■井上繁樹の最新通信機器事情■
NEC「Aterm WR8700N」は2月に発売された無線LANルーターだ。今回はEthernetコンバーター「Aterm WL300NE-AG」とセットで入手したので、両機について紹介したいと思う。
●5GHz帯11n対応でNAS機能付きの今時な無線LANルーター「Aterm WR8700N」
NEC「Aterm WR8700N」はIEEE 802.11a/b/g/nに対応した無線LANルーターだ。2.4GHz帯に加え5GHz帯に対応しており、それぞれアクセスポイント2ずつ搭載している。有線部分は1Gbpsの4ポートのハブを搭載。USBストレージをNAS化する機能があり、メディアサーバー(DLNA)として使える。WPS機能に対応しているのでAOSS同様簡単なボタン操作で接続設定が可能だ。
セキュリティ機能としては、MACアドレスフィルタやパケットフィルタを搭載している。また、出荷時の設定では2つずつあるアクセスポイントのうち片方(SSIDの末尾に「W」が付く方)がインターネット接続以外できないようになっており(「ネットワーク分離機能」のこと)、低いレベルの暗号化機能しか持たないゲーム機等に割り当てることでLAN内の安全性を高めることができる。
ユニークなのが本体左面の「ECOボタン」。不要な機能の電源をオフにして省電力化する「ECOモード」に切り替えるためのスイッチで、設定次第では消費電力を通常時の半分以下に減らすことができる。管理画面ではタイマー設定も可能だ。ただし、どの設定の場合でも「ECOモード」時はUSBポートがオフになるので、NAS機能やDLNAサーバー機能は使えなくなる点に注意したい。
それ以外に特徴的な機能としてNTTドコモユーザー向けのサービス「ホームU」に対応していることが挙げられる。「ホームU」はFOMA回線の代わりにインターネット回線を使うことで料金が割安になるサービス。家で携帯電話を使う機会の多いドコモユーザーであれば通信費の節約に役立つかもしれない。
●WR8700Nの5GHz帯と2.4GHz帯の11nのベンチマーク
ベンチマーク測定には「CrystalDiskMark 2.2」を使用した。WR8700Nはルーターモードに設定して、PPPoEクライアント機能を使ってインターネットに接続した状態で使用した。接続元はWindows 7 PC、接続先はWindows Vista(SP2) PC。前者はバッファローのUSB無線LANアダプタ「WLI-UC-AG300N」経由でWR8700Nに接続した。後者はスイッチングハブを経由して1Gbps有線でWR8700Nに接続した。なお、後者は今まで使ってきた32bit版のWindows Vista(SP2) PCが不調になったため、64bit版で再インストールしたものを使った。
テスト環境は近隣に11b/g/nユーザーの多いワンルームマンションの一室。セキュリティ機能はいずれもWPA2-PSK(AES)を使用した。なお、バッファローの「無線LAN診断」で見る限り2.4GHz帯ユーザーは5軒以上、5GHz帯ユーザーはほかには見当たらなかった。
11nのベンチマーク結果は、5GHz帯の読み込みが約60Mbps、書き込みが約94Mbpsだった。また、2.4GHz帯の読み込みが約77Mbps、書き込みが約89Mbpsだった。このように、読み込みは2.4GHz帯が5GHz帯よりやや速く、反対に書き込みは5GHz帯が2.4GHz帯に比べてやや速いという結果になった。
5GHz帯11nのベンチマーク結果 |
2.4GHz帯11nのベンチマーク結果 |
●WR8700Nの11n倍速のベンチマーク
倍速モード(デュアルチャネル機能)の設定は4つあるアクセスポイントすべてにある |
WR8700Nで11nの倍速モードを使う時は管理画面で「デュアルチャネル機能」を有効化すればよい。デフォルト設定ではオンになっているので、デュアルチャネルに対応した無線LANアダプタがあれば最初から倍速モードで無線LANを使うことができる。
11n倍速モードのベンチマーク結果は、5GHz帯が読み込み約79Mbps、書き込み約111Mbpsだった。通常モード比べると、読み込みが約1.3倍速、書き込みが約1.2倍速だった。また、2.4GHz帯は読み込み約93Mbps、書き込み約111Mbpsで、こちらも同様に通常モード比べると、読み書き共に約1.2倍速だった。
さらに、5GHz帯と2.4GHz帯で比べてみると、読み込みは2.4GHz帯が5GHz帯の1.2倍速で、書き込みは2.4GHz帯と5GHz帯でほぼ同じだった。電波環境からすると5GHz帯の方が数字が伸びそうなものだが、むしろ2.4GHz帯の方が優秀だという結果になった。
5GHz帯11n倍速モードのベンチマーク結果 |
2.4GHz帯11n倍速モードのベンチマーク結果 |
以上の倍速及び非倍速モードのベンチマーク結果をまとめたものが以下の表だ。
対Vista SP2(NTFS)ドライブ測定結果 | ||||
速度(Mbps) | ||||
読み込み | 書き込み | |||
接続規格 | 2.4GHz | 5GHz | 2.4GHz | 5GHz |
11g | 20.76 | N/A | 22.10 | N/A |
11n | 77.38 | 60.31 | 89.00 | 93.95 |
11n×2 | 92.95 | 78.52 | 111.23 | 110.65 |
1Gbps(参考) | 411.80 | 119.29 | ||
参考:対Ubuntu 9.10(Ext3)ドライブ測定結果 | ||||
速度(Mbps) | ||||
読み込み | 書き込み | |||
接続規格 | 2.4GHz | 5GHz | 2.4GHz | 5GHz |
11g | 20.67 | N/A | 23.03 | N/A |
11n | 54.28 | 55.99 | 80.25 | 85.31 |
11n×2 | 66.64 | 70.62 | 129.10 | 112.41 |
11n×2(proFTPD) | 74.65 | 75.68 | 147.19 | 131.44 |
1Gbps | 411.80 | 643.24 |
●WR8700Nの悪条件下での倍速モード接続
先の測定は無線LANの親機と子機が同じ部屋にある電波状態の良い状態で行なったが、今度は倍速モードの安定性を見るために、電波状態の悪い状況で測定してみた。電波状態はバッファローの「クライアントマネージャV」の電波状態表示で5GHz帯が50~30%、2.4GHz帯が70~50%だった(部屋の中は90%)。
悪条件下のベンチマークは毎回同じ場所にPCを移動して行なっているのだが、WR8700Nは他の機種のように電波状態の表示が30%にならなかった。かといって他の機種よりも厳しい条件にするわけにもいかないので場所を変えずにベンチマークをとった。
結果は、5GHz帯の11n倍速モードが通常モード比べて読み書き共にで約1.8倍速前後だった。また2.4GHz帯の倍速モードは通常モードに比べて読み込みが約1.1倍速、書き込みが約1.3倍速だった。条件のいい時と比べると、特に5GHz帯の倍速モードが速いという結果になった。
速度(Mbps) | ||||
読み込み | 書き込み | |||
接続規格 | 2.4GHz | 5GHz | 2.4GHz | 5GHz |
11n | 55.21 | 40.76 | 51.36 | 39.90 |
11n×2 | 59.85 | 74.16 | 67.81 | 74.06 |
●WR8700NのNAS機能とベンチマーク
WR8700Nは本体背面のUSB端子に接続したストレージをNAS化する機能を搭載している。ホットプラグに対応しておりストレージを切り替えて使うことも簡単にできる。ストレージを外す際は管理画面であらかじめ停止操作を行なう必要がある。
USB端子に同時に接続できるのストレージは1台までで、対応しているファイルシステムはFAT16/32。WR8700N自体にはフォーマット機能は無いのであらかじめ使用前にPCでフォーマットしておく必要がある。登録したユーザー名とパスワードを使ってアクセス制限が可能で、書き込み制限も可能だ。
NASのフォルダはネットワークフォルダからWR8700Nを開けば見つかる。共有フォルダ名はドライブのハードウェア名を元に付けられるので、ドライブを付け替える度にフォルダ名が変わってしまう点に注意したい。頻繁にドライブを切り替えて使う場合はむしろネットワークドライブとして登録しないで使う方がよいかもしれない。
ユーザー認証や書き込み制限の設定は「USBストレージ設定」にある | 「USBデバイス情報」で停止ボタンを押してからUSBストレージを外す |
NASのベンチマーク結果は以下の表の通り。全般的にUSBメモリの成績が奮わなかったが、これはUSBメモリ側の問題かもしれない。読み込みについてだが通常モードと倍速モードで5~10Mbpsの速度差があり、性能差がはっきりしているのが特徴的だ。
NAS(USBメモリ)の測定結果 | ||||
速度(Mbps) | ||||
読み込み | 書き込み | |||
接続規格 | 2.4GHz | 5GHz | 2.4GHz | 5GHz |
11n | 21.98 | 27.20 | 21.49 | 18.74 |
11n×2 | 31.48 | 36.67 | 21.01 | 24.41 |
NAS(USB接続HDD)の測定結果 | ||||
速度(Mbps) | ||||
読み込み | 書き込み | |||
接続規格 | 2.4GHz | 5GHz | 2.4GHz | 5GHz |
11n | 29.41 | 38.04 | 43.96 | 44.59 |
11n×2 | 41.46 | 43.86 | 46.44 | 45.26 |
●WR8700NのDLNAサーバー機能
WR8700NはUSBストレージのファイルをLAN内のDLNA対応機器に向けて配信するDLNAサーバー機能を搭載している。配信するファイルはルートフォルダ直下に作られた「contents」フォルダ内のファイルで最大1,000件まで。対応しているファイル形式は、画像がJPEG/PNG、音声がMP3/AAC/WMA他、動画がMPEG-2/WMV/MP4(3GPPのみ)。なお、ライブラリ情報は自動的に更新される。
メタ情報の対応状況だが、実際にファイルを「contents」フォルダにコピーして確認してみたところ、画像ファイルではExif情報のタイトルが表示されたほか、音楽ファイルではID3 TAG V2.3以前に対応、動画ファイルではWMVファイルのメタ情報に対応しているのを確認できた。
なお、DLNAサーバー機能は標準設定ではオンになっているので、USBストレージを接続すればすぐDLNAサーバー機能が使えるようになる。もちろん、DLNAサーバー機能が不要な時は管理画面でオフにすることも可能だ。
PS3上でWR8700Nを見たところ | タイトルの末尾に「.jpg」がついていないファイルがEXIF情報のタイトルが設定されているファイル | 「その他の設定」で「メディアサーバー設定」のチェックを外せばDLNAサーバー機能はオフになる |
●Ethernetコンバーター「Aterm WL300NE-AG」
「WL300NE-AG」は無線LAN機能が無いネットワーク機器を無線化するハードウェアだ。LANポートさえあれば使えるので、PCのように豊富な機能拡張手段を持たない家電等のネットワーク機器も無線化できる。倍速モードを含む5GHz帯及び2.4GHz帯に対応した無線LAN機能を持ち、2つある1Gbps対応のLANポートに接続したネットワーク機器を無線化できる。本体デザインは高さ以外WR8700Nと共通で、特に天面と底面は大きさも同じ。底面にセットするスタンドもWR8700Nと共通だ。
WL300NE-AG正面。上からPOWERランプ、LINKランプ(親機との接続状態表示)、AIRランプ(2.4GHz時緑、5GHz時橙)、TVランプ | 背面。上から1Gbps対応LANポート、5GHz/2.4GHz優先接続切替スイッチ(上側のみ有効)、ACアダプタコネクタ |
左面。本体ロゴやらくらくスタートボタンがある | 右面。横置き時にスタンドを固定するための4つの穴とRESETスイッチがある |
接続する機器の数は、ハブを使って増やすこともできるが、マニュアルでは10台以下で使用することを推奨している。TVモード(Wi-Fi Multimedia)機能を搭載しており、同じくTVモードを機能を搭載した親機と組み合わせて使うことで、ストリーミング再生を途切れにくくすることができる。
親機との接続についてだが、WR8700Nとセットになったパッケージであればあらかじめ接続設定がされているので、ケーブル類をつなぐだけで使い始めることができる。そうでない場合は本体左面の「らくらくスタート」ボタンを使うか、管理画面で設定を変更する必要がある。
管理画面を開くにはLANケーブルでPCをつないでブラウザで「192.168.0.240」を開けばよい。通常ルーター等であればネットワークフォルダにアイコンが表示されダブルクリックで管理画面が開けるが、WL300NE-AGはネットワークフォルダに表示されない点に注意したい。
親機と接続中の状態。LINKランプが橙なのは5GHz帯で接続していることを示している(2.4GHz帯の時は緑) | WL300NE-AGの管理画面で「現在の状態」を開いたところ。5GHz帯11nの倍速モードで接続中なのがわかる |
WL300NE-AG経由でのベンチマーク結果は以下の通り。倍速モードではWLI-UC-AG300Nを使って接続した時よりも速くなっているのが印象的だ。
速度(Mbps) | ||||
読み込み | 書き込み | |||
接続規格 | 2.4GHz | 5GHz | 2.4GHz | 5GHz |
11n | 65.73 | 69.59 | 85.14 | 86.91 |
11n×2 | 103.26 | 84.81 | 113.92 | 112.32 |
●まとめと感想
WR8700Nはベンチマークを見る限り2.4GHz帯の成績が比較的優秀な無線LANルーターだ。この機種を使うなら、5GHz帯に無理に移行しないで、2.4GHz帯のままで使うのもありだろう。5GHz帯はWL300NE-AGのように最初から5GHz帯に対応している機器用に空けておくという使い方もある。例えば日本でも近日発売予定のiPadなどは最初から5GHz帯に対応している。
面白いと思ったのはファイル共有機能とDLNAサーバー機能が最初から有効になっていること。もちろん、外部ストレージをつないでいない状態では何もできないのだが、ネットワークフォルダ等でアイコンが最初から見えているのはわかりやすくていいと感じた。
それからDLNAサーバーのライブラリ情報が自動的に更新される点は非常に有難い。公開するファイルとそうでないファイルをフォルダで分けられる点もいい。ただし、登録件数は最大1,000件なので手持ちのファイルが多い人は使い方を考える必要があるだろう。
EthernetコンバータのWL300NE-AGについてだが、HD画質のビデオのストリーミング再生もできる上、LANポートさえあれば何でもつながる汎用性の高さは便利だ。主にネットワーク家電や据え置きゲーム機に使われるのだろうが、ノートPCの無線LAN機能の調子が悪い時など活躍してくれる場面は他にもありそうだ。
(2010年 5月 17日)