか出てきにくいものだ。auのIS01やドコモLYNX SH-10Bのように、ひと癖ある端末も出てきてはいるが、多様なニーズに対応するためにも“物理的には適法なハズ”の端末を合法に使える道筋が作られることが望ましい。

 かつては海外の携帯電話を持ち込んでも、接続すらできなかった。その後、通信の規格は統一されたがサービスプラットフォームは独自に進化したため、海外端末は日本人にとって魅力的なものではなかった。しかし、今はインターネット上のサービスと結びついて動作するスマートフォンが大きく伸びようとしている。今後は、海外から端末を輸入したいという人も増えてくるだろう。

 “厳密には違法だが、実際の運用上の問題はない”というグレーゾーンでは困ってしまう。幸い、総務省は画面上に取得している技適マークを表示できれば良いいう基準を示し、iPhoneでは表示されるため、海外端末も合法で使えるようになった。

 現在、Androidには、そうしたマークを表示する画面は用意されていない。しかし、ここはユーザーに逃げ道を作る意味でも、端末を開発しているメーカーに画面への表示を行なう対策を進めて欲しいものだ。

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(2010年 7月 8日)

[Text by 本田 雅一]