Hothotレビュー
Skylake世代のCPUに刷新された「MacBook」
~処理速度向上、動作時間延長して順当に進化
(2016/4/26 06:00)
アップルは4月19日、Skylake世代のプロセッサを新たに採用した「MacBook」を発表し、4月20日より販売開始した。コンシューマ向けノートPCとして初めてUSB Type-Cコネクタを搭載した初代モデルが発表されたのが2015年3月9日。約1年経過して、初めてのアップデートを迎えたことになる。
今回のアップデート最大のポイントは、CPUが第5世代(Broadwell)から、第6世代(Skylake)の「Core m」に変更されたこと。これによって処理能力の向上とともに、低消費電力化が図られている。また内蔵GPUが「Intel HD Graphics 5300」から「Intel HD Graphics 515」に変わることで、グラフィック描画性能も向上している。
メモリもLPDDR3-1600からLPDDR3-1866へと動作クロック周波数が引き上げられており、データ転送速度が向上することで基本性能が底上げされているはずだ。さらにインターフェイスはPCI Expressのままで変更がないものの、新しい世代のSSDが採用されており、ストレージのリード・ライト性能も向上しているという。
今回発表されたMacBookの本体色は、スペースグレイ、ゴールド、シルバー、ローズゴールドの4色が用意されている。パーツ構成としては「Core m3-6Y30(1.1/2.2GHz)」/メモリ8GB/SSD 256GBを搭載する下位モデルと、「Core m5-6Y54(1.2/2.7GHz)」/メモリ8GB/SSD 512GBを搭載した上位モデルが用意されており、下位モデルと上位モデルのどちらもCPUを「Core m7-6Y75(1.3/3.1GHz)」に変更可能だ。
キーボードは下位モデル、上位モデルともに「JIS(日本語)」、「US」、「アラビア語」、「英語-英国」、「デンマーク語」、「フランス語」、「韓国語」、「スペイン語」の中から選択可能で、「JIS(日本語)」と「US」以外は製品マニュアルも各国語のものとなる。
【お詫びと訂正】初出時に、「上位モデルのみCPUを「Core 7-6Y75(1.3/3.1GHz)」に変更可能だ」としておりましたが、下位モデルも変更可能です。お詫びして訂正させていただきます。
【表1】新型MacBookのラインナップ一覧 | ||||
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CPU | Core m3-6Y30(1.1/2.2GHz) | Core m5-6Y54(1.2/2.7GHz) | Core m7-6Y75(1.3/3.1GHz) | Core m7-6Y75(1.3/3.1GHz) |
TDP | 4.5W | |||
メモリ | 8GB | |||
ストレージ | 256GB SSD(PCIe) | 512GB SSD(PCIe) | 256GB SSD(PCIe) | 512GB SSD(PCIe) |
GPU | Intel HD Graphics 515 | |||
ディスプレイ | 12型(2,304×1,440ドット、226dpi) | |||
OS | OS X El Capitan バージョン10.11.4 | |||
価格 | 160,704円 | 199,584円 | 193,104円 | 219,024円 |
今回、このレビュー記事用にアップルから借用できたのはCore m3-6Y30/メモリ8GB/SSD 256GBを搭載する下位モデルだ。MacBookシリーズの特徴をおさらいしつつ、新モデルがSkylake世代のプロセッサを搭載することで、具体的にどの程度性能が向上したのかレビューしていきたい。
アップル製品ならではのパッケージを開ける喜び
アップルの新製品が発売されると各メディアが恒例行事として実施するのが「開梱の儀」。借用品だとしても、パッケージから最新製品を取り出すのは気持ちいいものだ。とは言っても今回の新型MacBookのパッケージや、内容物などは従来と変わらない。
パッケージの中に収められているのは、本体、29W USB-C電源アダプタ、USB-C充電ケーブル(2m)、クイックスタートガイド、「MacBook情報」、「PCリサイクルについて」、アップルロゴのシールだ。アップルロゴのシールを本体色に合わせているのは当然として、クイックスタートガイドなどを入れる紙製書類ケースにまで、ローズゴールドで文字が印刷されていることには、デザインに対するアップルの執念を感じさせられる。
外観の変更はなし、USB Type-Cは5Gbpsにとどまる
新型MacBookに外観上の変更点はまったくない。本体背面に刻印されている「Model A1534」というモデルナンバーはシリーズで共通。何年式のモデルなのかを調べるためには梱包箱または領収書で確認するか、MacBookを起動してOS上から「このMacについて」を開いて詳細情報を見るまで分からない。ちなみに2015年モデルの機種IDは「MacBook8,1」、モデルは「MacBook(Retina,12inch,Early 2015)」、2016年モデルの機種IDは「MacBook9,1」、モデルは「MacBook(Retina,12inch,Early 2016)」と表示される。
スペック上の本体サイズ/重量は280.5×196.5×3.5~13.1mm(幅×奥行き×高さ)/0.92kgと2015年モデルと2016年モデルで変わりはないが、実際に計測したところ2015年モデルが925.5g、2016年モデルが927gとごくわずかではあるが差が生じていた。Skylake世代のプロセッサ搭載にともないロジックボードが新たに設計されているので、グラム単位で実測重量が変化したのだろう。
左側面にUSB Type-C、右側面に3.5mmヘッドフォンジャック(Apple iPhoneリモート&マイク付きヘッドセット対応)のみという割り切ったインターフェイスの構成も変わらない。Thunderbolt 3(理論転送速度40Gbps)に対応したWindowsノートPCが登場している現在、せめてUSB 3.1 Gen 2(理論転送速度10Gbps)をサポートして欲しかったところだが、2016年モデルでも5Gbpsにとどまっている。ケーブルからの解放を謳う12インチMacBookシリーズにとって注力ポイントではないのかもしれないが、周辺機器を増設できる唯一の有線インターフェイスだけに将来的にボトルネックとならないか心配だ。
なお無線機能もIEEE 802.11ac/a/b/g/n、Bluetooth 4.0対応と変更はない。Wi-Fiのアンテナ数も従来と同じく2本アンテナ仕様の2ストリームなので、最大通信速度は866Mbpsとなる。
慣れれば快適な薄型キーボード、感圧タッチ対応アプリは普及途上
キーボードとトラックパッドについては、2015年モデルをこれまで1年間使ってきたユーザーの立場からレビューしたい。まず、組み立て部品が40%薄型化されたキーボードの浅いストロークについては、当初は違和感があったものの、今ではすっかり慣れてしまった。MacBookのキーボードで快適にタイピングするためのコツは、指の腹で打つこととあまり力を入れないこと。触れるようなタッチでタイピングすればキーが強く底打ちしないし、結果的に指の疲労も少ない。今ではMacBookのキーボードに慣れてしまったせいで、逆にMacBook Proのキーボードに違和感を覚えるほどだ。
感圧タッチトラックパッドは、従来のトラックパッドの延長線上の入力デバイスとしては非常に気に入っている。水平方向の動きでクリック感を擬似的に感じさせる「Taptic Engine」(リニアアクチュエータ)は、これまでの物理的に沈み込むダイビングボード構造のトラックパッドと使い勝手はまったく変わらない。
しかし肝心の「感圧タッチ」はすっかり使わなくなってしまった。「Chrome」など「強めのクリック」をサポートしているアプリは登場しているものの、単語の辞書表示には対応していても、リンク先のサムネイル表示はできないといった具合に挙動が異なっている。どのアプリでどの機能が対応しているのか調べるのも、覚えるのも正直面倒だ。機能としては優れていても、初代MacBookが発売されて1年経過した現在も、サードパーティーアプリの感圧タッチへの対応は普及途上と言わざるを得ない。
必要十分な解像度、素直な色合いのディスプレイ
MacBookが搭載するディスプレイは、12型のIPS液晶で、解像度は2,304×1,440ドット(226dpi)。最近ノートPCで増えている15.6型の4K(3,840×2,160ドット、282dpi)に画面解像度は及ばないが、226dpiでも十二分すぎる解像感だ。
今回の試用機では発色がほんのわずかに暖色系寄りに感じたが、階調表現は豊かで色むらなどもなかった。もし標準のカラーバランスに違和感を覚えるのであれば、「ディスプレイキャリブレータ・アシスタント」でホワイトポイントを調整するといいだろう。個人的にはもう少し暖色系に調整したほうが目の疲労が少なくて好みだが、試用機では色温度を「6750K」前後に設定したほうが白さはより強調された。
処理性能を着実に向上させつつ、低消費電力化を実現
今回、ベンチマークスコアを計測するにあたって、Core M-5Y51(1.2/2.6GHz)を搭載する2015年モデル(MacBook Early 2015)、Core m3-6Y30(1.1/2.2GHz)を搭載する2016年モデル(MacBook Early 2016)を使用した。Broadwell世代のミドルレンジ、Skylake世代のローエンドのCore mプロセッサを搭載したMacBookの比較となるので、それを踏まえて参考にしていただきたい。
ベンチマークには「Geekbench 3.3.4」、「CINEBENCH R15」、「GFXBench GL 3.1.10」、「JetStream 1.1」、「Octane 2.0 Java Script Benchmark」、「Kraken JavaScript Benchmark(version 1.1)」、「Blackmagic Disk Speed Test」を使用した。また、実際のアプリケーションの性能を比較するため「Finder」上でのファイルコピー、「Adobe Photoshop Lightroom」、「Adobe Premiere Pro CC」も使用している。最後に連続動作時間を計測するため、SafariでYouTube動画を連続再生するテストを実施した。
【表】ベンチマーク結果 | ||
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MacBook Early 2016 | MacBook Early 2015 | |
CPU | Core m3-6Y30(1.1/2.2GHz) | Core M-5Y51(1.2/2.6GHz) |
GPU | Intel HD Graphics 515 | Intel HD Graphics 5300 |
メモリ | LPDDR3-1866 SDRAM 8GB | LPDDR3-1600 SDRAM 8GB |
ストレージ | 256GB SSD(PCI Express) | 512GB SSD(PCI Express) |
OS | OS X El Capitan バージョン10.11.4 | OS X El Capitan バージョン10.11.4 |
Geekbench 3.3.4 Intel(32-bit) | ||
Single-Core Score | 2308 | 1952 |
Single-Core Score Integer | 2218 | 1969 |
Single-Core Score Floating Point | 1998 | 1979 |
Single-Core Score Memory | 3109 | 1864 |
Multi-Core Score | 4485 | 4046 |
Multi-Core Score Integer | 4945 | 4522 |
Multi-Core Score Floating Point | 4616 | 4564 |
Multi-Core Score Memory | 3303 | 2058 |
Geekbench 3.3.4 Intel(64-bit) | ||
Single-Core Score | 2516 | 2355 |
Single-Core Score Integer | 2443 | 2602 |
Single-Core Score Floating Point | 2386 | 2380 |
Single-Core Score Memory | 2925 | 1815 |
Multi-Core Score | 4995 | 4834 |
Multi-Core Score Integer | 5420 | 5684 |
Multi-Core Score Floating Point | 5424 | 5346 |
Multi-Core Score Memory | 3287 | 2114 |
CINEBENCH R15 | ||
OpenGL | 20.23 fps | 18.87 fps |
CPU | 215 cb | 194 cb |
JetStream 1.1※Appleが開発したJavaScriptベンチマーク、数値が大きいほど高速 | ||
トータルスコア | 128.65 | 117.66 |
Octane 2.0 JavaScript Benchmark※Googleが開発したJavaScriptベンチマーク、数値が大きいほど高速 | ||
トータルスコア | 18085 | 15403 |
Kraken JavaScript Benchmark(version 1.1)※Mozillaが開発したJavaScriptベンチマーク、数値が小さいほど高速 | ||
トータルスコア | 1784.4 ms | 1962.0 ms |
Blackmagic Disk Speed Test | ||
WRITE 1回目 | 675.4 | 379.1 |
WRITE 2回目 | 618.8 | 382.8 |
WRITE 3回目 | 667.4 | 401.9 |
WRITE 4回目 | 664.2 | 398.3 |
WRITE 5回目 | 673.7 | 396.5 |
WRITE 平均 | 659.9 | 391.72 |
READ 1回目 | 924.5 | 784.8 |
READ 2回目 | 923.9 | 784.2 |
READ 3回目 | 923.1 | 782.1 |
READ 4回目 | 841.3 | 734.4 |
READ 5回目 | 924.7 | 775.9 |
READ 平均 | 907.5 | 772.28 |
4,094枚(10GB)の画像をファイルコピー | ||
SSD→SSD | 35秒52 | 47秒18 |
「Adobe Photoshop Lightroom」で50枚のRAW画像を現像 | ||
4,912×3,264ドット、自動階調 | 3分49秒68 | 4分12秒91 |
Adobe Premiere Pro CCで実時間5分のフルHD動画を書き出し | ||
1,920×1,080ドット、30fps | 15分33秒00 | 17分1秒67 |
YouTube動画を連続再生した際の動作時間 | ||
ディスプレイの明るさは「6/16」 | 9時間49分56秒 | 7時間6分48秒 |
Broadwell世代のミドルレンジ、Skylake世代のローエンドに位置するCore mプロセッサを搭載したMacBookの比較にもかかわらず、全体的にMacBook Early 2016のスコアが上回っている。特にブラウザのJavaScriptの実効速度を計測する「JetStream 1.1」、「Octane 2.0 Java Script Benchmark」、「Kraken JavaScript Benchmark(version 1.1)」において性能向上が顕著だ。
内蔵GPUがIntel HD Graphics 515に変更されたことによるグラフィック描画性能の向上は、CINEBENCH R15の「Open GL」では確認できなかった。わずか1.63 fpsの差にとどまっているので、CPUの性能向上に引きずられて、Open GLのスコアがアップしている可能性もある。
一方、「Blackmagic Disk Speed Test」のライト/リード速度、Finder上でのファイルコピー所要時間も大幅に高速化されていることが確認できた。ストレージのシステム情報を見てみると、MacBook Early 2015はリンク速度5.0GT/secなのに対して、MacBook Early 2016はリンク速度8.0 GT/secに向上しているので、その効果がストレートに表われた結果と言えよう。
着実にMacBook Early 2016の処理性能が向上しつつも、連続動作時間はMacBook Early 2015を2時間43分上回っている。MacBook Early 2015のバッテリ劣化はもちろん考慮しなければならないが、MacBook Early 2016がYouTube動画を連続再生し続けながら9時間49分動作したのは注目すべき事実だ。
Appleが先取りする利用スタイルを受け入れてしまえばPCライフが快適に
Skylake世代のプロセッサに刷新し、それに合わせて「OS X」を最適化することで処理性能の向上と、低消費電力化を実現した新型MacBookは、モバイルノートPCとして非常に魅力的なモデルだ。しかし性能が向上したとは言え、50枚のRAW画像の現像に3分49秒かかるので、クリエイティブ系のアプリケーションに向いているマシンではない。また、メモリカードを直接挿せず、周辺機器を複数接続するためにはUSB Type-Cに対応したハブが必要な点も弱点として考慮しておかなければならない。
しかし、Wi-Fi接続可能なデジタルカメラがスタンダードになっている現在、外出先でMacBookに接続しなければならない周辺機器は決して多くはない。ワイヤレス環境に特化したMacBookに合わせて、携帯するデジタル機器もワイヤレス化して、メモリカードやケーブルに煩わされない快適なPCライフに移行してはいかがだろうか?