ニュースの視点

UPQはディスプレイの仕様誤記についてどう対処すべきだったのか

~ものづくりの姿勢に関する大河原氏、笠原氏、山田氏の視点

このコーナーでは、直近のニュースを取り上げ、それについてライター陣に独自の視点で考察していただきます。

UPQの「Q-display 4K50」

大河原氏の視点

 UPQが、2016年8月に発売した120Hz倍速表示対応の50/65型4K液晶ディスプレイのスペックが、実際には60Hzだったことが明らかになり、購入者に2,000円分のAmazonギフト券を送ることを発表した。一方で、同ディスプレイをODM供給で販売しているDMM.comでは、返品や返金の対応を行なうとした。

 残念ながらUPQの対応はお粗末だといっていい。

 UPQは、海外企業が生産した製品を、自社ブランド製品として流通していたわけだが、製造元が示す仕様をそのまま信じ、仕様の最終検査を独自に行なわずに、出荷していたのが原因と見られる。だが、これはスタートアップ企業だから許されるというものではない。

 海外企業との取引をするのであれば、仕様どおりの製品になっているかどうかは、市場に商品を供給する企業として、チェックしなくてはならない最低限の姿勢だ。とくに、中国などで生産された製品を取り扱うのであればなおさらだ。

 PCメーカーでは、VAIOが海外生産をした製品を全量検査してから、日本市場に投入しているが、これも市場に製品を供給する企業として、必要不可欠な作業と判断しているからだ。同様に海外から納品された製品や部品をチェックする作業は、NECパーソナルコンピュータやレノボ・ジャパン、日本HPなどでも行なっている。

 検査工程では、仕様どおりのものになっているのかどうか、といった基本的なチェックのほか、外観に傷がないか、メモリなどがしっかりと装着されているか、ネジは締められているかといったこともチェックする。あるメーカーによると、「検査をすると、違う型番のシールが貼られていることもある」というから驚きだ。

 UPQでは、もともと仕様が異なる製品を仕入れても気がつかなかったというのだから、企業としての姿勢に疑問が生じる。全量チェックができないとしても、出荷前に、一度、仕様どおりのものになっているかどうかはチェックすべきだろう。

 しかも、購入者に対して2,000円分のAmazonギフト券を送ることで、これを「処理」してしまう姿勢にも疑問が残る。UPQ自らも「被害者」であることを訴えるような決着のつけかただ。購入者からの問い合わせがなかったことで影響は少ないと考えたのかもしれないが、もう少し購入者の立場を考慮した対策が必要だったのではないだろう。

 一方で、DMM.comでは、返金対応を行なうことを明らかにしている。これは、UPQと比べると誠実な対応を行なっているともいえる。だが、ここでも仕様を確認しないままに市場に製品を出荷するというミスはいただけない。

 シャープは、先頃、IoTベンチャー企業向けのモノづくり研修サービス「SHARP IoT. make Bootcamp supported by さくらインターネット」を開始。シャープの現役技術者が講師となり、シャープの研究開発拠点と、10日間70時間におよぶ合宿形式のモノづくりブートキャンプを実施している。ここでは、スタートアップ企業に対して、シャープが培ってきた量産設計や品質、信頼性確保などモノづくりの技術やノウハウを教えている。

 あるメーカー大手の事業担当者は、「スタートアップ企業の経営者はアイデアがあっても、それを量産したり、品質を確保したり、あるいはライフサイクル全体をサポートするといったノウハウがない。スタートアップが、メーカー大手の手法をそのまま持ち込むことは難しいが、そのノウハウは活用できる」とする。こうした仕組みを利用することは、業界全体のモノづくりや製品供給に対するレベルの底上げにつながることになろう。

 市場に製品を供給する立場であるのならば、その責任をまっとうしてほしい。建設業界では、耐震偽装やデータの改竄などによって、業界全体の信頼を落としており、これが大きな課題となっている。IT業界にも同じことが起こってはいけない。

 スタートアップが躍進しやすいIT業界だけに、1社1社が健全な業界を確立するつもりで事業に取り組んでほしい。

笠原氏の視点

 デジタル機器ベンチャーとして注目を集めてきたUPQが、今悪いほうの意味で注目を集めている。ニュースでお伝えしているように、UPQが2016年8月に発売した50型4Kディスプレイなどが、当初同社が謳っていた120Hz倍速表示対応が事実ではなく、60Hzだったことがわかった。UPQが、その対応措置として返金ではなく2,000円のAmazonギフト券の送付をすると発表したことで、ユーザーからは失望の声が相次いでいる。

 人間が失望するときというのは信じていた人なり企業に裏切られたという思いを感じる時だろう。今回はまさにそのパターンに該当する。そして、火に油を注いでしまったのは、UPQがOEM供給(UPQはODMと表記しているが、UPQ自身は生産していないので正しくはOEM供給だと思われる)しているDMM.comとで対応に差がついてしまったことにもある。DMM.comでは全額返金されるのに、UPQで購入したユーザーはAmazon券で2,000円分の補償というのでは、購入者でなくとも首を傾げたくなるのは無理はない。

 そもそもこうした事態は起きうることなのだろうか? UPQは自社で設計、製造しているのではなく、海外のODMメーカー(OEMメーカーに変わって設計や製造を請け負うメーカー)に依頼して、設計・製造を行なっている。同じようにODMメーカーを利用している国内のOEMメーカーの担当者に取材してみると、各社ともに「あり得ない」と返答する。あるメーカーの担当者によれば「プレスリリースに書くような機能であれば、サンプル段階で何度もチェックしてその機能がしっかり実現されているかを検査する。それでもわからなかったというのであれば検査がきちんとされていなかったか、そもそもしていないのどちらかではないか」と、検査機能が働いていればこのような問題は起きないはずだと指摘する。

 ディスプレイに限らず、PCやスマートフォンを中国のODMメーカーの工場で設計、生産を行なうことは今やどこのメーカーでもやっている。しかし、だからこそ設計時の密接な仕様のすりあわせ、生産時の確認などはどのメーカーも時間をかけてやっているのだ。実際、メーカーによっては担当者が現地に行きっぱなしで、仕様のすりあわせや品質検査などを行なっている。また、たとえばVAIOの「安曇野フィニッシュ」に代表されるように、ODMで作ったものを日本の工場で全品検査してから出荷という例もある。このように各メーカーともにかなり手間暇をかけてODMメーカーの工場を使っている。安かろう悪かろうではユーザーに支持されないからだ。結果を見る限り、結局UPQにはそれができていなかった、そう表現するほかないだろう。

 人間誰しも失敗はする、企業でもそれは同様だ。そのときに問われるのは、どのような対応を講じることができるか。それがブランドとしての信頼度につながってくる。その意味で、UPQは事後対応も正しくなかった。OEM供給でほぼ同じものを販売しているDMM.comが全額返金という考えられうる中で最上の手段をとったのは、UPQにとって不幸だったとも言えるが、逆に言えば危機管理がなっていないということだ。ブランドロイヤリティを毀損しないため、別の対応が必要だったのではないだろうか。

 いずれにせよ、もう済んでしまったことを、嘆いても覆水は盆には返らない。UPQはこの件を教訓にして、しっかりとしてモノ作りに取り組み、消費者の信頼を回復できるように取り組んで欲しいと思う。

山田氏の視点

 今回のことが明らかになるまで1年近くもの間、スペックの誤表記が放置されてきたこと自体に驚く。内部の関係者は正しいスペックが提示されていると思いこんでいたかもしれない。技術系の関係者は何も知らなかったかもしれない。ODM供給を受けているDMM.comは当該製品について返金対応を行なうとのことだ。たぶんコスト的なそのツケはUPQに回されることになるだろう。場合によってはUPQが事務処理いっさいを引き受けなければならないかもしれないし、DMM.comのブランドを傷つけた慰謝料的なものの支払いを要求されてもおかしくない。

 今回の製品は4Kディスプレイ。しかも、誤記は「駆動周波数」の違いというディスプレイ機器としての重要な部分だ。たぶん関係者は本気でそれが正しい仕様だと思っていたのだろう。Core i7 PCを買ったらCore i5が入っていたというなら、それを知る方法はたくさんあるが、今回の仕様誤記を見破るのは簡単なことではない。UPQもまた製造元やパーツベンダーに騙された被害者なのかもしれない。

 個人的にはエンドユーザーから返品要求があるのなら、きちんとそれに応えるべきだと思う。それを2,000円の商品券でごまかしたりしてはならない。選択肢の1つならともかく、それがすべてというのはありえない。UPQからDMM.comに対する補償がどのように行なわれたのかは知る由もないが、しかるべき損害賠償をいわゆる「犯人」に要求して対応してほしい。

 スタートアップだからとか、老舗メーカーであるからとか、商社だからといったことは関係ないのではないか。こういう話が大きな話題になること自体がおかしい。