森山和道の「ヒトと機械の境界面」
「第6回ロボット大賞」&「Japan Robot Week 2014」レポート
(2014/11/28 06:00)
一カ月以上前の話になってしまったが、10月15日(水)~17日(金)の3日間の日程で、東京ビッグサイトにてサービスロボットの展示会「Japan Robot Week 2014」が開催された。会場では、経済産業省による「第6回ロボット大賞」の表彰式や展示も行なわれた。記録としてレポートしておきたい。
「第6回ロボット大賞」はチップマウンタに
2年に1度に開催される「ロボット大賞」。第6回の今回はのべ86件の応募があり、10件の優れたロボットやソフトウェアが選ばれた。今年の大賞(経済産業大臣賞)は、富士機械製造株式会社の「モジュール型高速多機能装着機 NXTIII」に与えられた。電子回路基板に電子部品を配置するための機械だ。「NXTIII」は0.25×0.125mm、いわゆる「0201部品」と呼ばれる極小電子部品の実装に用いることを視野に入れて開発されたマウンタである。モジュール方式を採用し、設備が稼働状態にありながらも、部品サイズに応じて電子部品を装着するヘッドの交換が可能な点が特徴で、高精度・高速の電子部品実装機として世界シェア30%以上を占めているという。
新開発のヘッドによって、一時間あたり部品装着点数は最速で35,000個を達成。カメラ上を装着ヘッドが高速で走り抜けながら撮像することで、装着精度±25μmを実現した。また極小で壊れやすい部品を実装するため、同じく新規開発の超小型軽量ノズルを搭載し、装着時の衝撃荷重を50gf以下に抑えた。この性能を出すためにサーボ制御系の機能向上やにXYロボットの剛性向上、リニアモーターの効率アップなどを行ない、1つの装置としてまとめあげたことが評価された。
富士機械製造の曽我信之代表取締役社長は「ロボット大賞」表彰式で「今回の受賞には2つ意義があった」と述べた。1つ目は「社員に対するご褒美」。もう1つは、マウンタがロボットであるという認識が広まることだという。曽我氏は「『これロボットかい?』と思われるかもしれない。だが中身たるや精緻な技術があって高速・高密度に電子部品を実装することができる。車、家電の電子部品を高速実装する機械がロボットであるということだ」と述べた。そして安倍内閣による「ロボット革命実現会議」について触れ、「省庁の人には産業界がトップギアで走れる競技場、環境を整えてもらいたい。ロボット革命を実現する一助となれば幸いだ」とコメントした。
システムが評価された今回の「ロボット大賞」
そのほかは最優秀中小・ベンチャー企業賞 (中小企業庁長官賞)として株式会社ワコーテックの静電容量型力覚センサー「Dyn Pick」、日本機械工業連合会会長賞としてサクラファインテックジャパン株式会社/平田機工株式会社による「全自動連続薄切装置ティシュー・テック スマートセクション」、審査員特別賞として兵庫県立リハビリテーション中央病院 ロボットリハビリテーションセンター (導入者:兵庫県/兵庫県社会福祉事業団)による「ロボット技術を応用した臨床リハビリテーション部門と研究開発部門を融合したロボットリハビリテーションセンター」が贈られた。「ロボットリハビリ」は兵庫県社会福祉事業団による登録商標である。
そのほか優秀賞(サービスロボット部門)は、大和ハウス工業株式会社の狭小空間点検ロボット「moogle」、株式会社デンソー/信州大学/東京女子医科大学/株式会社デンソーウェーブによる手術支援ロボット「iArmS」、TOTO株式会社/関東学院大学
建築・環境学部 大塚雅之研究室による排泄支援ロボット「ベッドサイド水洗トイレ」が受賞した。
大和ハウス狭小空間点検ロボット「moogle」は、以前は床下点検ロボットとして社内運用されていたが、2012年10月から狭小空間点検ロボットとして外販されており、2014年9月時点で150台が全国のリフォーム会社や工務店で利用されている。
TOTOのベッドサイド水洗トイレは、便を破砕して圧送する仕組みで細い排水管を実現。通常は必要な床固定不要で、後付けできるようになった。ただし配管工事は必要である。
このほかTOTOでは浴槽での立ち座りや出入りをサポートするバスリフトなどを開発、商品化している。バスリフトは浴室内の電気工事は不要で、ワイヤー駆動用のモーターは電池で駆動している。使用可能体重は35kgから100kg。TOTO総合研究所UD研究部メカトロニクス研究グループリーダーの永石昌之氏によれば、今後もロボットやメカトロニクス技術の研究を行なっていくという。
デンソーウェーブの手術支援ロボット「iArmS(Intelligent Arm Support System)」は脳神経外科手術などに用いられるもので、モーターレスでスイッチ操作なしで腕を止めているときは支えてくれ、動き出すと自由に動くというもの。
実際に体験させてもらったところ、見た目から想像していたのとは少し違い、不思議な感覚だった。確かに腕についてきて支えてくれる一方で、邪魔にはならない。単に疲れないだけではなく。外科医の手の震えも3分の1に抑制されるという。これまでに信州大学で臨床研究を実施しており、今後、東京女子医科大学、藤田保険衛生大学、アメリカUCSFで臨床研究を行ない、2015年春に発売される。ほかの用途にも使われそうだ。
同じく優秀賞(公共・特殊環境ロボット部門)を、株式会社アトックスによる福島第一原発対応の小型遠隔除染装置「RACCOON」、株式会社豊田自動織機/飛島コンテナ埠頭株式会社/三菱重工マシナリーテクノロジー株式会社による名古屋港・飛島村にある「自働化コンテナターミナルシステム」が受賞。優秀賞(ロボットビジネス/社会実装部門)は、東邦薬品株式会社/日本電気株式会社/株式会社ダイフク/株式会社安川電機による物流現場の自動化を実現する「医薬品物流センター高度化ロボットシステム」が受賞した。2013年12月から稼働開始した埼玉県にある東邦薬品物流センターだ。
富士機械製造のマウンタにせよ、TOTOのベッドサイド水洗トイレにせよ、「ロボット」と呼ぶべきなのかどうか、ちょっと困ってしまうものが選ばれる結果となった。少なくとも一般的には、あれを見てロボットだと言う人は少ないだろう。また、港湾コンテナターミナルやリハビリ病院、医薬品物流センターなど、単一のロボットよりも「一定の空間内でタスクをこなすシステム」として構成されたロボット技術がシステム丸ごとで受賞したのが今回の特徴だと言える。いっぽうそのため展示コーナーでは実物よりもパネルやビデオによる展示が相対的に増えてしまい、いささか寂しい印象となった。
双腕ロボットによるコーヒーサービスや研究用プラットフォーム「ルンバ」など
このほか会場では、経済産業省によるロボット介護機器開発・導入促進事業のブースで各社が見守り技術等を展示するほか、ロボットに力を入れている各自治体や企業、大学が出展して自社技術をアピールしていた。そのほかのロボットも、いくつか写真と動画でご紹介する。
川田工業株式会社は双腕ロボット「NEXTAGE(ネクステージ)」を使ったカフェをデモとして行なっていた。NEXTAGEはステレオビジョンとハンドカメラを備えた双腕ロボットで、床に設置することなく作業を行なえる。ロボットのコントローラーを含めても人と同じサイズにおさまるコンパクトサイズも特徴だ。
今回のデモではNEXTAGEの作業性を示すために、テーブルやコーヒーメーカなどの環境側にマーカーを貼って、画像認識を行ないながらコーヒーを作って注ぎ、トレイにのせ、ストローやマドラーのような物体でもつまめることを示していた。淹れられたコーヒーは実際に飲む事ができ、来場者たちに配られていた。
このほかダブル技研株式会社ブースでも「NEXTAGE」はダブル技研製ハンドを付けてデモを行なっていた。じわりじわりと存在感を増しつつある。
「NEXTAGE」のライバルが、アメリカのRethink Roboticsが展開している安価(22,000ドル)な双腕ロボット「バクスター」だ。日本では日本バイナリー株式会社が代理店となっており、今回も同社のブースで動作デモを行なっていた。「NEXTAGE」が組み立て作業などを行なっているのに対し、バクスターは主に搬送作業などを行なっている。また、デンマークのユニバーサルロボットの代理店・グリーネプランニングのブースでは、人恊働ロボットであるユニバーサルロボットを使って、車を磨くデモを行なっていた。人と一緒に働けるロボットは、世界中でこれからの作業用ロボットのトレンドになっている。
川崎重工業は無菌環境作業用ロボットアームをデモンストレーションしていた。創薬・製薬用に用いられるロボットで、オールステンレス構造で丸ごと洗浄が可能だ。
社会インフラ点検ロボットを事業としている株式会社イクシスリサーチは、同社がこれまでに開発してきた各種点検ロボットや全周囲監視システムのほか、不整地踏破点検ロボットの試作品を出展していた。ロッカーボギー機構を採用したロボットで、特徴は不思議な骨組み構造にある。これは株式会社くいんとの構造最適設計ソフトウェア「OPTISHAPE-TS」を使って剛性や強度など力学要件を計算した結果を3Dプリンタで出力して製作したもの。生物の骨のような形状が印象的だ。
コーワテック株式会社はゴム人工筋肉を使った建設機械用無線操縦ロボット「アクティブロボSAM」を出展。メーカー問わず既存の重機を無線で遠隔操縦できる。ロボット全体の重量も12kg程度と軽く、搭載した重機のバッテリ電源を使って動かせる。災害時や、急斜面、危険性の伴う場所での活用が可能だという。
三菱電機特機システム株式会社は同社開発のCWD(Crawler Wheel Drive)システムを採用したクローラロボットを出展。クローラを使った悪路走行性能と、四輪走行による高積載能力の長所を兼ね備えた駆動方式で、状況に合わせて走行方式を採用できる。人の代わりに現場で情報収集を行なうためのロボットである。「FRIGO-M」は重さ23kg、最大速度は時速3km。稼働時間は2時間以上で、防水防塵。総務省消防庁消防大学校消防研究センターが開発した「FRIGO」をベースに実用化した。主に消防隊用のファーストレスポンダーとして活躍することが想定されている。
村田機械株式会社は、同社の自律移動走行制御システム「イッツナビ」を、アマノ株式会社の自律走行式ロボット床面洗浄機「SE-500iX」に組み込んだ例を紹介。既存の環境やモノを動かす自律移動を実現するための制御システムで、マッピング機能、経路生成、障害物回避などがパッケージになっている。工場内搬送用台車も展開している。
掃除ロボット「ルンバ」の国内代理店であるセールスオンデマンド社は、通常のルンバのほか、研究用プラットフォームとして用いられているルンバも出展して、大学や企業の研究者たちにアピールしていた。ソフトウェア開発環境にはROSが推奨されている。また、最近ではパーソナルロボット「Pepper」の開発で知られるソフトバンク傘下のフランス企業アルデバラン・ロボティクスも、研究用ロボット「NAO」のデモを行なっていた。
岡山大学 工学部システム工学科 機械インターフェイス学研究室 五福・亀川研究室はヘビ型ロボットを出展。螺旋状に運動することで、配管内を縦に登ることも可能。木も登ることができるヘビのように、2次元平面だけではなく3次元で自在に動けるようにすることが目標だという。
電気通信大学情報理工学研究科 知能機械工学専攻 長井研究室ではテレ保育ロボット「ChiCaRo(チカロ)」を出展。ビデオチャットとハンドを使って、遠隔地から子供と物理的な相手をすることができるロボットで、製品化を考えているという。
あつぎものづくりブランドプロジェクト(ATUMO)は、等身大2足歩行ロボット「ロボコロ」くんを出展。神奈川工科大学 兵頭研究室、有限会社杉浦機械設計事務所、株式会社MONOI企画の「ロボットゆうえんち」などが開発協力したもの。ホビーロボット用のサーボモーターを使っているが、アスファルトの上でも安定して歩行が可能だ。厚木市はロボット特区にも選ばれている。
タカラトミーは、デアゴスティーニがパートワークとして販売している「ロビ」のグッズを今後展開予定で、1月発売予定の「Robi jr.(ロビジュニア)」そのほかズラッと並べてデモンストレーションを行なった。
徳島大学大学院ソシオテクのサイエンス研究部制御工学研究室の三輪昌史氏は、2基のダクトファンを使ったVTOL機のデモを行なっていた。このほかマルチコプターを使った空中搬送台車の研究を行なっており、例えば、レスキュー用に軽量の浮き輪となるような簡易究明器具を要救助者のところまで飛んでいって落とすといったような使い方を想定しているという。このほか三輪氏は、小型のヒューマノイドロボットをマルチコプタに載せて制御させたり、「ジオング」のようなVTOLを作ったりもしている。