Twitterに見る、常時接続とマイクロブログの関係



 このところ、TwitterやTumblrといったマイクロブログ系のサービス(Facebookもこの範疇に入るかもしれない)の人気が急速に高まってきている。いずれも以前から存在するサービスだが、ここ1年での注目度の上昇は、インターネット上に形成されるコミュニティの枠組みを大きく変える勢いだ。

Twitterのホームページ

 インターネットを積極的に活用しようというアーリーアダプタだけでなく、メーカーや自治体、政治家、TV番組、新聞やWebマガジンなど、さまざまなロールでさまざまな“つぶやき”(マイクロブログの世界では書き込みをこう呼ぶ)を発信し続けている。

 ちなみにPC WatchはTwitterでの記事配信は行なっていないが、RSSで発信している記事を自動受信してTwitterで発信するwebBOTがあるので、これをフォローすることで最新のPC Watch記事更新情報をTwitterアカウントからチェックすることが可能だ。他にも同じ話題に注目する人たちがメッセージを共有するTwitter版のメーリングリストとも言えるtwiccoというサービスなど関連サービスがいくつも開発され、Twitterを使いやすくする専用クライアントも多数存在している。

 筆者もかなり以前からTwitterのアカウントだけは作成していたが、当初はなかなかフォロー(他アカウントのつぶやきを購読すること)相手もおらず、システムが非常に不安定だった時期があったため、ほとんど使っていなかった。

 しかし、このところはつぶやく人が増え、メールでもなく、チャットでもなく、掲示板でもブログでもない、独特のコミュニケーション世界を感じ始めるようになってきた。今週14日のTBS「ざっくりマンデー」では、とうとうTwitterがTV番組で取り上げられるまでに至った。

 北米に比べると、やや遅くやってきそうな気配のTwitterのブームは、実はモバイルコミュニケーションの質の変化と同期しているように見える。

●認知の拡がりは遅いものの、一部で猛烈に支持されはじめたTwitter

 Twitterというサービスは、何かきっかけがないと面白さが判りづらい。友人をフォローする方法や、自分のアカウントを友人に知ってもらう手法が判りづらいという話をよく耳にする。もちろん、最近のSNSによくあるように、他サービス(Googleのアドレス帳やYahooアドレス帳、AOLアドレス帳など)に登録したメールアドレスなどからアカウント検索を行なってフォローしたり、アカウントを持っていないメールアドレスに招待状を出したりといった事はできる。

 しかし、アカウントを持っていたとしても、必ずしも常につぶやいているわけではない。何も起こらない状態が続くと、何が面白いのかわらず、スグにアクセスするのを止めてしまう。TwitterやFacebookのアカウントを友人に勧めた後、「どうやって使えばいいのか判らない」とメールで尋ねられた事が何度もある。

 たまにアドレス帳情報から知人を検索してみると、アドレス帳の内容は変わっていないのに、しばらくするとヒットするアカウントが10以上は出てくる。それだけ登録者は増えているということだが、最後につぶやいた日を見ると、何日もアクセスしていない状態が続いているのを見て取れる。

 前述のTV番組や、ちまたでの解説の例を見ても、Twitterの面白さ、スムーズな始め方を伝えるのは至難の業のように思える。では「あなたは説明できるのか?」というと、筆者も自信はない。なぜならTwitterなどマイクロブログ系のサービスは、システムが非常にシンプルで、使い方はユーザー次第といった自由度の極めて高いものが多いからだ。

 従って感じ方も人それぞれ。有名人のつぶやきに耳を澄ますだけの人もいれば、自分の生活の様子を実況中継するようにつぶやいている人もいる。友人との間でチャット状態になってしまう事もあれば、ただひたすらに自分を鼓舞するかのように日々の教訓をつぶやく人もいる。

 ただRSSのように使え、チャットのようでもあるTwitterだが、決してそれらのサービスとは異なる。たとえばAとB、2人との間で同じテーマでつぶやきを応酬していても、AとBがフォローし合っていなければ互いのつぶやきは知らないままだ。フォローをもらったからと言って、その人をフォローしないと失礼……なんてこともない。フォローを受けているというのは、単にその人が自分のつぶやきを読みたいと思っているだけなのだから。

 このように、通常のSNSよりもユーザー同士の繋がりは希薄で少し緩めのコミュニケーションを形成するTwitterだが、しかし、一方ではとても濃密な関係をインターネットの中に生み出す側面もある。それまで疎遠だった知人と、Twitterを通して急に親密になり、仕事や遊びの話に発展していく例は、他のSNSよりもずっと多い。

●緩やかに見えて、実は濃厚な関係を築くマイクロブログコミュニケーション

 Twitterを使い始めて筆者が最初に感じたのは、昔で言う会社のタバコ部屋や何人かが集まってやる飲み会とよく似ているということだ。筆者のように会社に所属せず、1人で仕事をしていると、コミュニケーションの相手は取材先と編集部に集中しがちだ。しかし、Twitterに繋いでいるとずっと昔に取材先だった知人、異業種に就職した友人、結婚して家庭に入ったかつての編集担当者など、多種多様な人たちのつぶやきを目にする。

 ある同業者は「広場に集まってきて、みんな思い思いの事をつぶやいているのがTwitter。でも話を聞きたい相手は選ぶことができる」と表現していたが、これはある切り口でのTwitterを良くあらわしている。

 Twitterにアクセスしている人の端末画面を見ていると、あたかもチャットをしているように見えるかもしれないが、それは見かけだけ。チャットの場合、チャットルームという場が固定され、それを複数のユーザーが共有している。ログの記録は別として、その場限りの会話を互いを意識しながら発言する。ところがTwitterの場合、時系列につぶやきが並ぶため“緩やかに場を共有している”つもりになれるが、ユーザーはその場に縛られることが無く、その支配力はさほど強くない。時間拘束は大幅に緩く、感じた事をライトに(何しろ140文字の制限がある)表現するだけ。

 しかし、一見、緩やかに見えるTwitterのつながりは、もっとユーザーの内面を映し出すように思う。手軽に発言できるだけに本音も出しやすく、時間経過に応じたさまざまな人のつぶやきによって、普段は触れていない意見を耳にできる。自分と違う考えであったとしても、同じ考えであったとして、なるほど一理あると発言履歴を見ながら、互いの考え方を理解できるようになってくる。

●リアルタイムに近いコミュニケーションの発展を支えたスマートフォン

 とはいえ、そこまでTwitterに感じ入るところまで進むハードルが高いことに変わりはない。そのハードルが下がってきた背景には、iPhoneを初めとするスマートフォンの存在が大きいのではないだろうか。

 “つぶやき”はブログのように、考えをまとめて意見を発表する、といった大げさな事ではない。ユーザーがその場、その時に感じた事をつぶやくからこそ、面白味がある。ところがPCがクライアントでは、つぶやきたい時につぶやくことが出来ず、ちょっと時間が空いたからといって、すぐにつぶやきを参照できない事もしばしば……となってしまうのが現状だろう。モバイルPCが常時接続の環境を手に入れるのは、これからの話だ。

iPhone 3GS

 しかしiPhoneやRIM(ブラックベリー)、Androidケータイ、WindowsモバイルなどのスマートフォンにはTwitter専用クライアントが開発されており、思いついた時に内蔵カメラやGPSで得た情報と共に、サクッと思い思いの書き込みができる。最近、iPhoneに追加されたアプリケーションTwitVidを使えば、撮影したビデオをアップロードし、メッセージを添えて動画へのURLをTwitterに投稿する、という一連の作業を一度にやってくれたりと、手軽なTwitterの投稿はさらに多様性を増しながらどんどん変化してきている。

 Twitterのタイムライン(時系列に並んだつぶやきの列の事)にWebブラウザからアクセスすると、それぞれのつぶやきがどんなツールによって行なわれたかが記録されている。それらを見ると、朝や夕方、昼休み、それに夜中などはWebやPCからの投稿が多く、その間はiPhoneからの投稿が多い事に気付く。

 また発言こそしなくとも、Twitterユーザーは電子メールをスマートフォンでチェックするのと同じように、Twitterのタイムラインをチェックして、フォローしているユーザーたちのつぶやきを眺めている。常時接続が当たり前で、特定Webサービスの専用クライアントを開発しやすいスマートフォン(特にiPhone)の普及とTwitterの普及には、どこか相関関係がある。

●マイクロブログの世界において、モバイルPCはスマートフォンを超えられない?

 個人的に残念なのは、Twitterをはじめとするマイクロブログをアクセスするツールとして、モバイルPCがあまり都合の良い道具ではない事だ。ウィルコムD4のような例外はあるものの、現在のモバイルPCの多くは常時接続を前提としていないため、その上で動作するアプリケーションもまた、常にオンラインになっていることを意識した作り方になっていない。

 面白い場面に出くわしたからと言って、デジタルカメラで撮影し、それをPCに取り込んでTwitterクライアントから写真を添付してつぶやいている間には、iPhoneで撮影画像についてつぶやいて、さらに別の話題について友人とメッセージを交わせる。それぐらいスピード感が違う。

 マイクロブログによるコミュニケーションはチャットほどリアルタイム性はないが、タイムラインに沿って発言が進んでいくので、こうしたスピード感の欠如が顕著だと、面白さが明らかに減じてしまう。

 ではモバイルPCは、Twitterのようなタイムラインに沿ったマイクロブログの輪に外出先から入る用途にはフィットしないのか? というと、それは違う。常時接続を実現しづらい(それも解決への糸口は見つかっている)ハードウェアやネットワーク環境にも問題はあるが、一番の問題はシステムやアプリケーションの実装が、今はマイクロブログのスピード感にフィットしていないことだ。

 しかし、これもユーザーが新しい使い方をし始める事で変化していく。

 たとえばIntel主導でオープンソースの開発が続くMoblin v2には、Myzoneというフロントエンドツールが実装されている。Myzoneは、いわばMID用アプリケーションランチャーなのだが、同時にスケジュールや直近にあったさまざまな情報をタイムラインに沿ってわかりやすく見せてくれる。Twitterやflickr、Tumblr、Last.fmの自アカウントから情報を引き出し、それを判りやすく見せ、手早く応答したり、新たな投稿を行なえる。

 前回のコラムでは、ネットとMIDは、広帯域での常時接続の環境が整うことで、その位置付けが明確になってくるだろうと書いた。Myzoneは、まさにそうした変化をサポートするソフトウェアだが、その流れは、やや遅れながらも一般的なWindowsを搭載するモバイルPCにも伝搬していくだろう。

 1つ心配なのは、Microsoftがこのムーブメントを逃してしまうことだ。ネットブックやMIDは用途が明確な分、MoblinやGoogle Chrome OS、Androidなどでも充分な機能を提供できるが、フル機能のPCが必須という人たちはWindowsを必要としている。Microsoftがトレンドを逃がしてしまうと、そうしたユーザーはマイクロブログの活用において、少しの間、不便を感じる事になるだろう。

 もちろん、さすがにそこまでMicrosoftが鈍感とも思えないので、心配無用と思いたい。

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(2009年 7月 15日)

[Text by本田 雅一]