■後藤弘茂のWeekly海外ニュース■
IntelのノートPC向けCPUロードマップは、2009年後半がクリアとなりつつある。Nehalem(ネハーレン)アーキテクチャの、ノートPC向けクアッドコアCPU「Clarksfield(クラークスフィールド)」は、ブランドが「Core i7」になることがアナウンスされた。デスクトップのBloomfield(ブルームフィールド)とブランドは同じになる。ややこしいことに、Clarksfieldと同ダイ(半導体本体)と見られるデスクトップCPU「Lynnfield(リンフィールド)」は、Core i5とCore i7の2つのブランドにまたがって提供される。こうなると、数字の方にはあまり注意を払わなくていいかもしれない。いずれにせよ、実体はCPUダイであり、本質的に重要なのはその機能であり、ブランドやコードネームはマーケティング上の都合で付けられているに過ぎない。
デスクトップCPUでは、32nmプロセス世代の「Westmere(ウエストミア)」アーキテクチャの6コアCPU「Gulftown(ガルフタウン)」が、来年(2010年)第2四半期に登場する。しかし、ノートPC向けにはGulftownの姿はない。Intelは、現状では32nmのクアッドコアの計画を持っていないため、2011年に「Sandy Bridge(サンディブリッジ)」が登場するまでは、45nmのClarksfieldがノートPC向けCPUの上位SKU(Stock Keeping Unit=アイテム)を占めると予想される。
Core i7となるClarksfieldは、デスクトップ版のNehalem系CPUと同様に、ベース周波数とターボ周波数が規定されている。ノートPC向けのCore i7 Clarksfieldで目立つのは、このベース周波数が非常に低いことだ。
Clarksfieldは3つの製品SKUで提供される。このうち最上位のエクストリームクラスのSKUで、ベース周波数はようやく2GHz。その下の、モバイル版Core 2 Quad後継となる2つのSKUは、それぞれベース周波数が1.73GHzと1.6GHzとなっている。つまり、Penryn(ペンリン)アーキテクチャのクアッドコアの周波数と較べると、ベースの周波数では2割程度下がる。
Intelはこのベース周波数でもNehalem系に性能ベネフィットがあるとしているが、デスクトップCPUでは同じクアッドコアのCore 2 QuadとCore i7の間でベース周波数もほぼ同レベルに揃えられているため、ノートPCでの差は目立つ。また、ノートPC向けCore 2系デュアルコアとの比較では、Core 2 Duoの最上位SKUが3.06GHzとなるため差はさらに大きくなる。
その差を埋めるためか、Clarksfieldではターボ周波数が非常に高い。最上位SKUでは2GHzのベース周波数に対して3.2GHzのターボ周波数。つまり、1CPUコアだけがアクティブで、3CPUコアがSLEEP状態にあるようなターボモード時には最高3.2GHzになる。60%の周波数アップだ。同じく、1.73GHzに対して3.06GHz、1.6GHzに対して2.8GHzのベース-ターボ周波数の構成となっている。
IntelのモバイルCPUロードマップ |
モバイルCPUの比較 |
デスクトップCPUの比較 |
●TDPロードマップで見えてくるクアッドコアの浸透
ノートPC向けCore i7 Clarksfieldでもう1点目立つのはDDR3-1333サポートになったこと。Calpellaプラットフォームでは、ノートPCにもDDR3-1333が入り始める。増えるCPUコアのパフォーマンスに比例したメモリ帯域を確保するためだと考えられる。
モバイルCPUのTDP |
TDPロードマップでは、TDPの設定基準がNehalem世代から変わる。CPU側にノースブリッジ(MCH/GMCH)機能が統合され、ノースブリッジチップがなくなるためだ。今までの3チップソリューション(CPU+ノースブリッジ+サウスブリッジ)から、2チップソリューション(CPU+PCH)になる。そのため、チップ間での電力消費の配分が変わるという考え方だ。
具体的には、Intelはノースブリッジ機能の統合の分、10W程度までCPUの消費電力が上がると計算する。通常電圧版などのSKUでは、CPUのTDPの枠をノースブリッジの分である10W増やすと見られる。
ノートPC向けデュアルコアNehalemでCore i3ブランドになると見られる「Arrandale(アランデール)」も同様で、GMCHのダイをCPUパッケージに取り込んでいる分、CPUパッケージのTDPが上がる。こちらも10W程度だと見られている。Arrandaleの低電圧版と超低電圧版も同様だと考えられるが、どの程度TDPが上がるかは、まだわかっていない。そのため、このTDPロードマップは暫定版のものだ。CPUロードマップの方でもTDPの枠の部分では、従来のCPUのTDPの他に、カッコ内にNehalem世代のTDPを示してある。
こうした視点からTDPロードマップを見ると、TDP 35Wの従来のデュアルコア「Core 2 Duo T9xxx」のレンジを引き継ぐのが、TDP 45W版のClarksfieldであることがよくわかる。TDP 55Wの最上位のClarksfieldは、TDP 45WのクアッドコアCore 2 ExtremeとCore 2 QuadのTDPレンジを引き継ぐ。しかし、TDP 45Wの方のClarksfieldは、TDPレンジ的にはデュアルコアCore 2 Duo T9xxxを引き継ぐ。
この変化は、CPUロードマップ上ではわかりにくいが、TDPロードマップで見ると明瞭だ。Nehalem世代の位置づけとしては、クアッドコアが従来の高TDPデュアルコアの位置に入ってくる。このことは、CPUの価格戦略を見ると明瞭だ。Clarksfield 1.73-3.06GHzは500ドル台で、これはCore 2 Duo T9800/9900の価格レンジと同じ。Clarksfield 1.6-2.8GHzは300ドル台で、これはCore 2 Duo T9550/9600の価格レンジと同じ。つまり、TDPと価格では、Clarksfieldはデュアルコアの位置に来る。Core 2 Duo T9000系を載せていたノートPCファミリが、Clarksfieldを載せる形で移行することも予想される。クアッドコアノートPCが、これまでより、ややポピュラーになる。逆を言えば、そのためにTDP枠を低くして、ベース周波数を落とさざるをえなかったと言える。
ClarkdaleとArrandale |
●2チップソリューションになるPineviewとLincroft
モバイル版CPUロードマップのボトムには、ネットブック向けのAtom Nファミリがある。デスクトップ同様に、Atom Nも2009年第4四半期からシステム統合型の「Pineview-M(パインビューM)」に移り始める。Pineviewでは、Arrandaleとは異なり、ノースブリッジ(GMCH)の機能が完全にCPUダイの上に統合される。
モバイルデバイスという意味では、Atom Z(Silverthorne:シルバーソーン)系がこの下に来る。Silverthorneのメインターゲットは、通常のノートPCより小さなフォームファクタだが、VAIO type Pのようなフォームファクタもあり、定義は曖昧になりつつある。この系統では「Moorestown(ムーアズタウン)」がオントラックで走っている。下の図が、MoorestownのCPUである「Lincroft(リンクロフト)」のダイだ。
Lincroftのダイ |
Lincroftのダイを見ると、ネットブック向けのPineview-Mのダイも想像がつく。LincroftのCPUコア自体は、レイアウトに至るまでSilverthorneのCPUコアと同じだ。各ブロックの大きさや配置が共通している。ちなみに、Intelは内部的には、このCPUコアのアーキテクチャを「Bonnell(ボンネル)」と呼んでいるらしい。Bonnellは、Atom開発チームがあるテキサス州オースティンの市街近郊にある、風光明媚な山と公園の名前だ。下は、オースティンのMount Bonnell Park近辺からの写真だ。Bonnellコアをそのまま入れ込み、ノースブリッジ(GMCH)機能を統合したのがLincroftだ。
オースティンのMount Bonnell Park近辺からの写真 |
おそらく、Pineviewも同じ構造をしていると推定される。ただし、今回、Intelは携帯デバイス向けのLincroftと、ネットブック/ネットトップ向けのPineviewを別ダイとして開発している。現行のAtomでは、ダイ自体はネットブック/ネットトップ向けのDiamondvilleとSilverthorneで変わりはない。しかし、次の世代からは分化して行く。
Pineviewが別ダイになるのは、グラフィックスコアなど統合する機能に違いがあるからだ。COMPUTEXで公開されたパッケージを見ると、PC市場をターゲットとしたPineviewの方がややダイが大きいように見える。パッケージからの計算ではLincroftより3割ほど大きいが、これはまだ正確かどうか確認できていない。
Atomプラットフォームの推移 |