■井上繁樹の最新通信機器事情■
「Pogoplug POGO-P25」 |
Pogoplugについては以前も紹介したが、今回紹介するのは2月4日からソフトバンクBBが日本国内で販売を開始した日本国内向けのモデルだ。他のモデルと違う点は日本国内に置いて使う場合インターネット経由でのアクセス速度が速くなることだ。
●Pogoplugとは
PogoplugはUSBストレージをインターネット上にある「クラウド」にしてくれる米CloudEnginesの製品だ。インターネット接続のあるLANにつなぐと、LANの中ではNASのように、LANの外からはオンラインストレージのように扱えるようになる。ファイルの受け渡しや一般公開も可能だ。
セットアップがとても簡単なのが特長で、インターネット経由で外部からアクセスできるようになるのにも関わらずルーターの設定をいじる必要がない。ただし制約もあって、インターネットに繋がっていないLANでは使えない。LANの中だけで使う場合でも必ずインターネット接続が必要だ。
同梱物はPogoplug本体とLANケーブル、電源ケーブル、そしてマニュアル。保証書はマニュアルの最後のページ | 本体正面。USB 2.0と本体の動作状態を示すランプがある。正常に動作していれば黄緑、何か問題があると橙に点灯する | 本体左側面。ロゴが見える。色は米国で販売されているPogoplug Proと同じ |
本体右側面。ロゴが見える | 本体背面。上からUSB 2.0ポート×3、Gigabit Ethernet、電源コネクタが並ぶ |
本体天面。排気口がある。Pogoplugはファンレスだ | 本体底面。MACアドレスと固有IDがプリントされている。MACアドレスと固有IDは箱の底面にもプリントされている |
Pogoplugは売り切りのパッケージ製品として販売されているが、パッケージに同梱されたハードウェアだけで動く製品ではない。専用のサーバーと連携して動作する。つまり何らかの事情でサーバーの運営が続けられなくなったときは、Pogoplugは使えなくなってしまうことになるが、その時はPogoplugに関する技術をオープンソース化するとCloudEnginesは宣言している。だから、Pogoplugが使えなくなってしまうことはまずないと言っていいだろう。
サーバーのコストはパッケージの価格に含まれているので、月額利用料は必要ない。サーバーはこれまで米国とシンガポールのデータセンターに設置されていたが、日本国内向けモデル用にソフトバンクBBが新たに日本にサーバーを設置する。だから、Pogoplugの日本国内向けモデルは、海外モデルを日本で使うよりも速くなる。
日本向けモデルはパッケージも日本語化されている。ちなみに日本向けモデルの箱やマニュアルはCloudEnginesが日本語化している | Pogoplug国内版の販売とサーバーの運営はソフトバンクBBが行なう。サポートはCloudEnginesが行なう |
安全性についてだが、サーバーとの通信に独自方式の暗号化と独自プロトコルを採用していることもあり、そう簡単に漏洩や侵入は起きないと言ってよいだろう。それでも心配だと言う人のためにSSLを使うオプションが用意されている。ただし、SSLを使うと体感できるほど速度が低下してしまうデメリットがある。
Pogoplugに繋いだストレージにアクセスするにはPCではWebベースのGUIかローカルドライブとしてマウントする専用ソフトを使う。専用ソフトはWindows、Mac、Linux用のものがある。PC以外ではスマートフォンやタブレット端末向けの専用ソフトがあり、Webと同等の機能が使える。対応製品はiPhone、iPad、Android、BlackBerry、Palmだ。専用ソフトは「my.pogoplug.com」の「ダウンロード」から入手できる他、スマートフォンやタブレット端末であればそれぞれの専用ストアからも入手できる。いずれも無料で配布されている。
専用ソフトが公開されている場所は「my.pogoplug.com」の「ダウンロード」をクリックすると開く | スマートフォンやタブレット端末であれば専用ストアから入手することもできる |
●日本向けモデルとその他のモデルの違い
米国では現在Pogoplug Pro、Biz、Videoなど4種類のモデルが紹介されている |
現在CloudEnginesのサイトではベーシックなPogoplugに加え、無線LAN機能を搭載したPogoplug Pro、ビデオファイルの高速ストリーミング再生が可能なPogoplug Video、マルチユーザーに対応したビジネスユース向けのPogoplug Bizの4種類の製品が紹介されている。
日本で発売された「Pogoplug POGO-P25」は、機能的には以前からある「Pogoplug POGO-E02」と同じだが、カラーリングやCPU、メモリ容量は米国で販売されている最新モデル「Pogoplug Pro」と同じで新しいものになっている。CloudEnginesによるとCPUは今後発売するバージョンでもパフォーマンスアップのために別のものを採用する可能性はあるとのこと。
【表1】Pogoplugの旧モデルと日本モデルのハードウェアスペック型番 | POGO-E02 | POGO-P25 |
CPU | ARM926EJ-S rev 1 (v5l) シングルコア 1.2GHz | ARMv6-compatible processor rev 5 (v6l) デュアルコア 700MHz |
メモリ | 256MB | 128MB |
NAND | 128MB | 256MB |
●Pogoplugをセットアップする
Pogoplugのセットアップにはmy.pogoplug.comを使う。実際にやることは、ケーブル類の接続、USBストレージの接続、そしてIDとパスワードの登録だ。早ければ1分以内に、遅くとも10分もあれば終わってしまうだろう。セットアップが終ったら必要に応じてPCやスマートフォン、タブレット端末用の専用ソフトをインストールする。
WebベースのGUI「my.pogoplug.com」のトップ画面。「POGOPLUGを起動させる」をクリックするとセットアップが開始 | 接続作業とID、パスワードの入力が終わると確認のためのメールが送信される | 届いたメールの「Pogoplugのアクティベーション」をクリック。以上でセットアップは完了だ |
サインインするとPogoplugについて解説するダイアログがポップアップする | 表示言語の設定は画面上端の「English」と表示されている場所をクリックすると開くダイアログで行なう |
あとはLANの中でも出先のWi-Fiスポットでも、my.pogoplug.comなり専用ソフトなりを開いてIDとパスワードを入力すればいつでも自分のPogoplugにアクセスできる。ルーターを越えるために設定をいじる必要はない。
PogoplugにつなぐUSBストレージはHDDでもUSBメモリでもOKだ。対応しているフォーマットはNTFS/FAT32/HFS+/EXT2/EXT3。Windows、Mac、Linuxで使われているフォーマットがそのまま使える。Pogoplugにはフォーマットする機能は無いのでつなぐ前にあらかじめフォーマットしておく必要がある。
セットアップの際の注意点として挙げておきたいのがPogoplugのトランスコード機能だ。この機能は動画ファイルからネットワーク経由での視聴に適した画質と容量のコピーを生成するものだ。動画のトランスコードは非常に時間のかかるものでPogoplugのようなハードウェアに向いているとは言えない。けれどデフォルトでは「自動的にトランスコードする」設定になっている。トランスコード中はPogoplugの動作は重く扱いにくくなるので一通りセットアップが終わるまではトランスコード機能を止めておくことをおすすめする。
●Pogoplugを使うPogoplugを使うための手段は3通りある。1つがWebベースのGUIである「my.pogoplug.com」、もう1つがスマートフォンやタブレット端末でmy.pogoplug.comと同等の機能が使える「Pogoplug Mobile」、そして残りの1つがPogoplugに繋いだUSBストレージをPCのローカルドライブとしてマウントする「Pogoplug Drive」だ。
3つのうち最も重要なのがmy.pogoplug.comだ。Pogoplugのセットアップには必ずmy.pogoplug.com使う上、Pogoplugの設定を変更できるのもmy.pogoplug.comだけだ。逆に言えばmy.pogoplug.comが使えないならPogoplugは使えない。
それでは3つを順番に見ていこう。
my.pogoplug.comはファイル整理の機能と、音楽、動画、画像の再生機能、そしてインターネット経由でファイルを共有するための機能を統合したWebベースのGUIだ。音楽を再生しながら他の作業ができる仕様は以前紹介した通り。BGMをかけながら写真やビデオを眺めつつ思い出に浸る、なんて使い方もできる。対応ブラウザはInternet Explorer 7/8、Firefox 3.5/3.6、Safari 4、Chrome 6/7となっているが、Chrome 8/9でも正常に動くようだ。ただ、残念ながらInternet Explorer 9ベータ版ではログイン画面ではじかれてしまった。
Pogoplug Mobileは簡単に言うとmy.pogoplug.comをスマートフォンやタブレット端末の画面サイズに最適化したものだ。Android版を試してみたが、音楽を再生しつつほかの作業ができる点も同じだった。ただし、「my.pogoplug.com」とは違ってプレーヤーが常時表示されるわけではないので、再生画面から移動してしまうと、再生を止めるためにまた再生画面に戻らなければならない。
アンドロイド用の「Pogoplug Mobile」のサインイン画面 | 画面に合わせてコンパクトでシンプルな表示になっている |
フォルダを表示しているところ。エクスプローラに近い感覚で使える | 音楽を再生しているところ。このまま音楽を再生しつつ別のフォルダに移動して作業できる |
Pogoplug DriveはUSBストレージをローカルドライブとしてマウントするソフトだ。マウント方法は、Pogoplugに繋がったストレージをPドライブ直下のフォルダとして表示する方法と、ストレージを別々のドライブとしてマウントする方法(マルチドライブ)の2種類。Pogoplug Driveの機能で覚えておきたいのがタスクトレイのアイコンの右クリックメニューから呼び出せる「Reload」機能。ネットワークをつなぎ変えたら必ず一度実行する必要がある。Pogoplugにアクセスできなくなったり、本来の速度が出なくなったりする。
また、以上挙げた3つ以外にもDLNAサーバー機能を搭載しており、同じLANのDLNAクライアント(PlayStation 3やXbox 360)に音楽・動画・画像ファイルをストリーミング配信できる。ただし、Windows Media Player 11/12には対応していない。
PlayStation 3でDLNAクライアント機能を使ってPogoplugを表示した状態 | PlayStation 3でもサムネイルがきちんと表示されている |
●Pogoplugの速度
Pogoplugの速度を調べてみたところ以下の表のような結果になった。通常であれば同じベンチマークソフトを使って速度の測定をしたいところだが、インターネット経由の速度は気軽にベンチマークソフトを使えるほど速くないため、コピーダイアログの詳細表示をチェックすることで代用した。なお、接続元のPCはWindows 7で、Pogoplugは1GbpsのLAN経由でフレッツ光ネクスト(下り最大200Mbps)に接続した状態で使用した。
速度 | ||
接続規格 | 読み込み | 書込み |
Gigabit Ethernet | 28.32MB/sec | 17.85MB/sec |
IEEE 802.11n | 13.40MB/sec | 9.40MB/sec |
emobile HTC Aria USBテザリング (3G) | 229KB/sec | 154KB/sec |
emobile HTC Aria Wi-Fi テザリング (3G) | 231KB/sec | 147KB/sec |
Wireless gate | 993KB/sec | 107KB/sec |
PCにマウントしたPogoplugのUSBストレージの速度をCrystalDiskMark 3.0で測定した。PCもPogoplugも同じGigabit Ethernetに繋いでいる |
結果を見る限りLAN内ではそこそこの速さのNASとして使えることがわかる。ただし、一歩LANの外に出てしまうと速度は一気に下がる。それでも500KB前後のファイルであればストレスを感じないレベルの速度で読み書きができるし、10MB前後のファイルであれば1分かからず取り出せて、送るのにも2分かからない。速度については日本国内に設置されたサーバーの運用がまだ始まったばかりであることを考えるとまだこれからも速くなる可能性がある。また、今回調べた環境以外でもっといい結果が出ている環境があるかもしれない。
●まとめと感想
Pogoplugはインターネットを使ってもっと簡単にファイルのやりとりがしたい人にぴったりな製品だ。これまではサーバーが米国にある関係で速度があまり出なかったが、日本国内に設置されたサーバーを使う日本向けのモデルが発売されたことで速度面の問題もいくらか解消され、簡単なだけでなく「使いやすく」なってきた。
米国モデルを今まで使っていた人間としては速度アップだけで十分過ぎるくらいのご褒美だが、速度はもっと速くなるべきだろうし、直っていない不具合は直して欲しいし、UIをもっと使いやすくして欲しい、などなど願いは尽きない。まだまだ発展途上な製品だと感じている。というわけでまだまだ温かい目見守っていきたいと考えている。
(2011年 2月 15日)