森山和道の「ヒトと機械の境界面」

非日常の「旅」体験を支援するこれからのアプリ
〜慶応大・安村研、「旅展」レポート



慶応義塾大学 教授 安村通晃氏

 コンピュータと人間のかかわり方をデザインするインターフェイスデザインや、インタラクションデザインの研究を行なっている慶応義塾大学 環境情報学部 安村通晃研究室は、9月8日〜10日の日程で、秋葉原電気街にも近い「3331 Arts Chiyoda」にて、「旅展」を開催した。

 安村研究室では学生たちによるアプリケーション作品の展示会を毎年行なっており、毎年異なるコンセプトを立てている。今回のコンセプトは「旅」。安村氏は今回のテーマを「旅」にしたことについて、「日常性から切り離されて、非日常から自分を見つめるものとして設定した」と語る。旅の中ではさまざまな発見や体感があり、旅から帰って来たあとではそれらを思い出として共有する。基本的にそれら旅の体験を強化するもの、発見を支援するもの、旅での思い出共有を促進するための情報技術として発想しているという。

 確かに旅のスタイルは、ここ数年で少なからず変わった。物理的移動手段そのものはそれほど変化していないが、ホテルや旅館、交通手段の予約においてはインターネットが必須であり、旅先でのそれらの変更も多くの人はケータイで行なっている。事前の旅の計画立案においては多くのブログも参考になる。旅先からでも写真・動画共有サイトやSNSで旅の体験が共有できるようになっている。これからも旅のスタイルはどんどん変わっていくのかもしれない。では、学生たちの展示を1つ1つ覗いてみよう。

会場の「3331 Arts Chiyoda」。以前は中学校だったアートスペース 会場の様子 来場者がこれまで旅行したポイント、旅行したいところに小さい旗を立てた地球儀

 「くも落とし」は、スマートフォンを用いたお土産アプリケーションのアイデア作品。旅先でのお土産屋でスマートフォンをかざして、欲しいお土産を購入する。その場で実物を受け取るのではなく、駅など戻って来たところで端末にスマートフォンをかざすと、ポンとお土産が入った袋が落ちてくるというもの。お土産を持って歩き回らなくてもいいというわけだ。旅先のポスターに掲載されている商品をクラウド経由でダウンロードするようなイメージで発想したという。このアイデアを活かすためには、たとえばバスツアーのように、回る先が決まっていて、帰る場所も決まっているようなシチュエーションであれば、実現できるかもしれない。

 「ステップナビ」は目的地と時間を入れると、GPSでユーザーの位置データをとることで、見知らぬ土地でもどのくらいのペースで歩くべきか提案してくれるアプリケーションである。歩きで移動しなければならないことは旅行に限らず多いので、実際にアプリとして開発されれば面白いかもしれない。また、歩きだけでなく、ランニングしているときのペース調整にも使えるだろう。時間的余裕がいっぱいある場合は、近所の面白スポットをナビしてくれるとさらに嬉しい。

 「ぶらっと鉄道の旅支援」は、出発駅と目的駅だけでなく、途中駅の魅力を提案してくれるというアプリ。できれば100km以上など長距離の区間において、途中の魅力ある駅を提案してくれると、地方での列車旅行に使えそうだ。

くも落とし ステップナビ ぶらっと鉄道の旅支援

 「旅まんびゅう」は、旅行土産の定番であるまんじゅうを食べながら、旅行のスライドショーを楽しむというアプリ。まんじゅうの下にフォトダイオードがあって、まんじゅうをどけるとスライドショーが始まる仕組み。旅行よりもむしろ、結婚式の引き出物や、赤ちゃんが生まれたときのギフトなどであれば、今後に多様な製品が出る可能性はありそうだ。

 「Journey Relay」は旅行先で撮った写真をバトンリレーしながら繋げていくというアイデアのアプリ。1人が撮影していった旅行写真を別の誰かが受け継いでいくことで、ボトルメールのようにバトンが意外なところまで移動していく楽しさを演出できないかと考えたものだという。バトンそのものをキャラクター化することで、リレーするたびにバトンがデコレーションされていったり、あるいは成長していくようなアイデアが付け加われば面白かったかもしれない。既存の写真系ソーシャルネットワークとの連動も欲しかったところだ。

 「メタボパッカー」は、荷物をいっぱい詰め込むと、スーツケースの外装がぶくぶくと膨らんで肥満体になるというアート系アプリ。重たい靴によってしばしば重量オーバーになることが多い作者自身の体験がベースになっているという。実用よりはアート、ファッションのアプリなので、コンセプトを同じくする他のアイテムと連動した方が面白かもしれない。

旅まんびゅう Journey Relay メタボパッカー

 「CQ Submarine」はアマチュア無線にアイデアを得たアプリケーションで、現在地からの距離と方向を上面で指定して覗き穴を観てみると、指定した位置近辺から登録されたYouTube動画が複数再生されるというもの。上面にも内部にもiPadが使われている。世界中に散らばる映像や音をなんとなくチューニングしながら観るためのアプリケーションだ。もうちょっと本物の潜望鏡で覗いた時のような没入感が欲しかったようにも思う。また覗いて見える映像がライブ映像ならばもっと面白いだろう。

 「AR不思議NAVI」はカメラをかざすと「ウサギ」のキャラクターが重畳されて、目印となるものや、ちょっと面白いものを提案してくれるというアプリ。「自分用バスガイドさん」は、バスガイドの音声ガイドをつけたときだけ流すというもの。「Memory Pointer」はお土産に仕込んだICチップをスマートフォンで拾ってデジタルフォトフレームに流し込むことで、お土産に封じられた思い出を写真としてみるというアプリ。もう少し具体的な状況を絞り込んで発想したほうが良いアイデアが生まれてくるのではないかと思われた。

CQ Submarine AR不思議NAVI
自分用バスガイドさん 「Memory Pointer」

 今回は震災の影響もあり、スケジュールも厳しかったという。また、もともとまとまった研究というよりは学生たちによる作品展示なので、出来や完成度はバラバラだ。「もともと旅が好きで〜」という学生も多かったが、実際のところは旅の経験そのものも世界各地を放浪した体験を持つ人から、それほど旅の経験がない人まで、さまざまいたようだ。旅先での歴史性を探ったり、あるいは旅先での人との触れ合いを提案するアプリケーションが少なかったことなども気になった。ただ全体的には、比較的、楽しいアプリケーションが多いように感じた。また比較的、現実的なアプリケーションが多かったようにも思う。少しブラッシュアップしてくれれば実際に使いたくなるものもあった。

 実際の作品製作においてもAndroidケータイやiPadなどのタブレットが多く用いられていた。これからはさらにタブレットやスマートフォンが駆使される時代が来ると思う。来るべきIT環境の中で、効率性だけを追求する日常とはまた違った、有効な時間の潰し方を提案するようなアプリケーション。あるいは、濃厚な時間の過ごし方をさせてくれるアプリケーション。それがおそらく今後登場を待たれる「旅」アプリなのだろうと思う。学生たちによるもっと突拍子もないような発想を期待する。