森山和道の「ヒトと機械の境界面」

これからの日本のものづくりに必要なものはテンション!?
〜第一回インタラクションデザイン研究会レポート



 6月19日、「第一回インタラクションデザイン研究会」が東京大学 情報学環 福武ホールで開催され、講演とパネルディスカッションが行なわれた。主催した「インタラクションデザイン研究会」は有志団体で、「学術、産業、個人を問わずインタラクションに関する取り組みを行なっている人々を集め、これからのインタラクションデザインについて議論をすること」、特に「分野横断的に業界を俯瞰することで、異分野での知識共有や交流を図り、国内での業界の活動を促進」することを目的として活動を始めたばかり。

 「インタラクションデザイン研究会」はWebサイトにて、そのミッションを以下のように掲げている。

 日本、そしてこれからの世界に必要なのはインタラクションデザインです。人々のアクション、アクティビティを的確に捉え、意味づけし、システムと有機的に結びつける製品開発。人々の「する」を観測し、科学する。「生活を開発する」視点でのものづくり。「できる」があふれた日本が、見落としてきた「する」のエンジニアリング。研究者、企業、エンジニア、デザイナーが集い、この課題に取り組むのがインタラクションデザイン研究会の使命です。

 研究会の幹事は、坂本大介氏と渡邊恵太氏の2人。現在の所属はJST ERATO五十嵐デザインインタフェースプロジェクト研究員だが、所属とは無関係に活動しているという。筆者は、このお2人には本コラム他でこれまで何度も取材でお世話になっている。坂本大介氏の研究については「インタラクション2007開催中〜『ジェミノイド』関連研究がベストペーパーに」を、渡邊恵太氏の研究については、「慶応・安村研究室、『ワークプレイス展』を開催」などをご覧頂きたい。

 2人は、これからのものづくりにおいては、「できること」や機能ばかりを追求してきたエンジニアリングの応用ではなく、より広い視野で見た、インタラクティブシステムの応用としての視点が必要なのではないかと語る。技術をどう応用したかだけではなく、人が何をするか、人や生活への応用という視点での議論が必要なのだと考えているという。

坂本大介氏 渡邊恵太氏 インタラクションデザインを日本の産業の中核にすることを目指すという

 本コラムの読者諸氏はともかく、世の中的にはおそらく異分野と考えられているだろうロボットやヒューマンインターフェイス関連の若き研究者が同じ場所に集い、同じ問題意識を持ち、さらにそれを共有しようと考えて研究会を主催したことそのものにも興味を惹かれて、研究会にお邪魔した。研究会の参加者は約180名。参加登録者ベースで見ると、企業が半分、大学や学生関係者が40%、そのほかが10%だったという。以下、まずは4人の講演者とパネルディスカッションの内容をレポートする。

ものづくりの課題そのものが変化している インタラクティブシステムの応用 4人の講演者にそれぞれ肩書きをつけて議論が行なわれた

●発明家・増井俊之氏 コロンブス的にシンプルな発想を
慶応義塾大学教授 増井俊之氏

 まず最初の講演は慶応義塾大学教授の増井俊之氏から始まった。ケータイの予測変換システム「POBox」そのほかで知られるIT業界の「発明おじさん」である。増井氏は電子工作、特に半田づけが好きだったという子供時代を振り返り、いま再び電子工作が流行していることを大変喜ばしいと感じていると述べた。だが今の仕事をやるようになったのは成り行きで、インターフェイス関連の研究開発をやっているのも偶然だという。

 増井氏は、便利、あるいは面白いシステムを作って「自慢すること」が好きだと続けた。「頭を使わないこと」も大好きなので、泥酔していても使えるようなインターフェイスが理想だと考えているという。つまり、自慢できるもの、何も考えなくても使えるユニバーサルなシステムというのが増井氏の研究開発のコンセプトだ。具体例としてCDケースを置くだけで音楽を鳴らせるシステム、直感的なデータ転送システムなどを示した。

 インタラクションデザインの目標は、シンプルで便利なものだと考えていると述べた。ウェブはクリックするだけだし、Twitterもつぶやくだけ。「〜だけ」という単純なものがいいという。ややこしいものは正確であっても使われなくなる。

 また増井氏は「インパクト ÷ 複雑さ」で定義される「コロンブス指数」なるものを提唱した(会の当日は「インパクト ÷シンプルさ」として提案されたがその日のうちに修正)。アメリカ大陸を発見し、ゆで卵を立ててみせた逸話で知られる、あのコロンブスである。この例として簡単に画像がアップできるGyazo、簡単にMLができるQucikML、DynamicMacroなど自分が開発したアプリケーションを足早に紹介。「世の中こんなもんだと思っていることが多いが、意外ともっともっと簡単にできるデザインがありえるのではないか」と述べた。

 悩みとしては、コロンブスがゆで卵を立てたことについてもし論文を書いたら半ページ程度にしかならなかっただろうことと同じく、簡単なシステムではシンプルすぎてなかなか論文にならないことだと述べ、「コロンブス指数の高いシステムをたくさんデザインしましょう」と講演をまとめた。

好きなことは「自慢する」 「楽なシステムを頑張ってデザインする」ことが心意気だという 「もしコロンブスが論文を書いたら」

●デザイナー 田川欣哉氏 フィードバックと改良のループを回すプロトタイプ作り
takram design engineering 田川欣哉氏

 takramデザインエンジニアリングの田川欣哉氏は、子供のころはあまりおもちゃがなかったので牛乳パックを使って遊んでいたり、公文式での勉強などを楽しんでいたという。また'76年生まれらしく、ゲームや、三国志や水滸伝、シャーロックホームズやアルセーヌ・ルパンシリーズなどを楽しんでいたと子供時代を振り返った。

 インタラクションデザインに関わるようになったのは大学に入ったあと。田川氏の母親の親友だった伝記作家えとう乱星氏の協力のもと、肢体障害者のコンピュータ利用を支援する研究として、親指さえ動けば両手で入力できるキーボード「tagtype」を開発したのである。これは口述筆記に頼っていた、えとう乱星氏が、中指などからの腱移植によって動くようになっていた親指だけを使って、プレイステーションのコントローラーを扱えることにヒントを得たというものだ。

 田川氏は当時、東大の機械科の学生にスケッチを教えていた工業デザイナーの山中俊治氏(現在は慶應義塾大学教授)に出会う。さらにロンドンで2年間、インダストリアルデザインを学び、山中氏の会社「リーディング・エッジ・デザイン」で数年働いたあとに、2006年1月にtakram design engineeringを設立、独立して今日に至っている。

 新宿御苑の目の前のビルにオフィスを構えるtakram design engineeringには、ハードウェアが得意な人もいれば、ソフトウェアが得意な人もいるという。また製作している作品もローテクからハイテクまで色々だ。超撥水加工した皿で水を転がして楽しむ作品「furumai」や、昆虫の走行力学を模倣することで不整地でもフィードバックなしに走行できるロボット「Phasma」、また東芝のLEDを使った静かな拍動を伝える電球作品「OVERTURE」などが知られている。

 このほか田川氏は、ソフトウェアのユーザーインターフェイス例として、レーザーポインターとカメラ、プロジェクターを使って光で絵や文字を描けるインタラクションシステム「Aftergrow」、建築家とコラボレーションして人の動きに反応して明滅する風鈴状のランプを使った「furin」などを紹介した。

 なお、これらの作品の多くは、YouTube上のtakramのチャンネルで見ることができる。また、このコラムのバックナンバーでも何度かご紹介しているので、合わせてご覧頂ければ幸いである。

 いずれも、コアになるのは「プロトタイプを作ること」だという。コンセプトを固めてからプロトタイプを作るのではなく、コンセプトメイクの段階から手を動かしながら作っていく。そしてフィードバックと改良のループを回していく。具体と抽象をあまり分けずに一緒に考えて行くという方法をtakramではとっている。

 田川氏は最後に会社の目標として、「デザインエンジニア」というハイブリッドな人が集まる場を提供して企業としてのあり方を極め、そして日本だけでなく世界の多くの人に使ってもらえるようなものにフォーカスしていきたいと述べた。なお今回の講演では数年前に発表されたものの紹介が多かったが、今年後半から、新作がいろいろ発表されるとのことだ。

takram design engineeringのオフィスの様子 レーザードローイングツール「Afterglow」 いずれもプロトタイピングが中核にある

●ハカセ・稲見昌彦氏 魔法や超能力のように使える透明なユーザーインターフェイスを
慶応義塾大学教授 稲見昌彦氏

 東大にあったたち・すすむ研究室時代から再帰性投影技術を使った光学迷彩技術などで著名な慶応義塾大学の稲見昌彦氏は「かぶりもの」研究が多いと研究紹介をはじめた。光学迷彩技術はマンガ「ゴルゴ13」に紹介されたりするなどかなりあちこちのメディアで紹介されているが、将来は、運転席の内側から外が透けて見えるようにするなどといった方向で、研究開発が進められている。

 稲見氏は、『手品・奇術入門』(小学館)という本の影響を受けたという。そして手品に失敗したことから、2番目になりたかった「ハカセ」への道を選んだのだと子供時代を紹介した。

 実はその本には、半透過鏡を使って演者の姿をだんだん骸骨に変えていくという元祖ARともいうべき手品が紹介されていた。これは研究者が考えた手品だったという。研究者がマジシャンみたいなことをやっていた時代もあったのだ。稲見氏は、1回はあきらめた手品師への道をもう一度考えてもいいのかなと考えているという。

 もともと稲見氏は、化学者と生物学者を志していて、修士論文は生体分子修飾をした原子間力顕微鏡について、というものだった。東工大時代はロボット技術研究会に所属し、ロボコンなどで経験を積む。同時に、ソニーの「SALA(Science Art Laboratory)」のもとでVR研究に携わるようになり、ユーザーインターフェイスや、「ボディハック」に目覚める研究を行なうことになる。当時から、「リアルとバーチャルの界面をいかに混ぜるか」に興味関心があったという。

 一方、マスタースレーブ制御できるロボットを使ったIPフォンの開発を通して、別のことにも気づくことになる。稲見氏は通信遅れがあるなかでバイラテラルマスタースレーブ制御をどううまくやるかということに一生懸命になっていた。最初はロボットは骨組みだけだった。論文は書けるが、骨だけでは楽しくない。そこで、何気なく東急ハンズで買ってきたぬいぐるみをロボットにかぶせてみた。すると多くの人の反応が急に良くなり、最初は「飾り」としか思ってなかった外見に、大いに機能があることに気がついたと語った。

 現在は、透明なユーザーインターフェイスを目指している。「透明」とは、技術を洗練させることで、技術を意識せずに、まるで魔法や超能力のように使えるようにすることだ。具体例として稲見氏は、未来館のイベントにも出展された「ストップモーションゴーグル」を使うことで、スロットマシンができるようになる例を動画で見せた。人の目は動きに関しては性能が悪い。だが虫めがねをかけると半田付けがうまくなる。それは、「見える」ことで手の動きにフィードバックがかかり、練習でうまくなるからだ。このように、素の状態では自分自身の出力を十分に知覚できていない場合も、それを知覚できるようにしてやることで、人間ができることはまだまだ広がる。また音痴の人でも自分自身の音程のズレを知覚できるようにすれば歌がうまくなったりするという。

 それを、認知的に透明にした形で実現することが大事だと考えているという。エンピツを使っているとき、我々はエンピツのかたちは意識しておらず、エンピツの先端にしか意識は向かない。そのようなことを、脳科学の成果も活かしながら考えて行きたいと考えているという。

 稲見氏は「技術とアートは融合しなければならない」、「昔は究極のエンターテイメントとして科学や技術があったはず」と語った。また寺田寅彦の随筆「物理学と感覚」を紹介して、ハードウェアを介して身体とインタラクションデザインについて考えたいとまとめた。

再帰性投影技術 IPロボットフォン 「ストップモーションゴーグル」を使うとスロットマシンも止まってみる

●文化人 猪子寿之 テンションあがるネットサービスを起点としたものづくり

チームラボ株式会社 代表取締役社長 猪子寿之氏

 独特のキャラクターとセンスでネット上でも人気急上昇中のチームラボ株式会社代表取締役社長の猪子寿之氏は、'77年徳島生まれで子供時代は「ジャンプ」と「ファミコン」が好きだったことくらいしか覚えてないと話を始めた。東京大学発のベンチャー企業でもあるチームラボでは、いろんなスペシャリストがチームで仕事をすることをコンセプトにして活動していると紹介した。

 猪子氏は今の時代を、サイエンス、テクノロジー、デザイン、アートの境界を曖昧にしながらネットが進んで来たように、色々な産業区分はだんだん意味がなくなってきており、その結果、さまざまな産業がもう一度競争力を取り戻さなければならなくなりつつあると見ているという。

 同社が開発したもののなかで「インタラクションデザインっぽいもの」として、「auデザインプロジェクト」で開発した「アクトフェイス」を紹介した。「auデザインプロジェクト」はオシャレケータイのコンセプト開発を目指したものだったが、そのなかで、ものよりもむしろインターフェイスを中心に考えたものだという。

 猪子氏は、「インターフェイスはテクノロジーが未発達だから存在しているものだと思っている。『しょうがないから』存在しているのがインターフェイスだ」と語った。

 そこでこのプロジェクトでも「おしゃれにしょうがないやつ」を作ろうとしたが、人間ではそういう人はイメージが悪い。そこで、「しょうがあるインターフェイス」を考えたという。どうしたかというと、やらないといけない「しょうがない行為」に別の価値を与えて、「しょうがあるもの」にしようとしたのだという。

 「アクトフェイス」では、インターフェイスが街になっている。本人は意識してなくて普通にケータイをつかっていてもいいのだが、その操作自体がゲームプレイになっていて、ケータイのなかの町が変化していくというものだ。例えば仕事仲間ばっかりと話をしているとオフィス街になっていったり、遊んでいると南国リゾート風になったり、恋人からメールが来ると街中がラブリーになったりする。不在着信が多いと街中で爆発事件が起きたりする。町そのものがインターフェイスなので町を見ると、街のなかのキャラの頭の状態でケータイの電波状況が分かる。

 このように、本来の価値そのものにぜんぜん別の価値を与えて、インターフェイスそのものをコンテンツみたいなものにしてしまうというコンセプトだったが、販売されなかった。そこで自分たちで「アクトトイレ」というトイレットペーパーを引っ張ることでイベントが起きるものを作ったが、やはり誰も買ってくれなかったと語った。

 このほか落書きできるホームページとして「日テレダベア」を紹介した。「おしゃれなホームページを作ってもテンションが上がらないので、落書きできるようにした」という。猪子氏はこのあと「テンション上がる」を連発。会場を盛り上げた。

 映像と音楽を使ったイベント空間演出などにおいても、ミュージシャンを中心にするよりもユーザー中心に演出し、VJなどもユーザーに解放していきたいと考えているという。iPhoneを使ってコントロールすることもできるが、踊っているときにそんなことをやるのもめんどくさい。踊ること自体をインターフェイスにしたいなと考えて作ったのが「チームラボボール」だ。ボールの中にセンサーが入っていて、ユーザーがさわることで会場全体の照明などを変えることができるバルーンである。「チームラボボール」など、チームラボの作品もYouTube上で閲覧できる

 今は、インタラクティブなハンガーを作っているという。猪子氏は自身のECサイト運営経験から、ただ服だけを写した写真とコーディネートされた状態で人が着ている写真があるサイトとを比較すると、後者の全身写真があるサイトのほうが「びっくりするほど売れる」と紹介した。人はコーディネートされている写真を見ると欲しくなるらしいことから、実際の店頭で、ハンガーを手にとった際に、壁際のディスプレイにパッとコーディネートされた写真が出るといったものを作っているとのことだった。触った瞬間にそのことを検知して、ひもづいた情報が配信されるような仕組みである。

アクトフェイス チームラボボール

●パネルディスカッション キーワードは「日本」と「テンション?」
パネルディスカッションの様子

 この後、講演者4人をパネラーとしてディスカッションが行なわれた。まず最初のテーマは「なんでアップルはこんなに注目されているのか」だった。

 アップルに所属していた増井氏は、同社のなかでも技術者は、デザイナーが何をしているのか知らない(ただし知っていても言えないとのこと)と述べ、うまくいっている理由については「見る目のある人が上にいるから全体にうまくいってるんじゃないか。松下もソニーも昔はそうだった。デザイナーがいろいろ言ってても売れなきゃ始まらない」と語った。

 ではその判断はどうするのか。会社経営者である猪子氏に話がふられた。猪子氏はまずは「うち? うちはよく分からないよ(笑)」と受けたが、これからのものづくりについて、「ネットは今まではたまたまPCのブラウザ空間だけに閉じられていた。けれど今は『すべてネットの一部』という感じでものを作る時代になっている。『たまたま人間が物理世界にいるから、しょうがなくモノがある』、そういう感じで作っているのではないか」と語った。物理的な存在である人間に対してネットサービスを提供する上で、物理的接点を与えるために仕方なくモノが必要なんだという考え方だ。

 既存のハードウェア会社はこれまで、モノの延長上に、ネットのサービスを付加するという形で作っていたが、そのような作り方・考え方とは「ベースの思想が圧倒的に違う」モノづくりが必要になっている。「モノをつくっている延長にネットサービスを考えるのと、ネットの先に、仕方ないからモノがあると捉えるのとではぜんぜん違う。ソフトの人とハードの人じゃプロセスも違う」からだ。実際に、アップルではiTunesが設計されて、その先にiPodがある。「優先順位、順番が違う」。

 そして「重力、質量があるだけでダサイと思っちゃう」というチームラボでも、「すべてはネットの一部であるべきだ」という考え方でサービス設計が考えられているという。また、すぐにプロトタイプにして、チーム内でレビューとプロトタイピングを繰り返していく点はtakramとも似ているという。

増井氏と稲見氏は壇上からTwitterでTweetしながら議論

 稲見氏も「アップルの製品が、コンシューマ製品であるが作品性が高いのはトップであるジョブズの影響だろう」とコメントした。ただ、技術の方向性をよく見ることは重要だが、「前衛すぎたり、未来過ぎるものはダメ」だとも感じているという。たとえばARも研究として流行していたのは10年前だ。それが「電脳コイル」などアニメ作品になったりすることで話が通じるようになったのが最近という流れががある。「最先端技術を使ってもいいが、ユーザーの現状とインピーダンスマッチングしていることがサービスとしては重要なのではないか。そういうことは研究者として思う」と述べた。

 司会からの「便利」とはどういうものかという質問を受けて、増井氏は、「実世界はまだまだ不便。しなければならない操作を減らしていくと便利になっていく。そのためには機能をなくすことが重要。最近の機械は機能が減っているようで便利になっている」、また、モノがいろいろあるほうが豊かという時代から、今はむしろ「モノがなくても生活できるほうがかっこいい」という考え方になっていることから、これからますますシンプルになっていくのではないかと答えた。

 また、日本文化はインタラクションデザインは根付きやすいのかという質問に対して猪子氏は、「本当は『うつろう』ものしか日本人は美しいとしか感じないんじゃないか。西洋はうつろわないもの、永遠、普遍が美しいと思っているんじゃないか、知らないけど。日本人は動いたり、うつろうものが得意なのかもしれない」と答えた。俳句の季語も季節によってうつろうものだし、日本家屋は見立てによってすぐに変化できるように作られている。このようなことから、ユーザー参加や時間軸に沿って変化するもの、気持ちが良いものはもともと日本人が得意だったはず、だから「がんばろうね」と答えた。

 インタラクション設計における工学とデザインの間について質問された稲見氏は、「『デザイン』という言葉を『設計』と『意匠』というかたちに翻訳して、意匠=デザインとしてしまったので両者は分かれてしまったが、そもそも違いはなかった。わけてインタラクションのデザインは機能をどうデザインしていくかという話。20世紀はエンジニアが機能をデザインして、デザイナーが外側をデザインすることが多かった。でも機能と、人とどういう関係性をもっているかを分けて考えると、人に感動を与えるということはできない」と答えた。


「テンション上がる」を連発したチームラボ猪子氏

 また、これまでの工学で「これっていったい何の役に立つの」と聞かれたとき、それは「第2次産業としてどう役に立つの」ということだったが、いまそれがどんどん変化しつつあり、「テンションがあがる」とか「ハッピーになる」とか「やる気が出る」といったことも「役に立つこと」のはずで、工学の評価指標も変わりつつあると述べた。

 猪子氏もこの稲見氏の意見に賛同を示し、「ネットのサービスから設計してモノを作らなければならない」と持論を再び強調した。またインタラクションデザインは今はものづくりの最終工程みたいなものだと思われているが、そこから発想しなければならないと述べた。

 田川氏も「僕らはそこをひっくりかえそうとしている」と同意した。これまでのものづくりの典型は人間から遠いところから出発して、徐々に人間に寄っていくという流れだったが、もっと人間から出発して、それを上位の階層に持っていて抽象化して、またブーメランのように人間に近づけるべきだと語った。

 また、「これからのグッドデザインは何か」という司会からの問いに対して田川氏は、それには答えにくいが、一度出したら終わりというものづくりではない方向にこれからは向かうのではないかと答えた。世界全体は、ものを買わない方向にシフトしていきつつある。そのなかで、「これがこのプロダクトだ」といったときに、それが意味を成す時間幅が短くなりつつあると見ているという。これまでは固定した対象に対して善し悪しを論じていたが、これからは、ある時間軸上の断面がこのプロダクトといった定義になる。それをどうチューン、運用していくのかというプロセスや思想が重要になっていくのではないかと考えているという。

 猪子氏は「プリクラ」がすごく好きで、それは、誰が撮ってもカワイイ感じにできるからだと発言した。「ツールが用意されていて、ちょっと落書きできたりするでしょ。人って、自分が表現するほうが楽しいから。優秀な写真家が撮ったものを渡すより自分が撮って、それを渡すほうがテンションが上がる」。そして「これからは誰がとってもすごくいい写真になる、そういうものを設計するほうが重要な気がする」と語った。

 例えば、ポラロイド写真にマジックを渡されても、かわいいハートが誰でも描けるわけではない。でもプリクラではそれが簡単にできる。そこにも当然のことながらなにかしらデザインが入っていて、そういうものがすごくいいデザインだなと思うという。

●質疑応答 「日本」の「インタラクティブ・デザイン」とは
質問に答えるチームラボの猪子氏

 ここからWeb上での事前アンケートや、会場からの質疑応答となった。ここでも猪子氏はファミコン・スーパーマリオの「Bダッシュ」そのものの快感を語るなど異彩を放った。

 会場からの質疑では、「第一回インタラクティブデザイン研究会」ということで、会の趣旨や幹事の2人がどのようにインタラクティブ・デザインを捉えているか、その意義を問う質問が出た。渡邊恵太氏は、既に旧来のものづくりにおいては台湾や韓国などに日本が追いつかれている現状を鑑み、より付加価値の高いものを作るためには、感覚や感性をもっと積極的にものに落としていかなければならないのではないか、そのためにはコンセプトを絞り込む必要があるのではないか、そのための「インタラクションデザインと、『ものの定義力』という戦略が重用なのではないかと思っている」と語った。

 このほか、ソフトウェア屋がものづくりメーカーに就職できるのかといった問いのほか、「日本」にこだわる必要があるのかという質問があがった。これに対して渡邊恵太氏は「日本が好きで日本のものづくりが好きだから。現状、国際的な存在感が日本はないに等しい。日本にこだわる理由は、日本から世界に対して、世界の人を驚かせるような研究をしていきたいと思っているし、それを共有したいからだ」と語った。

 講演者たちのうち、増井氏はこだわりないと答えた。田川氏もこだわりはないと答えたが、日本で起業した理由について、会社の方向として「さわれるもの、機械系も残しておきたい」と考えた結果、「きちんとものを作れるアジアの中心である日本にいることはは大事なのではないか」と考えたと答えた。イギリス留学時代に、日本ならばすぐに作れるようなものを調達しようとしたときに、非常に苦労したこともその背景にはあったという。「まだまだ世界は均一ではなく、まだら模様に人は散らばっている」と見ているという。

 猪子氏は、「日本の産業が強くなることは、多くの日本人にとってむちゃくちゃ得なんですよ」と答えた。また、個人にとって母国語で働くことは社会の産業が強いほうがいいのではないかと述べた。フラット化していようが、日本の産業競争力が強いにこしたことはないという考えのようだった。

 このほか、講演した各人の考える「インタラクティブ・デザイン」の定義に対する質問も上がった。稲見氏は「おもてなしの設計。やりとりの設計。人とコンピュータ、機械の設計」だと答えた。田川氏は「人間とものが個別に存在しているのではなく一体の系をなしていて、あるフローがある。それが動いている状態全体を設計していくことをインタラクション・デザインと捉えている」と答えた。

 猪子氏は「これからはユーザーの参加のかたちがかわる。これまでは見ているだけ、せいぜいさわるくらいだったのが、動かせるようになる。参加レベルが急激に変わる。ニコニコ動画などのようにどっちがコンテンツを作っているのかわからないようなことも起こる。参加レベルが急激に変わることが良いインタラクションデザインなんじゃないか」と述べた。増井氏は、「トータルに気持ちいいものを作る考え方」だと答えた。

司会をつとめた幹事の2人。左が坂本氏、右が渡邊氏

 幹事2人のインタラクティブ・デザインについて、坂本氏はヒューマノイドのインタラクションデザインの設計をしていた経験から、「賢さ、巧みさがインタラクションをデザインすることだと思っている。そのときに相手がどうふるまうかということ、対話する人の心の中も想定して設計していくもの」だと述べた。

 渡邊氏は「インターフェイスデザイン自体は日本は得意で、機能をつめこみすぎている。『できる』というレベルでは日本も海外も同じか、あるいは日本のほうが優れている。インタラクションデザインという観点は、『いかに使ってもらうか』、いかに『するか』を考えた設計ではないか」と答えた。

 さらに会場では、インタラクションデザインが大事だということは分かったが、じゃあどうしたらいいのということが分からないといった意見や、ホワイトカラーのテンションを上げるにはどうすればいいかといった質疑が続いた。

 最後に幹事の渡邊氏は、猪子氏が盛んに使った「テンション」という言葉を受けて、「テンション、わくわく感が大事。今は『何の役に立つの』というよりも、テンションが上がるもののほうが採用される雰囲気になっている。インタラクションデザインはテンションを上げる。我々は『わくわくさせよう』という立場にならないと意味がない」と無理矢理気味に話をまとめた。次回の第2回インタラクションデザイン研究会は8月初旬、山中俊治×暦本純一という組み合わせで行なわれる。

 最後に、筆者個人が感じたことも付け加えておく。確かに「楽しいこと」、「わくわくすること」、「テンションが上がること」は大事である。だが一方、世の中には多くの社会問題がある。そもそもどういうものに対してテンションが上がるかと自分自身を内省すると、これまで考えつかなかった実世界の解決方法などが出て来たときに、大いにテンションが上がるように思う。テンションを上げるためにも、インタラクションデザインがもっと実世界の実問題に真摯に向き合うようになって欲しいと思う。

 「楽しい」だけがデザインが解決すべき問題ではない。また、まだまだこれから、ライフスタイルそのものも大きく変化するに違いない。そのような変化を率先して作って行くためにも、もっと実世界の問題にインタラクションデザイン側が飛び込んで行くことが必要なのではないか。「インタラクションデザインを日本の産業の中核にする」ことを目標として掲げるなら、なおさら、そのような泥臭い努力が必要なはずだ。そう思った。