井上繁樹の最新通信機器事情
エレコム「WRH-S583」
~11ac(draft)に対応したUSB給電の携帯型無線LANルーター
(2013/12/14 06:00)
エレコムの「WRH-S583」は携帯型の無線LANルーターとしては国内で初めてIEEE 802.11ac(Draft、以降「11ac」)に対応した製品だ。有線LAN部分は100Mbpsということで、11acならではの速度を活用できる製品ではないが、2.4GHz帯を使う場合に比べて混雑していない分、速度が伸びやすい5GHz帯を使えるメリットがある。
11ac対応のポータブル無線LANルーター
エレコムの「WRH-S58」は802.11a/b/g/nそして11acに対応した携帯型無線LANルーターだ。2.4GHz帯と5GHz帯の両方に対応しているが同時利用はできず、物理スイッチでの切り替えとなる。最大接続速度は、2.4GHz帯が11nの150Mbps、5GHz帯が11acの433.5Mbps、有線LANポートが100Mbpsだ。
大きさは約36×52×16mm(幅×奥行き×高さ)、重さ約26gで、以前からある同ジャンルの製品と比較しても小さめで軽量だ。カバンの圧迫材料になることは滅多にないだろう。色は黒と白の2色。消費電力は2Wで、本体に収納されたUSBケーブルを使って給電する。
無線LANルーター、アクセスポイントとして利用可能だが、PPPoE接続機能を搭載していないので、自宅設置用の無線LANルーターとして使うのは難しい(もちろんPPPoE接続が不要な環境であればこの限りではない)。有線LANポートを持たないノートPCなど、無線LAN対応のモバイル機器のお供として便利な製品だ。IPSec、PPTP、L2TPは常時パススルーということもあり設定変更なしでVPN接続が可能だ。
同梱物についてだが、有線LANケーブルは同梱されていないので、別途用意する必要がある。それから、製品には日本語2種、英語1種のマニュアル(1枚紙)が同梱されているが、それとは別に詳細なマニュアルが公式サイトで公開(PDF)されている。なお、製品に同梱しているマニュアルについてもPDF版が公開されている。
余計な機能を削ぎ落とされた「ホテルルーター」
据え置き型のルーターと比べると、機能は非常にシンプルで、有線LANと無線LANの中継に特化している。前述の通りPPPoE接続機能がないので据え置き型ルーターの代用にならないし、パケットフィルタなどのセキュリティ系の機能や、ログ表示など管理者向けの機能も削ぎ落とされている。その分メニューもシンプルなので分かりやすいと言えるかもしれない。
使用する周波数帯の切り替えについてだが、物理スイッチでのみ切り替えが可能だ。切り替えの際、リセットや電源オン/オフなどの初期化操作は不要だ。物理スイッチに割り当てている機能を、管理画面でスイッチ操作なしで利用できる製品は珍しくないが、WRH-S583はこれに当てはまらない。
“ホテルルーター”としての用途に特化して、使用頻度の低い機能はばっさりカットしてはいるが、WPSボタンやAndroid/iOS端末用の接続設定アプリ「QR link」など、“繋ぐため”に便利な機能はしっかり確保されているので、SSIDや暗号化キーを手入力する必要はない。ボタン操作や、QRコードの読み込ませるだけで接続設定は完了する。
管理画面についてだが、日本語以外では英語での表示に対応している。管理画面のアドレスは「http://wrh-s583x.setup」で、ルーターモードで使用する場合は「192.168.2.1」など固定アドレスで開くことも可能だ。
ベンチマーク
速度の測定にはノートとデスクトップの2台のWindows 8.1マシンを使用した。メモリ8GB、SSD搭載な点は共通で、CPUがノート側はCore i5-3210M 2.5GHz、デスクトップ側はCore i3-2120 3.3GHz。無線LAN子機としてプラネックスのGW-450DとIntel Dual Band Wireless-AC 7260 for Desktop(以下、AC7260)を使用し、いずれかを使ってWRH-S58Hに無線LANで繋いだ。測定環境は、2.4GHz帯のSSIDは10以上確認できるものの、5GHz帯SSIDは5件前後の鉄骨マンションの1室。
測定には、CrystalDiskMark(ネットワークドライブとしてマウントした共有ドライブを測定)、iperf、そしてインターネットの速度については「価格.comのスピードテスト」を使用した。なお、CrystalDiskMarkを使った測定では測定対象としてSSDに加えてRAMDISKを使用した。
CrystalDiskMark3.03(64bit版)での測定結果は表1の通りで、11ac(接続速度433.5Mbps)でWRH-S58Hに中継させて接続した場合、リードが約78Mbps、ライトが約90Mbpsが最速だった(RAMDISK使用時)。また、11nで同様に中継接続した場合、リードが約48Mbps、ライトが57Mbpsが最速だった。
規格/接続速度 | 11n/150Mbps | 11ac/433.5Mbps | ||
使用ストレージ | SSD | RAM | SSD | RAM |
リード | 47.6Mbps | 46.4Mbps | 73.7Mbps | 78.0Mbps |
ライト | 52.8Mbps | 57.0Mbps | 90.1Mbps | 90.3Mbps |
11acでWRH-S58Hに中継させた場合のiperfの測定結果は表2の通りで、80Mbps後半から90Mbps前半の値がコンスタントに出ていた。100Mbps有線LAN接続の製品としては不足のない性能だと言える。
11ac 433.5Mbps接続時のiperf測定結果
bin/iperf.exe -c 192.168.2.100 -P 1 -i 1 -p 5001 -f m -t 10 ------------------------------------------------------------ Client connecting to 192.168.2.100, TCP port 5001 TCP window size: 0.06 MByte (default) ------------------------------------------------------------ [184] local 192.168.2.102 port 60910 connected with 192.168.2.100 port 5001 [ ID] Interval Transfer Bandwidth [184] 0.0- 1.0 sec 3.04 MBytes 25.5 Mbits/sec [184] 1.0- 2.0 sec 6.93 MBytes 58.1 Mbits/sec [184] 2.0- 3.0 sec 10.1 MBytes 85.1 Mbits/sec [184] 3.0- 4.0 sec 10.5 MBytes 87.9 Mbits/sec [184] 4.0- 5.0 sec 10.9 MBytes 91.4 Mbits/sec [184] 5.0- 6.0 sec 10.4 MBytes 87.1 Mbits/sec [184] 6.0- 7.0 sec 10.7 MBytes 89.5 Mbits/sec [184] 7.0- 8.0 sec 10.3 MBytes 86.4 Mbits/sec [184] 8.0- 9.0 sec 10.8 MBytes 90.2 Mbits/sec [184] 9.0-10.0 sec 10.4 MBytes 87.0 Mbits/sec [184] 0.0-10.0 sec 94.0 MBytes 78.5 Mbits/sec Done.
スピードテストはデスクトップ1台のみ使用し、WG-450DとAC7260を切り替えて測定した。結果は表3の通りで、11ac時は上り約66Mbps、下り84Mbpsが最速だった。11n時は上り約60Mbps、下り約87Mbpsが最速だった。なお、11nが11acを超える速度が出ていることもあるが、インターネットの速度はさまざまな要因で変動するものなので、この数字はあくまで参考程度に捉えて欲しい。
規格 接続速度 | 11n 150Mbps | 11ac 433.5Mbps | ||
無線LAN子機 | WG-450D | AC7260 | WG-450D | AC7260 |
上り | 52.2Mbps | 60.3Mbps | 57.7Mbps | 65.9Mbps |
下り | 84.4Mbps | 87.1Mbps | 82.3Mbps | 83.9Mbps |
まとめと感想
ゲーム機やスマートフォン、タブレットPC、ノートPCなど有線LANポートを搭載しない製品が増えている。これらの製品を出先で使う機会があるユーザーにとって携帯型の無線LANルーターはカバンに常備すべきアイテムと言っていいだろう。
携帯型無線LANルーターはすでに市場にいくつもあるが、WRH-S583の特徴は何と言っても11acに対応していることだ。11acならではの速度は出ないが、それでも中継接続で80~90Mbps前後コンスタントに出ており、速度的なメリットは確認できた。加えて、ユーザー数が少ない5GHz帯を利用できるので、干渉などにより速度低下する場面も少ない。
機能面についてだが、WPSやスマートフォン/タブレット用の接続アプリ「QR link」などの便利系機能を残しているのなら、ファームウェアの自動取得機能も搭載して欲しかったところ。もっとも、最近ではアップデータに問題があって、トラブルに巻き込まれるケースも少なくないので、自動でアップデートさせない(少し遅れ気味にアップデートさせる)方がユーザーにとっては親切なのかも知れない。
管理画面についてだが、ここまで機能を絞ったのなら、サイドバーのメニューをクリックさせてお目当ての機能にアクセスさせるのではなく、1画面にまとめて表示する方が画面遷移が少ない分、簡単で分かりやすくて親切なように思うのだがどうだろうか。用途から考えると管理画面を開かずに使うユーザーも多そうなので、従来と同じ感覚で使える(迷うことのない)伝統的なデザインのUIの方が好まれるのかも知れない。
参考:Windows 8.1におけるUSB3.0対応無線LAN子機の不具合
記事を見て気付いた方もいるかもしれないが今回USB 3.0接続対応の無線LAN子機を使用していない。というのもWindows 8.1に対応しているUSB 3.0接続対応の無線LAN子機が本稿執筆時点で手元になかったからだ。筆者が本稿執筆時点所持していたUSB 3.0接続対応の無線LAN子機は、エレコム「WDC-867U3」とアイ・オー・データ機器「WN-AC867U」なのだが、どちらを使っても上りが4~5Mbps前後になってしまう。
記事中で使用したプラネックスの「WG-450D」についてもWindows 8.1用のアップデータが出たこともあり、11acについては表中の結果の通りの数字が出たものの、11nについては上りが4~5Mbps前後になってしまった。そういうわけで今回、電気街や通販以外ではあまり見かけないデスクトップPC用(PCI Express x1接続)の無線LAN子機をベンチマークに使用した。
本稿が公開される頃には問題が解消されているかもしれないが、参考までに追記した。上り速度が遅くなるだけなので、ネットサーフィンをしている分には不具合と感じられないかもしれないが、LAN外へのファイルアップロードやLAN内の転送は極端に遅くなる。アップデータが公開されたら早めに適用して、速度が上がらない不具合を解消することをお勧めする。