ドコモのiPad用SIM発売とiPhone 4G



 少し前に第4世代のiPhone(iPhone 4Gと仮に呼ばれているが、もちろん4Gネットワーク対応ではない)の実物がWebニュースワイヤの編集部の手に渡って問題になっていたが、今年もまたiPhone発売の時期がやってくる。今年はiPhone OS 4.0の新機能を紹介済みのため、新機能の大枠は判明しているわけだが、おそらくハードウェアに依存した部分に関しては、実際にモノが出てきてから詳しく判明することになる。

 時期は6月末から7月にかけてで例年通り。6月末に発表し7月から全世界向けに出荷という線が濃厚と言われている。いずれにしろ、現在、iPhoneを販売しているソフトバンクモバイルからは、確実に製品が発売される。

 しかし、その一方でSIMフリー端末をApple自身も販売するとの噂も浮上してきている。筆者自身も、そろそろiPhoneはインセンティブ販売モデルからの脱却を図ろうとしているのではと見ている。なぜならiPhoneは、そろそろ複数キャリアにまたがって使える環境を整える方が、Appleにとっての利が大きくなる時期に差し掛かってきているからだ。

 と、このような記事を書いている途中にNTTドコモがiPadや次世代iPhoneで使われるMicroSIMを販売するとの発表を行なった。この件も今回のコラムと無関係ではないので、後ほど触れることにしたい。

●実は安いiPhoneのコスト
現行のiPhone 3GS

 スマートフォンは、IPネットワーク向けのアプリケーションが動作し、PCライクな使い方もできる高機能携帯電話というイメージがあるかもしれないが、実際のハードウェアは、日本市場向けの高機能携帯電話よりも低価格になるはずだ。これはiPhoneに限った話ではなく、Nexus Oneなどにも言える事だと思う。

 理由はいくつかある。

 まず、同じプラットフォームを長期間使い続けることができる。たとえばiPhone 3GとiPhone 3GSの、メカニカルな部分での違いはほとんどない。中のプロセッサ速度や液晶、タッチパネルなどにしても小改良でしかない。地磁気センサーの追加やカメラユニットの交換などはあるが、おおよそ同じようなものだ。

 また、構造的にもひじょうに簡単で、組み立てもしやすい。ほとんど同じ構造の製品を2年にも渡って生産しているので、そうとうに安く作れるようになっている。iPhoneに限らずスマートフォンはソフトウェア部分に付加価値の根幹を成す部分があるため、1つのプラットフォームは長寿命化する。これは従来の高機能携帯電話との大きな違いだ。

 一般的な携帯電話は、個々の製品ごとに設計され、メカニカルな部分はモデルチェンジがあると、ほとんど全部を再設計しなければならない。しかもモデルチェンジの頻度も高く、発売後1年も経たないうちに処分対象だ。構成部品も多く組み立てはiPhoneよりも格段に難しい。特殊な部品の数も多くなりがちだ。端末のソフトウェア的機能だけでなく、デザインやボタン類の配置、使いやすさ、見やすさなどに価値があるので、自らハードウェアで仕掛けて寿命をコントロールしないと陳腐化の速度に追いつけない。

 日本の携帯電話は日本でしか売れないから高いと言われる。確かに電気製品は数をいくつ作るかでコストが決まってくるが、それ以前にiPhoneはハードウェア的に安い。その上でワールドワイドで完全な共通仕様(違いはすべてソフトウェアでコントロール)なのだから、iPhoneのコストが安いのは自明だ。

 よく「SIMフリーのiPhoneは6万円ちょっとぐらいで売ってるから、それぐらいの値段なのだろう」と言われるが、売価は製品の価値に対して設定されるので、必ずしも一般的な6万円ぐらいの携帯電話と同程度のコストとは言えるわけではない。

●キャリアを増やすメリット、デメリット

 全く新しい製品を立ち上げる際は、どこか特定の携帯電話会社と組んで市場に投入した方が普及しやすい。携帯電話は特定の絞り込まれたユーザーではなく、広く一般的なユーザーに売られるものだ。iPhoneがどんなに素晴らしいといったところで、店頭などできちんと訴求して良さを伝えなければ、新しいタイプの製品だけになかなか選んでもらえない。

 Appleもそのあたりはよく理解しているので、SIMフリーでの販売が当たり前の地域を除くと、どこか特定の携帯電話会社と組んで市場に参入していた。米国ならAT&Tだし、日本ではソフトバンクがそのパートナーということになる。

 iPhoneはデータパケットのトラフィックを積極的に制御することなく、まるでPCのようにIPベースにアプリケーションをガンガン動かす。今では当たり前にみんなが使っているが、従来こうした端末は常識外のものだった。パートナーと組んで戦略的にやらなければ、他の端末との兼ね合いもあってプロモーションはやりづらい。

 しかし、ある程度以上にユーザーが増えて普及してくると、今度は特定の携帯電話会社に依存する事で売り上げは鈍ってくる。北米では次世代iPhoneからは、AT&Tに加えてVerizonもiPhoneを扱うためにEV-DO/cdma2000に対応するiPhoneが加わると言われているが、AT&Tとの蜜月を続けるよりもユーザーの間口を拡げた方が良いと考え始めたからだと思われる。

 だが、これだけなのかというと、Appleはもう一歩踏み込んだ判断をする可能性がある。前述したようにiPhoneのコストは安い。おそらくだが、Appleとしてはコミッションでビジネスをするのではなく、ハードウェアメーカーとしてiPhoneをたくさん販売する方が良いと判断する可能性もある。もし、そう判断するのであれば、SIMロックをかけて販売する事はAppleにとってマイナス要因となる。

●iPhoneはSIMフリー化しても価格競争力を維持できる
iPad

 たとえばiPadの価格を見てみよう。

 3G版とWiFi版の価格差は一定で130ドルだ。16GBの3G版は629ドルである。日本円でザッと6万ぐらいだ。しかしiPadはマシニングセンターで切削したアルミ製筐体に10インチクラスのIPS液晶、より面積の大きなガラスや大容量のバッテリなどが搭載されている。これらはiPhoneではもっと安価になるに違いない。ザッと見て250〜300ドルぐらいは、iPadよりも値段を下げられるのではないか。

 250ドル下がると仮定すると379ドル。ちなみに8GBのiPod touchが199ドル、32GB版が299ドルということを考えると、16GB版の次世代iPhoneが399ドルぐらいでSIMフリー端末として販売されても驚かない。新型iPhoneは既存のものよりも、さらにメカニカルな部分で生産効率を上げる設計がされているとの情報があり、おそらく同程度のフラッシュメモリを搭載するモデルならば売価は変わらない。

 このぐらいの価格ならば、SIMフリー化してインセンティブがなくなっても、それなりに競争力がある。もし8GBの低価格モデルなら349ドル、このところ流通経路を整理している事も考え合わせれば、ひょっとすると299ドルでも利益は充分に出る。

 これを裏付けるのが、中国のApple契約工場近くにおける次世代iPhoneに関する噂だ。上記のように生産性が高くなっているだけでなく、生産ラインはなんと75ラインも用意しているという。5月から量産が開始され2カ月かけて作り溜めが行なわれる。これだけ多くのラインで2カ月も作り込めば、そうとうな数が発売日に用意できることになるが、新しいiPhoneは従来よりも販路が広がっているとするなら、それでも足りないかもしれない。

 もちろん、SIMフリー版をAppleストアが販売するからといって、インセンティブモデルのSIMロック版が販売されなくなるわけではない。おそらく日本ではソフトバンクによる「ゼロ円iPhone」も継続して販売されると思われるが、SIMフリー端末も同時に出てくるかもしれない。

 いずれにしろ、iPhoneのアプリケーションは、すべてインターネット上のサービスとして実装されているのだから、どこで買った端末であれ、SIMカードさえ認識すればフルに機能を発揮させることが可能だ。さらにiPhone OS 4.0はVoIP(IP電話)の着信にも対応しているので、データ専用のSIMカードでも、かなり使えるものになるだろう。

●SIMフリー端末があるなら、そこにSIMを売らないMNOはない

 実は中国における次世代iPhoneの生産に関する噂をキャッチする前、別の経路でNTTドコモとAppleの接近について話を聞いていた。AppleはiPhoneを独占販売する携帯電話会社と特殊な契約を結んでいることが知られているが、多くの端末メーカーとの契約を抱えるNTTドコモとしては、とてもではないが呑める条件ではなかった。

 しかしSIMフリー端末向けであれば、NTTドコモ的にもSIMを販売しない理由はない。iPad向けにNTTドコモがMicroSIMを供給してソフトバンクと同じ土俵に上げておき、その次の段階として次世代iPhoneのSIMフリー版を提供する事で、iPhoneを2社供給にするというシナリオだ。

 そんな話を聞いていたので、4月28日にNTTドコモがMicroSIMをiPadユーザー向けに提供するという話を聞いても全く驚かなかった。SIMフリーの通信端末は、携帯電話会社から見ると、単純に“お客さん”でしかない。そこには回線獲得の奨励金も、端末開発負担金も何もかかっていない。特にインセンティブもなく回線を獲得できるチャンスがあるのに、そこに商品を用意しない携帯電話会社もない。

 AppleとNTTドコモが、端末の販売契約の条件で相容れないとしても、互いに利益があるのならそれぞれが製品とサービスを提供していく方がいい。

 ソフトバンクの3Gネットワークに関してはエリアの狭さを指摘する声が目立つが、本当の問題は帯域だ。ソフトバンク3Gは基地局数がFOMAよりもずっと少ないにもかかわらず中継局は5倍も多い。CDMAにおいて基地局と端末が通信するとき、周りにある中継局が出す電波はノイズ成分になる特性がある。つまり中継局でエリアの穴を埋めると、通信の効率が落ちてしまいデータ通信に使える帯域は小さくなる。

 これ以外にも基地局のセクタ分割数の違いなどもあって、同じW-CDMAの3Gネットワークでも、両者には通信容量に決定的な差がある。地方でiPhoneを使っているユーザーはあまり感じていないだろうが、都心部で使うと両携帯電話会社の間には3倍程度の実効通信速度の差があるのが現状だ。

 こうした状況下では、価格と品質のバランスを評価してユーザー自身に携帯電話会社を選ばせた方が、iPhoneの普及により役立つことは自明だ。これは何も日本だけに限った話ではない。海外でもマルチキャリア化は既定路線になっている。iPhoneが売れれば売れるほど、マルチキャリア化のタイミングは近付く。

 したがってSIMフリー版iPhoneの日本発売は、かなり可能性が高いと考えている。もし、次世代iPhone発売直後にSIMフリー版が用意されなかったとしても、早晩、その方向になっていくのではないだろうか。

●おまけ

 ところで、次世代iPhoneについては、もう1つ噂がある。800MHz帯への対応だ。ただし、これに関してはあまり核心を突いた話ではないかもしれない。今回はEV-DO対応端末が北米でVerizon向けに用意されると言われているため、同じ方式を採用する日本のauでも使えるようにするには800MHzに対応する必要があるから……というのが、もともとの話の発端。800MHz帯にも対応できるなら、W-CDMAでNTTドコモのFOMA+エリアでも利用可能になる。

 ただ、現行iPhoneも800MHz帯に対応しているとの噂があったものの、実際には対応していない。800MHz対応に関しては、あまり目がないと考えているが、こればかりは予想が外れて欲しいものだ。

 ついでにもう1つ余談。

 先日、日本通信代表取締役専務兼COOの福田尚久氏と話したが、MicroSIM版のb-mobile SIMについて「対応する製品が登場してニーズが生まれれば、当然、商品化します」と断言していた。毎月2,500円以下でデータ通信し放題、Skype-inでVoIPの発着信ができれば相当にお得。他MVNOからも、よく似た製品が登場するのは必至となるだろう。

【お詫びと訂正】「ドコモのiPad用SIM発売とiPhone 4G」で、現行のiPhoneがドコモの使う800MHz帯に対応していないと書いたところ、Twitter上で@tooswayという方から「現行iPhoneは技術的にも法的にもドコモのFOMA+エリアをカバーしているがSIMロックがかかっているために、実際には利用できないだけだ」という指摘をいただいた。

 調べたところ、確かに総務省のWebサイトでiPhone 3GSがFOMA+の周波数帯で技術基準適合証明を受けている事が確認できた。日本向けに出荷されているiPhoneにはTELECの認証マークと工事設計認証番号が記載されており、上記の書類と番号が合っていることが確認できるはずだ。お詫びして訂正したい。

 ただし現行のiPhoneはソフトバンクモバイルが販売しており、SIMロックがかかった状態で販売されている。ご存知のようにソフトバンクモバイルは800MHz帯の免許を受けていないため、SIMロックを意図的に外さない限りは利用できない。また、販売者であるソフトバンクモバイルもテストしていないと考えられ、800MHz帯での利用が無保証であることに変わりはない。

 iPhoneは世界共通のハードウェア仕様になっているので、香港やニュージーランドなどで販売されているSIMロックフリーのiPhone 3GSであれば、FOMAのSIMカードを挿入することでFOMA+のエリアでも利用可能だと思われるが、これらの端末にはTELECのマークが印刷されていない。技術基準適合証明を受けていない端末として扱われるので、違法無線局となってしまうことになる。

 さて、現時点でも800MHz帯をサポートしているということは、次のiPhoneでもサポートするだろう。SIMロックフリーで発売されれば、ドコモのSIMカードを挿すことで、FOMA+エリアを含めたドコモのサービスエリア全域で、iPhoneが利用できることになる。

バックナンバー

(2010年 4月 29日)

[Text by 本田 雅一]