山口真弘の電子辞書最前線

キヤノン「wordtank S500」
ストレート端末型のカラー液晶モデル



wordtank S500

発売中

価格:26,250円



 キヤノンの電子辞書「wordtank S500」は、電子辞書としては珍しいストレート端末型の筐体を採用し、スーツの胸ポケットなどに収納できるカラー液晶採用の電子辞書だ。重量は約114gと電卓並み。キヤノンは本製品について「カラー液晶パネルを搭載した国内のIC型電子辞書として業界最軽量」としている。

 搭載コンテンツの中心となるのは広辞苑第六版。広辞苑は周知の通り、電子辞書における国語系コンテンツとして根強い人気を持つ。同じ国語系コンテンツでのライバルとなる大辞林が口語調の例文を多く採用しているのに対し、広辞苑のそれはやや堅苦しい場合も見受けられるが、いまメインストリームにある電子辞書のほとんどが広辞苑を搭載しており、多くのユーザーが広辞苑の有無を電子辞書を選ぶ際の基準にしているのは紛れもない事実だ。

 本製品は、広辞苑の最新版である第六版を中心に5つのコンテンツを搭載している。広辞苑を搭載した小型電子辞書としてはセイコーインスツルの「SR610」などポケットタイプの製品も存在するが、本製品はカラー液晶を採用することにより、図版の表示にも対応していることが大きな特徴といえる。

 なお、S500の希望小売価格は、26,250円だが、今回は9,980円で購入できた。ほとんどの店頭で1万円以下で販売されているようなので、この製品を評価する際は、希望小売価格ではなく実売価格で考えた方がよいだろう。

●電卓サイズのストレート端末。キーは五十音配列

 まずは外観と基本スペックをおさらいする。

 前述の通り本製品はストレートタイプの筐体を採用しており、上部に液晶画面、下部にキーボードがレイアウトされている。見た目は関数電卓に近いイメージだ。筐体表面は俗にシャンパンゴールドと呼ばれる上品な塗装が施されており、安っぽさは感じない。

 本体サイズは75×140×16.3mm(幅×奥行き×高さ)。胸ポケットに収まる幅だが、全長はそこそこあるため、頭の部分が少し飛び出てしまう。また幅もそこそこ大きいので、後述するように片手でのタイピングは厳しい。ストレート端末型ということでケータイのような片手打ちを思い浮かべる向きがあるかもしれないが、実際には片手でホールドし、もう片手でキーを押すという使い方になるはずだ。

電卓に似たパッケージデザイン製品本体。電子辞書としては珍しいストレートタイプCD-Rとのサイズ比較。幅はそこそこある

 キーボードは五十音配列で、QWERTY配列に慣れている場合はやや戸惑うが、本製品のターゲットとなる層にはマッチしているかもしれない。キーピッチは約7mmと、親指で押した際に隣のキーをぎりぎり押してしまわないサイズだ。これについてものちほど詳しく述べる。

キーボードは五十音順。アルファベットを入力する際は、五十音キーの左上に印字されたアルファベットをもとに打鍵を行なう。また数字入力は「あいう」「かきくけ」「さしす」の各キーを用いるファンクションキーは4×2段にわたって配置されている。キーがそこそこ立体的でシルク印字部分が影になってしまうこともあり、あまり見やすいとは言えない

 液晶は2.4型カラー。ケータイの画面を横向きに90度回転させたサイズだと考えればよい。解像度は320×240ドットと、画面サイズのわりに高精細であることから、文字の視認性は高い。液晶はグレアタイプであるため、外光の映り込みはやや気になる。

 文字サイズは16/24/48ドットの3段階で可変する。画面サイズが小さいこともあり、文字サイズはやや大きい側に偏っているように感じる。ドット数の制限もあるだろうが、視認性を確保しつつ画面になるべく多くの情報を表示したい場合など、もうすこし選択肢があってもいいように感じる。

液晶は一段くぼんでおり、持ち運び時にキズがつくのを防いでくれる。消灯時にはホコリや指紋がやや目立ちやすい画面に角度がついているわけではないので、机に置いたままでは画面がやや見づらい裏面はゴム足などはないため、硬い机の上に置いた場合、かなり滑りやすい
文字サイズは3段階で可変する。最小サイズは線がやや細く感じる

 昨今の電子辞書の多くに搭載されている、音声出力などマルチメディア系の機能やUSBコネクタ、カードスロットなどは搭載しない。また、スタイラスによるタッチ操作などにも対応しない。

 電源は単4電池×2本で、使用時間は約80時間。画面が小さいとはいえ、カラー液晶としては長い部類に入るだろう。

胸ポケットに収納できるが、頭の部分がやや出っ張ってしまう単4電池×2で駆動する

●コンテンツ数は5。広辞苑第六版がメイン

 続いてメニューとコンテンツについて見ていこう。

 コンテンツ数は5。広辞苑第六版に加え、百科事典のマイペディア、さらに学研の3つの辞典(漢字/英和/和英)が搭載されている。もっとも、総収録語彙数の約58%は広辞苑のものなので、位置づけとしては広辞苑が「主」、残るコンテンツは「従」ということになる。ただし実際に使った限りでは、「従」のコンテンツについてもちょっとした英単語の意味を調べる際など、広辞苑単体ではカバーできない分野をうまくフォローできていると感じる。

 カラー液晶を搭載しているため、図版についてもカラー表示が行なえる。搭載されている図版の数は約4,400点。これはシャープのカラー電子辞書「PW-AC900」と同じ数だ。

広辞苑の検索画面。逆引きにも対応する広辞苑はカラー図版4,400点を収録

 メニューは、デザインこそタブ型ではないものの、国語、英語、百科といったカテゴリを左右キーで切り替え、上下キーでコンテンツを選択するという、一般的な電子辞書と同じ操作方法を採用している。ただし搭載コンテンツ数の少なさを考えると、わざわざカテゴリを切り替えてメニューを選ばせる必要性はあまり感じない(実際、英語カテゴリで2つのコンテンツが並ぶ以外は、どのカテゴリもコンテンツは1つしかない)。将来的にさらに多くのコンテンツを搭載するためにこのような設計をしているのかもしれないが、現状では1つの画面で済ませたほうがよかったのではないかと思う。

メニュー画面はカテゴリごとに分割されているが、全部で5つしかコンテンツがないため、そのぶん切り替えの手間がかかってしまう

 一般的な電子辞書と同様、複数辞書検索やジャンプ検索(マルチジャンプ)にも対応する。ジャンプ検索については冒頭1文字だけを指定する方式ではなく、シャープ製品などと同じく範囲を指定する方式なので、任意の単語が確実に検索できる。個人的にはなかなか使いやすいと感じた。

 また、シャープのカラー電子辞書と同様、任意の箇所に色をつけられるマーカー機能も搭載している。ただしスタイラスでの操作が行なえるわけではなく、キーを利用することから、操作はやや煩雑である。また、いったん単語帳に登録しないとマーカーが引けない点もやや面倒だ。

 検索履歴は、コンテンツごとの呼び出し、もしくは全体からの呼び出しのいずれにも対応しており、使い勝手は非常によい。一般的に、電子辞書を使う際、過去に検索した単語をもういちど調べる機会はかなり多いと思うのだが、本製品はそのようなニーズにしっかり応えている。

複数辞書検索も可能インクリメンタルサーチで候補語がリストアップされ、下段にプレビューが表示される。比較的きびきびと動くのでストレスは感じない「関連/スペルチェック」キーを押すと成句の検索が行なえる
文中の任意の単語を範囲選択してのジャンプ検索も可能単語帳に登録するとマーカーでの着色が可能になる
履歴は全コンテンツ/個別コンテンツごとに呼び出せる

●好みが分かれるキーボード。片手での操作は困難

 試用していて感じたのは、本製品に対する評価は、キーボードの使いやすさに対する評価とほぼ直結するのではないかということだ。ここでは本製品のキーボードについて詳しく見ていこう。

 前述のように本製品のキーボードは五十音配列が採用されている。五十音キーの上段には8つのファンクションキー、下段には戻るキーや決定キー、上下左右キーが並ぶというレイアウトだ。各ブロックは色分けされているため役割の違いは認識しやすいが、キーサイズが極限まで小型化されていることもあり、必ずしも押しやすいとは言い難い。ただし女性など爪が長い人にとっては、あまり苦にならない可能性もある。

 本体の横幅に制限がある分、キーが上下方向に広く配置されているため、片手では操作するには範囲が広すぎるレイアウトになっている。例えば上段のファンクションキーと下段の決定キーを連続して押そうとすると、親指の移動距離が長すぎて、いったん本体を持ち直さなくてはいけないのだ。結果的に、両手で操作したほうがラクということになってしまうのである。せっかく小型軽量な筐体であるだけに残念だ。

キーボードの面積が広いため、片手で持ったまま親指だけで操作を行なうには難がある両手で操作するのがいちばんしっくりくる

 余談だが、筆者はふだん本を読む際、ポータルサイトのgooが提供しているモバイル版のWikipediaをケータイで参照し、分からない単語の意味を調べながら読み進めることがある。本製品もこれに近い使い方ができるのではないかと期待したのだが、親指のみのオペレーションが想定されていないため、残念ながらこのような使い方はできそうにない。片手で打鍵できる電子辞書というのは筆者が知る限り存在しないので、こうした方向に特化してもよかったかもしれないと個人的には思う。

 なお、一般的な電子辞書では、電源OFFの状態からでも「広辞苑」キーなどの各ファンクションキーを押せば直接そのコンテンツを起動できるが、本製品ではバッグの中などでボタンが押されがちなストレートタイプであるためか、こうした操作には対応しない。つまり電源OFFの状態から広辞苑を起動するためには、いったん電源を入れ、次いで「広辞苑」キーを押す必要がある。設計上は妥当なのだが、一般的な電子辞書に慣れていると多少わずらわしく感じられるのも事実だ。

環境設定画面。設定できる項目数はそれほど多くない電池の持ちをよくしたければ、画面の輝度を下げておくとよい

●可搬性の高さは魅力だが、ユーザビリティの向上が望まれる

 本製品は、広辞苑第六版をメインに据えたセイコーインスツルの「SR610」と同様、紙辞書からのリプレースを主眼に置いた製品であると言える。そのため、QWERTYキーではなく五十音キーを採用するなど、PCに慣れていないユーザー層が利用することを想定した、従来の電子辞書とは異なるコンセプトがあちこちに見受けられる。

 もっとも、実際に使った限りでは、こうしたコンセプトが初心者にとっての使いやすさを実現できているかはやや疑問だ。先に述べたように、五十音キーの搭載はキーサイズの小型化と横幅の肥大化を招いており、結果として片手で打鍵しづらい本体サイズにつながっている。このように、せっかくの小型軽量化のメリットが相殺されてしまっているのは、少々残念だ。ユーザビリティを重視するのであれば、いっそのことケータイのようなテンキー入力でもよかったのではないかと思う。

 もっとも、コンパクトタイプの電子辞書において、こうしたキーボードの操作性は常につきまとう問題であり、本製品においても両手操作を前提とするのであれば評価は変わってくるはずだ。また、手の大きさや爪の長さによっても、操作性についての印象はかなり異なってくると思われる。コンパクトタイプで広辞苑を搭載したカラー液晶の電子辞書はほかになく、広辞苑単体を搭載したセイコーインスツルの「SR610」よりも軽量なだけに、興味を持たれた方はまずは店頭で実機を手にとってみて、キーボードまわりのフィーリングを確認することをお勧めしたい。

【表】主な仕様
製品名 wordtank S500
メーカー希望小売価格26,250円
ディスプレイ2.4型カラー
ドット数320×240ドット
電源単4電池×2
使用時間約80時間
拡張機能なし
本体サイズ(突起部含む)75×140×16.3mm(幅×奥行き×高さ)
重量約114g(電池含む)
収録コンテンツ数5(コンテンツ一覧はこちら)