買い物山脈

我慢できず1年前に買ったCore i7-6700KをRyzen 7 1800Xへ換装

~8コア16スレッドでのPremiere、Lightroomの実効速度はどう変わるのか!?

製品名 Ryzen 7 1800X
購入価格
64,050円(全パーツ含むと142,795円)
購入時期
2017年3月16日~
使用期間
4日間
「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです

 最近のライター仕事は多岐に渡っており、原稿を書くだけでなく、写真や動画を撮影したり、それを編集、書き出しすることも求められる。そのような仕事を迅速にこなすため、昨年(2016年)2月10日にメインマシンを「MacBook Pro」(15インチMid 2012)から、ツクモのゲーミングデスクトップPC「G-GEAR neo GX7J-A64/ZT」に乗り換えた。現在のワタシは完全なデスクトップPC派。もちろん外出時にはノートPCも活用しているが、自宅では基本的にデスクトップPCを使うことにしている。

 PCを自作せずにツクモから完成品を購入した理由は、自作経験はあるが10年以上昔のことで最新情報に疎くなっていたことと、BTOモデルを買ったほうが結果的に安いだろうという判断からだ。

ツクモ「G-GEAR neo GX7J-A64/ZT」。税込み212,022円で購入。左側面のカバーはのぞき窓があるタイプに交換している
ツクモのBTOモデルはケーブルマネージメントが非常に丁寧。要所要所タイラップでケーブルを固定し、コネクター脱落を防止するテープまで貼られていた。なお、この写真では、パーツの換装に伴い、筆者がケーブルの配線に多少手を加えている

 ワタシが注文した「G-GEAR neo GX7J-A64/ZT」は、Core i7-6700K/16GBメモリ/480GB SSD/2TB HDD/GeForce GTX 970という構成。のちにメモリを32GBに増設、2TB HDDを1基追加し、グラフィックボードをGeForce GTX 1080にアップグレードしたことにより、動画編集仕事だけでなく、3DゲームやVRコンテンツなども難なく動作させる性能を備えるに至り、まったく不満なく利用していた。

換装を決心した理由はそこにRyzen 7 1800Xがあるから

 1万パーセント満足して使っていたマシンのCPUを換装することにした理由は……そこにRyzen 7 1800Xがあったからとしか言いようがない。クリエイティブ系アプリの作業効率向上、高性能3Dゲームでさらにリッチな体験など後付けの理由はいくらでも思いつく。しかし本当に正直なところ、手ごろな価格の8コア16スレッドCPUと聞いただけで辛抱たまらなくなり、気づいたらRyzen 7 1800Xに加え、下記のマザーボード、メモリ、CPUクーラーを一気に購入していた。手段のためには目的を選ばずの典型例と言えよう。

【表】今回購入した製品(価格はすべて購入価格)
CPUAMD「Ryzen 7 1800X」64,050円
マザーボードASUS「ROG CROSSHAIR VI HERO」41,760円
メモリCorsair「CMK32GX4M2B3000C15」27,325円
CPUクーラーNoctua 「NH-U12S SE-AM4」9,660円
合計金額142,795円

 PC Watch読者なら気づいた方も多いと思うが、これはAMDのレビュアー用評価キットとまったく同じ構成。出たばかりのCPUをメインマシンに入れるからには、相性問題などに悩まされたくない。多少高くついても実績ある組み合わせがよいと判断した次第だ。

 蛇足だが今回Ryzen対応マザーボードを入手するのには非常に苦労した。当初は米国Amazonで「ROG CROSSHAIR VI HERO」を購入したのだが、一向に発送時期を知らせるメールが来なかった。在庫があるのを確認して購入したつもりだったが、購入確定時点で発送時期が未定になっていたのかもしれない。そこで米国Amazonの予約をキープしたままで、1時間に1回のペースで通販サイトの在庫状況を確認し、3月24日13時にヨドバシ.comで一瞬在庫が復活した際にすかさず購入した。

 なお、ROG CROSSHAIR VI HEROは、予期せぬBIOSの自動更新やシステムが起動しない不具合のために一時出荷を停止していたようだ。ASUS Republic of Gamersの公式ツイッターアカウント「@ASUSROGJP」によれば、3月24日から最新BIOS(バージョン0902)適用済みの製品が販売店に出荷されているとのことだが、3月25日17時時点では価格.comに登録されている7店舗中6店舗で在庫がなかった。できるだけ早く在庫状況が改善されることを望みたい。

左上から「ROG CROSSHAIR VI HERO」、「NH-U12S SE-AM4」、「CMK32GX4M2B3000C15」、「Ryzen 7 1800X」。マザーボード入手に非常に苦労したため、すべてのパーツが揃うのに9日間を要した

10年以上ぶりのPC自作だがスムーズに作業完了

 前述のとおり、メモリ、ストレージ、グラフィックボードの増設や換装は昨年来行なってきたが、ケース、電源、光学ドライブなどを流用するとは言え、PCを自作するのは久しぶりだ。そこでちょっと大げさだが、メンテナンス性を重視していったん「PC検証台」にシステムを組み上げることにした。購入したのは玄人志向の「SEIGI-3GOU:元祖根性試し用まな板」。出費はさらに10,000円ほどかさむが、今後の仕事で活用できるだろう。

玄人志向「SEIGI-3GOU:元祖根性試し用まな板」。実売価格10,000円前後。見た目を重視して、青の保護フィルムはあえて剝がしていない

 10年以上ぶりの組み立て作業は、PC検証台を用意したこともあって、思いのほかスムーズに進んだ。10年間で各パーツの高密度化が進んでいても、PCの基本的な構成は変わっていないので、考えてみれば当たり前の話だ。とは言え、以前自分がPCを自作した時よりもそれぞれのパーツが高価になっているので、取り付けには正直かなり緊張した。

何度CPUを持ってみても、そのたびに緊張してしまう筆者。1~2年置きのCPUグリス塗り替えのことはあまり考えたくない
慎重にRyzen 7 1800Xを装着。CPUクーラー用の固定器具は事前に取り付けておいた
CPUグリスは米粒3つぶん派。一度盛大にはみ出した経験から、足りないぐらいから塗り始めて、どうしても不足したときにちょと足すようにしている
CPUクーラーを載せるところまでが筆者的緊張ポイント。この山場を越えてしまえば、あとは気楽に作業できる
組み立てに要した時間は30~40分程度。最低限の構成で組み上げられるぶん、やはりPC検証台はラクだ。購入して正解だった
ちょっと予想外だったのはゲーミングPC用マザーボードのド派手さ。あまりにムーディーさにこのまま常用したくなったほどだ

ついにRyzen 7 1800X搭載マシン完成、早速ベンチだ

 さて、Ryzen 7 1800X搭載マシンを組み上げて真っ先にやったのは、もちろんベンチマーク。しかし単体でベンチマークを実施しても意味がない。三門修太氏がすでにIntelの8コア16スレッドCPU「Core i7-5960X Extreme Edition」との詳細なベンチマーク比較検証記事を掲載しているので、ワタシはもともと使用していたCore i7-6700K搭載マシンと比較することにした。

 ベンチマークは、Hothotレビューで筆者が実施している項目+αを採用。PremiereやLightroomなどのAdobe Creative Cloudアプリのテストを含んでいるので、これらを利用している方には生のデータとして参考になるはずだ。

 使用したベンチマークプログラムは下記にリストアップした。

・総合ベンチマーク「PCMark 8 v2.7.613」
・総合ベンチマーク「PCMark 7 v1.4.0」
・3Dベンチマーク「3DMark v2.2.3509」
・CPU、CUDAのベンチマーク「Geekbench 4.0.3」
・CPUのベンチマーク「Geekbench 3.4.1」
・CPU、OpenGLのベンチマーク「CINEBENCH R15」
・ゲーミングPCベンチマーク「モンスターハンターフロンティアベンチマーク【大討伐】」
・ゲーミングPCベンチマーク「ドラゴンクエストX ベンチマークソフト」
・ゲーミングPCベンチマーク「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク」
・ストレージベンチマーク「CrystalDiskMark 5.2.1」
・「TMPGEnc Video Mastering Works 6」AVCHD動画をH.264形式に変換
・「Adobe Photoshop Lightroom CC」RAW画像の現像時間を計測
・「Adobe Premiere Pro CC」フルHD動画の書き出し時間を計測

 なお今回、三門修太氏の記事でも説明されていた、AMDのレビュアー用評価キットの推奨設定を行なった場合と行なっていない場合の両方の結果を掲載している。Ryzen 7 1800Xを購入した人が、必ずしもCPUやマザーボードの説明書に記載されていない推奨設定を知っているわけではないからだ。

AMDのレビュアー用評価キットの推奨設定

・BIOSの「Extreme Tweaker→Memory Freequency」を「DDR4-2666MHz」に設定
・BIOSの「Extreme Tweaker→DRAM Timing Control」を「16-16-16-16-36」に設定
・BIOSの「Extreme Tweaker→DRAM Voltage」を「1.30V」に設定
・Windowsの「設定→システム→電源とスリープ→電源の追加設定→お気に入りのプラン」を「高パフォーマンス」に設定

 下記が検証機の仕様と、ベンチマークの結果となる。

【表1】検証機の仕様
Ryzen 7 1800X(AMD推奨設定)Ryzen 7 1800XCore i7-6700K
CPURyzen 7 1800X(3.60~4.00GHz)Core i7-6700K(4.00~4.20GHz)
マザーボードASUS「ROG CROSSHAIR VI HERO」ASUS「Z170-A」
グラフィックボードZOTAC「GeForce GTX 1080 Founders Edition ZT-P10800A-10P」(PCIe 8GB)
メモリDDR4-3000 SDRAM 16GB CORSAIR「CMK16GX4M2B3000C15」×2DDR4-2133 SDRAM 8GB サムスン「M378A1G43DB0-CPB」×4
ストレージサンディスク「SDSSDHII-480G-J26」
OSWindows 10 Pro 64bit
【表2】ベンチマーク結果
PCMark 8 v2.7.613Ryzen 7 1800X(AMD推奨設定)Ryzen 7 1800XCore i7-6700K
Home Accelarated 3.0505348015317
Creative Accelarated 3.0850078908475
Work 2.0529250895709
PCMark 7 v1.4.0
PCMark score807679607225
3DMark v2.2.3509
Time Spy716871896774
Fire Strike Ultra520652415159
Fire Strike Extreme985798119612
Fire Strike170611669817679
Sky Diver432134010138341
Cloud Gate461224383434777
Ice Storm Extreme176571174908199015
Ice Storm184496180954207622
CINEBENCH R15
OpenGL118.17 fps112.99 fps150.39 fps
CPU1626 cb1601 cb928 cb
Geekbench 4.0.3
32-bit Single-Core Score370634974653
32-bit Multi-Core Score207441958016288
64-bit Single-Core Score435341635212
64-bit Multi-Core Score214502003817058
CUDA201077201180205657
Geekbench 3.4.1 Intel(32-bit)
Single-Core Score401039064271
Single-Core Score Integer403239684298
Single-Core Score Floating Point393540694206
Single-Core Score Memory411634574349
Multi-Core Score307232911117042
Multi-Core Score Integer355933389719073
Multi-Core Score Floating Point386673679721139
Multi-Core Score Memory509641704788
Geekbench 3.4.1 Intel(64-bit)
Single-Core Score436242204486
Single-Core Score Integer448444204624
Single-Core Score Floating Point423942844375
Single-Core Score Memory436736934435
Multi-Core Score318483089717702
Multi-Core Score Integer368043520420173
Multi-Core Score Floating Point400793973621691
Multi-Core Score Memory547745154782
モンスターハンターフロンティアベンチマーク【大討伐】
1,280×720ドット935039291583129
ドラゴンクエストX ベンチマークソフト
1,280×720ドット185631737021466
ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド ベンチマーク
1,280×720ドット171471567023636
SSDをCrystalDiskMark 5.2.1で計測
Q32T1 シーケンシャルリード545.858 MB/s541.822 MB/s538.661 MB/s
Q32T1 シーケンシャルライト503.176 MB/s502.202 MB/s498.519 MB/s
4K Q32TI ランダムリード329.907 MB/s306.820 MB/s393.703 MB/s
4K Q32TI ランダムライト283.176 MB/s271.185 MB/s312.311 MB/s
シーケンシャルリード543.403 MB/s532.536 MB/s500.173 MB/s
シーケンシャルライト493.041 MB/s486.558 MB/s466.823 MB/s
4K ランダムリード36.618 MB/s33.412 MB/s32.249 MB/s
4K ランダムライト102.776 MB/s99.871 MB/s131.666 MB/s
「TMPGEnc Video Mastering Works 6」AVCHD動画をH.264形式に変換
1,920×1,080ドット、30fps1分4秒001分6秒941分39秒69
「Adobe Photoshop Lightroom CC」で50枚のRAW画像を現像
4,912☓3,264ドット、自動階調1分5秒471分11秒041分13秒25
「Adobe Premiere Pro CC」で実時間5分のフルHD動画を書き出し
1,920×1,080ドット、30fps2分50秒353分0秒392分52秒97

 さて、Hothotレビューとは違い、自腹で合計142,795円を費やした筆者としては正直かなり複雑な結果だ。Core i7-6700K搭載マシンと比べて抜群の性能を発揮したのはCINEBENCH R15やGeekbench 3、Geekbench 4など、CPU自体の性能を計測するベンチマークテスト。用途別のPCトータルな性能を測るPCMark 8や、グラフィックボードの性能が結果を大きく左右する3DMarkでは、Ryzen 7 1800X搭載マシンとCore i7-6700K搭載マシンで大きな差は見られなかった。

 肝心のLightroomではCore i7-6700Kの1分13秒25に対してRyzen 7 1800Xが1分5秒47と7.78秒の差をつけたが、Premiereは誤差範囲のレベルだ。衝動的に購入したとは言えかなり期待していただけに残念な結果だ。

 しかし、Core i7-6700Kの1分39秒69に対して、Ryzen 7 1800Xが1分4秒00と35.69秒もの差をつけたTMPGEncの結果は注目に値する。アプリの作りによっては、Ryzen 7 1800Xの地力が明確に現われるなによりもの証拠だ。

 安定性についても言及しておこう。AMDのレビュアー用評価キットと同じ組み合わせだけに、今回のベンチマークテスト中にブルースクリーンが表示されるようなことはなかったが、Geekbench 4の計測中に異常終了することが数回あった。また、Adobe Creative Cloudの常駐プログラム「CreativeCloud(32ビット)」のCPU使用率が6%前後のまま低下しないという症状が筆者の環境では発生している。

 もちろんこの2つはアプリ側に起因する問題である可能性はある。しかし、Core i7-6700K環境ではそのような問題はこれまで発生していなかっただけに、現時点でのRyzen 7 1800X環境に不安定さを感じたのは正直なところだ。

Geekbench 4の32bitアーキテクチャでのCPUベンチマークでこのようにエラーが発生している
Adobe Creative Cloudを再インストールしてもCPU占有率は変わらなかった。そのためベンチマークは「CreativeCloud(32ビット)」を手動で終了してから実行している
エアフローなどの条件も公平を期すため、Core i7-6700Kのベンチマークも検証台上で実施した

Ryzen 7 1800Xの真の力が目覚めるのを刮目して待ちたい!

 Core i7-6700KからRyzen 7 1800Xへの換装は、費用対効果としては眩暈を覚えるような結果だ。しかし私は今回の自腹購入をまったく後悔していない。発売されたばかりのCPUとマザーボードをメインマシンで使うことに一抹の不安は感じるものの、Ryzen 7 1800XがCINEBENCH R15やGeekbenchで見せた8コア16スレッドならではの性能は圧巻だ。特にCINEBENCH R15のCPUテストで16マスごとに一気に描かれていく様子は見るだけでニヤニヤが止まらない。PC起動時に毎回鑑賞したいぐらいだ。

 Ryzen 7 1800Xの性能は、今後さまざまなアプリが最適化されていくことで解放されていくだろう。その真の力が目覚めていくのを体感できるのはなかなか得られない体験だ。現状でもこれまで不満を感じていなかった性能で利用できるのだから、最適化による飛躍的な性能向上をゆっくり待つのも悪くない。半年後、1年後にRyzen 7 1800Xへの換装が抜群のコストパフォーマンスとなっている未来を、楽しみに待ちたいと思う。

Ryzen 7 1800X購入者にとってCINEBENCH R15のCPUテストは最高のエンターテイメント。ついつい意味もなく回してしまう