買い物山脈
我慢できず1年前に買ったCore i7-6700KをRyzen 7 1800Xへ換装
~8コア16スレッドでのPremiere、Lightroomの実効速度はどう変わるのか!?
2017年3月27日 12:00
最近のライター仕事は多岐に渡っており、原稿を書くだけでなく、写真や動画を撮影したり、それを編集、書き出しすることも求められる。そのような仕事を迅速にこなすため、昨年(2016年)2月10日にメインマシンを「MacBook Pro」(15インチMid 2012)から、ツクモのゲーミングデスクトップPC「G-GEAR neo GX7J-A64/ZT」に乗り換えた。現在のワタシは完全なデスクトップPC派。もちろん外出時にはノートPCも活用しているが、自宅では基本的にデスクトップPCを使うことにしている。
PCを自作せずにツクモから完成品を購入した理由は、自作経験はあるが10年以上昔のことで最新情報に疎くなっていたことと、BTOモデルを買ったほうが結果的に安いだろうという判断からだ。
ワタシが注文した「G-GEAR neo GX7J-A64/ZT」は、Core i7-6700K/16GBメモリ/480GB SSD/2TB HDD/GeForce GTX 970という構成。のちにメモリを32GBに増設、2TB HDDを1基追加し、グラフィックボードをGeForce GTX 1080にアップグレードしたことにより、動画編集仕事だけでなく、3DゲームやVRコンテンツなども難なく動作させる性能を備えるに至り、まったく不満なく利用していた。
換装を決心した理由はそこにRyzen 7 1800Xがあるから
1万パーセント満足して使っていたマシンのCPUを換装することにした理由は……そこにRyzen 7 1800Xがあったからとしか言いようがない。クリエイティブ系アプリの作業効率向上、高性能3Dゲームでさらにリッチな体験など後付けの理由はいくらでも思いつく。しかし本当に正直なところ、手ごろな価格の8コア16スレッドCPUと聞いただけで辛抱たまらなくなり、気づいたらRyzen 7 1800Xに加え、下記のマザーボード、メモリ、CPUクーラーを一気に購入していた。手段のためには目的を選ばずの典型例と言えよう。
【表】今回購入した製品(価格はすべて購入価格) | ||
---|---|---|
CPU | AMD「Ryzen 7 1800X」 | 64,050円 |
マザーボード | ASUS「ROG CROSSHAIR VI HERO」 | 41,760円 |
メモリ | Corsair「CMK32GX4M2B3000C15」 | 27,325円 |
CPUクーラー | Noctua 「NH-U12S SE-AM4」 | 9,660円 |
合計金額 | 142,795円 |
PC Watch読者なら気づいた方も多いと思うが、これはAMDのレビュアー用評価キットとまったく同じ構成。出たばかりのCPUをメインマシンに入れるからには、相性問題などに悩まされたくない。多少高くついても実績ある組み合わせがよいと判断した次第だ。
蛇足だが今回Ryzen対応マザーボードを入手するのには非常に苦労した。当初は米国Amazonで「ROG CROSSHAIR VI HERO」を購入したのだが、一向に発送時期を知らせるメールが来なかった。在庫があるのを確認して購入したつもりだったが、購入確定時点で発送時期が未定になっていたのかもしれない。そこで米国Amazonの予約をキープしたままで、1時間に1回のペースで通販サイトの在庫状況を確認し、3月24日13時にヨドバシ.comで一瞬在庫が復活した際にすかさず購入した。
なお、ROG CROSSHAIR VI HEROは、予期せぬBIOSの自動更新やシステムが起動しない不具合のために一時出荷を停止していたようだ。ASUS Republic of Gamersの公式ツイッターアカウント「@ASUSROGJP」によれば、3月24日から最新BIOS(バージョン0902)適用済みの製品が販売店に出荷されているとのことだが、3月25日17時時点では価格.comに登録されている7店舗中6店舗で在庫がなかった。できるだけ早く在庫状況が改善されることを望みたい。
10年以上ぶりのPC自作だがスムーズに作業完了
前述のとおり、メモリ、ストレージ、グラフィックボードの増設や換装は昨年来行なってきたが、ケース、電源、光学ドライブなどを流用するとは言え、PCを自作するのは久しぶりだ。そこでちょっと大げさだが、メンテナンス性を重視していったん「PC検証台」にシステムを組み上げることにした。購入したのは玄人志向の「SEIGI-3GOU:元祖根性試し用まな板」。出費はさらに10,000円ほどかさむが、今後の仕事で活用できるだろう。
10年以上ぶりの組み立て作業は、PC検証台を用意したこともあって、思いのほかスムーズに進んだ。10年間で各パーツの高密度化が進んでいても、PCの基本的な構成は変わっていないので、考えてみれば当たり前の話だ。とは言え、以前自分がPCを自作した時よりもそれぞれのパーツが高価になっているので、取り付けには正直かなり緊張した。
ついにRyzen 7 1800X搭載マシン完成、早速ベンチだ
さて、Ryzen 7 1800X搭載マシンを組み上げて真っ先にやったのは、もちろんベンチマーク。しかし単体でベンチマークを実施しても意味がない。三門修太氏がすでにIntelの8コア16スレッドCPU「Core i7-5960X Extreme Edition」との詳細なベンチマーク比較検証記事を掲載しているので、ワタシはもともと使用していたCore i7-6700K搭載マシンと比較することにした。
ベンチマークは、Hothotレビューで筆者が実施している項目+αを採用。PremiereやLightroomなどのAdobe Creative Cloudアプリのテストを含んでいるので、これらを利用している方には生のデータとして参考になるはずだ。
使用したベンチマークプログラムは下記にリストアップした。
・総合ベンチマーク「PCMark 8 v2.7.613」
・総合ベンチマーク「PCMark 7 v1.4.0」
・3Dベンチマーク「3DMark v2.2.3509」
・CPU、CUDAのベンチマーク「Geekbench 4.0.3」
・CPUのベンチマーク「Geekbench 3.4.1」
・CPU、OpenGLのベンチマーク「CINEBENCH R15」
・ゲーミングPCベンチマーク「モンスターハンターフロンティアベンチマーク【大討伐】」
・ゲーミングPCベンチマーク「ドラゴンクエストX ベンチマークソフト」
・ゲーミングPCベンチマーク「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」
・ストレージベンチマーク「CrystalDiskMark 5.2.1」
・「TMPGEnc Video Mastering Works 6」AVCHD動画をH.264形式に変換
・「Adobe Photoshop Lightroom CC」RAW画像の現像時間を計測
・「Adobe Premiere Pro CC」フルHD動画の書き出し時間を計測
なお今回、三門修太氏の記事でも説明されていた、AMDのレビュアー用評価キットの推奨設定を行なった場合と行なっていない場合の両方の結果を掲載している。Ryzen 7 1800Xを購入した人が、必ずしもCPUやマザーボードの説明書に記載されていない推奨設定を知っているわけではないからだ。
AMDのレビュアー用評価キットの推奨設定
・BIOSの「Extreme Tweaker→Memory Freequency」を「DDR4-2666MHz」に設定
・BIOSの「Extreme Tweaker→DRAM Timing Control」を「16-16-16-16-36」に設定
・BIOSの「Extreme Tweaker→DRAM Voltage」を「1.30V」に設定
・Windowsの「設定→システム→電源とスリープ→電源の追加設定→お気に入りのプラン」を「高パフォーマンス」に設定
下記が検証機の仕様と、ベンチマークの結果となる。
【表1】検証機の仕様 | |||
---|---|---|---|
Ryzen 7 1800X(AMD推奨設定) | Ryzen 7 1800X | Core i7-6700K | |
CPU | Ryzen 7 1800X(3.60~4.00GHz) | Core i7-6700K(4.00~4.20GHz) | |
マザーボード | ASUS「ROG CROSSHAIR VI HERO」 | ASUS「Z170-A」 | |
グラフィックボード | ZOTAC「GeForce GTX 1080 Founders Edition ZT-P10800A-10P」(PCIe 8GB) | ||
メモリ | DDR4-3000 SDRAM 16GB CORSAIR「CMK16GX4M2B3000C15」×2 | DDR4-2133 SDRAM 8GB サムスン「M378A1G43DB0-CPB」×4 | |
ストレージ | サンディスク「SDSSDHII-480G-J26」 | ||
OS | Windows 10 Pro 64bit |
【表2】ベンチマーク結果 | |||
---|---|---|---|
PCMark 8 v2.7.613 | Ryzen 7 1800X(AMD推奨設定) | Ryzen 7 1800X | Core i7-6700K |
Home Accelarated 3.0 | 5053 | 4801 | 5317 |
Creative Accelarated 3.0 | 8500 | 7890 | 8475 |
Work 2.0 | 5292 | 5089 | 5709 |
PCMark 7 v1.4.0 | |||
PCMark score | 8076 | 7960 | 7225 |
3DMark v2.2.3509 | |||
Time Spy | 7168 | 7189 | 6774 |
Fire Strike Ultra | 5206 | 5241 | 5159 |
Fire Strike Extreme | 9857 | 9811 | 9612 |
Fire Strike | 17061 | 16698 | 17679 |
Sky Diver | 43213 | 40101 | 38341 |
Cloud Gate | 46122 | 43834 | 34777 |
Ice Storm Extreme | 176571 | 174908 | 199015 |
Ice Storm | 184496 | 180954 | 207622 |
CINEBENCH R15 | |||
OpenGL | 118.17 fps | 112.99 fps | 150.39 fps |
CPU | 1626 cb | 1601 cb | 928 cb |
Geekbench 4.0.3 | |||
32-bit Single-Core Score | 3706 | 3497 | 4653 |
32-bit Multi-Core Score | 20744 | 19580 | 16288 |
64-bit Single-Core Score | 4353 | 4163 | 5212 |
64-bit Multi-Core Score | 21450 | 20038 | 17058 |
CUDA | 201077 | 201180 | 205657 |
Geekbench 3.4.1 Intel(32-bit) | |||
Single-Core Score | 4010 | 3906 | 4271 |
Single-Core Score Integer | 4032 | 3968 | 4298 |
Single-Core Score Floating Point | 3935 | 4069 | 4206 |
Single-Core Score Memory | 4116 | 3457 | 4349 |
Multi-Core Score | 30723 | 29111 | 17042 |
Multi-Core Score Integer | 35593 | 33897 | 19073 |
Multi-Core Score Floating Point | 38667 | 36797 | 21139 |
Multi-Core Score Memory | 5096 | 4170 | 4788 |
Geekbench 3.4.1 Intel(64-bit) | |||
Single-Core Score | 4362 | 4220 | 4486 |
Single-Core Score Integer | 4484 | 4420 | 4624 |
Single-Core Score Floating Point | 4239 | 4284 | 4375 |
Single-Core Score Memory | 4367 | 3693 | 4435 |
Multi-Core Score | 31848 | 30897 | 17702 |
Multi-Core Score Integer | 36804 | 35204 | 20173 |
Multi-Core Score Floating Point | 40079 | 39736 | 21691 |
Multi-Core Score Memory | 5477 | 4515 | 4782 |
モンスターハンターフロンティアベンチマーク【大討伐】 | |||
1,280×720ドット | 93503 | 92915 | 83129 |
ドラゴンクエストX ベンチマークソフト | |||
1,280×720ドット | 18563 | 17370 | 21466 |
ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク | |||
1,280×720ドット | 17147 | 15670 | 23636 |
SSDをCrystalDiskMark 5.2.1で計測 | |||
Q32T1 シーケンシャルリード | 545.858 MB/s | 541.822 MB/s | 538.661 MB/s |
Q32T1 シーケンシャルライト | 503.176 MB/s | 502.202 MB/s | 498.519 MB/s |
4K Q32TI ランダムリード | 329.907 MB/s | 306.820 MB/s | 393.703 MB/s |
4K Q32TI ランダムライト | 283.176 MB/s | 271.185 MB/s | 312.311 MB/s |
シーケンシャルリード | 543.403 MB/s | 532.536 MB/s | 500.173 MB/s |
シーケンシャルライト | 493.041 MB/s | 486.558 MB/s | 466.823 MB/s |
4K ランダムリード | 36.618 MB/s | 33.412 MB/s | 32.249 MB/s |
4K ランダムライト | 102.776 MB/s | 99.871 MB/s | 131.666 MB/s |
「TMPGEnc Video Mastering Works 6」AVCHD動画をH.264形式に変換 | |||
1,920×1,080ドット、30fps | 1分4秒00 | 1分6秒94 | 1分39秒69 |
「Adobe Photoshop Lightroom CC」で50枚のRAW画像を現像 | |||
4,912☓3,264ドット、自動階調 | 1分5秒47 | 1分11秒04 | 1分13秒25 |
「Adobe Premiere Pro CC」で実時間5分のフルHD動画を書き出し | |||
1,920×1,080ドット、30fps | 2分50秒35 | 3分0秒39 | 2分52秒97 |
さて、Hothotレビューとは違い、自腹で合計142,795円を費やした筆者としては正直かなり複雑な結果だ。Core i7-6700K搭載マシンと比べて抜群の性能を発揮したのはCINEBENCH R15やGeekbench 3、Geekbench 4など、CPU自体の性能を計測するベンチマークテスト。用途別のPCトータルな性能を測るPCMark 8や、グラフィックボードの性能が結果を大きく左右する3DMarkでは、Ryzen 7 1800X搭載マシンとCore i7-6700K搭載マシンで大きな差は見られなかった。
肝心のLightroomではCore i7-6700Kの1分13秒25に対してRyzen 7 1800Xが1分5秒47と7.78秒の差をつけたが、Premiereは誤差範囲のレベルだ。衝動的に購入したとは言えかなり期待していただけに残念な結果だ。
しかし、Core i7-6700Kの1分39秒69に対して、Ryzen 7 1800Xが1分4秒00と35.69秒もの差をつけたTMPGEncの結果は注目に値する。アプリの作りによっては、Ryzen 7 1800Xの地力が明確に現われるなによりもの証拠だ。
安定性についても言及しておこう。AMDのレビュアー用評価キットと同じ組み合わせだけに、今回のベンチマークテスト中にブルースクリーンが表示されるようなことはなかったが、Geekbench 4の計測中に異常終了することが数回あった。また、Adobe Creative Cloudの常駐プログラム「CreativeCloud(32ビット)」のCPU使用率が6%前後のまま低下しないという症状が筆者の環境では発生している。
もちろんこの2つはアプリ側に起因する問題である可能性はある。しかし、Core i7-6700K環境ではそのような問題はこれまで発生していなかっただけに、現時点でのRyzen 7 1800X環境に不安定さを感じたのは正直なところだ。
Ryzen 7 1800Xの真の力が目覚めるのを刮目して待ちたい!
Core i7-6700KからRyzen 7 1800Xへの換装は、費用対効果としては眩暈を覚えるような結果だ。しかし私は今回の自腹購入をまったく後悔していない。発売されたばかりのCPUとマザーボードをメインマシンで使うことに一抹の不安は感じるものの、Ryzen 7 1800XがCINEBENCH R15やGeekbenchで見せた8コア16スレッドならではの性能は圧巻だ。特にCINEBENCH R15のCPUテストで16マスごとに一気に描かれていく様子は見るだけでニヤニヤが止まらない。PC起動時に毎回鑑賞したいぐらいだ。
Ryzen 7 1800Xの性能は、今後さまざまなアプリが最適化されていくことで解放されていくだろう。その真の力が目覚めていくのを体感できるのはなかなか得られない体験だ。現状でもこれまで不満を感じていなかった性能で利用できるのだから、最適化による飛躍的な性能向上をゆっくり待つのも悪くない。半年後、1年後にRyzen 7 1800Xへの換装が抜群のコストパフォーマンスとなっている未来を、楽しみに待ちたいと思う。