■井上繁樹の最新通信機器事情■
NEC「AtermWR9500N」(以下、WR9500N)は10月下旬に発売されたIEEE 802.11a/b/g/n対応無線LANルーターだ。目玉は何と言っても450Mbpsの接続速度。今回はWR9500Nが2台1組になった「イーサネットコンバーターセット」を入手したので速度や使い勝手について紹介する。
●概要WR9500Nは、2.4GHz帯と5GHz帯の同時利用が可能で、1Gbps対応の有線LANポート4つとWANポート1つを搭載している。セキュリティ機能はMACアドレスフィルタとパケットフィルタの2種類だ。WPS機能(らくらくスタート)ボタンを搭載しているので、AOSS同様、簡単操作で接続設定が可能だ。
USBポートを1つ搭載しており、接続したUSBストレージをNASやオンラインストレージのように使える。また、メディアサーバー機能を搭載しているので、PCはもちろん、ゲーム機やAV家電、一部スマートフォンを使って、USBストレージに保存した映像、音楽、写真を再生して楽しむことができる。また、USBポートにはストレージ以外にUSBカメラが接続可能でストリーミング再生が可能だ。
そして、「PPPoEルータ」、「ローカルルータ」、「アクセスポイント」の3つのモードに加え新たに「コンバータ」モードを搭載しており、スイッチ1つで1Gbps有線LANポートを5つ搭載した無線LANコンバータ(子機)に早変わりする。
●ベンチマーク結果ベンチマークの測定にはWindows Vista SP2(64bit)とWindows 7 Home Premium(32bit)を使用した。Windows Vistaは1Gbps有線LANで、Windows 7は無線LANでWR9500Nに接続し、Vistaの共有フォルダを7側でネットワークドライブとして登録し、そのドライブの速度を「CrystalDiskMark3.0.1」で測定した。参考データの測定にはExt4形式でフォーマットしたHDDにインストールしたUbuntu 11.11マシンを使用した。
テスト環境は近隣にIEEE 802.11b/g/nユーザーの多いワンルームマンションの1室。ロジテックの「クライアントユーティリティ」で確認した限りでは、2.4GHz帯ユーザーは5軒以上、5GHz帯ユーザーは1軒だった。無線LANのセキュリティ機能はいずれもWPA2-PSK(AES)を使用した。
ロジテック「LAN-W450AN/U2」。2.4GHz/5GHz、IEEE 802.11n/a/g/b対応の無線LAN子機。接続端子はUSB 2.0。接続速度は最大450Mbps(理論値) | 5GHz帯11n倍速モードで接続した状態 |
測定に使用した無線LAN子機はロジテック「LAN-W450AN/U2」。ただし、測定前に試したところ2.4GHz帯の11n倍速モードでは接続できなかったので該当項目は「N/A」としてある。「LAN-W450AN/U2」以外にも、バッファローの「WLI-UC-G450」、「WLI-UC-AG300N」なども試してみたが、いずれも2.4GHz帯の11n倍速モードではつながらなかった。ちなみに、「WLI-UC-AG300N」については、5GHz帯の11n倍速モードでの接続は確認している。
ベンチマークは「PPPoEルータ」、「ローカルルータ」、「アクセスポイント」の3つのモードで測定したが、速度差は誤差の範囲で、どれが一番速いかは判別が難しい結果となった。読み込み最高速は約122Mbps、書き込み最高速は約92Mbpsだった。参考データでは読み込みで約168Mbps、書き込みで約193Mbpsという数字も出ているので、環境の改善による伸び代はかなりありそうだ。
速度(Mbps) | ||||
読み込み | 書き込み | |||
接続規格 | 2.4GHz | 5.2GHz | 2.4GHz | 5.2GHz |
11n | 73.99 | 79.92 | 77.41 | 84.86 |
11n x2 | N/A | 107.07 | N/A | 89.56 |
11n x2(Ext4) | N/A | 105.17 | N/A | 192.84 |
11n x2(FTP) | N/A | 132.20 | N/A | 181.61 |
1000BASE-T | 285.63 | 93.42 | ||
1000BASE-T(Ext4) | 473.16 | 746.28 |
5GHz帯11n倍速モード時のベンチマーク(親機はPPPoEモード) |
速度(Mbps) | ||||
読み込み | 書き込み | |||
接続規格 | 2.4GHz | 5.2GHz | 2.4GHz | 5.2GHz |
11n | 71.77 | 95.51 | 67.46 | 90.92 |
11n x2 | N/A | 122.15 | N/A | 90.85 |
11n x2(Ext4) | N/A | 105.33 | N/A | 183.79 |
11n x2(FTP) | N/A | 168.21 | N/A | 184.8 |
1000BASE-T | 283.7 | 93.57 | ||
1000BASE-T(Ext4) | 486.17 | 692.5 |
5GHz帯11n倍速モード時のベンチマーク(親機はローカルルータモード) |
速度(Mbps) | ||||
読み込み | 書き込み | |||
接続規格 | 2.4GHz | 5.2GHz | 2.4GHz | 5.2GHz |
11n | 72.13 | 98.99 | 78.56 | 90.51 |
11n x2 | N/A | 114.07 | N/A | 92.25 |
11n x2(Ext4) | N/A | 94.56 | N/A | 169.64 |
11n x2(FTP) | N/A | 145.63 | N/A | 172.88 |
1000BASE-T | 281.47 | 93.64 | ||
1000BASE-T(Ext4) | 435.09 | 643.83 |
5GHz帯11n倍速モード時のベンチマーク(親機はアクセスポイントモード) |
●NAS機能とベンチマーク
WR9500NのUSB 2.0ポートにはFAT16/32形式でフォーマットしたUSBストレージを1台接続できる。フォーマットはWR9500Nからもできる。接続したUSBストレージはLAN内では共有フォルダとして使えるほか、ブラウザを使ってインターネット経由でどこからでもアクセスできるオンラインストレージとしても使える。インターネット経由でアクセスする際に必要なアカウントは、管理画面で使っているものか、別途ユーザー設定したもののどちらか1つを選択する(アカウントは複数登録できない)。なお、オンラインストレージとして使う時は無料で固定アドレスが利用できるホームIPロケーション機能(後述)が便利だ。
また、メディアサーバー機能を搭載しておりLAN内のDLNA対応機器に配信可能だ。メディアサーバーのデータベースに登録できるファイルは最大1,000点で、データベースの更新は自動。登録対象のファイルはルートフォルダ直下の「contents」フォルダのファイルのみ。主な対応ファイル形式はMPEG-1/2/4、WMV、WMA、ASF、FLV、MOV、AAC、MP3、JPEG、PNG。
NAS機能のベンチマーク結果は以下の表の通り。無線LANについては2.4GHzも5GHzも通常モードも倍速モードも読み込み、書き込み共に32Mbpsから36Mbpsの間に収まった。1Gbpsの有線LAN接続では読み込み約83Mbps、書き込み約97Mbpsだった。
速度(Mbps) | ||||
読み込み | 書き込み | |||
接続規格 | 2.4GHz | 5.2GHz | 2.4GHz | 5.2GHz |
11n | 34.02 | 34.78 | 32.05 | 36.10 |
11n x2 | N/A | 35.66 | N/A | 34.72 |
1000BASE-T | 83.07 | 96.7 |
5GHz帯11n倍速モード時のUSB HDDのベンチマーク(親機はPPPoEモード) |
●コンバーターとベンチマーク
WR9500Nは無線LANコンバーターとしても使用可能だ。「イーサネットコンバーターセット」では、2台のWR9500Nが同梱されていて、2台のうち1台は電源を入れれば即無線LANコンバーターとして使えるよう設定済みだ。
同梱されている片方のWR9500Nはコンバーターモードに初期設定されている(電源を投入するとCONVERTERランプが点灯) | コンバーターモードの管理画面で周辺の電波の使用状況を確認しているところ。同様の画面はコンバーターモード以外でも使える |
以前紹介したモデル「WR8700N」のイーサーネットコンバーターセットでは、親機の半分くらいサイズのイーサネットコンバーターが同梱されていたが、WR9500Nでは親機もイーサネットコンバーターも同じハードで兼ねるようになった。コンバーターモード時はWANポートも含め5つのLANポートに有線LAN対応機器を接続できる。なお、コンバーターモード時はUSBポートは機能しない。
無線LAN子機の代わりにコンバーターを使用した際のベンチマーク結果は以下の表の通りになった。USB無線LAN子機を使った場合よりもいい結果が出ていて、読み込みは約124Mbps、書き込みは約90Mbpsだった。参考データになるが書き込みで約257Mbps出ているのが印象的だ。今回テストに使ったUSB無線LAN子機では200Mbps越えなかったことを考えると立派な数字だ。
速度(Mbps) | ||
接続規格 | 読み込み | 書き込み |
11n x2 | 123.82 | 90.27 |
11n x2(Ext4) | 128.20 | 224.93 |
11n x2(FTP) | 153.17 | 257.09 |
11n x2(FAT32 USB HDD) | 40.28 | 35.68 |
コンバーター使用時のベンチマーク(親機はPPPoEモード) |
●リモートアクセスに便利な機能と簡単に使えるUSBカメラ
WR9500Nはリモートアクセスに便利な機能として「DDNS(Dynamic DNS)」、「ホームIPロケーション」を搭載している。どちらもアドレスを見掛け上固定化するもので、DDNSは「お名前.com」「bigolobe」のサービスのみ対応している(有料、月額数百円~)。ホームIPロケーションはNECが提供する無料のDDNSで、ドメイン名末尾は「aterm.jp」、サブドメインは自動割り当てで変更不可となっている。
「DDNS」の設定は「詳細設定」の「DDNS設定」にある。利用するサービスはリストから選択する | 「ホームIPロケーション」の設定は「詳細設定」の「その他の設定」末尾にある。今回テストしたところチェックを付けて5分以内に使えるようになった | 「ホームIPロケーション」で割り当てられたアドレスは「情報」の「現在の状態」末尾に表示される |
USBカメラ対応についてだが、仕組みとしては一定の時間間隔で撮影した静止画をブラウザ上のJavascriptで順に表示することで動画のように見せるものだ。音声は無い。撮影間隔は250/500/1,000/5,000msの4種類で、解像度はUSBカメラによって異なるが参考までに筆者が使用したUSBカメラ(ロジクール「C270」)の場合を書いておくと640×480/352×288/320×240/176×144/160×120の5種類だった。対応しているカメラはUVC(USB Video Device Class)対応のもの。
「USBカメラ」の設定は詳細設定の「USBカメラ設定」にある | USBカメラを使っているところ。画像を保存すればそのままスクリーンショットになる |
省電力機能についてだが本機は「ECOモード」と呼ばれる機能を搭載しており、ボタン1つでより消費電力の少ない設定に変更できる。USBポートへの電源供給を止めない設定にもできるので、USBストレージやUSBカメラをリモートで利用する際でも節電設定を利用できる。未使用時に無線LANをオフにする「オートECO」機能を搭載しているほか、トラフィックの量によって有線LANポートへの電源供給を調節する「EEE(規格)」に対応しているので、節電の自動化も可能だ。また、従来通り週間スケジュールでの省電力設定も可能だ。
●まとめと感想450MHz対応ということで前モデル(WR8700N)と比べると速度面での向上が著しい。やはり理論値通りの数字は出ないがFTPでは250Mbpsを越えるケースもあり、数字だけ見ると1Gbps有線LANの実効値にも近づきつつある。GbEがあるので有線LANを捨てる事は無いと思っていたが、そんな考えも今回の試用でぐらついた。
USBストレージ対応についてだが、オンラインストレージとしても使えるようになり、同様の機能を持つ他社の製品と機能面では追いついた。ホームIPロケーションと組み合わせると無料で簡単に固定化アドレス化できるので、使い勝手も悪くない。
個人的に面白いと思ったのがUSBカメラ機能。ネットワーク対応の監視用カメラとなると結構な値段だが、USBカメラであればオートフォーカス付きのものでも3,000円前後から気軽に利用できる。
それから、非常に曖昧な感想になるが、管理画面の動作が軽快になったと感じた。Windows上で無線LAN子機の設定を切り替えるよりも管理画面で無線LAN親機の設定を変更した方が速くストレスを感じることがなかった。
今回2.4GHz帯の11n倍速モードが試せなかったのはちょっと残念だった。コンバーターモードのWR9500Nも2.4GHz倍速では接続できなかったので、何か分かればまた報告したい。
(2011年 12月 5日)